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88 ティナ
しおりを挟む――― ティナ ―――
最初から気に入らなかったわ。
あのノアと言う新人メイド。
ミランダメイド長に紹介されたときは髪や肌の綺麗さと気品すら感じてしまい、もしかしたら私より階級の上の貴族かと思ったら平民。
平民を貴族かと一瞬でも思ってしまったなんて腹立たしい。でも私は貴族だから表には出さない。
洗濯場に連れていき残りの洗濯物を全てお任せすることにした。
仕事が終らなくて泣きついて来るかしら。
そう思っていたのになかなか来ない。
様子を見に行くとすでに洗い終えていて干し始めていた。
きちんと洗ったのかしらとノアの手を見ると荒れていた。
ようやく平民らしくなったわね。
様子を見に来て良かった。
ミランダメイド長がいらっしゃったわ。
ミランダメイド長は伯爵家の次女でいらっしゃって私よりも爵位は上。
けれど未だに独身で、とうに貴族の結婚適齢期も過ぎているのでいずれ私が結婚をしたら私の方が爵位が上に……もしかしたらこのお屋敷で私のために働くことになるかもしれないわね。
だから仕事の割り振りにはもっと気をつけて頂きたいわ。
ノアがミランダメイド長に注意されている。
余計な事を言いそうだったので後ろから腕をつねる。
学のない平民はきちんとしつけないといけないわ。
次はキッチンの洗い場に連れて行かなければいけないから洗濯物を干すのは手伝ってあげた。
ノアにお皿洗いをお任せして私は他の貴族出身のメイド達とお話をする。貴族の女性にとってお喋りも仕事のようなもの。
次の日も水回りのお仕事はノアにお任せしたけれど、またミランダメイド長が様子を見に来るかもしれないので、今日はいつも通り平民出身のメイド達にも残ってもらった。
この日の昼食を頂いているとき、またメイドが1人、シュゼット様にクビにされたと聞いたわ。
エリアス陛下が毒を盛られてからシュゼット様のわがままが酷くなったとか。
そんな方が国母になっていたかもしれないなんて恐ろしいわ。
でもシュゼット様のお気持ちもわかる。
呪われた方と結ばれるなんて悲劇でしかないもの。
呪い、と聞いてリアザイア王国から伝わってきた物語を思い出したわ。幼い頃に夢中で読んだおとぎ話。
あっという間に貴族の間で流行り、平民の間でも語り継がれているらしい真実の愛の口付けのお話。
幼い頃は憧れたりもしたけれど、実際醜い姿に成り果てた者と……いくら王子様だとしても口付けなんて出来ないわ。
今でも大好きなお話の1つだけれど所詮は物語。
やっぱり第二王子のセオドア殿下がいいかしら。
それともこのお屋敷の公爵家次期当主アーロン様かしら。
リアザイア王国の殿下方も独身でいらっしゃるし見目麗しい。あの国は豊かだから隣国の王族になるのもいいかもしれない。
出会う事が出来たなら。
まずはアーロン様の専属メイドになれないものかしら。
登城する機会も増えて王族の目にもとまる。
いい考えだわ。
アーロン様はしばらくお見かけしていないけれど戻られたら私を専属メイドにしてもらうようにミランダメイド長にお願いしておかなくては。
その前に、シュゼット様の専属メイドにノアを推薦しておきましょう。
早速ミランダメイド長にお時間を頂いて提案をさせていただいたわ。
ミランダメイド長はシュゼット様の侍女であられるコリンヌ様にお話をしたみたい。
コリンヌ様のことはよくは知らないのだけれど、こちらのお屋敷に来られてそんなに長くはないはず。
けれど、シュゼット様の周りでクビになる方が多いなか長く続いているほうかしら。
おそらくまだ20代半ばくらいでシュゼット様の侍女を努めておられるからきっと爵位も高く優秀な方なのでしょう。
このまま結婚もせずどこにも行かないようなら私がこのお屋敷に嫁いだとき私付きの侍女にしてもいいかもしれないわね。
その日の仕事が終わる少し前にミランダメイド長に呼ばれました。
ミランダメイド長はシュゼット様に許可を頂いたと言っていたけれど、シュゼット様は平民をこのお屋敷から追い出したいから許可したんだわ。
サッサとクビになって私の前から消えて欲しいものだわ。
平民がどうなろうと私には関係ないし、これでノアと顔を合わせることもなくなるので気分もいいわ。
そう思っていたのにっ!
ミランダメイド長はよりにもよって私とノアに頼むと言ってきた。信じられないわ。ミランダメイド長も貴族なのになぜわからないのかしら。
ノアを部屋に呼び、事の経緯を説明している。
断りなさいっ! と目で訴えてみたけれどやはり平民には通じなかったわ……腹立たしい!
ノアが引き受けてしまい私とシュゼット様付きのメイドになってしまった。
私がアーロン様と結婚したらミランダメイド長はクビにするわ。もちろん紹介状も書く気はない。
とはいえ、この仕事を上手くこなせば私の価値はもっと上がる。
ノアにはその為の踏み台になってもらいましょう。
楽しみになってきたわ。
応援ありがとうございます!
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