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しおりを挟むオリバーとここにいる全員にクリーンとヒールをかける。
ノバルトが指揮をとるために皆に姿を見えるようにして欲しいと言うのでそうした。
私は倒れたオリバーに結界を張り周りから見えなくする。
三毛猫さんも側に来てくれる。
オリバーの頭を私の膝の上に乗せてそっと撫でる。
「頑張ったね……オリバー」
「……トー……カ?」
傷はヒールで治したけれど左腕は失くなってしまったまま……
「……これは……夢か……?」
夢なら良かった……
「腕を……持っていかれて……しまったよ」
うん、痛かったよね……
「トーカ……泣かないで」
泣きたいのはオリバーだよね……ごめん……
三毛猫さんがトコトコと近づいて来て私のドレスの腰の辺りをフミフミしてくる。その辺りをさぐると……
「オリバー……あのね……」
結界の外では突然現れたノバルトと皆のケガが治ったことで騒ぎになっている。
ノバルトとガイル様は騎士団をまとめ、動けない者には手を貸すよう指示を出している。
混乱の中騎士達が纏まりつつある。
さすがノバルトとガイル様……
「オリバーあのね、リライの花を食べてみて欲しいの……本に載っている通りの効果が本当にあるのかはわからないけれど……実験するみたいで申し訳ないけれど……でももし本当に効果があるのならもしかしたら……もしかしたらだけれどオリバーの……う、腕が…………」
「トーカ……ありがとう。わかったから……泣かないで」
うん、ごめん……ありがとう……うん……
ノバルトがドレスにポケットを作ってくれていた。
それを三毛猫さんが教えてくれた。
マジックバッグのことは言っていなかった気がするけれど……
ノバルトの知らないことはないのかもしれない……
ポケットからリライのあめ玉を取り出すと三毛猫さんが「ニャ――」と鳴きながらオリバーの胸に乗りじっとオリバーを見つめている。
「やぁ……ミケネコサン。素敵なリボンだね。よく似合っているよ」
三毛猫さんはオリバーの胸の上でゴロン……
褒めて欲しかったのかな……
「オリバー、口を開けて……」
オリバーがリライのあめ玉を口に含みながら右手で三毛猫さんを撫でている。
動物が大好きなのに……騎士団の皆さんもほとんどが動物好きだと思う。それなのにこんな……
三毛猫さんを撫でているオリバーを私が撫でる。
温かい……生きていてくれて良かった。
三毛猫さんとオリバーは気持ち良さそうに目を細めている。
三毛猫さんがピクリと顔をあげる。
オリバーの左肩から腕があった部分がキラキラと光だし消えていく。
光が消えたあとには……腕が……温かくて大きなオリバーの手が元通り……
「っ!?」
オリバーが三毛猫さんを抱いたまま起き上がり私達は顔を見合わせる。
ポロポロとオリバーの目から涙が溢れる。
……怖かったよね。
「情けないな……泣いてしまうなんて」
オリバーを抱きしめる。
「そんなことない。オリバーは凄いよ」
本当に凄い……あんなになるまでみんなの為にこんな辛い戦いの前線で……
私も泣いちゃう。三毛猫さんも「ニャ――」と鳴く。
オリバーに腕と手がちゃんと動くか確かめてもらうと大丈夫みたい。
これまでの事を説明すると来てくれてありがとう、とまた抱きしめられた。
オリバーの頭を撫でながら
「ノバルトとガイル様が結界の外で皆さんに指示を出しているけれど、オリバーはこれからどうする?」
あんな大ケガをしたのだから治ったとはいえ一度きちんと休んで欲しいところだけれど……
「大勢の者が犠牲になってしまった。トーカが傷を癒してくれたが、すぐには動けない者や馬に乗れない者もたくさんいるだろう。我々騎士団は当初の予定通り国境の街まで行き休んで準備を整えてから王都に帰ろうと思う」
リアザイアからトンネルを通ってきた騎士達にも話しを聞きたいし、トーカはノバルト殿下とミケネコサンと一緒に先にザイダイバの王都へ戻って欲しい、と。
オリバーをこのまま結界から出しても大丈夫かな……
オリバーだけはケガが治っただけではなく失くなってしまったものまで元に戻っているから……
魔獣達と戦っていたあの状況でオリバーのケガをみた人はいただろうか。
そんな余裕はなかったように思うけれど……
すでにノバルトが突然現れたことと傷がふさがっていることにみんな驚いているしオリバーの腕が元通りになっていても誰も気が付かないんじゃないかな……
全ての事は混乱の中で奇跡だとか……なんかこう……そういういい感じになってくれたりしないかな……
淡い期待を抱きつつとりあえずオリバーの結界を解く。
オリバーはありがとう、ともう一度私を抱きしめ三毛猫さんを撫でてからノバルトの元へ向かった。
周りを見渡すとたくさんの騎士達が倒れている。
亡くなってしまった人を生き返らせる事は出来ない。
けれど、オリバーのように腕や足……身体の一部を失ってしまった人を治すことはこの世界にあるもので出来る。
リライをどうするかはみんなに決めてもらおう。
もう二度と絶滅してしまわないように、貴族やお金を持っている者だけが独占してしまわないように……いい方法があればいいけれど……
指揮権をオリバーに返してノバルトが私の元へやってきた。
みんなが戻ったオリバーに注目しているうちにノバルトの姿を見えないようにする。
「ノバルト、三毛猫さんお城に戻ろうか」
「そうだな」「ニャ――」
騎士団の本隊と別れた分隊も馬に乗れなくなってしまったり歩けなくなってしまった騎士も大勢いるだろうと王都から馬車が迎えに来るらしい。
帰りながらノバルトに今回の事を聞いてみる。
一体いつから彼らの動きに気が付いていたのか……
「リアザイアの王族とザイダイバの王族はあのトンネルを再び掘り始めていたことは知っていたのだよ。父上も母上もその計画を立てた本人達から話を聞いていたそうだからね」
計画を立てた本人達から……?
「彼らは不正を働きあの国境の街へ送られたリアザイアの元貴族の子供達だったと聞いている。国境の街へ送られた後の両親の態度と、不正を働き身分を剥奪されてこの街へ送られた事を知っているにも関わらず温かく迎えてくれた街の人達。そこで初めてこれまでの貴族のあり方に疑問を持ったそうだ」
それまでの贅沢な生活とはかけはなれた状況に耐えられずザイダイバに逃げる者もいる中ちゃんと気が付く人もいたのだ……
「子供達は成長し、街の人達への恩返しを考え始めた。そこで貴族時代に学んだトンネルの事を思いだし、このトンネルが繋がれば移動時間の短縮になりリアザイアとザイダイバ両国の貿易も盛んになる。そして、宿泊や休憩で商人や旅人は必ず国境の街へ立ち寄る」
そうなれば街はこれまでにないほど潤うし両国にとっても得られる利益は大きい……ということか。
「時間はかかるけれど、罰を受けてこの街へ送られ心を入れ替え純粋に街への恩返しをしたい者だけで計画は進めて行きたいと……それが少しでも両親や自分達が犯した罪滅ぼしになりこの街の人達の為に両国の為になれば……と」
だからこの計画は長い目でみて欲しいとお願いされたそうだ。
両国は話し合い彼らの思いを受け入れることにした。
けれども、長くたくさんの人達が関わってきた計画は少しずつ形を変えていき王族の知らないものになっていった。
伝言ゲームが途中でどんどん狂っていってしまうように……
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