異世界転移の……説明なし!

サイカ

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 そうして伝えられた狂った計画には金儲けを企む者や金で雇われただけの者達が加わるようになり更に人数が増える。

トンネルを掘るという過酷な作業は当初の計画よりもだいぶ早く進んだことだろう。

そして二十年程前、ノバルトが子供の頃、原因不明の熱を出した時に起こった魔獣達の大量発生。

あの出来事がヒントとなり今回の計画を思い付いた者がいた。

魔獣を使えばリアザイアもザイダイバも手に入れられる、と。

両国の王族は計画が少しずつ変わっていることには気が付いていたが貴族の中にも計画に加担するものが出てきていて気付かれないよう慎重に動かざるをえなかった。

「そしてトウカ、君が最初に浄化した熊の魔獣がきっかけとなり事態は動きだしたのだよ」

私がこの世界に来て初めて浄化した巨大熊……熊さん親子の大切な熊さん。

「それまで大型の魔獣が出ることは私の子供の頃以来なかったからね。オリバーの故郷であるカーティス領から知らせを受けた時、我々は彼らの計画の進む方向がわかったのだよ」

いくつか予測していたけれど大型の魔獣の出現で絞ることができたらしい。

「それにノシュカトが落ちた落とし穴。あの穴の底にあった槍にはほとんど削られていたが没落した貴族の家紋が残っているものもあった」

そういえば全て回収して持って帰っていた……

「孤児院のジェイドがあの熊の子供を捕まえる手伝いをしていたらしい。初めはみんなのための食料だと言われて罠をはったりしていたらしいがいつも子連れの動物だけを狙うことと、親を穴へ落としケガをさせているのを偶然みてしまい、彼らがわざと動物達を魔獣化させていることに気が付いたそうだ」

それで……なんだかずっと自分を責めているようだった……

「ザイダイバからの手紙にも不穏な様子が読み取れる事が多くなり、ついにエリアス殿の毒殺未遂が起こった。あの時エリアス殿が亡くなっていたら彼らは計画をもっと早めていただろう」

事を起こすなら何かに乗じて起こした方が効果的だから……

「エライラ様からの手紙も母上に届かなくなり始めた頃、トウカとセオドア殿が偶然出会ったのだよ」

全くトウカは予測不能で面白い、クスクスとノバルトは笑っているけれど……まさかどこでどんな風に出会ったのかは知らないよね……?

「セオドア殿は他国に滞在中だったが、ザイダイバとこちらの様子がおかしくなり始めた頃から頻繁に手紙のやり取りはしていた。だから情報収集のために国境の街へ行っていたのだよ」

セオドアも最初は私にシュゼット様のお屋敷の様子を見てきて欲しいだけだったはずなのに思いっきり国の有事に関わってしまった……

私がザイダイバのシュゼット様のお屋敷で働く事はやっぱり最初から知っていたのか……なんなら王妃様は私が王城で働くことも予想していたような……

「リアザイア側とザイダイバ側のトンネル内にもたくさんの動物達が閉じ込められている場所があったようだ。第2部隊、第3部隊のつもりで用意していたのだろう」

……………たくさんいるの……?

「トウカ、あんなにたくさんの魔獣達をみた後で信じられないかも知れないけれど魔獣化はされていないよ。間に合った動物達もいるのだよ」

そうなんだ……そっか……よかったぁ……

三毛猫さんがよかったね、とほっぺにスリスリしてくれる。

ノバルトも微笑んでいる。

そうしている内にザイダイバのお城が見えてきた。


お城にはこの件に関わったであろう者達、貴族達が集められているらしい。

計画が失敗した今、彼らにはどんな未来が待っているのだろう……

お城へ着きノバルトと私の結界を解く。

広間へ行くとエリアス陛下が玉座に座り横にはセオドアが立っている。

エリアス陛下はお顔を隠してはいない。

たくさんの人達が集められていてざわざわとしている。

シュゼット様とコリンヌさんとティナ様もいる。

ノクトとノシュカトを見つけて合流して私は早速2人にオリバーの無事とリライの効果を話す。

ノシュカトは少し考えてから

「トーカ、リライのあめ玉はたくさん作っていたよね? 今回の戦いで身体の一部を失ってしまった騎士達に使用してもいいだろうか」

とりあえずは今回の戦いに限り使用することにして騎士様達には口止めをしておくことにするらしい。

ノシュカトは騎士団が王都へ着く前に迎えに行きあめ玉を渡すことにすると言っていた。

街の人達や騎士団以外の人に彼らがケガをした姿を見られる前に治してしまおうと言うことらしい。

国境の街の人達には見られてしまうけれどケガはすでに治っていて治療の必要は無いから誰がどの程度のケガをしたかは記録も残らないし覚えてもいないだろうと言うことでやはり王都に入る前に治すことにするみたい。

「そうできるならそうして欲しい。ただ、何か聞かれたらノシュカトが栽培を成功させリライのあめ玉を作っておいたと言って欲しいのだけれど……」

「トーカがそうして欲しいのならそうするけれど……いいの?」

実績のあるノシュカトの言うことならみんな信じてくれるだろう……コクリと頷くとノシュカトはわかった、といい話はまとまった。


「ここにいる者達は……」


エリアス陛下が口を開くと広間が静まり返る。

「ここにいる者達はある犯罪の計画に関わったものとして集められている」

エリアス陛下を見つめる彼らは何を考えているのだろう。

「この国とリアザイア王国を繋ぐトンネル。魔獣を使った戦争。心当たりのあるものはいるか」

「そんな! なんて恐ろしいことを!」
「考えたこともありませんわ!」
「何かの間違いです! 我々は……私は関係ない!」

みんな一斉に口を開き広間が再び騒がしくなる。

「いくら陛下でも許されませんぞ!」
「なぜ我々がその様な事を!」
「証拠はあるのですか!」

保身が怒りに変わった。

「ては、説明してもらおう。ここにいるほとんどの者達がリアザイア王国が落ちこの国も攻めいられると聞いた後同じ場所へ向かったのはどういう訳か」

「ぐ、偶然ではないですか?」
「あの時はパニックになっていましたから……ねぇ」
「それだけで疑われるのは納得できませんぞ」

「魔獣は彼らの子の血で誘き寄せられていた。それは街中を駆け巡りこの城まで続いて城の至る所に動物の子達の死骸が捨てられていた。この城より先にはそのようなものは無く安全だと知っていたから君達は皆そちらへ向かったのだろう」

そんなことが……胸の奥がザワザワする。私の中に残っているあのコ達の怒り……

「だからたまたまではないのですか」
「そんな計画は知りませんし……」
「我々を疑った責任は取ってもらわねばなりませんぞ」
「そうですな! 我々は恥をかかされたのだから!」
「これまで国を支えてきた我らをこれだけの数の貴族を貶めたのだからそれなりの償いはしてもらわなければ納得できませんぞ!」

「君達……お前達はせめて潔く認められないのか。お前達が向かった先にあるいくつかの屋敷からはお前達の屋敷から運び込まれた荷物や貴重品があったのだぞ」

「そ、それは……この騒ぎに乗じて盗まれた物では……」
「そうだ! す、すぐにその屋敷の者を捕まえるべきだ!」

エリアス陛下はため息をつき

「このような物があったのだが」


そう言いエリアス陛下が1枚の紙を見せると、貴族達は全員黙り込みうつむいてしまった……


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