118 / 251
118
しおりを挟む一体何だろうと思っていると
「あれはこの国とリアザイアの地図だ。ご丁寧に誰がどこをもらうか書き込まれているな」
ノクトが教えてくれた。決定的な証拠…………
「私は騙されていただけですっ」
「エリアス陛下にザイダイバ王国に忠誠を!」
見事な手のひら返し。
「私もこの国もお前達の忠誠はいらぬ。せめて潔く罪を償え」
黙り込む貴族達は必死に自分が助かる方法を考えているのだろうか……
一人の女性が前へ出る。
「エリアス陛下、私は陛下を愛しております」
……コリンヌさん……
「陛下をお支え出来るのは私だけ。陛下がその様なお姿になられても私は……私だけはお側にと……お手紙でたくさん確かめあったではありませんか! 私こそが陛下に真実の愛を与えられるのです! どうか私はお側に置いて下さい」
貴族達がざわめく。自分ばかり! 恥知らず! そんな言葉が飛び交う。
コリンヌさん……そうか……私がシュゼット様とエリアス陛下にお手紙を届けていることを知らないから……
「お前は誰だ? ……あぁお前がシュゼットの屋敷に潜り込んだ侍女か。随分と私の大切なシュゼットとココを傷つけてくれたようだな」
私の大切なって言った……シュゼット様をチラリ……無表情だけれどほっぺがうっすら桜色……可愛い……
「陛下、それは違います。私はこれまで孤立していたシュゼット様をお側でお守りしてきました。シュゼット様の愛猫のココ様も手は尽くしたのですがどうしようもなかったのです」
コリンヌさんは落ち着いている。シュゼット様を孤立させたのはコリンヌさんなのに……
「そうか? 私が確認した事実とは随分と違うようだな」
エリアス陛下が手紙の束を見せる。
「それは…………」
それは私がコリンヌさんの部屋の机の引き出しから持ち出したシュゼット様が書いたエリアス陛下へのお手紙。
これまですり替えられていた分全てだ。
「私が毒でおかしくなり争いを起こし、信頼していたものを全て失い絶望したところで、真実を見せて狂わせるつもりだったのだろう? 私は歴史に名を残す狂王になるはずだった。全てこの二人から聞いているぞ」
ビリーとバリー見ないと思っていたら捕まってたんかい。
「私に毒を盛ったことも私の両親とシュゼットの両親にもユキツクミ草を使い眠らせ弱らせていたことも知っている。ココと動物達も同じように眠らせていたらしいな」
それに私はシュゼットからの手紙しか信じてはいない。と、エリアス陛下から向けられた怒りはコリンヌさんにとっては予想外だったみたい。
「ヒッ……そ、そんな…………どうして!? シュッ、シュゼット様……私はシュゼット様をお守りしたくて……わ、私は……ちがう!」
コリンヌさん……もう自分が何を言っているのかわかっていないみたい……
シュゼット様はお人形のように無表情だけれど怒りのこもった無表情……美人が怒ると怖いな。
「全てはこの国の事を思ってしたこと! 現状に満足していない貴族がこれだけいると言うことです! 二十年程前もリアザイアを手に入れる好機を逃しているではありませんか!」
また別の貴族が声をあげる。
どうやらリアザイアで没落した貴族とザイダイバの貴族とでは思惑は違えど最終的な終わりが同じ事から、お互いを利用していたようだ。
「この国の為というがこの国の民の事は考えていたのか?」
「当然です! だからリアザイアも手に入れより豊かな国を作ろうとっ」
「ではなぜ街を魔獣で襲わせる様な事をする」
「そ、それは……多少の犠牲は仕方がないかと……それに魔獣は殺せば跡形もなく消えます。腐った死骸から街中に病気が蔓延する事もありませんし、死骸の片付けの手間も省けます。我々なりに民の事は考えております」
今、何て言った? ザワリと身体の奥から怒りがこみ上げる。
「そうです! この方法であればリアザイアだけでなく東西の2国も騎士達を使わずとも落とせるのではないですか!?」
黙って。
「動物はまだまだたくさんいます。いくらでも増やせるし替えがききますぞ!」
黙りなさい。
「これはこの方法を思いつき実証した我々に感謝して欲しいくらいですなぁ」
黙れって。
耳鳴りがして人の声が遠くなる。
込み上げてきた怒りがドクドクと私の身体を満たし、不思議と落ち着いてくる。
ふと上を見ると無意識に水魔法で作った数千本のツララが浮いていてその尖った先を貴族達に向けていた。
天井は高くツララにはまだ誰も気付いていない。
人を殺した事はないけれど、どうすれば死ぬのかはわかる。ツララの先をより鋭くする。
見えていないけれど気配に敏感な者達は訳のわからない殺気に怯え始めている。
魔獣化してしまった動物達と同じ数だけ人も殺したらいいだろうか。それが平等というものか。
人は死んだら死体が残る。動物達が病気にならないようにすぐに焼却しなければいけない。まったく死んでからも迷惑な生き物だ。
そうだ、あの大きな落とし穴を使おう。まとめてあの穴まで持っていきあの中で燃やしてしまえばここも汚れない。ついでにあの穴も埋めてこよう、危ないし。
彼らが自分達の墓穴を掘ったのかと思うと笑えてくる。
いい事を思い付いて嬉しいはずなのになぜか目からはポロポロと涙が溢れる。
そして……突然視界が真っ暗になる。
「トウカ」
後ろからノバルトの声がする。
彼がマントで私と外の世界を遮断する。
「ノバルト、あの人達ひどいことを言っている」
「そうだな……」
「殺してもいいかな」
「トウカがする必要はない」
「でも……ノバルトも感じたでしょう? あのコ達の怒り」
「トウカ、こんなことに巻き込んでしまってすまない。彼らの処分は我々に任せてもらえないだろうか。二度とこんな事は起こさせないと約束する」
「…………」
「ニャ――――」
三毛猫さんがマントの中に入ってきた。
日本での日常を思い出す……
仕事帰りの楽しみは三毛猫さんに会うことだった。
週末は実家に帰って家族と過ごす。
殺したい……と明確な殺意を人に向けるような事はなかったのに……私は異世界まで来て何をしているのだろう。
自分の変わりように恐ろしくなる。
三毛猫さんと山の家に帰って熊さん親子とキツネさん親子をモフモフして温泉に入りたい。
「ニャン」
そうだね……ノバルトのいう通り私がする必要はないよね。
人間のことは彼らに任せよう。
私は動物達の事を考えて動物達のために動こう。
「三毛猫さん、ありがとう」
また助けられてしまった。ありがとう……
ノバルトからホッとした気配がした。ノバルトにも心配をかけてしまった。
謝ろうと思ったけれどその前に…………天井のツララを水に戻して貴族達の頭からぶっかけてやる。
ノバルトがマントを開き貴族達がびしょ濡れになった姿が見える。いい気味だ。これくらいはいいよね?
ノバルトを見上げてごめんね? というとコクリと頷きよくやった、と聞こえてきそうなくらいいい笑顔を向けてくれた。
ノバルト、私を止めてくれてありがとう。
エリアス陛下の元にはいつの間にか陛下のご両親と、リアザイアの王様と王妃様、その隣にノクトとノシュカト、セオドアが立っていて両国の王族が揃っている。
水をかぶった貴族達は怒ったり驚いたり混乱している。
私は壁際に寄りこの先の展開を見守ることにして、もう大丈夫だから、とノバルトにも陛下の元へ行くようにお願いした。
この混乱に乗じて逃げようとする者もいたらしく騎士様が数名取り押さえている。
ノバルトが壇上へ上がり、エリアス陛下と共に騒ぎを鎮める。
「両国に混乱と犠牲を出した罪は重い。それぞれの話は聞くが言い訳や保身の話ばかりをするようならば罰は更に重くなると思え。今回の事で命を落とした騎士達や動物達がいる事を忘れるな」
エリアス陛下の言葉に泣き崩れる者や私は関係ない! と叫ぶ者、頭を抱えるものや逃げ出そうとする者達。
再び混乱が広がり始めた時、視界の端にこちらに向かって真っ直ぐに歩いて来る人が見えたような気がしてそちらへ向くとその人は徐々に早足になり……
その人……ずぶ濡れのコリンヌさんは、どこに隠していたのか短剣をしっかりと握りしめ髪を振り乱しながら……
私めがけて走り出した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,142
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる