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しおりを挟むドレスを着る前の準備……
そう、いつものアレです。全身洗われ全身マッサージされ全身ピカピカになるアレです。
全部メイドさんがしてくれて全部気持ちがいいのにすごく疲れるのは何故なのだろう……
ノバルトから贈られたドレスは艶のある青色の生地に金色の刺繍……この色合い……
ブンブンと首を振る。余計なことは考えないようにしよう。
髪を結い上げてもらいお化粧もしてもらうとあら不思議、お姫様の出来上がり。メイドさんのお化粧の技術とドレスとアクセサリーがあれば別人になれてしまう。
凄いなぁーと鏡を見ているとノックの音が……メイドさんが私に確認してから開けてくれると
「綺麗だよ」
いつも通り直球を投げてくるノバルトに素手で応戦する私。
「ありがとう、ノバルトも素敵だよ」
何となく着ているものの色合いが似ているのは気のせいではないと思う……これではまるで……
いや、私は一旦落ち着こうと決めたのだ。勢いも大切だけれども大事な事だし落ち着いてちゃんと考えよう。
ノバルトのエスコートでパーティー会場へ向かう。
「トウカ、そろそろリアザイアに帰らないか」
珍しい……と思った。
ノクトとノシュカトとオリバーがそう言うことはあってもノバルトは……どちらかというと何も言わずに待っていてくれるというか私の気が済むまで好きにさせてくれるというか……
チラリ、とノバルトを見るといつもの優しい眼差し。
クルクスさんもリアム様以外の人達に馴れているしダンストン伯爵家での私の役目もそろそろ終わる。
このパーティーが終わってダンストン伯爵家に戻ったらそろそろ移動すると伝えようと思っていた。
ただ、リアザイアに帰るかは……ゲートがあるからそんなに帰っていないつもりはないのだけれど……
リアザイアで落ち着いて欲しいということなのかな。
ノバルトが首をかしげる。ノバルトに言われたら私はベゼドラ王国には行かずにリアザイアに留まってしまいそう……そしてそうやって見つめられるとそれもいいかもしれないと思えてしまう。
「うん、もう少ししたら……そうだね。ノバルトはそろそろリアザイアに帰るの?」
「あぁ、トウカのお陰で問題も解決したからね、数日中にはリアザイアへ向かう予定だよ」
私は何も……ただコリンヌさんは本当に人身売買を考えていてそれを止めることができてもこんなことになってしまって……本当に酷い……酷い事件だった。
私の表情が曇ったからかノバルトが私の頬に触れる。
私が微笑むと安心したようにノバルトも微笑む。
パーティー会場にはレクラスの王族と入場するらしく一度別室に案内された。
部屋にはリュカ様以外皆さん揃っていてご挨拶をする。
リュカ様は先に会場へ行っているらしい。
「トーカ、とても素敵だよ」
ノシュカトが私の手を取り褒めてくれる。
「ありがとう、ノシュカトも凄くカッコいい」
そうかな、ありがとう、とはにかむノシュカトは可愛い。
セオドアが手を振りながら近づいて来て私の全身を見る。
「ノヴァルト殿は意外と独占欲が強いのかもな」
ドレスのことを言っているのかな、やっぱりそう見えるのね……
これにはノシュカトが
「僕ら兄弟はそうかもね」
そうなんだ。
「セオドア殿のように遊び歩いてはいないから」
可愛いノシュカトからの刺のある言い方にセオドアがショックッ、というような顔をするから可笑しくて笑ってしまう。
それでも私を褒めてくれることを忘れないセオドアは王子様で遊び人なのかもしれない。
「トーカ、何か失礼なことを考えていない?」
セオドアにそう言われて、あ、とすぐ顔に出てしまう私。
「事実を再確認しただけだろ」
冷たく言い放つノシュカト。
「なんだよぉ、トーカと相部屋したことまだ怒っているのか?」
え? そうなの?
「別に、あの時はあれが最善だったと思うしトーカも助かったと言っていたし……何よりノヴァルト兄上が好きなようにさせていたからね」
トーカのために良かったことだとは思っているけれど……
「何だか恋人に嫉妬されている気分になってきた……ノシュカト殿は可愛いなぁ」
あ、それ今言っちゃいけないやつ……スッとノシュカトの目が据わる……
「肝だめしで怖がって僕にしがみついて震えていたセオドア殿もそれはそれは可愛らしかったですけどねぇ」
なっ!? とノシュカトの反撃に驚くセオドア。
肝だめしで一番仲良くなったのはこの二人かもしれない……
二人のやり取りを眺めていると
「クロエ」
ローズ様がロイク様とセルジュ様と一緒にこちらへやってきた。
そうだった、クロエにならなければ。
「クロエ、とても綺麗……です」
セルジュ様の頑張って伝えてくれた感……可愛い。
「ありがとうございます、セルジュ様も素敵です」
そう微笑むとロイク様とローズ様が伝えられて良かったわね、とセルジュ様の頭を撫でる。
セルジュ様は子供扱いしないでください、と言いながらも嬉しそう。
「皆様、会場の方へ移動をお願いします」
ご案内致します、と言いメイドさんがドアを開けてくれた。
ノバルトの腕に手を添えてパーティー会場に……と思ったけれど私は皆さんとは別で会場に向かわせてもらった。
さすがにこれだけの王族が揃っているなか一緒に登場する勇気はない。
広い会場には着飾ったたくさんの貴族達。王族の入場に皆さん注目している。
目立たないように離れたところからその様子を眺めているとご挨拶をしようと王族の前に長い列ができる。
しばらくかかりそう……会場を見回すと知っている顔がチラホラ。
リアム様がルシェナ様とお話をしている。
演劇を観に行ったりしているのかな、何だか可愛いくて微笑ましい。
イアン様は……カイル様と話している。
意外なことに二人とも自然な笑顔で楽しそう。やっぱり実は仲がいいのかもしれない。
あ、誰か知らないけれどそんな二人の間に割って入って悪気なく話し始めた人がいる。
イアン様の笑顔が作り物に変わりカイル様は……笑顔だけれどもなぜかめちゃくちゃ怖い……イアン様との貴重な時間なんだろうけれど……怖いよ。
誰か知らないけれど笑って話している場合ではない、逃げて……
少し離れた壁際を見るとハリスさんとセドリックさんがいる。いつもの制服よりもいい生地を使ってオーダーメイドされたのかな、二人のスタイルの良さが際立って制服なのにその辺の着飾った貴族よりも素敵にみえる。
周りの貴族達も男女問わず気になるのかチラチラと二人を見ている。引き抜かれたりしないのかな……よくあることらしいし。
一瞬そんな心配をしたけれど、イアン様が嫌がる事をカイル様が許すはずがないか、と思い至る。
ノバルト達に続く列はまだまだ長く、まだ並んでいない人達はそれぞれお喋りを楽しんでいる。
ぐるりと会場を見回して一度バルコニーに出て風に当たろうと思った。
外に出ると中のざわめきが小さくなりホッとする。
月明かりに照らされた庭を眺めているとトコトコトコ……と……三毛猫さん!? 見ないと思ったら夜の散歩かな。
こっそり抜け出してちょっとだけ散歩に付き合おうかな……
結界を張る前に誰もいないか周りを確認しようとすると
「あまり長く夜風に当たると風邪を引いてしまいますよ」
振り向くと……知らない男性が立っていた。このお城の使用人の制服を着ているからどこかで見かけたことはあるのかもしれない。
三毛猫さんとの夜のお散歩はまた今度かな。
「そうですね、ありがとうございます。もう少ししたら戻ります」
ではこちらを、と肌触りのいいストールを肩に掛けてくれた。
ありがとう、と微笑むと
「いえいえ」
と彼も微笑む。
その表情が何だか少しだけ懐かしいというか覚えがあるような気がして首をかしげる。
「……あの、何か?」
見つめすぎてしまったみたい……彼が困っている。
「すみません、中に戻りますね」
気のせい……だったのかな……
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