異世界転移の……説明なし!

サイカ

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 中に戻ると王族への挨拶は終わりが見えてきていた。


音楽が聞こえてくるとロイク様がどこかのご令嬢と踊り始める。もしかして婚約者かな?

セルジュ様も同じくらいの年頃のご令嬢と踊り始めている。

ノシュカトはローズ様にダンスを申し込みロイク様とセルジュ様に続いて踊り始める。

セオドアは……数名のご令嬢に囲まれて順番ね、と諭している。なんだろう……あの近寄りやすさ。

ノバルトは……女性達が声をかけるタイミングを見計らっているのか遠巻きに見つめられている。

レクラスの王族が踊り始めたのを見て他の貴族もダンスを始める。

ノバルトが真っ直ぐこちらに向かってくる。

「私と踊っていただけますか」

そう言って手を差し出し微笑む。

「喜んで」

とその手を取る。
貴族達がざわめいたのがわかったけれど構わない。

「ダンスが上手くなったね、トウカ」

それはノバルトがリードしてくれているから……

「ありがとう、何もわからなかった私にリアザイアの皆さんがいろいろと教えてくれたことも……」

転移先がリアザイアで良かった。

「王妃教育までされていたから大変だっただろう」

? 王妃教育? あぁ、王妃様が教えてくれたっていうことか。

「王妃様は教え方がとてもお上手だから楽しみながらいろいろ覚えられたかな、どこの国でも役立つ事ばかりで……」

一瞬間があり……ノバルトが満面の笑みを浮かべる。

「トウカ、いつまでも変わらずそのままの君でいて欲しい」

えぇ!? どうしたの急に……ノバルトの笑顔に周りがざわついたけれどそんなの気にしていられない。

「あ、あの……変わらないし変われないと思うから……変わらないです」

何を言っているのだ私は。
よくわからないけれど恥ずかしくて顔が熱くなる。
そんな私を抱き寄せて周りから顔を隠してくれるノバルト。これはこれで……いつまでも熱が引かない。

ノバルトはそんな私の頭を撫でてクスクスと笑っている。楽しそうで何よりだけれどなぜこうなったのかわからない。
私、何かおかしな事を言ってしまったのかな……

音楽が変わりノシュカトからダンスを申し込まれ手を取る。また周りがざわめく。

「トーカ、帰ったらリアザイアの城でも肝だめしをしようよ」

意外と気に入ってくれていたのかな。

「兄上達とオリバーと使用人のみんなにも参加してもらったら楽しいよね」

お城でやることと決まっているわけではないのだけれど……でも

「そうだね、みんなに参加してもらえたら楽しいかも」

もしかしたら王様や王妃様も参加すると言い出すかもしれない……いや、言いそう。

そんな私の考えを見透かしたようにノシュカトが少し困ったように微笑むのでつられて笑ってしまう。

まだ音楽は途中だけれど、ノシュカトが少し休もうか、と椅子までエスコートしてくれる。優しい。

この優しさ、気遣いはご令嬢方にも響くらしく

「キャァッ」

「素敵!」

「結婚したいわっ」

などの声が聞こえてくる。ノシュカトはそんなつもりがなくてもこうなってしまう。
チラリとノシュカトを見上げると無。無だ。

それなのに私の視線に気が付くと眉を下げて嬉しそうに微笑む……
そのギャップにご令嬢方がさらにざわめく。
これは自業自得……と言ってしまうのは無意識でやっていることだろうからかわいそうかな……

座ってノシュカトと話しをしている間に曲が変わりどこかのご令嬢がノシュカトにダンスを申し込む。
滞在には期限があるからか積極的だ。
ノシュカトが少し失礼しますね、と言い席を立つ。

断らずに受けてあげられるコで良かった、と少しふざけて考えながらもホッとする。
ノシュカトが席を立ち少しすると

「踊っていただけますか」

と差し出された手を見て顔を上げると

カ、カカカ……カイル様!?

「喜んで」

いかん、動揺しては……思わずイアン様を探してしまう……なるほど、イアン様はどこかのご令嬢と踊っている。

そしてカイル様は侯爵家として興味があるのだろう、王子様達と踊る私に。

「私はクレメン侯爵家の長男、カイル・クレメンと申します」

私の手を取り歩きながら自己紹介をする。

「私はクロエ・ラングと申します。リアザイア王国から参りました」

お互い向かい合い、よろしくお願いいたします、と礼をして踊り始める。

「クロエ様はレクラスへは何をしに来られたのですか」

探りとかじゃなく直球……

「留学ですわ、レクラス王国は素敵な国ですね」

なるべくボンヤリとした返事をするとカイル様は、ほぅ……と少しだけ興味を持ったみたい……

「留学生でしたか。とても優秀なのですね」

ニコリ、と作り笑いをするカイル様。
実際はただの旅人だから、いえ、そんなことないです、と言いたくなる。

「まだまだ学べることはたくさんありますわ。知らないことが多くて恥ずかしいくらいです」

この世界のことはまだ知らないことの方が多いだろうし嘘ではない。

「……とても謙虚な方なのですね。貴族なんてものは見栄の張り合いしかしていないし、ご令嬢は顔を塗りたくることにしか興味がないとばかり思っていました」

表情は変わらないのに言葉の端々に口の悪さと本音が……

「なぜそんなに……留学までして学ぶのですか? 何か将来なりたいものが……もしかしてどちらかの殿下の婚約者ですか?」

将来なりたいもの……それは考えていなかった……

元の世界では就職をしてからはひたすら安定を願っていたし、強いて言うなら将来的には猫や動物達と住みたいと思ってはいた。

こちらの世界では常識を覚えるので手一杯でようやく余裕ができてきたところ。

「あの……お恥ずかしい話ですがそこまでは考えずに学びたいことを学ばせていただいております。婚約もどなたともしておりません」

呆れられるかもしれないけれどここは正直に答えよう、変に突っ込まれても困るし。

「そうでしたか。でしたら私と結婚していただけませんか」

? な……なんて!? 何て言った!? プロポーズ!?
あまりにもサラリと言うので思わずはい、と言うところだった! あっぶない!

「私は侯爵家の跡取りですし、貴方にはこの国で学びたいことを好きなだけ学ばせてあげられる」

こ、この人は……思わずため息が……出そう……
一瞬で落ち着いたわ。一言も口説く気がないな……私に好意があるわけでもない。

「とても……有難いお申し出なのですがお断りいたします」

貴族なら愛のない結婚生活もありなのかもしれないけれど私はごめんだ。カイル様寝起き怖いし、イアン様が一番だし。

カイル様が首を傾げる。

「悪い話ではないと思うのですが」

私にとってはいい話でもない。

「申し訳ありません」

曲が変わる。

「そうですか。滞在中に気が変わったらお知らせください」

そう言って、では、と礼をして真っ直ぐイアン様の元へ……
惜しい人だ……もう少し上手に人付き合いができないものかね。
まぁ……イアン様のように理解してあげられる人と出会えることを祈ろう。

ロイク様とセオドアはご令嬢方のお誘いが途切れない様子。
ノバルトは数名のご令息と話をしている。中には頬を染めている男性もいるよう……な……
さすがノバルト、男性にもモテている。

ローズ様は……男性に囲まれながらもチラチラとこちらをみている。行った方がいいのかな……
近づいていくと

「クロエ、あ、皆様こちらクロエ・ラング様ですわ。私達、少し休憩して参りますので皆様は楽しんで下さいね」

私が自己紹介をする間もなく私と腕を組みスタスタと歩き出すローズ様。

王族専用の休憩室に入るとメイドさんがお茶をいれてくれて会場にあった軽食やお菓子も持ってきてくれた。
ホッと一息つくとローズ様が

「あまり長い時間はいられないけれど、お腹空いているわよね、いただきましょう」

有難い、お腹空いています。


ローズ様と一緒にお茶をいただきながらお話をする。

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