蜘蛛の女王―アラクネ―

前世が蛍の人

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第1章

4.

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コンコン…
「レイティア・フィ・ザイシェルでございます、入室の許可を。」

「入りなさい。」

「はい、失礼します。」
シェソがドアを開け私は音を立てずに入る。そしてお義父様の隣に立ち一礼をして座る。
「………はっ!
け、見学は如何でしたか?」
学院長は慌てた様子で訪ねてきた。

「はい、そうですね…。
一つに固執せず様々な形で勉学を学べるというのはとても魅力的ですわ。
能力に応じて他者と違う学びを受けられるのはこの学院にしかないと私は思います。
そう言えば先程、このような出来事がありました…。」
模擬戦での出来事を話すと学院長は真っ青な顔色で何度も謝罪される。
その時のお義父様の様子は、何と言うか表現出来ないお姿でした。
気を取り直して話しを再開する。
「それでしたら―」

「ですが、私が誇れる己の秀でるものがありません…。協会で鑑定して頂きましたが何一つ分からないままでした。
だって、私には…16年前の記憶が、無いのですから…。」
そう、私には生きた時間のほとんどを忘れてしまった…となっている。
邪黒神との契約によって記憶の一部を消失したのだから嘘ではない。

「レイティア、気に病む事では無い。

学院長には何度も同じ事を言うが、これ以上娘に入学を薦めるのを止めてくれぬか?」

「ですから申し上げておるのです、お嬢様の身を案じるのであればこの世界を学ぶ機会を与えるべきです!!
無知こそ己を滅ぼす、特に今のお嬢様のままでは……悪用されかねない。」
何故、学院長がここまで私に入学を薦めるのか。それは記憶喪失とは別に重大な秘密を抱えているから。

―不老不死。
名前の通り、私の体はあの日から時が止まってしまったかのように歳をとらなくなった。原因不明の病と医療術師に言われが、邪黒神との契約で与えられたものなのでさほど気にしてない。
周りには既に知れ渡っているからか、派手に騒ぎたてているだけのこと。
それに入学自体もともとするつもりが無いのにどうして学院長が執拗に薦めて来るのか理解できない。

「娘を入学させれば噂の的になり良からぬ事を考える輩が集まるだろう、その場合はどうやって抹―ンンっ、対処するつもりだ?」
お義父様?
今、とても不穏な言葉を聞いた気がしましたが表情にお変わりはありませんし…きっと何かの聞き間違いですね。

「そのような事が起こらぬよう最善を尽くす所存でございます。
手始めに、お嬢様の憂いを晴らす為の手段としてお嬢様が心を許せる者の同伴を提案させて頂きます。そして私が信頼する護衛を遠見からではございますが、直ぐ様駆けつけられるように手配をしましょう。
お嬢様の体調に合わせて授業の組み換え、個別指導を随時設けますので安心して勉学に励んで頂ければと我々は考えております。」

「そうか、そこまで考えてくれていたのか君は……!」
お、お義父様…?

「レイティア?今すぐにとは言わないが、ここまでお前の身を案じてくれているのだ。」
今まで通り反対して下さらないのですが!?

「そ、そうですわね。まさかここまで熱心にされては―」

「お嬢様がご入学されるのであればこのシェソ、手となり足となって貴女様にお仕えさせて頂く所存。
どうか、私めをお供にお選び下さい。」
後ろで控えていたシェソが突然、私の横で跪き頭を下げ始めた。
結局、入学する事がトントン拍子で決まってしまい今から憂鬱な気分になった。お義父様と別れ、学院に近い場所で食事をとることになった…が、その状態で食事が進むわけがない。
(私が自由に動ける時間が減る…。ここはラウラスに協力してもらわないと不味いわ、学院側も余計なお世話よっ護衛なんて私からすれば監視のようなものじゃない!)

「お嬢様、お食事があまり進んでおられないご様子。何か不服が御座いましたでしょうか?」

「少し気疲れただけよ、馬車の中で休めば平気だから心配無用。」

「畏まりました。もし宜しければ何か簡易的なお作りしますのでお早めに休まれますか?」

「…そうしようかしら。」

「仰せのままに。」
私が席を立ち出口へ向かう間に彼は料理長に簡易的な食事の用意を指示しながら屋敷のメイド長に帰宅予定時刻とスケジュールの前倒しを告げ、私をエスコートする。
「貴方、いつの間に通信用魔導具を持っていたの?」

「これはお嬢様の専属護衛兼執事になった当初より、旦那様から賜れた物でございます。」

馬車が到着し、扉が開けられたその時。
彼が美麗な笑顔を私に向け告げる。
「貴女様にこの命を救っていただいた時から私は貴女だけの下僕。
ご命令とあらばこの私に、その愛らしい口で、声でお聞かせください。貴女様を悩ます種をこの手で払拭する機会を与えて下さい。
全ては貴女の望みのままに。」

「シェソ…、いつもありが―「僕の姉さんを何口説いてんのかな?執事ごときが姉さんに惚れるとか死んでも許さない。この場で塵にするぞ?」

「ちょっと、ラウ!!」

「口説くなど、私はお嬢様を心からお慕い申し上げているのです。
お嬢様の敵は我々の敵、ならば立場が違えどやることは同じでございます。
ラウラス様ならばこの思いを汲み取って頂けるかと。」

「ふ~~ん…、分かっているなら良いさ。
姉さんっ!お待たせ、疲れたでしょ??
さぁ早く馬車に乗って帰ろう。」
今のやり取りが無かったかのように振る舞うラウラスに苦笑した。

★★★

屋敷に帰ればメイド長と数人のメイドが待っていた。どうやら、お目当ての仕立て人が応接間で待機しているとのこと。
少し急がないと……ん?何故メイド長らの顔が真っ青なの…?

「お嬢様っ、どうなさいましたか!?顔色が悪うございます!
一度お部屋で休まれて下さいませっっ。」

「だ大丈夫だからっ…落ち着いて?」

「姉さん、無理しないって約束したでしょ?メイド長が仕立て人に説明してくれるし、少し休んできてよ。
ゼーラは姉さんがちゃんと休んでるか見てて、シェソは僕から話があるから借りてくよ姉さん。」

「分かったわ、ちゃんと休むから喧嘩は駄目よ?」

「姉さんの嫌がることはしないさ、大事な話をするだけ。
シェソこっち来い。」
ラウラスはシェソを連れて部屋を出ていく。私はというと直ぐに簡易着に着替えベッドに入り仮眠をとったのだった。




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