蜘蛛の女王―アラクネ―

前世が蛍の人

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第1章

5.

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ラウラスは部屋にシェソを入れ鍵をかける。更に魔法で厳重に結界を張った。

「ラウラス様?」

「単刀直入に聞く。
何があっても姉さんを守りきると誓えるか?」

「愚問です、持てる力の全てを使ってレイティア様をお守りします。権力ならば裏を利用し、立場を振りかざすなら名誉と地位を蹴落としましょう。
ラウラス様が煩わしい羽虫を躊躇なく切って捨てるならば、私はその羽虫を闇に葬りましょう。」

「へぇ~…?
中途半端な答えだったら即効で解雇と思ったんだけど、まぁ…及第点ってとこか。
ところで、姉さんがカルデラーヴァ魔導学院に入学するって事、本格的に決まったみたいだね?」

「…っはい、おっしゃる通りでございます。」
驚いた表情でラウラスの問いに答える。

「何で知ってるんだ?って顔してるから話しておこうか。
僕には少しばかりを知る術があるんだよ、だから姉さんがこの時期に入学する事もそれを機に姉さんが沢山の男に結婚を申し込まれる事も。

―そして姉さんを断罪しようとする女が近々同じ魔導学院に入学するって事も知ってるわけ。
なんせ僕は前世の記憶を持って産まれた"転生者"で、この世界にとってイレギュラーな、そう!いるはずのない存在って…ね。」
ラウラスは脚を組み直し話を続けた。

「クハハハッ!
お前でもそんな顔出来るんだな、凄い間抜け面してるから鏡でも見たら?
理解し難いとは思うけど事実は事実。因みにこれを知っているのはお前だけだ。
癪だけど、姉さんの良き理解者で心を許しているお前なら僕の秘密を明かした理由は……言うまでもないね?」

シェソは跪き、
「つまり事が起こる前に、又はその時に備えて手を打っておくよう手配せよと言うことでしょうか。」

「その通り。」

この世界は前世に妹からせがまれて渋々始めた乙女ゲームだと思い出したのは6歳の時だった。
この時は初めて僕に姉さんがいると知り、好奇心で使用人の目をかいくぐり離れの屋敷に忍び込み見に行った。
小さな庭に置かれた椅子に座っている姉さんを見た瞬間、大量の情報が脳内に流れ込んできたのを今でも覚えている。
ゲーム中のレイティアの第一印象は、我が儘で色女。僕の嫌いな人種だからレイティアが姉さんだと知った時酷く落ち込んだ。

彼女がアラクネになるための対価に僕が死ぬという意味も含めて。

けれどもそれは大きな間違いだった。
勝手に屋敷に忍び込んだ僕を見て、
「ここに来たら駄目よ、お母様に叱られてしまうわ。早く戻りなさい…。」

心配してくれた。あの彼女が……!?
結局その後、両親にバレて注意されたが叱られはしなかった。ゲームとは違う姉さんの様子が気になり、またこっそり見に行くと父が姉さんを殴っているところを目撃する。
「よくも大事なラウラスをたぶらかしたな。
レイティア!貴様は我が家にとって恥でしかない出来損ないなのだ!!恥を知れっ!」

「も、申し訳ありませんお父さ―バシンッ「お前を娘と思ったことは1度だって無い、旦那様と呼べ。」

はい……旦那…様、御許し下さい。」

「ふんっ、分かったらさっさと下がれ!目障りだ!!」
父がドスドスと荒い足音を響かせて立ち去った。
姉さんは頬をおさえて座り込んだまま動かない。
「姉…さん、ほっぺが痛いの?」

「っ、またここに来てしまったの?
駄目って言ったのに、早く戻って。」

「僕の、せい……で??」

「…誰のせいでも無いわ。
私が家のお荷物になっているからここで一生懸命お勉強をしているの。
何で貴方が泣いているの?ほら笑って??」
彼女は怒っていいはずなのに。
怒るどころか、僕を慰めてくれた。

「僕は姉様が心配で…けど僕のせいで姉様がぶたれたっ、ごめんなさい…っ。」

「あなたは私のために泣いてくれたの?」

「あなたじゃないもん、僕にはラウラスって名前があるんだから。
だから姉様?ラウラスって呼んで??」

「ふふっ。なら、ラウって呼んでいい?」


彼女の本来の姿を知った僕は産まれて初めてこの人を守りたいと強く思った。
折角前世の記憶を持って産まれたんだ、これからの未来の為に僕にしか出来ない事で姉さんを守ると決めた。
手始めに姉さんの最初の儀式で両親が必要になるからその時が来るまで二人の外堀を埋めておこうか。
その日が訪れるのを今か今かと待ち続けていたあの気持ちが、また僕の中で渦巻く。

「ラウラス様、聞いておりますか?」

「ん?少し昔の思い出に浸ってたみたいだ…。
で、ここからが本題。
お前に情報収集を頼みたい。僕と似たような境遇を持っていそうな人物が2人、1人は味方に引き込めそうな人物。
もう1人が姉さんの敵、こっちを任せた。」

「畏まりました。優先順位としては敵の内情から探りましょうか?」

「勿論だ、言質も事細かに集めてくれ。特に1人になったときを狙え。
味方になりそうなのは僕からアプローチしてみよっかね?」

「…あぷろーてぃとは一体?」

「僕の方から近づく、まぁその方法という意味だよ。こっちは気にしないでいいから。」

「仰せのままに。」
シェソは早速仕事に取りかかるため音もなくサッと姿を消した。
姉さんの為ならあいつは手段を選ばない。
勿論僕もだけど。
後悔なんてしてないさ、姑息な手を使ってでも敵を蹴落としてやるとあの日に誓った。
物語がヒロイン目線で進行していくのを思い出す。
ヒロインが脚本通りだったら問題ないけど
もし僕と同じなら?
この世界を舞台にしたゲームの内容を熟知していたら?

…まずい事になる。

それを回避するために密かにルートを前倒しにしてきた。
姉さんが邪黒神と契約した時に僕は死ぬはずだった運命を無かった事にし、姉さんとの再会までに人脈と仕事を築き上げ受け入れ万全の状態にしておいた。
多少誤差(シェソとゼーラのこと)もあったんだけど無事に姉さんとの再会を果たせた。

(さて…そろそろ姉さんの所に行こうか。)
身なりをただし僕は愛する姉さんの部屋に急ぎ足で向かった。

★★★

「お嬢、ゆっくり眠れましたか…?」

「えぇ、ほらこの通りよ。
もう顔色が悪いなんて言わせないわっ。」

「それは良かった、今メイドを呼びます。」
ゼーラと入れ替わりでメイド達が来て軽くメイクとゆったりとしたドレスに着替える。
着替えが終わり応接間に向かう途中、ラウラスに会い一緒に応接間に行く。

「ラウ?シェソはどうしたの?」

「あいつなら僕のお使いで書類を届けてもらっていてね、大臣に直接会いに行くと話が長くなるから…。
まったく文官の仕事も楽じゃないよ…。」

「休みなのにお仕事をしていたの?ラウこそ休まなきゃ駄目じゃないっ!」

「姉さんが癒してくれるから問題ないよ?」
…腑に落ちないけど後で何かしてあげよう。
応接間の扉を開くとこちらに気づいたのか、
深々とお辞儀をしていた。

「ごご体調はもうよ、宜しいのですかっ?
あ!え…えっと、ぼ、私はハロルド伯爵家が嫡男、ハロルド・アクシレアと申します。
この度のご指名、ありがとうございます。
こちらは私の助手を勤める者ですので重ねて宜しくお願いします。
腕にかけて素晴らしい1着をお作りします!」

「我が家に赴かせてごめんなさいね、具合はもう平気だから早速だけど始めてもらえるかしら。」

「はいっ!それではご令嬢様以外の方々は外でお待ち願えますか?」
ハロルドの言葉にメイド長らはお辞儀をして退室する。……?

「ラウ…?」

「ん、何?姉さん??」

「貴方もそ「僕が僕以外の男と姉さんを二人きりにさせると思う??」
…聞いた私が馬鹿だったわ。」
オモワズ小さいため息をついてしまった。
ラウが結界を張ってくれたのを見届けた後、
ハロルドに向き直り今一番確認したいことを口にした。

「貴方…あのお人形さん、かしら?」

「はい、その通りです。
あっ!助手は自動人形オートマリオネットなので情報漏洩は僕の命令で制限しています。安心してください!
それから…後ろの御方は?」

「言われないと気づかない程精密な作りなのね、始めて目にしたわ。
そう言えば貴方は初対面だものね…。紹介するわ、彼は私の弟ラウラスよ。」

「またの名をレイヴィン。お前が最近姉さんの部下になった奴か、まさかの女装男子…。」

「じょそ…だんし??」

「こっちの話だから姉さんは忘れていいんだよ。」

「初めまして、ビクスと申します。
アラクネ様の部下として精一杯頑張ります!
今回はいくつか寸法をとって型を作り始めるので明日の午後に完成する予定です。
出来次第お部屋にお持ちしますか?」

「そのように手配しておいてくれると助かるわ。」

「はい!!」
段取りが決まるとハロルドは素早く寸法を取り紙によく分からない計算式をいくつも書き込んでいた。

「―はい、これで終了です。
お待たせしました、お急ぎとの事でしたので僕もこれで失礼します。」

「ありがとう、楽しみに待ってるから。」
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