蜘蛛の女王―アラクネ―

前世が蛍の人

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第1章

3.

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次の日。
騒がしい物音で目が覚めた。
「ん……、朝から一体何?」

ムクリと起きて外套がいとうを羽織り、呼び鈴を鳴らした。間を開けず彼がスッ…と現れる。
「おはようございます、レイティア様。
本日のモーニングティーは、エーテル産のダージリン茶葉と国産のハーブを使用したブレンドティーをご用意させて頂きました。
付け合わせにスコーンとクロワッサンのどちらに御召し上がりになりますか?」

「…スコーンを頂くわ。

―それと朝から騒々しいのだけど。」

「かしこまりました、すぐにご用意します。
…本日の早朝よりラウラス様がお見えになり、レイティア様に会いたいと申されておりました。
しかしレイティア様はもうご立派な淑女、いくら親族とは言え無防備な女性の部屋に無断で入室するのは如何なものかと申し上げた所、今に至ります。
只今ゼーラがラウラス様の対応に努めております。」
騒がしい物音=戦闘中が結びついてしまうのは気のせいだと思いたいこの頃。
けれども私の表情を見てシェソは頷く。
つまり、気のせいではないと言いたいのだろう。

「シェソ、これ以上の被害と近隣の迷惑を避ける為に…急いで。」

「は、既にご用意させて頂きました。
どのドレスにも合う装飾品もありますのでこちらからお選び下さい。他の物をご所望でありましたら何なりと。」
次々と私の好みを選び美しく仕上げていく中、シェソから今日の予定を聞く。

「本日のご予定でございます。
8時40分よりカルデラーヴァ魔導学院の視察ならびに見学、11時からよりザイシェル候爵様とご一緒に学院長との会談がございます。
その後2時間は何もご予定が入っておりません。
14時よりザイシェル候爵夫人様とご一緒にマルガレーナ公爵夫人のお茶会に出席し、18時30分よりエンタナナバルの演奏会となっております。」

「お義父様と出席する会談が終わった後の空き時間にドレスを作りたいの。」

「仰せのままに。では、学院長との会談が終了次第ココット夫人を屋敷に待機させましょう。」

「彼女には悪いけど別の仕立て屋を呼んだわ、アレクシア工房の仕立て人が来るから応接間にお通しするように他の者にも伝えて。」

私の発言にシェソが殺気じみた声で聞き返す。
「…ココット夫人がレイティア様に無礼を働いたのでしょうか。
もしそうであるならば早々に駆―「彼女は熱心にやってくれているわ、たまには気分を変えて違う仕立て屋にドレスを作ってもらいたいのよ。」
遮っては礼儀に反すると思いつつ、弁明をした。でなければ後が大変だから…。
シェソは納得したのか、「そうですが、あの方に何かされましたら遠慮なく、私にお話しください。」とどこか強調させて一歩下がった。
え?何で1歩下がったのかしら…?

―ダスダスダスダス!!バァアンッ
「姉さんっ!心配したんだよ!?
泊まるなら前もってちゃんと連絡してくれないと気が気じゃなかったんだよっ!?
見つけたと思ってここにくれば胸糞悪い奴に会うわ、姉さんに会わせられないとか言われるわ、しかもよりによって胸糞悪い奴その2に姉さんのあんな所やこんな所を見られるわ…もう散々なんだけどっっ!!」

「お嬢、申し訳ありません…。
シェソ、すまん。もう限界だった。」

「「…。」」
ドア付近で土下座して謝るゼーラが不憫で何だか申し訳ない気持ちになった。
とりあえずラウラスに正座をさせ、説教&警告&恥ずかしい事を言わない様じっくりと一方的に話し合いをする。
折角(?)の早起きが気づけば視察に向かう時間となっていて大慌てで馬車に乗り込んだのは言うまでもない。

★★★

ローゼン国王陛下より東側の領土を承ったザイシェル候爵家は、定期的に町の視察を行っている。
今回、魔導学院の視察というより見学が主になっている私は学院長と担当の先生方に盛大にお出迎えをされ、校内を見て回る。
「ザイシェル侯爵様、レイティア侯爵令嬢様―ようこそ。
この度我が学院に御越し頂き感謝の極みにございます。早速で申し訳ありませんが此方へ。」

「ああ、行くとしよう。
レイティア、無理の無い程度に有意義な時間を過ごして来なさい。」

「はいお義父様、行って参ります。
後程お会いしましょう。」
お義父様は学院長と共に何処かへ行ってしまった。残された私は時間まで護衛兼執事のシェソを連れて訓練所を訪れた。

「本日はネーディラス殿下も訓練に参加されておりまして―…、ん?丁度良かった。
今より模擬戦が行われるそうです。」
少し離れた場所から観賞することにした私達だか、正直退屈していた。
けれども退屈を顔に出さず模擬戦の行く末を見守る振りをする。
(ネーディラス殿下…彼の持つ聖剣に見覚えがあるから鑑定してみたけどやっぱりね…。)
こっそり鑑定してみれば聖剣士の一人ということが判明した。
つまりは……私の、敵。
(あの男の弱点を知ることが出来れば弱体化させられる…。)
そんな事を考えていると辺り一帯に雷撃が飛んできた。
「きゃあっ!!」

「レイティアお嬢様っ、<二重結界>!
…お怪我はございませんか?」

「えぇ、怪我はないわ。
少し震えるだけ…、じきに治まるわ。」
シェソが咄嗟にシールドを展開してくれたお陰で怪我はしていない。
普通なら模擬戦を行う時、魔法壁を展開することが義務付けられているにも関わらず何をやっているんだこの学院は…。
シールド内でじっとしていたら何人かこちらに駆けつけてくる。
「申し訳ありませんっっ!
模擬戦が終了したと思い魔法壁を解除したところ、まだ選手の魔法による攻撃が続いておりこのような事態になってしまいました…。」
と審判をしていた男が土下座して謝罪を述べる。
「あの…頭を上げてください。
私の従者が咄嗟に結界を張ってくれたお陰で怪我はありません。
ですが今回の件はお義父様に報告させて頂きます。次にこのような事態が起こらないためにも、重く心に受け止めておいてください。」
そう伝えると、「…は、はい。」とか細い声でガタガタ震える男。
レイティアは用件を伝え終えるとシェソは無駄の無い動作で彼女を横抱きにし、「では、失礼します。」と一礼後、速やかに立ち去ろうとした…が。

「悪いが待ってくれないか?
私からも謝罪させて欲しい。」
ネーディラス殿下はレイティアのいる方へ歩み寄る。
(え…何この状況。
怪我してないのに何故シェソは何時までも私を地面に下ろしてくれないのかしら。
後、ネーディラス殿下は何を謝ると言うの??)
困惑したままシェソを見つめると「…かしこまりました。」と納得していない表情でそっと地面に下ろされる。
まるで壊れ物を扱うかの様なその仕草に周りが驚いているが何で?と首を傾げたくなる。

「殿下、侯爵令嬢ごときに頭を下げてはなりません。他国の者に侮られてしまいますでしょう?」

「何故だ?私の魔法で貴女を傷つけるところだったというのに…。」

(一国の王子が簡単に頭を下げてどうするのよ、プライドってものが無いのかしら。)

「謝罪についてはお受けします。
ですが私のような身分に頭を下げる必要がありません。頭を下げなくとも悔い改める気持ちがあるかどうか見て分かるものですから。」
そうネーディラス殿下に伝えると目を丸くして驚いている様だった。

「あ、貴女は―」

「お嬢様、まもなくお時間になりますがいかがいたしましょうか?」
時間は10時53分。
「お義父様をお待たせする訳にはいきません。シェソ、案内を。」

「は、仰せのままに。」

「殿下、申し訳ありませんが私はこれにて失礼させて頂きます。
それではごきげんよう。」

「あ、あぁ……そう、だな。先程の件だが後程ザイシェル侯爵宛に書簡を送るよう手配するつもりだ。用件は以上だ、行くがよい。」
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