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序章
舞台初公演初日②ー
しおりを挟む「わぁー…すげぇ人の数。なんかオレ、まぶしくて目が痛い」
「あぁ分かるぞカルロス…。お貴族様は自分を着飾るのに金を惜しげも無く使うからな、それにしても本当に凄い人の数だな…」
げんなりとした顔で垂れ幕をそっと覗き込む2人の間に、無理やり顔をつきだしているバーバラは真剣な表情で何かを書き留めている。
「あの帽子の飾り…宝石の代わりにガラスを代用すればいいわね。白のレースと大小のパーツを組み合わせて…。ある程度派手でいいのよ、でももう少し大きいのが素敵だわ。それとーー」
「あわわ…ヒトガイッパイ…」
衣装を作るのに貴族が着用しているドレスからヒントを得ているようだ。
キュスラが舞台挨拶をしている中、舞台裏ではそれぞれが緊張、不安、興奮、熱気で溢れていた。
ミラもまたその中の1人だ。
彼女の場合やや怯えた表情を浮かべ眺めている。
『我が主、先程他の者より言伝を預かった。
この一帯をくまなく見てきたが我が主を知る者はおらぬ。随時報告をするとの事だ』
(ほっ…良かった)
それを聞いて安心したのか、表情に明るさが戻ってくる。
しばらくしてブザーが鳴った。
開演の合図だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
とある国に、それはそれは美しい姫がおりました。姫は自然をこよなく愛し、誰からも愛されていました。
-1人を除いて。
「先妻の一人娘だからと皆が彼女を甘やかして!!忌々しい!!!」
近くにあった花瓶を床に叩きつけます。
無惨にも花が散り、それを踏みつけながらぶつぶつと恨み言を言う王妃は先妻の一人娘であるフローラが大嫌いでした。
ひとしきり八つ当たりをし満足すると侍女に問いかけます。
「そこの貴女、わたくしの言葉に答えなさい。
この世で最も賢いのは誰かしら?」
バーバラはあえて大きい音を立てる。気合いと迫力に団員は震えながら答えていた。
「は、はいぃい!この世で最も賢くあらせられるのは王妃様にご、ございますっ!!」
「…そう。
ではこの世で最も美しいのは誰かしら?」
「は、はい!最も美しいのは…王妃様でございます…っ」
「あら、何を言い淀むのしら?」
「い、いえ!そのような事は決して!!きゃあ!!」
「もう良い!!出て行け!」
「は、はぃいいいっ」
涙眼になりながら部屋を出る侍女。
ー…舞台裏からアロウやカルロスがカードに書き込み訴える。
(バーバラさん、いつもより迫力が凄過ぎっす)
(…あれは役関係なく泣いてるな)
(バーバラ姉さんっっ抑えて!抑えて!!)
(張り切ってるねぇ)
(まるで本物の王妃様と侍女…!
私もあんな風に振る舞っていたら少し状況が変わってたかな…)
「そうよ…最初から奴に聞けば良いのだ」
王妃はある場所へと向かいます。
祭壇のような場所に掛けられた布を取ると、そこには魔法の鏡が置かれています。
「さぁ…真実を述べなさい。
ー鏡よ鏡、この世で最も美しいのは誰だ?」
『もちろん王妃、貴女様です』
「ふふふ…そうであろう」
途端に上機嫌となった王妃だったが、とある言葉に耳を疑いました。
『ーしかし、心も美しいのはフローラ姫でございます』
なんと、今まで鏡に最も美しいと言われ続けていた王妃が初めての屈辱を味わったのです。
ダンッ!!
「おのれぇえ…!!
近衛兵よ!!今すぐに狩人を呼べ!!
あの娘など八つ裂きにして獣の餌にしてくれようぞ!!」
ー場面は変わりまして。
久しぶりのお散歩に喜びが隠せないフローラは、いつになくはしゃいで森を散策していました。
「ふふ!
最近はお城の中にいるようにお母様から言われていたけど、今日は遊びに行っていいって言われたの!
狩人さん、もう少し先に美味しい木の実があるのよ♪」
(この娘をこれから私が…手にかけるというのか……)
狩人は悩んでおりました。
何故なら、この可愛らしいフローラを手にかけ王妃様に体の一部を献上しなければならないのです。
アロウは伏し目がちにため息をこぼす。
その仕草と表情に、一部の女性陣が釘付けになっていた。
一方エリスは震えないように終始気合いを入れながら役の見せ所を演じる。
(大丈夫、大丈夫よ、私はフローラ…)
可愛らしく振る舞うエリスに、一部の男性陣では「守ってあげたい!!」と応援していた。
これを見たバーバラは
(あの二人を主役にもってきて良かったわ!!
けれど、真の主役は王妃よ!!
ほーーっほっほっほ!)
と、自身の審美眼が褒められた事で鼻が高いようだ。
(凄い…!エリスさんがまるで別人みたい!
アロウさんってあんな表情が出来るんだ…!)
目をキラキラと輝かして舞台を見つめるミラに、団員達は癒されていくのだった。
「どうしたの?狩人さん」
「あ、いや…、何でもない」
「そう?
早くこちらにいらして一緒に木の実を食べましょ!」
「分かった」
二人は森の奥へと歩いていきます。
そして、だいぶ歩いた先には美味である木があり、フローラは嬉しそうに狩人へ木の実渡しました。
「これがとっても美味しいのよ!
あ…、お母様が怒るから内緒ですよ??」
「…っ」
狩人は未だ苦渋の選択に迷っていました。
この娘を手にかけるか、助けるかーー。
「姫よ…お許しください」
「…え?どうしーひっ!!」
狩人が右手に持つナイフを見てフローラは怯えました。
狩人は悲しそうに、彼女の息の根を止めようと近づきます。
とうとう逃げ場の無い所までフローラは追い詰められ、狩人はナイフを振り下ろしーー。
ザシュッ…
ナイフは木の幹に刺さりました。
「か、狩人さん…?
どうして…泣いているの…?」
「私には…私には貴女様を殺めることなど出来ません…!!
例えそれが王妃様の命令でも前王妃が遺された宝物を殺めることなど…っ
御許しください、御許し、ください…っ」
悲痛な叫びを聞いたフローラは思わず抱き締めました。
「姫様!何をー」
「貴方が私の為に悩んでいたのに、私…知らなくてごめんなさい。」
「姫様…」
狩人は決断しました。この娘を逃がすため、懐にあった金貨の入っている小袋を渡します。
「姫様、お逃げください」
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