もう恋なんてしない

前世が蛍の人

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序章

私、婚約を破棄されました。

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私、セルディーア・ミカエラは人生の中で最も最悪な日と言っても過言ではない今日を迎えていた。

ハルバード王国の名物の一つ、エレメント・ローザ学園の中でそれは起こった。
今私の前には、アリエッタ嬢とシュバルツ殿下がこちらを見下すように軽蔑している。
そして、私の婚約者である、いや…であった殿下に突きつけられた言葉が、私の胸を酷く引き裂いた。
「お前は余の婚約者でありながら、陰でデール・アリエッタ嬢に嫌がらせの数々を行ってきたとは…恥を知れ。
二度と余の前に現れるな。婚約も破棄だ、
さっさと消えろ。」

身に覚えのない罪を着せられ、公の場で婚約を破棄された。
(殿下は…私よりも、その御方の言葉を信じるのですか?
どうして―、)

ミカエラは目の前の出来事と言葉を理解できずにいた。そんな彼女の姿を嘲笑うようにアリエッタ嬢が殿下の腕に胸を押し付けるように抱きつき、
「殿下、それは余りにも酷でございますわ。
せめて、この国での滞在許可を許してあげられませんこと?」

「そうか…。セルディーア嬢、デール嬢の慈悲によりこの国に滞在することを許す。
彼女の寛大な心に感謝しろ」

シュバルツ殿下は心底嫌そうに、言い渡した。
私は泣くのをグッと堪え、俯いていた顔を上げる。震える声で、

「―お幸せに…」
(せめて笑って…祝福しなきゃ――。)

それが私の精一杯だった。
二人の前で淑女の礼をした後、私は振り返る事もなく学園の入り口へ向かう。
(私を愛してるって言った笑顔も、信じるって言った言葉も。

―全部、全部嘘だったのですね…っ)

あのプロポーズもあの思い出も偽りだったなんて知りたくもなかった。
階段を一段ずつ降りる度に涙が零れた。

(私は一人で浮かれていたんだ…。
恋をしたことがなかった私が、初めて殿下からプロポーズされたから舞い上がっていた。)

「ふっ…うぅ……。ひっぐ…。」

涙で前が見えない。
後から後から出てきて、止められそうもない。
(もう…恋なんてしない。)

階段を降りて長い廊下を歩く。私は少しでも早くこの学園から去りたくて廊下を走った。
早くここから…、早く…!
すると突然、
「ミカエラ!!待ってくれっっ!」 

後ろから第二王子であるアルフレッド殿下に呼び止められた。
(っ!!
どうしてここにアルフレッド様が!?
こんな姿、誰にも見られたくないっ。)

「来ないでください!!」

ミカエラの言葉にアルフレッド殿下は足を止めた。そして、
「どうして何も言い返さないんだ!?
確かな証拠もないのに何故っ貴方だけが悪者になるなどそんな酷い話を―」

「殿下のお心は…、もうアリエッタ様にあるのです。
だから、私は必要ありません。ただそれだけの話です。」

彼女は抑揚のない声で言い返した。
その答えにアルフレッド殿下は、ミカエラの右腕を掴み強引に振り向かせた。
「なら、どうして泣く?
何故、平気なフリをして一人で抱え込む!?

何故俺に助けを求めないんだ!!」

「っ、――触らないでっっ!!!!」

アルフレッド殿下の腕を振りほどいた時、
彼は何故か傷ついた表情を見せた。

(何でそんな顔をするのよ…)

「やめて……。もう、疲れたの私。
誰かを愛するのも愛を求めるのも…それで自分が傷つくのも。
こんな辱しめを受けるくらいなら、こんな惨めな思いをするくらいなら…。
初めから一人だったら良かったのに。

私っ…もう消えていなくなりたいっっ…!!!」

私はアルフレッド殿下にそう言うと魔法陣を組んだ。
「―お願いセラフィ、私を何処か遠くに飛ばして。」

風の大精霊―セラフィを召喚すると、室内であるにも関わらず、辺りが暴風の様に風が荒れた。
事の状況を近くで見ていたのだろうか、心なしか精霊は険しい表情を浮かべている。
『我が主の望むがままに。』

セラフィの癒しの風は、彼女を優しく包み込み、一瞬で消えた。
「行くなミカエラっ!!っ、くそぉおおーーっ!」

アルフレッド殿下は一人、廊下で叫ぶ声が虚しく響いた。
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