【Destination】

夕凪志織

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【Destination】魔神銃(ましんがん)継承編

第14話 ルカ

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母なる星ティエラは、人類の身勝手な活動により環境が激変。森林破壊、気候変動、海洋汚染はその一部にすぎない。


温暖化の影響で海水温は異常なまでにあがり続け、南極の氷河は急速に解氷、サンゴ礁にも多大な異変をおよぼす。


サンゴは褐虫藻という植物プランクトンと共存しているが、高温に弱く、海水温が上昇するとサンゴから抜け出して白化現象につながる。

白化が長期間続くとサンゴは死滅、海洋のCO2吸収力は低下する。それにともない、海水の温度がさらに上昇するという悪循環をもたらし、そうした異変はサンゴ礁に依存する、さまざまな海洋生物に影響を与え、海の生態系は破壊される。


このほか、毛皮の売買目的に希少動物を乱獲、住宅地開発による野生動物の生息地破壊、外来種をもち込んだ影響、環境汚染や温暖化など、人間の悪行が原因となって絶滅速度は加速。

1年に4万種、1日に100種以上といわれる急速な種の絶滅が生態系を崩し、それによって絶滅する種がさらに増加。


それだけでは飽き足らず、人類は永久に答えのでるはずもない、ムダな論争を続け、醜く愚かな争いを幾度となく繰り返し、光り輝く奇跡の星を灰色に濁った死の星に変えた。これはすべて「人間」の仕業、自分たちの利益だけを考え、追求してきた人間による悪業。

何万年、何億年という時間と、さまざまな生物が命を懸けて育んできた美しいこの世界を、人類は我が物顔で破壊し尽くし、すべてを台無しにした。


ティエラにとっての害獣、それはまちがいなく人類。真に「愚排思想」を唱えたかったのは、ほかでもない、ティエラと平和に暮らしていた動植物であろう。「人類こそが悪、この世界に人間さえ存在しなければ」罪なき生物と星の嘆き悲しむ声が聞こえる。




世界大戦の末、荒廃しきった暗黒の国ジャポルに、ある男性を探し求め、ひとりで旅を続ける美しい女性がいた。


女性の名はルカ。産まれついての金髪と大きな目から覗く瑠璃色の瞳孔、クールな顔立ちが印象的。一切濁りのない透き通る雪のような白い肌をもち、身長はジャポル人女性の平均を下回る152cmと小柄で痩せ型。


そして左首筋に、いつからあったとも知れない小さなL字型のアザがある。本人は気に留めていないが、他人の目からは、一目でわかるほど、ルカの白い肌には目立つものであった。


幼いころに受けた激しいいじめが原因で、他人を信用、信頼せず寡黙で無表情。 哀以外の感情をもたず、きわめて不器用。感情の起伏が乏しく、それは動く人形を彷彿とさせる。

彼女の笑顔を見た者は極わずか。情緒不安定になると髪の毛を触る癖があり、それが唯一、ルカの心中を知る方法。


彼女は今、破壊され倒壊しかかった建物のなかで壁にもたれ、深い眠りについて夢をみていた。

その夢は、自分が息絶え、ベッドに横たわり、傍らで小さな女の子が涙を流しているというもの。

ルカはある事件がきっかけで、戦争以前のほとんどの記憶を失くしている。日々、大勢の人間が死んでいくのを目の当たりにしたショックからなのか、原因は彼女自身にもわからない。

自分の名前、両親とある男性のことくらいしか記憶になく、自分に子供がいたのか、そんな大切な思い出さえもルカにはない。

「またこの夢……。だれなんだこのガキは。アタシの娘……、何回でてくれば気が済むんだ、鬱陶しい」


「まぁ、ガキがいようがどうでもいい。どうせ戦争で生き別れにでもなったんだろう。とっくに、くたばってるはず。今さら会ってみたいとも思わない」


「そんなことより、早くアイツを探さないと」


目を覚ましたルカは、ゆっくりと立ちあがり、廃墟となった建物をでて歩きだす。瓦礫や岩以外、なにもない荒野をあてもなく。


夢にでてきた我が子かもしれぬ、幼い少女を気にもかけず、ある男だけを求め、ひたすら西の方角を目指して歩を進める。ルカが探す男とは、何者で会ってなにをするつもりなのか。


「ヤツを探し始めてから丸2年……、いまだに手がかりすら掴めない。西にある山のほうは探しつくした。考えられるとすれば海沿いのどこか」


「次の村でも情報を得られなかったら、東に引き返して海岸沿いの町に行くか」

考え事をしながら1時間ほど歩いていると、足を引きずって歩く老人にでくわした。老人は歩を進めるたびに激しく息を切らし、千鳥足で半死半生といった状態。


「もし、旅のお方。どこのどなたかは存じあげませぬが、水を持っていたら分けてもらえないだろうか。ほんの少しでいい」

「かれこれ5日間、なにも口にしておらん……」


「水も食糧も持ってない」


「では、この先にある集落まで背負って行ってはもらえないだろうか。必ず礼はする、必ず……」


「断る。若者ならともかく、生い先短いジジイを助ける意味がどこにある」


「キサマッ!人が下手にでておればいい気になりおって!」

「ワシは過去、某有名食品会社の代表取締役にまでのぼりつめた男。その高貴なワシの願いを無視するつもりかっ!!」


「そんな肩書き、この世界じゃ、なんの価値もない」

「いつまで、くだらない過去の栄光にすがりついている。そういう思いあがったヤツらのせいで、こんな世のなかになった」


「アタシはお前みたいに権力を振りかざすヤツが大っ嫌いでね。顔を見ているだけで吐き気がする」


「あいにくだけど、お前と仲良く喋ってる時間はない。用が済んだならさっさと消えな」


「チッ!今までこの手に引っかかった女は数知れん。ほかの女同様、貴様の体も嫁にいけんほど、目茶苦茶に汚してやるつもりだったのに」


「本性を現したな。そんなことだろうと思ったよ。さっさと野垂れ死ね、欲にまみれた薄汚い老害が」


「女は男にとって便所だぞ!」

「その便所がワシをコケにした罪は重い!死ぬのはキサマじゃ!地獄に落ちるがいい!黙って犯されておればよいものを」


「言われなくても、アタシの地獄いきは決定している。お前もだがな」


この世は騙す者と騙される者、狩人と獲物で溢れかえっている。悪人は善人を騙し、その好意を踏みにじり、ほくそ笑む。騙された者は泣き寝入り。


「騙される側にすべての責任、落ち度がある」騙す側に都合の良い理論にすり替えられ、その不条理がまかり通る時代。そんな腐りきった世界を孤独と戦いながら、ルカはひとり歩いていく。ある男を探し求めて。
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