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「……お嬢様。お嬢様。本日はセドリック殿下が、国家予算を叩いて雇い上げたという『伝説の勇者(自称)』が門前で暴れております」
アンの淡々とした報告が、私の耳を素通りしていく。
私は、アルベルトがどこからか仕入れてきた「五秒で眠りに落ちる魔法の香炉」を抱きしめたまま、布団の中で丸まった。
「……アン。伝説だろうが勇者だろうが、私の睡眠時間を一秒でも削ったら、それは悪党よ。あいつを『騒音公害罪』で国外追放にしてきて……」
「そうはいきません。あの方は『光の加護』を持っているらしく、アルベルト様の氷の結界を力ずくで叩き割って侵入してきました」
ドォォォン!!
階下から、何かが爆発するような凄まじい音が響いてくる。
私は怒りで頭髪が逆立つのを感じながら、クッションを放り投げて起き上がった。
「……許さない。私の快適な引きこもりライフを、物理的に破壊するなんて……!」
私は三白眼をギリリと見開き、怒髪天を突く勢い(※ただの寝癖)でリビングへ向かった。
そこには、黄金の鎧をまとい、まばゆい光の剣を構えた大男が立っていた。
「悪しき魔女、エスター! 我が国の民と文官たちにかけた洗脳の術を解け! この『光の勇者』カイゼルが相手だ!」
(……眩しい。何よその鎧、鏡張りなの? 反射で目が痛いわよ)
私は、光の反射に耐えるために、いつにも増して目を細め、眉間に深い皺を刻んだ。
カイゼルが、その場に凍りついたように動きを止めた。
「……っ! な、なんだその目は! 私の放つ『聖なる光』を、無造作に、しかも不快そうに睨み返すとは! 貴様の闇、これほどまでにか!」
「……うるさい。そのライト、消してちょうだい。安眠の邪魔よ」
私は低い、地を這うような掠れ声で言った。
すると、背後から氷の魔力を立ち昇らせたアルベルトが、抜剣しながら割って入った。
「エスター、下がるんだ! この光り輝く不燃ゴミは、私が今すぐブラックホールへ叩き込んでやる!」
「待て、公爵! この女の目は本物だ! 私の光の加護を『安眠の邪魔』と言い切るほどの、圧倒的な無関心! これは……並大抵の魔女ではない!」
カイゼルは剣を構え直したが、その手は微かに震えていた。
私は面倒くさくなって、近くにいたアンに指示を出した。
「アン……。あいつに、アルベルトが持ってきた『最高級のホットミルク』と『沈んだら脱出不可能なクッション』を差し出して」
「畏まりました。……ほら、勇者様。これを食べて落ち着いてください。お嬢様は今、非常に機嫌が悪い……いえ、眠いのです」
アンが差し出したのは、魔導具で完璧な温度に保たれた、ハチミツ入りのホットミルクだった。
カイゼルは疑り深い目でそれを見つめたが、立ち昇るあまりにも幸福な香りに耐えきれず、一口飲んでしまった。
「……っ!? な、なんだこれは……! 全身の力が抜け、戦う意志が霧散していく……! 毒か!? 安らぎという名の毒なのか!?」
「毒じゃないわよ、高級食材よ。……ねえ、貴方。そんなに光って、疲れないの? 鎧を脱いで、そこのクッションにダイブしてみなさい。世界の見え方が変わるわよ」
私は、三白眼を少しだけ和らげ(※ただ眠気に負けそうになっただけ)、クッションを指さした。
カイゼルは、ふらふらとした足取りで、私の指さした「人間をダメにするクッション・プロ仕様」に身を投げ出した。
「……あ。……あああ……っ!」
「……落ちたわね」
「……素晴らしい……。戦いなど、虚しいだけだった……。私が守るべきは王国ではなく、この……この柔らかい宇宙だったのだ……」
カイゼルは一瞬で戦意を喪失し、黄金の鎧を脱ぎ捨てて、ただの「クッションに吸い込まれる大男」と化した。
アルベルトが、信じられないものを見る目で彼を見下ろした。
「エスター。君は、隣国最強の勇者すらも、一瞬で『堕落』させたのか……。その慈悲深さ……いや、恐るべき支配力! やはり君は、全人類を救うために現れたニートの神だ!」
「……神じゃないわよ。ただ、仲間を増やして、これ以上騒がれないようにしただけよ」
私は大きく欠伸をすると、アンに頷いた。
「アン。この勇者(笑)も、さっきの文官たちの隣に寝かせておいて。……さて、私は寝るわ」
「お嬢様、承知いたしました。これで当屋敷の『元・重要人物』のコレクションがまた一つ増えましたね」
王都のセドリック王子は、その後、勇者からの定期報告が「……おやすみなさい……」という一文だけになったのを見て、ついに膝から崩れ落ちたという。
エスター・ド・ヴァリエールのニート道。
最強の物理戦力すらも、高級クッションの前では無力に等しいのであった。
アンの淡々とした報告が、私の耳を素通りしていく。
私は、アルベルトがどこからか仕入れてきた「五秒で眠りに落ちる魔法の香炉」を抱きしめたまま、布団の中で丸まった。
「……アン。伝説だろうが勇者だろうが、私の睡眠時間を一秒でも削ったら、それは悪党よ。あいつを『騒音公害罪』で国外追放にしてきて……」
「そうはいきません。あの方は『光の加護』を持っているらしく、アルベルト様の氷の結界を力ずくで叩き割って侵入してきました」
ドォォォン!!
階下から、何かが爆発するような凄まじい音が響いてくる。
私は怒りで頭髪が逆立つのを感じながら、クッションを放り投げて起き上がった。
「……許さない。私の快適な引きこもりライフを、物理的に破壊するなんて……!」
私は三白眼をギリリと見開き、怒髪天を突く勢い(※ただの寝癖)でリビングへ向かった。
そこには、黄金の鎧をまとい、まばゆい光の剣を構えた大男が立っていた。
「悪しき魔女、エスター! 我が国の民と文官たちにかけた洗脳の術を解け! この『光の勇者』カイゼルが相手だ!」
(……眩しい。何よその鎧、鏡張りなの? 反射で目が痛いわよ)
私は、光の反射に耐えるために、いつにも増して目を細め、眉間に深い皺を刻んだ。
カイゼルが、その場に凍りついたように動きを止めた。
「……っ! な、なんだその目は! 私の放つ『聖なる光』を、無造作に、しかも不快そうに睨み返すとは! 貴様の闇、これほどまでにか!」
「……うるさい。そのライト、消してちょうだい。安眠の邪魔よ」
私は低い、地を這うような掠れ声で言った。
すると、背後から氷の魔力を立ち昇らせたアルベルトが、抜剣しながら割って入った。
「エスター、下がるんだ! この光り輝く不燃ゴミは、私が今すぐブラックホールへ叩き込んでやる!」
「待て、公爵! この女の目は本物だ! 私の光の加護を『安眠の邪魔』と言い切るほどの、圧倒的な無関心! これは……並大抵の魔女ではない!」
カイゼルは剣を構え直したが、その手は微かに震えていた。
私は面倒くさくなって、近くにいたアンに指示を出した。
「アン……。あいつに、アルベルトが持ってきた『最高級のホットミルク』と『沈んだら脱出不可能なクッション』を差し出して」
「畏まりました。……ほら、勇者様。これを食べて落ち着いてください。お嬢様は今、非常に機嫌が悪い……いえ、眠いのです」
アンが差し出したのは、魔導具で完璧な温度に保たれた、ハチミツ入りのホットミルクだった。
カイゼルは疑り深い目でそれを見つめたが、立ち昇るあまりにも幸福な香りに耐えきれず、一口飲んでしまった。
「……っ!? な、なんだこれは……! 全身の力が抜け、戦う意志が霧散していく……! 毒か!? 安らぎという名の毒なのか!?」
「毒じゃないわよ、高級食材よ。……ねえ、貴方。そんなに光って、疲れないの? 鎧を脱いで、そこのクッションにダイブしてみなさい。世界の見え方が変わるわよ」
私は、三白眼を少しだけ和らげ(※ただ眠気に負けそうになっただけ)、クッションを指さした。
カイゼルは、ふらふらとした足取りで、私の指さした「人間をダメにするクッション・プロ仕様」に身を投げ出した。
「……あ。……あああ……っ!」
「……落ちたわね」
「……素晴らしい……。戦いなど、虚しいだけだった……。私が守るべきは王国ではなく、この……この柔らかい宇宙だったのだ……」
カイゼルは一瞬で戦意を喪失し、黄金の鎧を脱ぎ捨てて、ただの「クッションに吸い込まれる大男」と化した。
アルベルトが、信じられないものを見る目で彼を見下ろした。
「エスター。君は、隣国最強の勇者すらも、一瞬で『堕落』させたのか……。その慈悲深さ……いや、恐るべき支配力! やはり君は、全人類を救うために現れたニートの神だ!」
「……神じゃないわよ。ただ、仲間を増やして、これ以上騒がれないようにしただけよ」
私は大きく欠伸をすると、アンに頷いた。
「アン。この勇者(笑)も、さっきの文官たちの隣に寝かせておいて。……さて、私は寝るわ」
「お嬢様、承知いたしました。これで当屋敷の『元・重要人物』のコレクションがまた一つ増えましたね」
王都のセドリック王子は、その後、勇者からの定期報告が「……おやすみなさい……」という一文だけになったのを見て、ついに膝から崩れ落ちたという。
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