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7.どんな顔をして*
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「それで、君はいったいどんな夢を見たんだ?」
俺が寝台でうなっていると、とても珍しいことにヴィルヘルムがドアを開けて入ってきた。目覚めた室内に護衛騎士がいなかったのは初めてだなと驚きつつも、叶うならば今朝はもうしばらくひとりでいたかった、と痛切に思う。俺は挨拶もそこそこに、夢を操る魔法についておそるおそる探りを入れた。
そして件の夢の内容を尋ねられたのだった。
「昨夜の記憶のほうはどうだ? それが君の希望する夢の魔法と関係しているのか?」
「…………うん」
視線を合わせず返事をしたきり黙ってしまった俺をどう見たのか、ヴィルヘルムはふうん、と首をかしげたようだった。
「私は鍛錬から戻ったところなんだ。湯を浴びながら話を聞こう」
気持ちとしては全力でお断りしたいシチュエーションだが、俺はうなずくしかない。
魔力を喰われた翌朝はたいてい俺を横抱きにして運んでくれるヴィルヘルムに、今朝はなるべく雑にとお願いしてなんとか小脇に抱えてもらった。
勝手に動揺して変な態度をとってしまうことを悪いとは思うけれど、いったいどんな顔をしていろっていうんだよ……。
ヴィルヘルムは湯殿での俺の世話をリコから引き継いでいるので、朝の健康チェックも彼の役目になっている。
俺はなるべく死んだ魚のような目をして無心に努めたが、腕や脚をとられ不調をチェックされたときだけは、ひっ、とか、ぎゃ、とかおかしな声が出た。ひととおりの仕事を終えたヴィルヘルムは俺を広い浴槽につけると、少し距離を取って、向かい合う位置に腰を落ち着ける。
「君が私に言い出しにくいことがあるのはわかった。その上で問うが、昨夜の記憶はどうだった?」
なんとか持ち込んだ大判のタオルをかぶったまま、俺はくぐもった声を絞り出した。
「……大賢者と、したおぼえは、ない」
「ほう。ならば魔法は正しく作用したのだな」
正しいのだろうか。
記憶はない。確かにない。
だけど。
「そこで夢か? 君は昨夜の魔法の作用で、大賢者に喰われた夢を見た気になっているのか」
「それは……ちがう、と思う」
違うんだ。
あの夢は、おそらく俺が実際に体験したことではない。
「大賢者は、今まで一言も喋ったことがないんだ。俺に触れるときだって……強く引っ張られたり押さえつけられたりなんて、されたことがない」
「乱暴された夢、か。それは確かに口にはしにくいな」
ヴィルヘルムは納得したように俺の頭に手のひらを置いた。タオル越しの重みに少しだけ肩が跳ねてしまって、俺はどんどん申し訳ない気分になる。
「ヴィル……」
「不快な夢を二度と見たくないと思うのは当然だ。とりあえず、記憶に関する魔法は取り止めだな」
やさしくタオルをぽんぽんと叩くヴィルヘルム。
取り止めか……大賢者との性交の記憶がないのは、だいぶ気が楽なんだけどな。
「……記憶を残すか、おかしな夢を見るか、二択になるってことか?」
おずおずと問いかけた俺に、タオルに囲まれた視界の中で綺麗な肉体が動く。
「選択肢として残す余地があるのか? よほどの悪夢なのだろう?」
俺の顔を覗き込んだヴィルヘルムと目が合ってしまって、俺は瞬時に真っ赤になった。
上がりきった息。汗ばむ身体。
肌のぶつかる音とあられもない水音が、ひっきりなしに俺の耳を犯す。
――ほら、ここだ。君がいちばんいい声で啼く。
自分も知らない胎の奥をぐちゃぐちゃに押し拡げられて、俺は声をあげ続けた。
俺自身の先からはもう何も出ない。力強い律動に揺らされるまま、かぼそく震えるのみだ。
俺のナカを思うまま貪り続ける暴君とはまるで違う。
蹂躙したその奥に幾度、熱い飛沫を放ってなお、萎えることを知らない燃える楔。
――これでも君は、まだ嫌だなんて言えるのか?
ごめ、んなさ……っあ! い……! きもちい……ッ!
がくがくと揺らされながら馬鹿みたいに「いい」と繰り返す俺に、ヴィルヘルムはよくできましたと言わんばかりに腰を大きく回して――……
「悪夢……というか……」
俺はタオルごと頭を抱える。とてもじゃないがヴィルヘルムを直視できない。
思い出したことで湯の中の半身が反応し始めていることも、認めたくはない。
あの夢が、あんなものが、俺の記憶による映像ではないのだとしたら。
ただの俺の欲望の発露、そして叶わない願望の類なのであれば。
――さあ私の可愛いアンリ。もういちどだ。口を開けて……――
俺の性癖はいったいどうなってしまったんだ。
「……アンリ?」
俺の夢の被害者であるヴィルヘルムは、こんなにも優しい紳士であるのに。
「その、どっちかというと……」
申し訳ない。申し訳ないとは思っているけれども。
「……夢のほうが、いい」
あのヴィルヘルムに俺がものすごく興奮してしまったのは確かなのだ。
本当に最悪だ。
そんな最悪の俺を、ヴィルヘルムは心配そうに見つめる。
「君がそう言うのならば、夢はこのままにするべきだが……どんなにひどい夢でも、実際に抱かれる記憶が残るよりはマシということか?」
そうなのだろうか。違う気がする。
俺は、震える手でタオルを握った。
「ひどい、というか……その、夢の、相手がさ……」
「大賢者が?」
「そうじゃなくて、ヴィルなんだ」
耐えきれずに俺がこぼした懺悔に、ヴィルヘルムは目を瞬いた。
俺が寝台でうなっていると、とても珍しいことにヴィルヘルムがドアを開けて入ってきた。目覚めた室内に護衛騎士がいなかったのは初めてだなと驚きつつも、叶うならば今朝はもうしばらくひとりでいたかった、と痛切に思う。俺は挨拶もそこそこに、夢を操る魔法についておそるおそる探りを入れた。
そして件の夢の内容を尋ねられたのだった。
「昨夜の記憶のほうはどうだ? それが君の希望する夢の魔法と関係しているのか?」
「…………うん」
視線を合わせず返事をしたきり黙ってしまった俺をどう見たのか、ヴィルヘルムはふうん、と首をかしげたようだった。
「私は鍛錬から戻ったところなんだ。湯を浴びながら話を聞こう」
気持ちとしては全力でお断りしたいシチュエーションだが、俺はうなずくしかない。
魔力を喰われた翌朝はたいてい俺を横抱きにして運んでくれるヴィルヘルムに、今朝はなるべく雑にとお願いしてなんとか小脇に抱えてもらった。
勝手に動揺して変な態度をとってしまうことを悪いとは思うけれど、いったいどんな顔をしていろっていうんだよ……。
ヴィルヘルムは湯殿での俺の世話をリコから引き継いでいるので、朝の健康チェックも彼の役目になっている。
俺はなるべく死んだ魚のような目をして無心に努めたが、腕や脚をとられ不調をチェックされたときだけは、ひっ、とか、ぎゃ、とかおかしな声が出た。ひととおりの仕事を終えたヴィルヘルムは俺を広い浴槽につけると、少し距離を取って、向かい合う位置に腰を落ち着ける。
「君が私に言い出しにくいことがあるのはわかった。その上で問うが、昨夜の記憶はどうだった?」
なんとか持ち込んだ大判のタオルをかぶったまま、俺はくぐもった声を絞り出した。
「……大賢者と、したおぼえは、ない」
「ほう。ならば魔法は正しく作用したのだな」
正しいのだろうか。
記憶はない。確かにない。
だけど。
「そこで夢か? 君は昨夜の魔法の作用で、大賢者に喰われた夢を見た気になっているのか」
「それは……ちがう、と思う」
違うんだ。
あの夢は、おそらく俺が実際に体験したことではない。
「大賢者は、今まで一言も喋ったことがないんだ。俺に触れるときだって……強く引っ張られたり押さえつけられたりなんて、されたことがない」
「乱暴された夢、か。それは確かに口にはしにくいな」
ヴィルヘルムは納得したように俺の頭に手のひらを置いた。タオル越しの重みに少しだけ肩が跳ねてしまって、俺はどんどん申し訳ない気分になる。
「ヴィル……」
「不快な夢を二度と見たくないと思うのは当然だ。とりあえず、記憶に関する魔法は取り止めだな」
やさしくタオルをぽんぽんと叩くヴィルヘルム。
取り止めか……大賢者との性交の記憶がないのは、だいぶ気が楽なんだけどな。
「……記憶を残すか、おかしな夢を見るか、二択になるってことか?」
おずおずと問いかけた俺に、タオルに囲まれた視界の中で綺麗な肉体が動く。
「選択肢として残す余地があるのか? よほどの悪夢なのだろう?」
俺の顔を覗き込んだヴィルヘルムと目が合ってしまって、俺は瞬時に真っ赤になった。
上がりきった息。汗ばむ身体。
肌のぶつかる音とあられもない水音が、ひっきりなしに俺の耳を犯す。
――ほら、ここだ。君がいちばんいい声で啼く。
自分も知らない胎の奥をぐちゃぐちゃに押し拡げられて、俺は声をあげ続けた。
俺自身の先からはもう何も出ない。力強い律動に揺らされるまま、かぼそく震えるのみだ。
俺のナカを思うまま貪り続ける暴君とはまるで違う。
蹂躙したその奥に幾度、熱い飛沫を放ってなお、萎えることを知らない燃える楔。
――これでも君は、まだ嫌だなんて言えるのか?
ごめ、んなさ……っあ! い……! きもちい……ッ!
がくがくと揺らされながら馬鹿みたいに「いい」と繰り返す俺に、ヴィルヘルムはよくできましたと言わんばかりに腰を大きく回して――……
「悪夢……というか……」
俺はタオルごと頭を抱える。とてもじゃないがヴィルヘルムを直視できない。
思い出したことで湯の中の半身が反応し始めていることも、認めたくはない。
あの夢が、あんなものが、俺の記憶による映像ではないのだとしたら。
ただの俺の欲望の発露、そして叶わない願望の類なのであれば。
――さあ私の可愛いアンリ。もういちどだ。口を開けて……――
俺の性癖はいったいどうなってしまったんだ。
「……アンリ?」
俺の夢の被害者であるヴィルヘルムは、こんなにも優しい紳士であるのに。
「その、どっちかというと……」
申し訳ない。申し訳ないとは思っているけれども。
「……夢のほうが、いい」
あのヴィルヘルムに俺がものすごく興奮してしまったのは確かなのだ。
本当に最悪だ。
そんな最悪の俺を、ヴィルヘルムは心配そうに見つめる。
「君がそう言うのならば、夢はこのままにするべきだが……どんなにひどい夢でも、実際に抱かれる記憶が残るよりはマシということか?」
そうなのだろうか。違う気がする。
俺は、震える手でタオルを握った。
「ひどい、というか……その、夢の、相手がさ……」
「大賢者が?」
「そうじゃなくて、ヴィルなんだ」
耐えきれずに俺がこぼした懺悔に、ヴィルヘルムは目を瞬いた。
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