異世界転移した俺は大賢者様に食われる運命らしい

蓮見

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9.塔の外へ

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「大丈夫? 俺、ほんとうに匂わない?」
「はい……驚きました。こんなにもわからなくなるものなのですね。さすがは大賢者様の魔力付与物アイテムです」

 塔で与えられたものとはだいぶ違う、市井に溶け込める服装を身につけ、さらにヴィルヘルムが大賢者から与えられたという外套マントを羽織る。
 リコがすんすんと匂いを嗅いで、感嘆の声をあげた。

「《箒星》さまがまとっていらっしゃるかぐわしい魔力が、とても巧妙に隠されています。これならば、魔法使いから気付かれることはほとんどないと思いますよ」
「良かった。騎士にはなにも警戒しなくていいのか?」

 俺の身支度中、ぎりぎりまで長椅子で仮眠をとっていたヴィルヘルムを見やる。

「騎士にとっての《箒星の旅人》か。魔力の恩恵を受けない生き物など存在しないが……そうだな。魔法使いへのみせしめや嫌がらせのために、なぶり殺されたことはあるが」

 たいへん恐ろしい回答が返ってきて、俺は震えた。本当に外出して大丈夫なのだろうか。

「塔にいる騎士は一応、大賢者の護衛として任じられているから、それほどの危険はない」
「いちおう、って言った……」
「どうだか! 騎士は魔力だけでなく知性も持たない猛獣です! おそろしい!」

 激高するリコに、ヴィルヘルムは涼しい顔だ。

「ああ、そういう目的で脅した。常にそのくらいの警戒はしておいてくれ」


 
 リコが街に出るには規定の日数前に申請が必要とのことで、外出するのは俺とヴィルヘルムのふたりきり。これ、気分転換の意味はあるのだろうか……。

 とはいえ、普段生活している奥まったエリアから正門方面の広い廊下に出ただけで、俺にとってそこはもう未知の世界だった。視界とともに気分も明るくなる。

「正門側って、広いしこんなに人がいる……」
「アンリは裏口から出たことしかないものな」

 視界に入るローブ姿の人間はきっと魔法使いだ。リコと同じ色と形のローブを着ているのは見習いだろうか。きょろきょろする俺を通りすがる人々が不審そうに眉をひそめ、ややあってぎょっとしたように目をそらす。前半は俺の服のせいかな、と思ったが、後半の反応はどうやらヴィルヘルムが原因のようだ。

 いつも先導してくれるリコがいないためか、普段は後ろを歩く美形騎士が、いまは俺の横にぴったり張り付いている。

「ヴィルって、ここの人たちになにかしたのか?」
「どうだろうな。隙あらば君に齧りつこうとするネズミや、そのネズミを手引した者をひねりはしたが」

 それにしては関係者が多すぎやしないか。

 そのまま遠巻きにされつつ、俺たちは塔から出た。今日も天気がいい。

「うわ、お前なに堂々と歩いてんだよ……っておいまさか、その小さいのは……」

 入口で警備にあたっていた茶髪の騎士がヴィルヘルムを見て、驚きの声を上げた。その視線が、俺へと下がる。

 俺が小さいのではない。この世界の標準が大きいだけだ。
 げんなりした俺の肩を、とても自然な動きでヴィルヘルムが抱いた。ぎょっとして固まる俺の耳元で、流れる金の髪の感触。

「ご苦労、トーラス。陰鬱な建物に閉じ込められているお可哀想なかたに、気晴らしをさせてやりたくてな」
「はー、ちっちぇー。魔法使いの連中はこんなかわいー子に寄ってたかって……羨ましいこった」

 騎士はやれやれと肩をすくめると、やおら背筋を伸ばし、持っていた槍をがつんと石床に打ち鳴らした。

「《箒星の旅人》アンリ様、護衛騎士ヴィルヘルム殿、通行を確認しました! ――気をつけろよ、ほんと」
「誰が護衛していると思ってるんだ?」

 小声で付け足した騎士に、ヴィルヘルムが笑い返す。

 そこに、がしゃりがしゃりと、なにやら大きな金属音が近づいてきた。

「これはこれは、《旅人》サマとは」

 全身鎧フルアーマーの巨体が、俺たちの前で歩みを止める。こちらを見下ろすその髭面に浮かんだ笑みは率直に言って、きたない。

「毎夜、魔法使いどもに搾り尽くされていると聞いていますが、なるほど魅力的なお姿をしていらっしゃる。いや、陰気な男どもの精を夜な夜な搾り取っていらっしゃる側でしたかな? 塔の外まで男漁りに出かける余裕がおありなら是非我々の宿舎に――」

 鎧男の声はそこで途切れた。足の甲にとつぜん剣が生えたからだ。


 えっ。
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