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夢幻の郷村-ノエマ-
4話 今一度だけ
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「さすがアリシアちゃんだよぉ!!」
マジコがアリシアにダイブした。
それをアリシアはすっと避ける。
目標を見失ったマジコ号は地面に不時着した。
「えええ!? なんで避けるのぉ!?」
「あなた方が操られていないという証拠がありませんので」
「操られてないよぉぉ!」
「冗談ですよ。それを危惧しているのならウルさんの参戦に反対いたしますわ」
ああ、そうだ。
よくこうやって、アリシアはマジコをからかって、マジコはそれでもじゃれに行って。
見覚えのある光景はまだまだ続く。
「アリシア、お前、どうしてここに」
「アクスさん。私がウルさんのお傍を離れるわけがないでしょう。王様の意見に逆らえない貴方たちと違って、私は常にウルさんと共にいましたわ」
「言ってくれるな。お前さんと違って俺たちは発言も許されねえ身分なんでな」
「権力に屈しただけでしょう? そのような方にウルさんを詰る権利はありませんわ」
「それは……」
尖り声で切り返すアリシア。
痛い所を突かれたという風に押し黙るアクス。
「話は影から聞かせていただきましたわ。どうやら私の身勝手で不幸な目に遭った方がいらっしゃるのでしょう? でしたら、私自ら前線に立つのが道理」
「だけどな? アリシアよぉ」
「アクスさん。そもそもあなた達の失態でしょう」
「だからこそだろ!」
「人の好意は素直に受け取りなさい!」
「押しつけがましいんだよ!」
「何ですって!?」
そんな様子を見ていると、思わず笑いが零れた。
ふつふつと湧き上がる。
「あはは」
「おいウル。何がおかしい」
「ははっ、いや、おかしくはないさ!」
ひとしきり笑った。
みんなと会って、こんなに自然に笑えるなんて。
全然、思いもよらなかった。
なにかがすとんと胸に落ちる。
「ただ、懐かしいな。そう思っただけさ」
温かい気持ちが胸いっぱいに広がって。
それから、一抹の寂寥感が湧いて出た。
もう、昔の事なんだなと思うと、少し切ない。
「ウル、てめえ言ってくれたな。俺達の事はもう過去の思い出かよ!?」
「……え」
「こちとら一日たりとも忘れたこたぁねえぞ! あれからどれだけ、お前がいればと思った事か!」
「……アクス」
真剣な表情で歩み寄るアクス。
怒気が混じっている。ありありと分かった。
「お前の世話にならねえと決めていたが、もう気が変わった! もう一度だけお前を巻き込む! そして、一日たりとも忘れることが無いようにしてやる!」
「アクス、お前……」
「なんだ、文句あるか!?」
「いや、文句はないが……」
言うか言うまいか。
少し悩む。
「てめえまた隠し事する気か?」
「いや、そんなつもりはない」
「だったら言いたいことは言えよ」
「……そうか、そうだな」
そうだよな。
隠し事が、気持ちいいはずないもんな。
する方も、される方も。
だから、うん。
正直に打ち明けるよ。
「男のツンデレに需要はねえよ!!」
「なっ! 誰がツンデレだてめえ!」
また、こんな日が来るなんて。
昔の俺は、予想だにしなかった。
アクスは今回だけだといっていたけれど。
それならせめて。
この一回くらい、めいっぱい。
そう、願った。
*
「遅い」
「悪い、メア。色々とあってな」
「一度戻ってくる。方法色々あった」
「悪かったって。金平糖食べるか?」
「もらう」
ホヤウカムイ様の元に、メアを連れに戻った。
帰りの遅いことに不満を漏らすメアだったが、差し出された金平糖を前に怒りを鎮めた。
「ななな、アリシアとウルの間に子供!?」
「えへへ」
「ア、アリシアちゃん!? 一体どういう事!?」
「二人とも落ち着け。この子は成り行きで育ててるだけだ。血が繋がっているわけじゃない」
この間、シルフと俺だけが冷めていた。
シルフは俺に「大変そうですね」と伝えてきた。
俺は何も言わずにただぐったりとした。
「えへへ、メアちゃんは私たちの子供じゃないけど、ジークは私たちの子供だよ」
「ななな、アリシアとウルの間に子供!?」
「えへへ」
「ウウウ、ウルさん!? 一体どういう事です!?」
「二人とも落ち着け。ジークは卵から孵ったドラゴンだ。血が繋がっているわけじゃない」
相変わらず冷めているのは俺とシルフ。
シルフは俺に「大変ですね」と断言した。
本当だよ。
分かってくれるのはお前だけかもしれない。
「ウルティオラよ、ずいぶん騒がしいな」
「ホヤウカムイ様。偶然知人と合流できたものでして。ここまでありがとうございました。ここまでで結構です」
「ふむ? そうか? 分かった。また何かあれば呼ぶがいい。お主の為ならいつでも力を貸そうぞ」
「ありがとうございます」
メアとジークをホヤウカムイ様から降ろし、そういう会話をする。アクスとマジコは目の前にいる神様よりも、アリシアの法螺話の方が面白いらしい。
一向にホヤウカムイ様に気付く様子がない。
「では、ありがとうございました」
「また会おうぞ、我が朋友よ」
「はい。またいつか」
ホヤウカムイ様はそういい、密林の大河に潜っていった。一人だけ呆然としていたシルフが、俺の袖を引っ張っている。
「ウルさん、い、今のは……?」
「ああ、そっか。シルフは知らなかったっけ。ずうっと昔出会った北方にすむ神様だよ。縁あって、よくしていただいている」
しばらくシルフは呆気に取られていた。
それからしばらく経ち、ようやく処理が復帰して。
「ウルさんって、人脈凄いですね」
と呟いた。
神様は人に認定していいのだろうか。
分からん。
考えるのがめんどくさくなった。
「そうだろ?」
俺はそう答えた。
お互いに思考を止めた結果、無が生まれた。
わー、思考停止って楽しいな。
マジコがアリシアにダイブした。
それをアリシアはすっと避ける。
目標を見失ったマジコ号は地面に不時着した。
「えええ!? なんで避けるのぉ!?」
「あなた方が操られていないという証拠がありませんので」
「操られてないよぉぉ!」
「冗談ですよ。それを危惧しているのならウルさんの参戦に反対いたしますわ」
ああ、そうだ。
よくこうやって、アリシアはマジコをからかって、マジコはそれでもじゃれに行って。
見覚えのある光景はまだまだ続く。
「アリシア、お前、どうしてここに」
「アクスさん。私がウルさんのお傍を離れるわけがないでしょう。王様の意見に逆らえない貴方たちと違って、私は常にウルさんと共にいましたわ」
「言ってくれるな。お前さんと違って俺たちは発言も許されねえ身分なんでな」
「権力に屈しただけでしょう? そのような方にウルさんを詰る権利はありませんわ」
「それは……」
尖り声で切り返すアリシア。
痛い所を突かれたという風に押し黙るアクス。
「話は影から聞かせていただきましたわ。どうやら私の身勝手で不幸な目に遭った方がいらっしゃるのでしょう? でしたら、私自ら前線に立つのが道理」
「だけどな? アリシアよぉ」
「アクスさん。そもそもあなた達の失態でしょう」
「だからこそだろ!」
「人の好意は素直に受け取りなさい!」
「押しつけがましいんだよ!」
「何ですって!?」
そんな様子を見ていると、思わず笑いが零れた。
ふつふつと湧き上がる。
「あはは」
「おいウル。何がおかしい」
「ははっ、いや、おかしくはないさ!」
ひとしきり笑った。
みんなと会って、こんなに自然に笑えるなんて。
全然、思いもよらなかった。
なにかがすとんと胸に落ちる。
「ただ、懐かしいな。そう思っただけさ」
温かい気持ちが胸いっぱいに広がって。
それから、一抹の寂寥感が湧いて出た。
もう、昔の事なんだなと思うと、少し切ない。
「ウル、てめえ言ってくれたな。俺達の事はもう過去の思い出かよ!?」
「……え」
「こちとら一日たりとも忘れたこたぁねえぞ! あれからどれだけ、お前がいればと思った事か!」
「……アクス」
真剣な表情で歩み寄るアクス。
怒気が混じっている。ありありと分かった。
「お前の世話にならねえと決めていたが、もう気が変わった! もう一度だけお前を巻き込む! そして、一日たりとも忘れることが無いようにしてやる!」
「アクス、お前……」
「なんだ、文句あるか!?」
「いや、文句はないが……」
言うか言うまいか。
少し悩む。
「てめえまた隠し事する気か?」
「いや、そんなつもりはない」
「だったら言いたいことは言えよ」
「……そうか、そうだな」
そうだよな。
隠し事が、気持ちいいはずないもんな。
する方も、される方も。
だから、うん。
正直に打ち明けるよ。
「男のツンデレに需要はねえよ!!」
「なっ! 誰がツンデレだてめえ!」
また、こんな日が来るなんて。
昔の俺は、予想だにしなかった。
アクスは今回だけだといっていたけれど。
それならせめて。
この一回くらい、めいっぱい。
そう、願った。
*
「遅い」
「悪い、メア。色々とあってな」
「一度戻ってくる。方法色々あった」
「悪かったって。金平糖食べるか?」
「もらう」
ホヤウカムイ様の元に、メアを連れに戻った。
帰りの遅いことに不満を漏らすメアだったが、差し出された金平糖を前に怒りを鎮めた。
「ななな、アリシアとウルの間に子供!?」
「えへへ」
「ア、アリシアちゃん!? 一体どういう事!?」
「二人とも落ち着け。この子は成り行きで育ててるだけだ。血が繋がっているわけじゃない」
この間、シルフと俺だけが冷めていた。
シルフは俺に「大変そうですね」と伝えてきた。
俺は何も言わずにただぐったりとした。
「えへへ、メアちゃんは私たちの子供じゃないけど、ジークは私たちの子供だよ」
「ななな、アリシアとウルの間に子供!?」
「えへへ」
「ウウウ、ウルさん!? 一体どういう事です!?」
「二人とも落ち着け。ジークは卵から孵ったドラゴンだ。血が繋がっているわけじゃない」
相変わらず冷めているのは俺とシルフ。
シルフは俺に「大変ですね」と断言した。
本当だよ。
分かってくれるのはお前だけかもしれない。
「ウルティオラよ、ずいぶん騒がしいな」
「ホヤウカムイ様。偶然知人と合流できたものでして。ここまでありがとうございました。ここまでで結構です」
「ふむ? そうか? 分かった。また何かあれば呼ぶがいい。お主の為ならいつでも力を貸そうぞ」
「ありがとうございます」
メアとジークをホヤウカムイ様から降ろし、そういう会話をする。アクスとマジコは目の前にいる神様よりも、アリシアの法螺話の方が面白いらしい。
一向にホヤウカムイ様に気付く様子がない。
「では、ありがとうございました」
「また会おうぞ、我が朋友よ」
「はい。またいつか」
ホヤウカムイ様はそういい、密林の大河に潜っていった。一人だけ呆然としていたシルフが、俺の袖を引っ張っている。
「ウルさん、い、今のは……?」
「ああ、そっか。シルフは知らなかったっけ。ずうっと昔出会った北方にすむ神様だよ。縁あって、よくしていただいている」
しばらくシルフは呆気に取られていた。
それからしばらく経ち、ようやく処理が復帰して。
「ウルさんって、人脈凄いですね」
と呟いた。
神様は人に認定していいのだろうか。
分からん。
考えるのがめんどくさくなった。
「そうだろ?」
俺はそう答えた。
お互いに思考を止めた結果、無が生まれた。
わー、思考停止って楽しいな。
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