雨のふる星、遠い星

依久

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11話 パズル

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その日の仕事をなんとか終わらせると、あたしは逃げるようにして職場を出た。



本当はもう少し仕事を粘ろうと思ったけれど、ダメ、もうカフェイン切れだわ。


あたしにとって展望ドームでコーヒーを飲むのは、心の癒しになっていた。


雨が振るのをぼうっと眺めているだけだけど、あの空間は癒し系の音が流れているから今日はなんの音かな?ていうのも楽しみの一つだった。



コンピューターがランダムにその日の音を選んでいる



といえば可愛げがないけれど、それでも何もない無味乾燥な空間よりはよっぽど和む。



そういえば、アスランと初めて会話した日は、波の音にウクレレの音が重なったものだった。



地球の海を思わせるようなそんな気分だった。なので、安心して思わず呟いた。



あーあ、毎日雨ばかりで身体がふやけてしまいそう…て。



そうしたら、アスランが声をかけてきて……。



ああ、ダメだわ。
結局なに考えてもアスランの方に気持ちがいってしまう。



彼の部屋で、エルダの写真を見なければこんなに悩まなくて済んだのに。



でも彼の部屋は女っ気が無かったので、今はエルダはアスランの側にいない。



では、エルダはどこに?


頭の中で警鐘が鳴り、とても不安……。



あの【エルダ】だったら?
もし、あのエルダだったとしたら…。



あたしはかぶりを振った。


宇宙は広い。
そしてこんな辺境の星で、あの時の関係者に会うわけが無い、と信じたい。



でなければ、わざわざ辺境の星に志願したりしない。



ここに来る前に両親と兄もあたしを止めた。
かなり揉めたし、言い合いもした。
それでも最後はあたしを送り出してくれた。
ルシーダでの就職、父が口を聞いてくれた。
勿論、表からは分からぬように手を回してくれあたしは現在の会社にいる。




あの頃のあたしには予測不能だった。




アスランと出会ってしまうこと…。




そして、アスランと話した時は、これも予測不能だった。




あたしが彼に恋してしまうこと…。




まるでパズルを組み上げるように符合がはまっていくような感じがした。




その始まりのピースの名前は『エルダ』




そして、その名はあたしに過去の忌まわしい記憶を呼び覚まさせた。









『チーフ!シリンダーの圧力が上昇し続けています。これ以上のワープ航法は危険です!』
『パイロットに通常空間に戻るように指示を出して!』
『駄目です。磁場が乱れて交信できません』






そして、星がひとつ吹き飛んだかと思うような爆発!!




あの船に『エルダ』が乗っていたのだ。
アスランの恋人、もしくは婚約者。
謝罪回りの時にあたしに激しくくってかかった『エルダの両親』




パズルの形が合わさって一枚の絵を完成させるように真実が浮き彫りになってゆく。




あれから三年も経つのだ。
最初の一年は星間間を謝罪にまわり、その後、うつ病状態になり月で療養生活を送った。
それほどまでにあたしの精神はボロボロだった。





自虐行為を繰り返し、それでも二年近くで職場復帰できたのは奇跡に近かった。
わざわざこの雨ばかりの惑星『ルシーダ』を希望したのは星空が見えないからという理由だった。
地球からの船の中で、あたしはコンパートメントの窓に覆いをし、展望室にも近付かなかった。





美しい星空。
そんなものはもう直視できない。
嫌でも三年前の爆発光景が浮かぶ。
いっその事、地下に潜って暮らしたい・・・とさえ思った。






『これ以上、アスランに近付いてはいけない』






あたしはその日から定時後の展望室には近付かなかった。



つづく
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