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13話 展望ドーム
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展望ドームに足を踏み入れると、今日は川のせせらぎの音だった。
心地よさを感じながら、自販機に身分証明証カードを差し込みブラックを押そうとしたけれど、たまには甘いものも良いかな、とココアをセレクトした。
あ、ミルク増量してしまおう…。
ココアの準備が出来る間、コーヒールンバの曲が流れた。
あたしはココアをゆっくりと口に運んだ。
甘くてホッとする……。
そのままベンチに腰掛けて、肩越しに雨が降るのを見つめた。
空が明るい…。
アリスが教えてくれた【乾季】が近いのだろう。
「雨が降らなくなったら、サカナは干上がってしまいそう…」
「上手いこと言うなあ、このエンゼルフィッシュは!」
ぎょっとして声の方を見ると
アスラン!
「今週…は、出張だったのでは…」
「先程帰ってきた」
「でも、デスクの上は綺麗で…」
「あれ、俺のこと気にかけてくれてたの?ずっと避けられているのかと思っていたけれど?」
「そんな、避けて…なんか」
図星だった……。
「お、シルヴィアにしては珍しくね?」
アスランがあたしのカップを指差した。
「あなたには関係ありません」
「なんだ、素っ気ないな」
そう言うとアスランはあたしの手からココアのカップをするっと抜いた。
「あ!あたしの…」
「意外と美味い!ここのココア、初めて飲んだ」
「それ、あたしの…」
間接キス…
アスランは、あたしの隣に腰掛けると、
「やっぱ疲れてる時は甘いものがいいな」
と呟いた。
「ほらよ、ココアの礼だ」
「!」
アスランが上着のポケットから取り出したのは、小型の鳥形ロボット【ルル】だった。
「これ、いま、在庫切れするくらい人気商品じゃ?」
「特にこの黄色い【ルル型】は製造が追いつかないヤツな」
「どうやって入手したの?」
「前の職場の同僚に船便で送ってもらったんだ」
アストロノーツ時代の?
と、聞くと、アスランは、そう、と答えた。
「なぜあたしに?」
「さあね…」
「まるで人ごとみたいな言い方ね」
あたしじゃない、誰か他の人に買ったもの?
青いフレームの中のエルダを思い浮かべた。
「返す。他の人にあげて」
「え?」
「あたしは誰かの代わりじゃないもの」
ココア、買い直そうと席を立った。
自販機に身分証明証カードを差し込みココアのボタンを押した。
コーヒールンバの曲が妙に明るく聞こえた。
「シルヴィア…」
背後から息を吹きかけられるようにアスランに話しかけられて、どきりと心臓が跳ね上がった。
「な、なに?」
いま、振り返れない。
きっと顔も耳も夕陽のように紅くなっているに違いない。
あたしは頭を軽く振って髪で耳を隠した。
「からかってごめん。本当はシルヴィアに買ってきたんだけど受け取ってもらえるかな?」
「なぜ、あたしに?」
「ルル型は人間の言葉を覚えるんだ。アンタ、仕事ばかりしていて家帰って寝るだけだろう?」
否定できない……。
「生活の彩りになればと思ったんだ。相手が機械仕掛けの鳥でも、話し相手がいるっていいもんだぜ」
「あなただって同じような環境じゃない?アスランこそルル型が必要なんじゃなくって?」
「まあ、そうだな…」
あ!そうだわ!
「提案があるの。飲んでくれたらルル型いただいてもいいわ」
「ほう?」
まだ、顔の火照りがひかないから、あたしは淹れたてのココアをコクリと飲むとアスランの方を振り向かずに言った。
「ルル型を共同で飼うの。どう?」
「俺たち、同棲するのか?」
「はなし、飛躍しすぎ!」
「なんだ、期待したのに…」
「あのね、あたしとあなたは、ただのコーヒ友達。それ以上でも以下でもないでしょう?」
「友達関係から発展する事だってあるかもしれないじゃ…」
「却下!」
「シルヴィア、アンタ、情け容赦ないな」
「あたし、あなたの事、なにも知らないもの…」
「じゃあお互いを知るために一緒に住んで…」
「あたしの目的は…」
「目的って?」
「美味しいオムレツの作り方をルル型に教えておいてね。ハイ、これ」
まだアスランの手のひらにあった黄色い鳥を、彼に押し付けた。
「じゃあさ、100歩譲って俺がオムレツの作り方をルルに覚えさせたとする。アンタにはメリットになるだろうよ。じゃあ、俺にはなんのメリットがあるんだ?」
「え?メリット…。急に言われてもねえ…」
あたしがアスランにしてあげられる事、なんてあったかしら……。
つづく
心地よさを感じながら、自販機に身分証明証カードを差し込みブラックを押そうとしたけれど、たまには甘いものも良いかな、とココアをセレクトした。
あ、ミルク増量してしまおう…。
ココアの準備が出来る間、コーヒールンバの曲が流れた。
あたしはココアをゆっくりと口に運んだ。
甘くてホッとする……。
そのままベンチに腰掛けて、肩越しに雨が降るのを見つめた。
空が明るい…。
アリスが教えてくれた【乾季】が近いのだろう。
「雨が降らなくなったら、サカナは干上がってしまいそう…」
「上手いこと言うなあ、このエンゼルフィッシュは!」
ぎょっとして声の方を見ると
アスラン!
「今週…は、出張だったのでは…」
「先程帰ってきた」
「でも、デスクの上は綺麗で…」
「あれ、俺のこと気にかけてくれてたの?ずっと避けられているのかと思っていたけれど?」
「そんな、避けて…なんか」
図星だった……。
「お、シルヴィアにしては珍しくね?」
アスランがあたしのカップを指差した。
「あなたには関係ありません」
「なんだ、素っ気ないな」
そう言うとアスランはあたしの手からココアのカップをするっと抜いた。
「あ!あたしの…」
「意外と美味い!ここのココア、初めて飲んだ」
「それ、あたしの…」
間接キス…
アスランは、あたしの隣に腰掛けると、
「やっぱ疲れてる時は甘いものがいいな」
と呟いた。
「ほらよ、ココアの礼だ」
「!」
アスランが上着のポケットから取り出したのは、小型の鳥形ロボット【ルル】だった。
「これ、いま、在庫切れするくらい人気商品じゃ?」
「特にこの黄色い【ルル型】は製造が追いつかないヤツな」
「どうやって入手したの?」
「前の職場の同僚に船便で送ってもらったんだ」
アストロノーツ時代の?
と、聞くと、アスランは、そう、と答えた。
「なぜあたしに?」
「さあね…」
「まるで人ごとみたいな言い方ね」
あたしじゃない、誰か他の人に買ったもの?
青いフレームの中のエルダを思い浮かべた。
「返す。他の人にあげて」
「え?」
「あたしは誰かの代わりじゃないもの」
ココア、買い直そうと席を立った。
自販機に身分証明証カードを差し込みココアのボタンを押した。
コーヒールンバの曲が妙に明るく聞こえた。
「シルヴィア…」
背後から息を吹きかけられるようにアスランに話しかけられて、どきりと心臓が跳ね上がった。
「な、なに?」
いま、振り返れない。
きっと顔も耳も夕陽のように紅くなっているに違いない。
あたしは頭を軽く振って髪で耳を隠した。
「からかってごめん。本当はシルヴィアに買ってきたんだけど受け取ってもらえるかな?」
「なぜ、あたしに?」
「ルル型は人間の言葉を覚えるんだ。アンタ、仕事ばかりしていて家帰って寝るだけだろう?」
否定できない……。
「生活の彩りになればと思ったんだ。相手が機械仕掛けの鳥でも、話し相手がいるっていいもんだぜ」
「あなただって同じような環境じゃない?アスランこそルル型が必要なんじゃなくって?」
「まあ、そうだな…」
あ!そうだわ!
「提案があるの。飲んでくれたらルル型いただいてもいいわ」
「ほう?」
まだ、顔の火照りがひかないから、あたしは淹れたてのココアをコクリと飲むとアスランの方を振り向かずに言った。
「ルル型を共同で飼うの。どう?」
「俺たち、同棲するのか?」
「はなし、飛躍しすぎ!」
「なんだ、期待したのに…」
「あのね、あたしとあなたは、ただのコーヒ友達。それ以上でも以下でもないでしょう?」
「友達関係から発展する事だってあるかもしれないじゃ…」
「却下!」
「シルヴィア、アンタ、情け容赦ないな」
「あたし、あなたの事、なにも知らないもの…」
「じゃあお互いを知るために一緒に住んで…」
「あたしの目的は…」
「目的って?」
「美味しいオムレツの作り方をルル型に教えておいてね。ハイ、これ」
まだアスランの手のひらにあった黄色い鳥を、彼に押し付けた。
「じゃあさ、100歩譲って俺がオムレツの作り方をルルに覚えさせたとする。アンタにはメリットになるだろうよ。じゃあ、俺にはなんのメリットがあるんだ?」
「え?メリット…。急に言われてもねえ…」
あたしがアスランにしてあげられる事、なんてあったかしら……。
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