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15話 割れたフレーム
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雨星 15話
「落ち着いたか?」
あたしが落ち着くのを待ってアスランは声をかけた。
「ええ、迷惑をかけたわ。もう大丈夫だから帰るわ」
「また発作が起きるといけないから本当に泊まっていけ」
「いいえ…」
「強情だな」
「良くしてくださってありがとうございます」
立ち上がろうとしたら肩口を軽く押さえられた。
アスランは座り込むとあたしの顔を見上げた。
「なあ、その他人行儀な喋り方、やめろよ」
「だって他人だもの」
「それはそうだけど…。でもなあ、知り合って少し経つし、俺もあんたも実家近いじゃないか…。こんな辺境で会ったのも何かの縁だと思わないか?」
「それは、たまたま」
「ああ、確かに最初は【たまたま】かもしれんさ。でもなあ、縁が無かったら近くにいてもそれ以上距離が縮まることは無いし、逆に離れていても会ってしまう時は会ってしまう。それが良くも悪くも…だ」
「良くも悪くも…」
良いのは大丈夫だけど、悪いのは辛いな…。
そう呟いたあたしの声が聞こえたのかどうなのか、アスランはふーとため息をついた。
「夕飯くらいは一緒に食べても良いだろう、シルヴィア」
「あ、ええ」
「ちょっと、下の店に行ってくる。もうすぐ閉店だからな急がないと」
「あたしも行く」
「すぐ帰ってくるからゆっくりしとけ」
アスランの後を追うようにあたしはリビングに走り出た。
がしゃん
何かが割れる音がして恐々見ると、青いフレームが落ちて割れていた。
どうしよう…。
あたしは座り込んで破片を集め始めた。
青い陶器のフレームは線を引いたように真っ二つに割れたが中の写真は無事だった。
ああ、良かった…。
アスランはハンドクリーナーを取り出すと、小さな破片を吸い上げていった。
「シルヴィア、とりあえず破片はここに」
アスランの広げた新聞紙の上に破片を置くと彼が手招きをしたので水道の所に移動した。
「手に破片が残っているとまずいから洗い流す。いいか、絶対にこするなよ」
アスランが水を流してくれたのであたしは手のひらと甲と指の間を流水にさらした。
「フレーム、壊してごめんなさい」
「写真が無事だったから大丈夫だ」
「よほど大切な人なのね」
思い切って言った!
「婚約者だった」
「…だったって…」
心臓がどくんと鳴った。
「今は星の海にいるよ。原子の姿になってね」
「!」
そう言ってアスランの双瞼はあたしを射抜いた。
目が…そらせない。
それなのにあたしの唇が勝手に動いた。
そんな事、聞いたら破滅する!と頭の中で警告音が鳴り響いた。
「その方のお名前は、エルダ…フルネームは?」
「エルダ・アストレア」
「アストレア……」
娘はあんたらのせいで死んでしまった。
結婚間近だったのに!!
頭の中の警告音は、激しい罵倒の声に変わった。
「シルヴィア、エルダの事、知ってるのか?」
「いいえ、知らない人…」
「そうか…」
「星の海ってどこらへん?」
「火星~木星間」
「事故?」
「そうだ。もう3年前になるな。あんたも聞いたことあるだろう?【アクエリア号の悪夢】」
「聞いたこと…ある…わ」
「じゃ行ってくる」
「うん…」
アスランの姿が消えると、あたしは床にへたり込んだ。
そのまま目の前がだんだんと暗くなっていくのを必死で耐えた。
やはり写真のエルダはあの時の被害者。
結婚の相手は、アスラン……。
もう、ここにはいられない。
アスランが戻る前に帰ろう。
そう思うのに、まるで軟体動物になったようで体幹にチカラが入らず立ち上がれない。
あたしは床の上に残っている破片を見つけ、やっと腕を伸ばしてそれを取ると自分の手の甲に突き立てた。
「痛っ!」
痛覚は戻った。
赤い花びらが舞うように、手の甲から血がポトリポトリと落ちた。
アスラン、汚してしまってごめんなさい。
リビングにバッグが置いてあって良かった。
この身体で寝室まで戻るのは結構キツイから。
あまり広くない家の中で玄関にたどり着くと靴を履こうとした。
けれども足の先にうまくチカラが入らずに靴が履けない。
靴、いらない……。
アスランは、エレベーターで行ったのかな。
なら、少し辛いけれど階段で行こう。
足を引きずるようにして階段を一段ずつ降りた。早くしないとアスランが戻って来てしまう。
アスラン、あたしは何も言わず帰る。
ごめんね。
無礼なヤツだとあたしに愛想をつかしてね。
あなたはあたしの正体を知っていたのかな。
知っていたらあんなふうに自然に話せるわけがない。
あたしはあなたの婚約者を殺したも同然。
知っていたら親切にしてくれるはずがないもの。
それにしても眠い。
先ほどの薬に睡眠薬でも入っていたのかしら…。
精神に効く薬は直接脳に作用するから違和感感じてしまう。
足がもつれて、浮遊感を感じた途端、アスランの声を聞いた気がした。
つづく
「落ち着いたか?」
あたしが落ち着くのを待ってアスランは声をかけた。
「ええ、迷惑をかけたわ。もう大丈夫だから帰るわ」
「また発作が起きるといけないから本当に泊まっていけ」
「いいえ…」
「強情だな」
「良くしてくださってありがとうございます」
立ち上がろうとしたら肩口を軽く押さえられた。
アスランは座り込むとあたしの顔を見上げた。
「なあ、その他人行儀な喋り方、やめろよ」
「だって他人だもの」
「それはそうだけど…。でもなあ、知り合って少し経つし、俺もあんたも実家近いじゃないか…。こんな辺境で会ったのも何かの縁だと思わないか?」
「それは、たまたま」
「ああ、確かに最初は【たまたま】かもしれんさ。でもなあ、縁が無かったら近くにいてもそれ以上距離が縮まることは無いし、逆に離れていても会ってしまう時は会ってしまう。それが良くも悪くも…だ」
「良くも悪くも…」
良いのは大丈夫だけど、悪いのは辛いな…。
そう呟いたあたしの声が聞こえたのかどうなのか、アスランはふーとため息をついた。
「夕飯くらいは一緒に食べても良いだろう、シルヴィア」
「あ、ええ」
「ちょっと、下の店に行ってくる。もうすぐ閉店だからな急がないと」
「あたしも行く」
「すぐ帰ってくるからゆっくりしとけ」
アスランの後を追うようにあたしはリビングに走り出た。
がしゃん
何かが割れる音がして恐々見ると、青いフレームが落ちて割れていた。
どうしよう…。
あたしは座り込んで破片を集め始めた。
青い陶器のフレームは線を引いたように真っ二つに割れたが中の写真は無事だった。
ああ、良かった…。
アスランはハンドクリーナーを取り出すと、小さな破片を吸い上げていった。
「シルヴィア、とりあえず破片はここに」
アスランの広げた新聞紙の上に破片を置くと彼が手招きをしたので水道の所に移動した。
「手に破片が残っているとまずいから洗い流す。いいか、絶対にこするなよ」
アスランが水を流してくれたのであたしは手のひらと甲と指の間を流水にさらした。
「フレーム、壊してごめんなさい」
「写真が無事だったから大丈夫だ」
「よほど大切な人なのね」
思い切って言った!
「婚約者だった」
「…だったって…」
心臓がどくんと鳴った。
「今は星の海にいるよ。原子の姿になってね」
「!」
そう言ってアスランの双瞼はあたしを射抜いた。
目が…そらせない。
それなのにあたしの唇が勝手に動いた。
そんな事、聞いたら破滅する!と頭の中で警告音が鳴り響いた。
「その方のお名前は、エルダ…フルネームは?」
「エルダ・アストレア」
「アストレア……」
娘はあんたらのせいで死んでしまった。
結婚間近だったのに!!
頭の中の警告音は、激しい罵倒の声に変わった。
「シルヴィア、エルダの事、知ってるのか?」
「いいえ、知らない人…」
「そうか…」
「星の海ってどこらへん?」
「火星~木星間」
「事故?」
「そうだ。もう3年前になるな。あんたも聞いたことあるだろう?【アクエリア号の悪夢】」
「聞いたこと…ある…わ」
「じゃ行ってくる」
「うん…」
アスランの姿が消えると、あたしは床にへたり込んだ。
そのまま目の前がだんだんと暗くなっていくのを必死で耐えた。
やはり写真のエルダはあの時の被害者。
結婚の相手は、アスラン……。
もう、ここにはいられない。
アスランが戻る前に帰ろう。
そう思うのに、まるで軟体動物になったようで体幹にチカラが入らず立ち上がれない。
あたしは床の上に残っている破片を見つけ、やっと腕を伸ばしてそれを取ると自分の手の甲に突き立てた。
「痛っ!」
痛覚は戻った。
赤い花びらが舞うように、手の甲から血がポトリポトリと落ちた。
アスラン、汚してしまってごめんなさい。
リビングにバッグが置いてあって良かった。
この身体で寝室まで戻るのは結構キツイから。
あまり広くない家の中で玄関にたどり着くと靴を履こうとした。
けれども足の先にうまくチカラが入らずに靴が履けない。
靴、いらない……。
アスランは、エレベーターで行ったのかな。
なら、少し辛いけれど階段で行こう。
足を引きずるようにして階段を一段ずつ降りた。早くしないとアスランが戻って来てしまう。
アスラン、あたしは何も言わず帰る。
ごめんね。
無礼なヤツだとあたしに愛想をつかしてね。
あなたはあたしの正体を知っていたのかな。
知っていたらあんなふうに自然に話せるわけがない。
あたしはあなたの婚約者を殺したも同然。
知っていたら親切にしてくれるはずがないもの。
それにしても眠い。
先ほどの薬に睡眠薬でも入っていたのかしら…。
精神に効く薬は直接脳に作用するから違和感感じてしまう。
足がもつれて、浮遊感を感じた途端、アスランの声を聞いた気がした。
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