24 / 27
24話 嘘
しおりを挟む身体の奥が疼いて仕方がない。
でも、これ以上はダメ。
あたしはエルダじゃないもの。
シルヴィアだと知れたらアスランはめちゃくちゃ自分を責める。
彼はそういう人だ。
彼が自分を責めなくてすむように、方法はふたつ。
このままエルダのフリをして抱かれてしまう。
彼が寝入ったところで何食わぬ顔して寝室で夜明かしをする。
二つめのやり方は、今すぐシルヴィアだと明かして行為をやめてもらう。
そして、あたしが誘惑したという事にする。
そんな事をしたらアスランに恨まれる。
エルダの事と重なり二重に恨まれる。
でも…
自分をエルダだと偽るよりは、自分が誘惑したと偽る方が信憑性が増すような気がした。
あたしは心を決めた。
どのみち悪者だもの。
今さら罪状がひとつ増えたところでなんとも感じない。
「アスラン…あたしを見て」
「いつもおまえを見ているよ」
「わかっているわ。でも、今一度、あたしを見て欲しいの」
「変な事を言うな。エルダらしくない」
仕方がないな、このまま後ろから挿入しようと思ったのに…。
そう言いながらアスランは、【エルダ】を組み敷いた。
薄闇の中、彼はあたしの顔を凝視した。
「なっ!シルヴ…」
「あたしが誘惑したの」
「なぜ?」
「丸まって寝ていたから、寒かったら一緒に寝てあげようか?て囁いたらあとは流れで…ね」
「俺をからかったのか?ひどい女だな」
「そうよ。だからあたしに関わってはだめよ」
あたしは自分の胸元を脱がされた服で隠した。
床に落ちているブラジャーを拾って立ち上がりそのまま寝室に逃げ込もうとした。
「ちょっと待て!」
アスランはあたしの服を取り去ると上半身をまじまじと見た。
「その傷はなんだ?」
「そんな傷なんてないわ」
「俺の前の仕事はアストロノーツだ。薄闇の中で見分ける能力は高い。首から胸に走る傷が一番大きいが…」
手首にも小さな傷跡が…
そう言って手首を掴まれた。
「あなたには関係ないわ」
「自殺未遂?」
「ちがう、死のうと思ったんじゃない…」
「なら、その歯切れの悪いものの言いようはなんだ?」
「無意識…」
「無意識にやったのか?自分で?」
「答えたからもういいでしょう?服を返して!」
あたしはアスランの手から服をひったくり寝室に逃げ込んだ。
傷を見られた。惨めだ。
成り行きで忘れていたけれど、あたしを愛する男はこの傷を見る事になる。
ひきつれたような醜い傷跡を!
性感帯を弄られた羞恥と傷跡を見られた惨めさがごちゃごちゃになって寝付けない。
エルダの事、今更ながら知らなきゃよかった。
アスランとは会社だけの付き合いなら、ここに足さえ踏む入れなければこんなふうに泣く事なんてなかったはずだわ。
エルダに対しての罪悪感と、彼女に嫉妬を抱く自分自身の心の醜さに泣いた。
あたしは、アスランが好き。
その感情に気がついてしまった。
だからエルダの事は避けて通れない。
嫌でも自分の心のドロドロしたものを感じてしまう。
綺麗な心で在りたいと思う。
少なくともアスランの前では、綺麗なフリをしていたかった。
金髪のエンゼルフィッシュ
初めてアスランと会話した時にそう言われた。
エンゼルフィッシュはその姿形が美しく遠い昔から人気のあるサカナ。
でも、姿に似つかわしくなく残酷な性質を持ち合わせている。
綺麗でいたい
綺麗でいたかった…
帰ろう…。
自分のバックを掴むと、そろりと玄関に向かった。
アスランの気配を伺うと寝入ってしまったみたい。
玄関で静かに靴を履いた。
確かここ、自動ロックだったはず。
アスラン、お給料の手取りが良いのね、と思いながら玄関からスルリと抜け出た。
ごめんね。あとでメール入れるから…。
玄関の扉が閉まる直前に名前を呼ばれた気がしたけれど無視した。
つづく
0
あなたにおすすめの小説
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる