雨のふる星、遠い星

依久

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25話 エンゼルフィッシュの称号

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外は相変わらず雨が降っている。
アスランの家に傘を忘れて来てしまった。
マンションのエントラスホールで雨宿りをしながら携帯でタクシーを呼んだ。



程なくしてタクシーが到着した。乗り込もうと雨の中に走り出そうとするとスッと横から傘が出てきた。



「アスラン!」
「送っていく」
「タクシーに乗っていくだけだから大丈夫」
「あんたんトコ、夜遅い時間あまり治安が良くない地区だ」


あたしの住まいは家賃がお値打ちで、安い事には訳があった。あまりセキュリティがしっかりしていないのだ。



アスランは、タクシーに乗り込むとパネルに行き先を打ち込んだ。



エメラルド通り23番地いるかビル。



でも、なぜあたしの住まいを彼が知っているのだろう?



「調べたんだ。あんたの事いろいろ」



なぜ?と?聞かなくても理由は明白だ。



「あたしの事、気がついていたの?」
「最初から…」
「なぜ声をかけて来たの?」
「………」
「あたしに復讐しようとして…?」



直球にアスランがバツの悪そうな顔をした。



「その考えも少しあった。けれども…」



怪訝な顔をするあたしの隣で、アスランは小さく



俺の抱いている過去のあんたのイメージと、現在のイメージがあまりにもかけ離れていて最初は本人だと分からなかったくらいだ。
綺麗な子が入って来たな、くらいにしか思っていなかった。



と呟いた。




「あの事故のあと、俺はマスコミに出てくるあんたの顔ばかり睨みつけていた。エルダを返せ、とあんたに呪詛をかけたかった」
「…………」
「けれど、あんたもわざと事故を引き起こしたわけじゃない、と思えるようになった」
「それはいつ?」
「金髪のエンゼルフィッシュの称号をあんたに贈った瞬間だよ」
「そう…なんだ」




あの日、降りしきる雨を見つめて、身体がふやけてしまいそう、と呟いたあの日の事を思い返した。



アスランの南国の太陽を思い起こさせるような風貌とおどけた物言いに、思わず吹き出した。



「あたし、あの日、久しぶりに笑ったの」
「久しぶりってどれくらいなんだ?」
「3年ぶり…」


アスランは絶句した挙句、あんたも苦しんだんだな…。


と再び呟いた。



「追いかけて来たのに理由は二つある」
「二つも?」
「一つ目は、家まで送る事」
「では、二つ目は?」
「謝ろうと思って…」
「何を?」
「あんたを襲った事…すまなかった」



アスランは深々と頭を下げた。



「誘惑したのはあたしだもの。謝らないで」
「それは嘘だな」
「!」
「シルヴィア、嘘つくの下手すぎ」
「え?」
「あんた、嘘つく時、瞳孔が揺れている」
「そ…なん…だ」



知らなかった!


あたしは、ふうっと溜息をついた。
今日はいろいろあったから。



過呼吸の発作は出るし
アスランとエルダの関係を知ったし
一番辛かったのは、アスランはあたしの正体に気がついていたという事。



どんな気持ちであたしに声をかけたの?
本当は殺したいくらいあたしの事が憎かったでしょうに、なぜ、オムレツを食べさせてくれたり、発作のフォローをしてくれたりしたのだろう。



それにエルダに似ているってどういう事なの?
確かに彼女もあたしも金髪で青い目だけど、同じような容姿の人はたくさんいるわ。



ふと、足元の白いローファーに視線を落とした。



この靴、あたしの足にぴったりで履き心地が気に入ってしまった。
エルダの靴だとわかってしまったからもう履けないな



その視線の先に気がつき、アスランが


「その靴、履き潰すか、嫌なら捨ててしまっても構わない。でも返してくれるな」


と言ったので、あたしは頷くことしか出来なかった。



今は、あれこれ考えても仕方がない。
明日は確実にやってくるのだからどこかで気持ちの折り合いをつけてアスランと接していかなきゃ…。



同じ会社で働く以上は私情は交えない。
身体の関係を持ちそうになったから難しいかも知れないけれど。



逃げるようにこの惑星に来たけれど、仕事は以前のように華やかでは無いけれど、仕事は仕事だ。
キチンとやろう。



何かに没頭しているうちは、アクエリア号の事をしばらく忘れられる。



それでもアスランの顔を見るたび、あたしの心は泣くのだろう。
恋人たちを引き裂いたのはあたしだから。



タクシーが静かに停止した。



アスランはタクシーを返さず【待機】の手続きをすると、あたしをアパートまでエスコートした。



「街灯、暗いな。防犯カメラ作動しているのか?」



あたしは曖昧に微笑んだ。



あたしなんていつ死んでもいいんだ、と今までは思っていたから大して気にかけなかったけれど…。




前を歩くアスランは、ふうっと溜息をつくとクルリと振り向き手を差し出した。
無視するわけにもいかずそこに手を重ねると、ぐいっと引っ張られた。



「もう少し、自分を大切にしろ。エルダは死んだがあんたは生きてる」
「あたしが憎くないの?」
「憎いさ」
「では、なぜ親切にしてくれるの?」
「俺の仕事を手伝ってもらいたいから。その間、個人的な感情は横に置いておく」


そういえば先ほども仕事のヘルプが、言っていたけれど何かしら?



アスランは玄関まであたしを送ると上からまじまじと見下ろした。



「な、なに?」
「じゃ…な、エンゼルフィッシュ」



アスランは、あたしの髪をひとすくい自分の口元に持っていき口付けると、おやすみと言って帰って行った。


つづく
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