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76話 残酷な世界
しおりを挟む「ハルミっ………自分も行きたい………保護者に会うんだろう?」
そう言う紅葉の頭をハルミは優しく撫でる。
「ごめんね紅葉君、お留守番………お願いね。…………うん、保護者の人の所。だから大丈夫だよ?心配しないで」
そう告げると紅葉の耳はしゅんと垂れた。
「…………お気をつけて行ってらっしゃいませ」
シュエルは車椅子に座り微笑んでいる。
「ありがとうございます。シュエルさん、行ってきますね。夜までには帰りますから」
そう告げると紅葉は泣きそうな声でハルミの名を呼んだ。情けない声だ。
「ハルミぃ……」
しかしそれに答えている時間はもう無い。
「ハルミ行くぞ……、全く………今生の別れでもあるまい。……………放っておけ」
アーノルドは様子を見に来て呆れた顔だ。
「すみません。すぐに行きます!!!」
そう返事を返してハルミはケーキの入った箱をしっかりと抱え込んだ。これからベルに会いに行くのだ!!!
今回は馬車で向かうようでハルミはホッと息を吐く。また、ワイバーンだったらどうしようかと思った。アレは普通に死ねる。
(良かったぁ。これならケーキも崩れたりしないで、無事に持っていけるね。………ふふ♡ベルぅ♡)
ルンルンでアーノルドの背を追って馬車に乗り込む。後数時間でベルに会えるのだ♡久しぶりに顔が見れる、そう思うだけでそわそわと落ち着きが無くなってしまう。
(ケーキも上手く出来たし、喜んでくれると良いなぁ♡)
ニコニコと顔を緩めてケーキの箱を眺めていると、向かいに座ったアーノルドは少しだけ不機嫌そうに眉を寄せている。
「すみません。アーノルドさん、お忙しいのに時間を作って貰って………」
そう告げるとアーノルドは小さくふうと息を吐いた。それからモノクルをカチャリと鳴らす。
「いや…………構わない。………本当にベルには何も伝えてはいないぞぉ?」
「はい、それで平気です♡サプライズなので!!!!うふふ喜ぶかなぁ」
胸がドキドキワクワクと弾む♡
(美味しいって言ってくれるかな?元気かな?…………………………ベル)
ぎゅっと箱を握る。ベルの事を考えるのは楽しい事ばかりではない、それでもやっぱり好きなのだ。どうしようもなく好きなのだ。馬車の窓から流れる外の景色を見ていると、始めてベルと街に行った時の事を思い出す。まだ、それ程経っていないのに随分と前の様に感じる。
(………………今日会えてもまだ2ヶ月も入院だもんねー。ベルの馬鹿……………)
▷▷▷▷▷▷
「君の手作りとは…………、ベルは幸せ者だなぁ」
アーノルドはハルミの手元のケーキの箱を見て呟く。
「アーノルドさんにも、今度作りますか?甘い物食べれますか?」
そう告げるとアーノルドは首を振る。
「こちらの世界では、基本的には女性は家族か旦那にしか手作りの料理や菓子は作らないぞぉ。………………拙者は遠慮しておく」
アーノルドの言葉にハルミは驚く。
「え?!でも私……ベルに作ってましたよ?それに……紅葉君とかシュエルさんにも………」
そう言うとアーノルドは少しだけ表情を曇らせた。
「…………………ベルに関しては………、わからないが。紅葉やシュエルは……あの状態だぁ。仕方無いとも言える。だが拙者は………対外的にも余りよろしくない、だから遠慮しておく」
(……………えー?そうなんだ。だから、今まで一度も食べてくれなかったの?)
アーノルドは一度もハルミの手料理を食べなかった。忙しいからかと思っていたがそう言う理由があった様だ。
(確かに……シュエルさんも夫婦みたいとか言ってたもんね。…………そうなんだ?……………ベルは普通に食べて、喜んでくれてた…………。…………………ううん、やめよ。期待しちゃ駄目……)
そう思うのに口は勝手に笑みの形を作ってしまう。によによしてたら、アーノルドが変な表情で見てきたのできゅっと口元を引き締める。
(……………ふふ♡)
▷▷▷▷▷▷
着いた病院はすごく綺麗で大きくて、ハルミは驚く。
(うわぁ。なんか凄い)
隔離病棟と聞いていたので、どんな所かと思ったが普通に快適そうでホッとする。
(良かったぁ。これならベルも入院生活が苦じゃないかも………)
アーノルドの背中を追いながらキョロキョロしていると、クスリと笑われてハルミは少しだけ頬を染めた。恥ずかしい。
(うっ………お上りさんみたいになっちゃった……、自重しよ………)
受付で面会の手続きをすると言われて付いていく。アーノルドが何か書類にサインしているので、ハルミは少しだけ離れてソファーに座った。ぼーっとしていると、奥の廊下から人が歩いて来た。ぼんやりとそちらに視線を向けてハルミは固まった。
恰幅の良いイケオジとそれから、金色のサラサラとした髪を風に揺らしてキラキラと輝く青い瞳。そして露出の少ない服なのに、ボンキュッボンのスタイルが良いのが丸わかりな美しい女性。
ベルの家で見た写真より成長した美しい女性、マリアがそこに居たのだ。
ハルミは喉がひゅっと鳴る。偶然?そんな訳は無い、だって今此処にはベルが居る。
その事に頭では気づいているのに心がそれを否定する、きっと偶然だと何度も何度も。
青ざめて見つめていると、イケオジはアーノルドを見つけて話しかけている。女性はイケオジと手を繋いで静かだ。静かに佇んでいるだけなのに、絵画の様に美しい。ハルミとは違う。何もかも全てが、大違いだ。
▷▷▷▷▷▷
「あー。アーノルド先生?おやおや。どうも、お宅もベル君のお見舞いですかなぁ?
ははは、いやぁ。話を聞いて驚いて飛んできましたよ!!理由は知りませんけど、彼が魔力切れになるなんて!!!驚きでしたよ!!!ハハハ」
そう言うとイケオジはアーノルドの背中をバンバンと叩く。
「……………ライアル殿、お久しぶりです。………ベルの見舞いに?誰から聞いたんですかなぁ?」
アーノルドが尋ねるとイケオジはハハハと笑いながら頷く。
「実はベル君本人から、呼ばれたんだよ!!やっと彼も、逃げ回るのを止めたらしい。…………うちの娘との子作りに同意してくれてね。退院したらすぐにでもと。そう言う話をしに来たんだ。なあマリア!!!随分と待たされたが良かったなぁ」
そう言うとイケオジはマリアに微笑みかける。マリアはと言うと、ただ静かにニコリと微笑んだ。たったそれだけなのに、まるでそこだけ明るくなったかの様な錯覚に陥る程美しい。そんな光景をハルミはただ、あ然と眺めていた。
(え?………………子作り……え?退院したらすぐ……?……………え?)
アーノルドはその話を聞いて頷く。
「ああ。ベルの奴やっと腹を括りましたか。……本当にアイツはヘタレで……」
なんて言って談笑している。
(アーノルドさん?なんで……………なんで笑って………っ)
ハルミは息が上手くできなくて、手足が冷たく冷えてくるような感覚に襲われた。多分今顔色は真っ青だろう。震える手では上手く箱が持てなくて、あっと思った時には箱が地面に落ちた。ハルミはそれをぼんやりと眺めた。その音にアーノルドはこちらに視線を向けて、すぐに駆け寄って来てそれから肩を揺らされて、ハルミはハッとする。
「ハルミっ!!!!どうした?真っ青だぞ?!ハルミッ!!!」
心配そうなアーノルド。その顔が何故かぐにゃりと歪む。ポトリポトリと水滴が手に垂れて、あれ?と思った時には目の前を水の膜が覆っていた。
(あ………私。泣いて…………っ………)
それに気づいたらもう我慢なんて無理だった。ボロボロ流れる涙の止め方なんてわからなくて、必死に袖口を目に押し付けるが、それでも涙は止まらない。心配そうなアーノルドの声にだって応えられない。
(…………………何が割り切れるだ。………一度だけ頼んで抱いてもらう?………子供を産みたい?それで満足?…………馬鹿みたい馬鹿みたい馬鹿みたい)
甘い考えだった。本当は心の何処かでベルもハルミを少しは好いてくれてるんじゃないかとそう思ったから、ほんの少しだけ夢を見た。でも無理だ。あんなに美しい人にかないっこない。あんなに美しい人が居るのに、ベルがハルミを好きになってくれるはずがない。きっと頼んでも抱いてなんてくれない。…………もし抱いてくれても、きっとハルミは後悔する。責任感でイヤイヤなんて嫌だ。本当に愛されて子供を産みたい、愛されなくても良いなんて嘘だ。綺麗事の嘘っぱちだ。今更それに気づいた。
(やっぱり全部、責任感……………仕方なくだったんだ。そうじゃなきゃベルが私となんてあり得ない。あんなに綺麗な恋人が居るんだもん。…………………退院したら子供を作るんだね……。ベル、そうだよね。……………………。……………………わかってたのに、この世界は私に優しくない。残酷な世界だって……、そんな事は来た時から…………………わかってたのに)
誰とも上手くなんて行かないなんて、そんなの自分が一番わかっていたのに。
(貴方の優しさに、私………勘違いしちゃったよ。………………ベルの馬鹿)
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