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90話 これからの話
しおりを挟む泣き疲れて眠ってしまったシュエルを使用人さんに任せてハルミは一度自室に戻る。まだ紅葉もアーノルドも帰って来ては居なかった。
(……………病院行くって言ってたっけ?………………とりあえず、アーノルドさんが帰って来たらシュエルさんの事はちゃんと話さないと………)
アーノルドの気持ちを受けれるにしても、受け入れないにしても、シュエルの子供を産むのはもうハルミの中では決定事項だ。
(………………………あんな風に求められたら断るなんて……私には無理。
シュエルさんを放っておけない……………、それに……許せない…………。
シュエルさんの元奥さん………、シュエルさん、さっきリリィって口にしてたよね?……………リリィ……それにそのお父さんが元の主人………酷い、酷すぎる)
シュエルが受けた扱いにハルミは腸が煮えくり返っていた。あんなに優しくて素敵なシュエルを、一度は結婚をした相手を、病気になったからって放置して罵って………。そんなの絶対に許せない。だからこそ尚更シュエルを幸せにしたい。沢山幸せになる事が復讐だ。
(………………そりゃ、シュエルさんも私を優しいって言うよね………。シュエルさんが受けた扱いと比べたら誰でも優しいよ…………っ…………)
シュエルの境遇なら、少し優しくされたらその相手に好意を抱いて当然だ。
(小説とかアニメで良くあるパターンだ。……けど現実は全然嬉しくない……。そんな偽物の想いなんて……、好意なんて、嬉しくない。…………他に選択肢が無いからじゃん……)
胸がぎゅっと痛む。シュエルから子を産んでほしいとは言われたが、愛してるとか好きとか明確に告白ととれる言葉は言われていない。それが答えだ。勿論嫌われては居ないだろうし、えっちも気持ち良くなってくれている。だけど愛されているかと言えばそれは違うと思う。
(それでも………、………………産む。決めたもん………。あと少しだけ、もう少しだけ……待ってて……。もう少し気持ちの整理が出来たら、ちゃんとケジメ付けに行くから……………………ベル)
そんな風に考えていると、部屋の扉が開いて紅葉が使用人に連れられて戻って来た。
「ただいまっ!!!ハルミっ!!!ハルミ居るのか?!ハルミっ!!!」
紅葉は鼻をヒクヒクして、耳をピクピクしている。その姿にハルミはクスクスと笑う。
「ここに居るよ紅葉君、おかえりなさい」
そう言って紅葉に駆け寄って、ぎゅっと抱きしめると紅葉はスリスリぎゅーぎゅーしてくる。
「ハルミぃ♡来週には貞操帯も取れる………。それに明日は自分と……精液摂取だ♡……ハルミぃ♡」
紅葉は喉をゴロゴロ鳴らして嬉しそうだ。
(貞操帯取れるって事は魔力は、ちゃんと回復して来てるんだ?良かった。)
「良かったね。紅葉君♡ふふ……可愛い♡紅葉君は私の癒やしだよ………」
そう言って頬にキスすると、紅葉は更にぎゅーぎゅー抱きついてくる。
「ハルミぃ♡ハルミが癒やされて良かった………。自分も癒やされる………ハルミ♡」
「ん。紅葉君、ごめんね。一旦離れてね。アーノルドさんも帰って来てるんでしょ?少し用事が有るから……。ごめんね、すぐ戻ってくるし、その後はずっと一緒に居るから、少しだけ待っててね」
ハルミがそう告げると紅葉は渋々離れた。そっと手を引いて、ソファーに座らせると耳をピルピル震わせてしょんぼりしている。
(可愛いなぁ……)
優しく髪を食んでから、唇にキスをして部屋を出る。紅葉はソファーの上でクッションを抱きしめて、嬉しそうにニヤニヤしていた。
(ふふ……。かわいい。……紅葉君とも、後で今後のお話しないとなぁ……)
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「ハルミ?…………どうした?いや……来てくれて嬉しいが♡紅葉が騒がなかったか?」
アーノルドの元を訪れると顔をだらしなく緩めて出迎えてくれた。
「………紅葉君は良い子でお留守番してますよ?…………あ、あのアーノルドさん。ん……っあ、待って……んっ、お話があるんですっ……んっ…っ…」
キスをしてくるアーノルドをなんとか押し返して、そう言うとアーノルドの顔が強張る。
「…………………今すぐでなくとも良いだろう?」
そう言ってアーノルドはキスを再開しようとするがハルミはそれを躱す。
「やあ……アーノルドさん。………駄目です。…………大切なお話なんです。聞いてください」
そう告げてもアーノルドはぐいっとハルミを抱き寄せて、更にキスをしようとしてくる。
「アーノルドさんっ!!!」
少し強めに言うとアーノルドはぐっと眉間に皺を寄せた。
「……………話は………後で聞く。だから……先にキスをさせてくれ……ハルミ…………」
何故か怯えた様な顔でアーノルドはそう言う。
(あ……………。お返事の話だと勘違いしてるのかな?)
「あの、ごめんなさいアーノルドさ」
言い切る前に、ぐっと顎をつかまれて乱暴にキスされる。ぬるっと長い舌も口内に入って来て、喉の奥まで差し込まれて苦しいくらいに舐め回された。
「んぐっ………!!!んんんぅ?!っ…んんんぁっ……が………っ!!!!」
抵抗しようにも酸欠で意識がぼーっとしてくる。なんとか力を振り絞ってドンドンと胸を叩くとアーノルドは唇を離してくれた。
その顔色は悪い。
「アーノルドさんっ!!!!誤解です!!!話はシュエルさんの事です!!!」
そう告げるとアーノルドはポカンとした後に、顔を真っ赤にして震えていた。
(…………………もう。……はあ、でも、そんなになっちゃう程、私に振られるのが怖いって事だよね?………………アーノルドさん。………っ…………はあ、私って単純だなぁ。優しくしてくれる人なら誰でも良いの?)
そう思うのだが、胸はドキドキと鼓動を早める。
(…………………もう答えなんて出てるなぁ。………昨日の今日で私ってば……最低だよ。でも、前を向くって決めたし、……どうせ遅かれ早かれ伝えるんだし……、アーノルドさんにもちゃんと話そう)
じっとアーノルドを見ると気まずそうに視線を反らされた。それにクスリと笑ってハルミはソファーに腰を降ろす。アーノルドもノロノロと隣に腰を降ろした。
「……………すまない、ハルミ。………それでシュエルの話とは?今朝の件か?」
不思議そうなアーノルドにハルミはシュエルとあった事を全て伝えた。
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「……………子供。そうか…………。
…………シュエルとなら構わない。なんの問題も無いだろう…。生まれた子は、もし君がここに居てくれると言うのなら、拙者とハルミの子として届出れば大丈夫だ」
「え?……………アーノルドさんの子供として?」
聞き返すとアーノルドは頷く。
「純奴隷の子というのは、余り良く無い。いくら君は奴隷で無くとも……、周りからは良くは思われん。………世間にはシュエルの子というのは言わずに、拙者とハルミの間で養子に取ったことにすれば良い。」
(殆ど差別は無いって言ってたけど
やっぱり有るんだ?……………アーノルドさんとの子?でも、もしシュエルさんが亡くなったら父親無しになっちゃうもんね……。考えたくは無いけど、それが一番良いのかも。……………それに)
チラリと見るとアーノルドは不思議そうな顔をしている。
(……………アーノルドさんと私の間で養子にするって事は私達結婚するって事?…………………結婚かぁ。一生一人だと思ってたけど……、本当に人生って何が起こるかわからないよね。アーノルドさんは本当に私で良いのかなぁ………)
「アーノルドさん。私達、結婚するんですか?」
そう尋ねるとアーノルドはピタリと止まって、そしてブワッと真っ赤になって龍化した。角も生えている完全龍化だ。
「………………っ……ハルミが、受け入れてくれるのなら…………。君を妻として娶りたい……」
アーノルドはそう言うと俯いてしまった。
「……………はい。アーノルドさん。………………私も貴方が好きです。貴方の妻になりたいです」
そう告げるとアーノルドはバッと顔を上げて、困惑した様な顔をしている。瞳がゆらゆらと揺れていた。
(……………もっと喜んでくれるかと思ったのに…………)
その態度にハルミが眉を寄せると、アーノルドはハッとしたような顔をしてからぎゅうっと抱きしめて来た。
「ハルミ………、本当かぁ?本当に拙者を好きなのか?」
「……………好きです。………その………ベルの事……まだちゃんとは吹っ切れてないですけど………。でも……優しくしてくれるアーノルドさんが好きです。ずっと側にいてくれるって言ってくれたアーノルドさんが好きです。失恋した私を優しく慰めてくれた貴方が…………、こんな私を好きになってくれた貴方が私も好き。………………私もずっと貴方の側に居たいです」
そう言ってハルミからも抱きしめるとアーノルドはビクリと震えていた。喜びで震えていると言うよりは何かに怯えるようなそんな震え。
「アーノルドさん?」
顔を上げてアーノルドの表情を確認しようとしたが、ぎゅうっとキツく抱きしめられて、それは叶わなかった。
(アーノルドさん?…………………どうして)
ハルミの想像とは違い、アーノルドは余り嬉しそうじゃない。それになんだかもやもやとした。
(……………………なに?やっぱり返事が早すぎた?もっと時間を置くべきだったかな?…………尻軽だって……思われたのかな)
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