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第四章:万世流転編
第六話「繋ぐ運命」 その五
しおりを挟む鎧を纏った腐鬼型の軍勢に対し、一斉に抜剣して突進する。
柄の術式に魔力を流し、剣身に刻まれた紋様が光り、そしてそこに輝く刃が生まれる。
日は完全に昇りきり、日の光に照らされた荒れ地には、皇国軍将兵と異形の骸が散乱している。
それを蹴飛ばすようにして、両軍勢は戦い続けていた。
雄叫びを上げて真っ先に腐鬼の軍勢に飛び込んだ魔動式甲冑姿の歩兵が、次々と繰り出される矛先を避け、弾き、剣を振るう。
続々と戦いに飛び込む兵士たちの中には、一体の敵も倒さずに殺される者もいる。
若い兵が目を抉られ、もがき苦しみ、そして頭蓋を踏み潰される。
熟練の兵は指揮官を守りながら剣を振るい、腕部に内蔵された連弩を撃ち放っては周囲の兵たちを援護し、ある腐鬼が苦し紛れに放り投げた槍に弱層化した障壁と装甲の隙間を抜けられ、深々と胸を貫かれた。
上空から飛来した飛龍の射爆が敵陣に大穴を空ければ、そこに兵たちが雪崩れ込む。斬り裂かれた敵陣はあちこちで孤立し、凄まじい抵抗の果てに玉砕する。
装甲車輌に載せられた多砲身機関砲が、貫徹と破砕の術式が刻まれた棒矢を雨霰と敵陣に叩き込めば、敵からは耳障りな音を曳いて光弾が応射される。装甲車輌のうちの何輌かはそれによって破壊され、黒煙を上げながら障害物や盾として使われていた。
「第五中隊が捕虜四〇名を確保! 後送するとのこと!」
双眼鏡を使い、飛龍の光爆が穿った穴の縁から戦場を確認していた陸軍中隊長の一人に、先任下士官が怒鳴る。それぐらい大きな声でなければまともに相手に声を届けることができないのだ。
「分かった! くっそ、あの連中何なんだ!」
中隊長は、敵本陣に幾重もの防衛線を築いている敵に対し、罵倒を繰り返していた。
これまで皇国軍は敵に対して大凡優勢を保ってきたが、局地的には頑強な抵抗を続ける者たちもいる。本陣はその中でも特に防備が固く、増援らしい敵が周囲から集まってきては、同じように本陣を目指して移動する皇国軍と激戦を繰り広げている。
「よく分からん障壁で砲撃が通らん上に、近付けば死兵が飛び出してきて自爆! 時間はこっちの味方だが、このままでは余計な損害が……」
中隊長は双眼鏡を外して魔動式甲冑の面頬を下ろし、上空の管制騎が送る戦闘情報を見る。やはりというか、敵の抵抗拠点は次々と陥落し、玉砕か投降によって皇国軍部隊が勝利している。
ただその中でも、この本陣だけはまだ多くの戦力を残しており、少し離れた地点では巨神が巨大な熊のような個体と格闘戦を繰り広げている。
もう一度弾道砲を、と考えたときもあったが、あれはあまりにも威力が高すぎるし、何より命中精度に不安がある。とてもではないが、乱戦の中で使えるような兵器ではない。
「どうする?」
中隊長は自問する。
自分たちが突出していることは分かっている。そのため、周囲からの猛攻に晒されているのだ。しかし攻撃目標に向かって敵の援軍が続々と集結し始めているならば、それを座視することはできない。
少しでも敵の集結を遅れさせ、味方の突入を援護する。
彼は通信機の回線を開き、部隊に命令を下そうとする。
だが、彼が口を開こうとした瞬間、通信機が受信を示す灯りを点け、そこから落ち着いた男の声が聞こえてきた。
〈こちら近衛軍繞回部隊。これより敵本陣に対する突入を開始する〉
中隊長は瞠目した。
実はこの突入は、主力部隊に通達されていた予定よりも半時間以上早かった。
近衛軍部隊は本陣前の戦況を鑑み、予定よりも早い突入を決断したのだ。
「自動人形と装甲歩兵……騎兵もいるな」
中隊長は事前に知らされていた近衛軍部隊の内訳を思い出し、自分たちよりも遙かに衝力のある彼らに本陣突入を委ねる決断を下した。元々、彼らの役目は敵本陣の目を釘付けにすることにある。
それはすでに達せられているとするならば、次に彼らが行うのは突入部隊の援護だった。
「砲兵小隊。敵本陣に霞弾をくれてやれ、近衛の進軍から目を逸らす」
通信機の向こうから了解の声が聞こえ、続いて頭上を数発の魔導砲弾が飛び越えていく。
それは敵本陣の上空で傘を広げると、高速で子弾を地上へとばらまいた。
橙色の光の雨が敵本陣に降り注ぎ、防御障壁を強く輝かせる。障壁外にいた敵の兵が身体を幾つもの光弾に貫かれ、倒れ伏した。
「砲兵はそのまま支援砲撃を続けろ。俺たちは近衛の突入に合わせて前進する」
中隊長は自分と同じ結論に至った同僚たちが周囲にいることを信じていた。
他方面からの同時攻撃は、敵の防衛力の分散を強要できる。近衛軍の突破力は信頼しているが、その突破するべき壁は薄く弱い方が、相対的にこちらの手にする戦果は大きくなる。
「来るぞ……!」
幾つもの噴射音が聞こえ、光の尾を曳きながら自動人形が飛び込んでくる。
上空からの援護射爆は凄まじい制度を持ち、自動人形を邀撃しようとする陣地を次々に破壊していく。
「突撃要員、抜剣!」
強襲突撃仕様の魔動式甲冑を纏った兵たちが、一斉にそれぞれの得物を抜き放つ。魔力の刃を帯びる、剣、槍、戦斧、矛槍。
彼らを援護する支援仕様の甲冑を着た兵たちは、それぞれに多砲身連弩や狙撃用の長砲身弩弓を構えて中隊長を見る。
中隊長がそれらを確認し、突入の機を窺う。
そして、上空から重砲艦による援護砲撃の一射が飛来した。
先ほどよりも強く防御障壁が光り、所々に罅が走る。
近衛軍はそれを逃さず一気に敵陣に突入し、中隊長もまたそれを好機と捉えた。
「全隊、突撃!」
彼の剣が前方の敵陣を指し、それに応えるように兵たちの喊声が轟く。
敵本陣に向けて周囲から一斉に皇国軍将兵が飛び出し、吶喊。
これにより、一〇〇時間戦争における戦闘行動は最終段階へと進んだ。
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