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005 学校に結局来てしまいました
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春、前世で言うのであれば桜が舞う季節ですが、今の世界ではブルーセリアという桜に似た青い花が舞い散ります。
そして私は今、なぜか去年全力で入学を拒否した学校の校門の前にいます。
なぜでしょう?話せば短いのですが、お父様が修行しててもいいから、どうか学校に行ってくれと、土下座してくれやがったおかげです。
しかも5時間ほど土下座を続けてくださりやがりましたので、私も頷かざるえなかったのです。しかしその代わりと言っては何ですが、婚約の白紙を条件にいたしました。
そう!私が悪役令嬢になる前提条件がこれで崩れるのです!しかも去年入学していないので、派閥形成もしていない、ヒロインに対するあれやこれやのフラグは折れたはず!きっと折れてます!折れてると信じています!
あ、ちなみに一年間住んでたログハウスですが、学校に通うおかげで不要になってしまったので、魔法を使ってきれいさっぱり消してきました。
今は兄様と侍従とメイド二人と学校の近くに家を借りて住んでいます。重要な事なのでもう一度、家を、借りて、住んでいます。
つまり実家ではないので、家での妹への成長を助けるイベントは起きないのですよ。妹も近くに家を借りるという話しがありましたが、お義母様が許さなかったのと、妹も実家がいいと言ったので実家から通っています。
兄様はまだ私の修行が完了してないということで、お仕事をお休みしている最中です。でも時々お父様から分厚い小包が届いているので、何か仕事はしてるんじゃないかとは思ってます。
そういえば、婚約者のバスティアン様ですが、月一の頻度で、あの辺鄙なところにあるログハウスに顔を見せにいらしてました。律儀な人ですよね、ついでにいうと以前より社交辞令的な会話ではなく、学園の様子など、親密っぽい会話が出来ていたような気がします。
婚約が白紙になったので、もうどうでもいいですけどね!
他にも、スティーロッド様が大量の書類を持ってやって来たり、カロリーティア様が様子を見にいらっしゃったりと、暇は全くありませんでしたね。
けれど、前世で森林浴という言葉があったように、森の中で生活するというのは、とても癒されるものでした。緑の香りというのはいいですね、ついでに言えば家庭菜園をしたり、ガーデニングでハーブを作ったりと、充実しておりました。
森の動物とも多少は仲良くなれたと思います。小鳥は手から餌を食べてくれるようになりましたし、狼とも仲良くなることが出来ました。最初は攻撃してきたのですが、前世で見たアニメのローズウィップ的な物で対抗したら、数回目でお腹を見せて服従してくださいましたよ、いいこですよね。
ちなみに、飼い狼にしたので番犬代わりに連れてきています。
あ、ローズウィップが古いとか言った人、今度夢の中に出て呪って差し上げます、と全力の笑顔で言っておきますね。
そういえば前世では私、植物系も好きだったんですけど、日本刀系、着物系も好きだったんです。着物は植物の魔法を駆使して再現できたのですが、金属系は無理なので、腕の良い鍛冶師さんにイメージをお伝えしているのですが、上手くいきませんでした。
なので、今は樹脂で作った日本刀もどきを持ち歩いております!樹脂って硬くできるじゃないですか、だから包丁的なものから初めて、先日やっと日本刀もどきが出来たのです。
金属の輝きはありませんが、透明なこの日本刀もどきも、これはこれで趣を感じると思います。
ああ、大きさは小太刀です。私はまだ13歳ですので、大きな刀は振るうのに苦労しますので、ってそこじゃない?ああ、学校に持ち込んで平気なのかとかそういうところでしょうか?
だめなんじゃないですか?でもこれは金属の武器ではないので、樹脂なので、規則違反ではありませんよ。
そもそも、魔法使いの私が入学する時点で、規則とかぶっちぎってると思うんですよ。一応病弱だったのは魔法使いとして開花するためで、神殿で確認したところ魔法使いとして開花した、けれども能力は薔薇の花を出現させるだけで、大したことはない。
1年修行してローズウィップも使えるようになったよ、っていう説明で入学することになりました。
お父様ってば、こういうときだけ有能ですね。もっともいつも有能ですけどこういうときだけ、めちゃくちゃ有能になっちゃうんですよ。学校の校長脅したとか聞きましたけど、私には関係がないのでどうでもいいですよね。
「ランジュミューア様、いつまでそこでウダウダ抵抗するおつもりですか?逆に目立ってますので、とっとと校門の中に入って、入学式の会場に行ってはいかがでしょう?」
「オンリーヌ、これは私なりの抵抗です。でも遅刻して目立つのも嫌なのでそろそろ諦めましょうか」
ちなみに学校ですが、一人まで侍従かメイドを付き添いさせることが可能です。私はもちろん長年私の世話をしてくれている、オンリーヌを連れてきています。
ログハウスにも連れていってましたので、まさしく私の腹心です。腹心なんですよ?
ちょっと主人である私に対して厳しいとか、口が悪い時があるとか、容赦がないとかありますけど、腹心なんです。
以前結婚しないのかと聞いた瞬間、周囲が凍り付くかのような目で見られましたので、その言葉は私の中で禁句です。
まあ、使用人となる者の大半は生涯独身を貫くことも多いので、結婚しない事は珍しくないんですよ。ええ、ですから二度と言いません。
といった感じに、覚悟を決めて校門を潜り抜けて学内に入りますが、校門の前に居た時も感じていますが、視線が痛いですね。
この仮面が悪いのはわかりますが、模様を見せて歩くのは魔法使いはあまりしない、というか隠すのが普通らしいので、平穏な普通な生活を望む私は、ちゃんと仮面で銀の蔦模様を隠しています。
髪型でそれほど目立たないはずなのですが、不思議ですね。まあ、いいんですよ。ボッチになるかもしれませんけど、オンリーヌがいますので、ボッチでも気にしません。
ボ、ボッチでも……ひ、一人ぐらい友達が出来るかもしれませんし。
というか、よく考えたらすでに魔法使いとして開花していて、しかも一歳年上とか、敬遠される要素しかないかもしれないですね。
妹がいますけど、ヒロインなので私が積極的に接触を避けたい相手です。そういえば妹はもう来ているのでしょうか?
確か校門前で発生する、ランダムで攻略対象と接触をするというイベントがあったはずなのですが。どんなイベントでしたっけ?一年以上前の記憶なのでおぼろげですね。そもそもあの乙女ゲームをした記憶と大体の内容は覚えてますが、詳しくは覚えてませんし。
えっと、確か馬車から下りた時に突風が吹いてよろめいたヒロインをって。
「ひゃっ!」
春一番!まさしくイベント用の突風ですね!つまり今振りむけば、校門ではイベントがまさしく発生しているはず!
よっしゃ!とっとと入学式の会場に行きましょう。
わざわざイベントを目撃するとか、自分から墓穴は掘りませんよ。何が起きるか分かったもんじゃないですからね!
妹よ、さくっとイベントをクリアして、達者で過ごしてくださいね!
「ランジュミューア様!やっと来ましたのね!」
「……だれ?」
イベントの目撃を避けるためにそそくさと歩いている私の前に、白に赤ラインのタイ、つまり2学年の生徒さんが立ちふさがってきました。
見覚えはありますが、誰でしたっけ?
あ、ちなみにタイの色は学年ごとに変わります。1年は青になります。2年は赤、3年は緑です。
あと、成績優秀者は白タイに学年の色のラインが入ります。つまり私の前に立ちふさがったご令嬢は、成績優秀者さんですね。
あ、私は一応白タイに青ラインです。事前の試験で優秀な成績を出したっぽいですね、めんどくさい。
ともあれ、目の前のご令嬢さんです。本当に誰でしたっけ?
「ヴァランティーヌ=エジュリ=マルブランシュですわ!以前王妃様主催のお茶会で一度お会いしましたでしょう!」
「……もちろん覚えてますわ」
「今の今まで忘れてましたでしょう!」
そう言えばいましたわね、この蒼銀の髪で赤い眼のご令嬢。伯爵家の方ですが、資産家の家ですので侯爵家の中でも格下の家と同等ぐらいの権力は持ってますのよね。
うん、思い出しました。
「お久しぶりですわね。お元気そうで何よりですわ」
「そちらも、病弱だとか魔法の才能が開花したとか噂は聞きますが、息災のようで何よりですわ。それで、長々と校門の前から動かないかと思えば、急に足を速めて何を考えてますの!」
「早く入学式の会場に行こうかと思っておりますわ」
「ではご一緒いたします」
「え」
「何か問題でも?」
「いいえー」
まあ、めんどうそうという点を除けば全く問題はないんですけどね。
「あんまり遅いと、背後で貴女の元婚約者と風にあおられて抱き合っていた、ヒロインオーラ全開の妹さんと元婚約者さんに追いつかれるかもしれませんね」
「ちゃっちゃかまいりましょう。ところでヴァランティーヌ様?」
「なんでしょうかランジュミューア様?」
「乙女ゲームに興味はありましたか?」
「正確には妹にやらせられてた。当時兄でしたけれど関係なく強制的に」
「後でじっくり話しましょうか」
「ちなみにランジュミューア様、貴女は兄に乙女ゲームのフラグを回収させる手伝いをさせた記憶は?」
「ほほほ、記憶にございませんわ」
「後でじっくり話し合いましょうか」
おっかしいなー、ヴァランティーヌ様から前世の兄の気配を感じるなあ。なんでかなあ?
でも前世の兄は、乙女ゲームを大爆笑しながら手伝ってくれてるいい人でしたよねえ、そのかわり苦手なゾンビ物のゲームさせられましたけど…。
でもあの兄が貴族令嬢で女言葉でスカートはいて……。
「ぶふっ」
「何を考えたかわかりますが、お黙りやがりませ」
うん、大丈夫。今のヴァランティーヌ様は蒼銀の髪に赤い眼、ビスクドールのように美しい顔、13歳だからそこまでじゃないけど胸が大きくなりそうな兆しがある体型。オッパイ星人だった前世兄にはひゃっほいかもしれませんね。
「自分の胸を見て興奮する趣味はありませんわ」
「脳内を読まないでくださいます?」
「顔に書いてありました」
くっそう、前世の兄はこういう勘がするどいんですよね。しっかし面影ないですね、人のことは言えませんけど、兄妹で乙女ゲームに転生とか、この世界の神様って何考えてるんでしょう?
ちなみに私は敬虔な日本神教の信者でしたが、兄は敬虔な仏教徒でした。前世の日本では、それでも宗教戦争が起きなかったので素晴らしいですね。歴史上では昔あったらしいですが、少なくとも私が生きていた時代にはありませんでした。クリスマスはばか騒ぎしましたしね。
「初めてお会いした翌日に色々思い出したのですが、再会できると思った昨年の入学式の日、ランジュミューア様はご病気により欠席、その後も回復せず入学は延期。その間に魔法使いの才能を開花させ修業をしたと聞いた時は、大爆笑いたしました」
「大爆笑ですか」
「ええ、面倒ごとから全力で逃げやがりましたな、と思いまして」
「そうです。今も逃げている最中でございます」
「婚約も無事に事前に白紙になったようですが、ひとつ馬鹿にしたことを申し上げてもよろしいでしょうか?」
「なんでしょう?」
「同学年になったら、違う学年でいるよりもなにかと競う機会が増えるんじゃないでしょうか?くっそまぬけでチョーウケル」
入学式の会場の入り口前で言われたその一言に、思わず足元から崩れ落ちそうになってしまいました。
そうです、私はヒロインを成長させる系悪役令嬢です。成績や何やらで競う機会は同学年のほうが多いのはわかっていたことではありませんか!
よし!今からなどの体調不良で早退をしましょう!そのまま引きこもりましょう!
そう思って胃を下からえぐろうと思ったのですが、コルセットは鉄製なので、私のか弱いパンチじゃダメージは貫通しませんね。
ならせめて眩暈とか!
「体調不良になっても、保健室に連れていくだけだから。休学とかさせないから」
「くっ!」
「得意の気絶をしてもこの私が、善意で、起こして差し上げますので安心してくださいませ」
「ぐぬぬっ」
兄様ならきっと許してくれるのに、前世兄は流石に許してくれないようですね。
でもまあ、乙女ゲームの中では私は絶対的な派閥を背に、ヒロインにいちゃもんをつけてましたし、今はそれがありませんから。そもそもいちゃもんをつける気がありませんし、問題ありませんよね。
それにしても、前世兄…ヴァランティーヌ様はなぜこんなにも私に厳しいのでしょうか?
「貴女がいなかったせいで、私が学年の女子をまとめ上げる羽目になったんですもの、知ってたけど見たくもない、女の裏側をまざまざと見せつけられた恨み、はらさせていただきますね」
なるほど、前世で妹が居り、乙女ゲームをして、今世で女になっていても、女性への憧れってあったんでしょうねえ。それが学校の女の派閥争いとか見ちゃって崩れ去ったという感じでしょうか?
女子高の生々しい現実を教えてあげてましたのに、夢見る男だったんですね、前世兄。
「まあ、私も婚約者が関わってますので、相談とか協力はしますので。いつでも尋ねてらしてくださいね」
「ありがとうございます」
なんだかんだで優しいんですよね、ヴァランティーヌ様。
さて、いよいよ入学式ですが、この学校『リュシバングル王立テラマアス校』ですが、高位貴族専門の学校となっておりまして、全ての授業が選択式となっております。
能力判定は卒業後に行うのですが、目指すものというのはありますので、それに向けて各自授業を選択する形となっております。
例えば1学年の時に座学のみを選択し、2学年になって芸術系の授業を選択するということもあるのです。
乙女ゲームの中でランジュミューアが事あるごとにヒロインと対決していたのは、この授業選択方式ゆえと言えるかもしれません。
もっとも、ご都合主義ゲームなので、普通もう修得してんじゃね?という授業にもランジュミューアがいたりしましたね。
選択授業によって攻略対象と一緒に授業を受けて好感度を上げたり、イベントが起きたりもします。入学式校門でのランダムイベントは、初期好感度が上がるだけで、選択授業によって好感度はさくっとかわる程度のものですので、ユーザー向けサービスシーンというものですね、きっと。
ちなみに攻略対象は3人と隠しキャラ1人です。
隠しキャラのスティーロッド様は他3人を攻略しつつ、兄様の好感度を上げると出てくるキャラなので、学校では関わりはありませんが、ほかの3人は学校関係者です。
1人目は私の元婚約者、バスティアン=フォン=ゼラウン=クーロテンス侯爵子息。親からのプレッシャーに押しつぶされかけているところを救ってもらうというタイプです。
2人目はヴァランティーヌ様の婚約者で、グェナエル=フォン=ヴァンダム=ロジェデュカス公爵子息。家柄よりも自分を見てほしいと思っているところを救われるタイプです。
3人目は学校の回が授業を担当している教師で、エジッヴォア=ニルス=ボーヅビート伯爵子息様。スランプに陥っているところを救っていただくタイプです。
隠しキャラのスティーロッド様は兄弟と比べられている苦しみを救ってもらうタイプです……。でしたけど、そんな苦しみはないと大爆笑なさってましたね。
そういえば、グェナエル様については兄様たちが微妙なお顔をなさってましたね。対立派閥の家の方ですので何か思うところがあるのかもしれません。
ヴァランティーヌ様に聞いてみたい気もしますが、また今度にしましょう。もう行ってしまいましたし、妹が来る前に会場に入って、左右が埋まっている席に座って、妹とは接触しないようにしましょうね。
運良くあそこの席が程よく前の方ですし、左右は女生徒で埋まってますのでそこにしましょう。
「こちら、よろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
「もちろんですわ」
あら、お2人とも私の顔を見て驚きませんね。内心驚いているかもしれませんけど、凝視しないというのは高得点です。
椅子に座って式の開始を待っていると、背後のほうが賑やかですね。声から察するに妹でしょうが、私は何も知りません。
「失礼ですが、ランジュミューア様でいらっしゃいますか?」
「ええ」
「まあ!やっぱり」
左隣にお座りになっている方が声をかけてくださいました。私ってば有名人なのでしょうか?
「すでに魔法使いとしての才能を開花しているとお伺いしました。その仮面もその証でいらっしゃるのですよね」
「ええ、まあ…」
「あっごめんなさい。私ってば不躾でしたね」
「かまいませんわ」
「私はマリオン=ゼガラ=フィロベレニスと申します」
うちの家と同じ派閥の方ですね。
「失礼、私はマドレメル=アング=ランジュレと申します。お見知りおきを」
右隣の方も同じ派閥の方ですね。偶然ですが運がよかったかもしれません。同じ派閥でしたら私の噂を知っている可能性は高いですし、凝視しなかったのも納得です。
お2人とも可愛らしい方ですね。
「私も魔法使いに憧れているのですが、目標は司書ですの。王室図書館の司書になるのが夢なのですわ」
「まあ、マリオン様は読書家でいらっしゃいますのね」
「私は騎士を目指しております。母も女騎士でしたので、目標なのですわ」
「マドレメル様は勇敢でいらっしゃいますのね」
このように、学校にいる生徒の大半は何かしら将来の夢を持っております。授業の選択もその夢に合わせて取得するのが普通ですが、能力判定がその夢を叶えてくれるとは限りません。
というか、大半が特に何も才能がないと出ます。魔法使いや冒険者、聖女や聖人など特殊な職業以外は、基本能力判定では才能無しとなるのです。
もっとも、冒険者と判定されても騎士になったりなど、能力判定はあくまでも将来の行動の目安ですわ。
私は全力で悪役令嬢から逃れるために魔法使いになりましたけれど、魔法使いとなっても、使い道がない能力なら普通の職業に就く、というのも珍しくはありません。
魔法使いの分類でいえば回復系と攻撃系ですが、私のような特殊系も多いですね。他にも火に限定されていたりなど、細かく分類すれば多すぎて分厚い辞書になってしまいます。
防御系の魔法使いですと、魔法使いというよりも魔物と戦う冒険者になったりする方もいるそうです。最近の噂ですと、鋼の皮膚を持つ魔法使いさんが、魔物の大軍を一人で殲滅したとかございますね。
あとは付与魔法使いさんは鍛冶師になる方も多いです。魔法属性の付いた武器は希少価値が高いですが、その分効果は絶大です。剣の才能に恵まれた方が使えば大地を割るともいわれています。
私の作った樹脂製の小太刀もどきは付与魔法はついてないのでまあ、普通の刀もどきです。一応藁人形で試し切りはしてますよ。
しか1年という短い期間での検証すが、私の植物の女王という魔法は、本当に植物関係なら何でもできるっぽいのです。ハーブで実験しましたが精油作りもさくっとできました。むしろ精油を召喚できるのですが、あまり物質召喚をすると熱を出してしまうので控えております。この日本刀もどきを作った時は三日間寝込みました!
あの時は流石に兄様に治ってからですが、数時間お説教をされてしまい、もっと魔法が上達するまでこういった物質召喚とか生成は禁止されております。
薔薇を出すのとローズウィップは、ちゃんと許可されておりますのでご安心くださいませ。
そうそう、ローズウィップで思い出しましたが、飼い狼にした仔ですが、兄様曰く魔狼の一種なのだそうですが、私の前ではかわいい狼ちゃんなのでもんだいありません。
兄様たちには攻撃しないように躾けましたので、番犬としてはばっちりですね。
学校の近くに借りた家は一軒家ですので、外に小屋を作ってそこで寝起きするように言ってますが、いつもいつの間にか家の中に入ってきているのですよね。
今度もう一度しつけし直さなければいけないかもしれません。
ところで話しは変わりますが、この学校の授業はすべて選択性です。私は魔法使いですので植物に関することと魔法使い系、あとは芸術系の授業を選択する予定です。
間違っても絵画の授業は選択しません。フラグが立ってしまいますからね。
精神集中できるものと言えば歌や楽器がいいかと思いますが、歌はともかく楽器は前世の影響があるのかわかりませんが、センスがないのですよね。
音感がないわけではないのですが、指が動かないというか脳みそと指が連動してくれないというか、どうにもうまくいかないのです。
ダンスは…、まあ貴族令嬢ですので叩き込まれましたが、ダンス以外となると、やはり歌唱の授業ですね。あの授業でしたら乙女ゲームでも対決はありませんでしたので大丈夫でしょう。
他は薬学、歴史…運動系も選択したいのですが、剣よりも体術系の授業のほうがいいかもしれません。ローズウィップがあるので、鞭系の操作を教えてくれる授業なんてありましたっけ?体術系でなんとかなるのでしょうか?
前世でも柔道とか習っていればよかったのかもしれませんけど、そんなもの習ってなかったですし、良くてストレッチとかラジオ体操ぐらいですよ。
なんですかね、前世のあの曲がかかった瞬間、無意識に体が反応するのは…。洗脳というか刷り込みというか、今思えば恐ろしいですよね。思い出せますよあの曲、今度から毎朝あれをしてみるのもいいかもしれません。
森で暮らしていた時はそれなりに体を動かしていましたが、こちらに移ってからは少し体がなまってしまっていますものね。
兄様にもお教えすれば付き合ってくださるでしょうし、奇異の眼で見られることもありませんわ。
ええ、ストレッチを初めてしたときに感じた4人からのあの目は今でも忘れませんわ。確かに令嬢が大股広げてというのははしたないかもしれませんが、騎士や兵士になれば不思議はないではありませんか。
「では、続いて3学年、2学年の成績優秀者をご紹介します」
あら、考え事をしているうちに式も終盤ですね。
ヴァランティーヌ様もですが、攻略対象者の方々が壇上に上がっていらっしゃいますわ。1学年の女生徒から熱い視線を受けていらっしゃいますね。
「続いて、1学年の成績優秀者は壇上に」
はいはい。だから面倒なんですよ、白タイって。学生の模範であれとか言われて堅苦しいったらないですわ。
席を立って壇上に上がると、私の数人後ろから妹も壇上に上がるのが見えて、そういえばヒロインも成績優秀者でそれがきっかけで攻略対象と知り合うのだったと思い出しました。
成績優秀者だから何か特典がある、ということはほとんどありません。むしろ模範になれとか、素行の悪い生徒を注意しなければいけないとか、もめ事を仲裁しなければいけないとか、面倒な事ばっかりです。
入学試験の時に手を抜いておけばよかったのですが、変に手を抜きすぎて下の成績を取っては兄様やお父様の顔に泥を塗ってしまいますし、つい本気を出してしまったんですよね。
1学年の成績優秀者は5人。私と妹以外は男子生徒ですね。いずれも顔に覚えがありませんね。
乙女ゲームの中では入学式はさらっと流されてしまったので、こんなイベントがあるというのはなかったですが、現実となると長いですよね、入学式。
こうして壇上に上がって生徒に顔を見せるのは、顔を皆様に覚えさせるためで、なにかあったらこいつらを呼べ、みたいな感じなんですよね。
その仲裁役のランジュミューアが率先してもめ事を起こしていたのも、最後に糾弾される原因だったんでしょうね。
一人ひとり自己紹介をする決まりのようで、壇上に上がった順のようなので私が一番先ですか。
「ランジュミューア=リル=ユルシュル=デルジアンと申します。諸事情により1年遅れての入学となり、皆様より1歳年上ですが、気兼ねなく接していただければと思います。また、ご存知の方もいらっしゃると思いますが、すでに魔法使いとしての才能開花をしておりますので、御覧の通り、常に仮面をつけておりますことをご承知いただければと思います。本日より3年間、皆様と共に学べることを嬉しく思っております」
うん、こんなものでしょう。掴みは完璧、皆様ドン引きで私には関わらないでくれますよね。
男子生徒の挨拶を挟んで、妹の挨拶の順番になりました。
「アレクシア=エル=シリエル=デルジアンです。姉と共に入学できたこと、心強く思っておりますが、いつまでも姉に頼らず自分の力で立てるようになりたいと思います。皆様と力を合わせて3年間を過ごしていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします」
うわ、私のことを出しましたよこの妹。私が妹のことに触れないのが悪いみたいな感じの挨拶にしましたよ。天然か計算なのかはわかりませんけど、あざといですね。
視線が私にも集まりますが、微笑みを浮かべて何も気が付いていないふりをします。だって実際妹とは一年ぶりにあったんですよ。
あの婚約者ですら月1で来てたのに、一切様子を見になんて来なかったんですよ。まあ、学校に行く前の令嬢ですので家を出ることはありませんけどね!
校内でも今までのように接触がないことを願ってますよ、全力で!
白タイ5人の挨拶が終われば、後は席に戻って残りを消化するのみですね。
「姉妹で白タイなんて素敵ですね」
「名誉なことですね」
「ありがとうございます」
席に戻って小声で言われたので小声で返しておく。
確かに普通に考えれば姉妹で白タイはすごいのかもしれないけど、兄様も白タイって言ってたので、そんなにすごいものなのかはわかりませんね。
校長先生のお話を聞いていると眠くなってくるのは、どこの世界でも共通していることなのでしょうか?
こういうのは気を紛らわせるに限ります。
最近は光苔を活用した光源の開発を研究しています。菌類はアウトですが、苔類は植物なので魔法能力の範囲内なのです。とはいえ、従来のものですと扱いが難しく、光量も少ないので灯としては使えないのです。もっと光を強くできればいいのですが、そうなると今度は日中にどうやってその光を押さえるか、ということが課題になります。
布をかぶせればいいのかもしれませんが、それでは芸がない気がして納得がいかないのです。暗いと光るというような性質を持たせて、なおかつ光量を多くする、中々に難しいですね。
魔法と言っても万能ではありませんので、こういった研究は必要なのです。…と、王室図書館の本にも乗っておりました。
そう言えば、魔法を発動するときの呪文と魔法陣ですが、中二病的な呪文を考えたのですが、長くて面倒なのと、口に出したら恥ずかしかったのであきらめました。
薔薇を出すだけですので、その時は『薔薇よ』と口に出して、ローズウィップの時は『茨の蔓よ』と言うだけにしました。
だって恥ずかしかったんですよ。兄様たちは感心してましたけど、あの長い中二病全開の呪文を毎回呟くとか、もう恥ずかしいっ!
前世兄が聞いたらお腹抱えて爆笑して転げまわること間違いなしです。
まあ、とにかくそんな感じで呪文は作ったのですが、魔法陣は中々に難しいですね。古代文字とかも研究しているのですが、魔法陣を使うと魔法発動の負担が減るというのがありましたので、ぜひ使用したいのですが、うまくいきません。
円を重ねただけの魔法陣を使う方もいるとのことなのですが、私の場合はいろいろ詰め込みますので、そこまで単純化が出来ないんですよね。
古代文字にこだわってるのはカッコいいからです。文句は受け付けません。
それにしても、小説のお約束だと古代文字は日本語とかじゃないですか。この世界はそんなことないんですよ、いうなれば象形文字的な?そんな感じです。
専門家がいまだに研究をしているぐらいですから、1年程度の研究でわかるわけがないですよね。
選択授業では古代文字研究系の授業を選ぶのもいいかもしれませんね。
古代文字は一つの文字が力を持っていると言われているのですが、組み合わせを間違えると大惨事になるというのは、過去の記録から明らかな事です。
炎系の魔法使いが、古代文字を誤って使用して大惨事、自滅したという記録もありますし、慎重にならなければいけませんね。
私が魔法を使うとき、特に物質召喚を行うときは発光するのですがあの発光は魔力の具現化・可視化ともいわれています。ちなみに魔法使いによって発行色は違うのですが、私は銀色の光だそうですけど、この体の模様と関連してるのかもしれませんね。
ちなみにカロリーティア様は緑っぽい白い光だそうです。
「以上で入学式を終了します。この後は各自授業を選択し、受付に提出して昼食を取ってください。午後には選択した授業の確定した時間割り表が配られます。授業時間や人数の都合上、選択した授業が受けられない場合もありますのでご注意ください」
なるほど、大学とかの授業と似た感じですか。まあ、先生方も大変ですよね、時間割を作ったり生徒配分をするのは。
さて、授業は何にしましょうか…。
「お姉様!」
用紙を手に悩んでいると背後から聞き覚えのある声がかけられて、嫌ですが笑顔で振り返ります。
「アレクシア、お久しぶりですね。元気そうで何よりです」
「お姉様こそ、森の中で一年も過ごして心配してたんですよ。お兄様がご一緒とはいえ、人気のない森の中で生活するなんて、貴族の令嬢にはつらいことが多かったでしょう?」
「いえ…」
何が言いたいんでしょうか?
「それに、魔法使いになったせいで、婚約まで白紙になってしまって…私、お姉様のお心を思うと辛くって」
「お気になさらずに」
姉を気遣う妹を演じつつ、私を陥れようとしている感じですかね?周囲の視線を集めるのには成功してますが、ちょっと目立ちすぎですよ。
「いいんです、お姉様のは傷心この私がよくわかっております。でも私もつらいんです、お姉様の代わりに私が婚約なんて話もあって…お姉様になんてお詫びしたらいいかってずっと考えてたんです」
「そうなのですか」
ずっと考えてこれだとしたら、貴族令嬢よりも女優になればいいんじゃないでしょうか?
「それにお姉様は私と同じ学年なんて、嫌で仕方がないのでしょう?昔から私と色々教師の方々に比べられて、年下の私と比べられるなんて、おつらかったですものね。せめて学年が違ければよかったのに、同じ学年なんてあんまりです!」
「気にしていません。そろそろ静かになさったらどうかしら?」
「ところで、お姉様は授業は何を受けるんですか?教えてくださいませ」
「まだ決めておりませんの。アレクシアはもう決めているのかしら?」
「お姉様と同じ授業を受けようと思って、心強いですし」
はあ?誰がそんな真似するか。
「そうですわね、私の魔法は大したものではありませんので、普通の貴族令嬢の受ける授業を受ける予定ではあります」
「そうなんですか」
「趣味として絵画や刺繍などもいいかもしれませんね。ハープなども素敵だと思いますわ」
「他には?」
「算術や領地経営関連も将来役に立つかもしれませんわね」
「わかりました。あっ私が先に提出しておきますね!」
「ええ」
すれ違う瞬間見えた選択授業は、確実に攻略対象を落とす用の授業ですね。もちろんその授業は避けて選ばせていただきます。
私嘘は言ってませんよ。予定は未定っていうじゃないですか。
さてっと、歴史学と古代学と薬学と植物学、歌唱授業と体術授業、あとは何にしましょうか、外国に行くかもしれませんので、外国についての授業も取って…、事前に予定されている時間割ですとこんな感じですかね。あとは被ってしまいそうで危険ですもの。
あと2年あるので他に興味があるのは来年以降に受けることにしましょう。余った時間は魔法の研究をすればいいですしね。
「あら、先ほどおっしゃってたのと随分違う内容ですこと」
「まあヴァランティーヌ様。気が変わりましたのよ」
「予定は未定ともうしますものね」
選択授業に迷う生徒も多いので、こうして白タイの上級生が助言をするために巡回していたりするのです。
「歌唱の授業はカラオケとは違いますよ」
「もちろんわかっておりますわ」
「随分時間が余りますし、重なった時は一緒にお茶でも致しましょう」
「よろこんで」
二人っきりで話そうぜ、ってことですね。こんな時は女同士でよかったですね。いくら前世が兄妹だったとしても今世では男女だった場合大問題です。
主に兄様に殴り殺される危険性がありますね。
そういえば、男性の記憶があるのに男と婚約とか大丈夫なのでしょうか?兄に同性愛の傾向はなかったと思いますが、もしかして潜在的にあったとか?それなら前世の時に言ってくれれば応援したのですが…。
「違う。記憶はあるけど今は女だから割り切ってるのですよ」
「なるほど?」
そこはよくわかりませんが、そういうものなのかもしれませんね。女が少年漫画を見て男の気分になるみたいなものでしょうか?
うん、全然わかんないですね。
「お姉様!…ぁ」
ん?用紙を提出して戻ってきたアレクシアの口が一瞬笑みの形になりましたね。この組み合わせで何か思うところでもあるのでしょうか?
そうだとしたらアレクシアも転生者説をぶち上げますよ。
「ヴァランティーヌ様、ご指導ありがとうございます。この授業内容で提出いたします」
「希望が通ることを願っておりますわ」
用紙を見えないように胸に抱いて、アレクシアの横を通って受付の人に渡す。内容に少し驚かれてしまいましたが、大丈夫でしょう。
まあ侯爵令嬢としても、魔法使いとしても選択する授業数が少ない自覚はありますのでご安心ください。
受付が済んだのを確認して、アレクシアの元に戻らずにそのまま昼食を食べに行きます。なんで戻ってわざわざ会話しなくちゃいけないんですか?フラグってのを立てるつもりはないんですよ。
さて、昼食と言っても学食が二つ、購買は4カ所あります。軽食を買って食べてもいいのですが、変なところで食べると、フラグが寄ってきそうな気がしますので、学食でササッと食べたほうがいいでしょうか?
相席を頼んで入り込めなくすればアレクシアも来ないでしょうし、そうと決まれば学食へGOです!
と、意気込んできたのですが、思った以上に混雑してますね。空席はちらほらありますので問題ないのですが、ここの学食にはボッチ席があるんですね。素晴らしいと思います。
今は全部埋まっておりますけど!
Aランチ、カルボナーラとサラダのセットを受け取って…メイドのオンリーヌが受け取ったのですけれど、席を探していると、声をかけられましたのでそちらを振り向くと、バスティアン様がいらっしゃいました。
ここに居ましたか、フラグ。
困りましたね、振り向いてしまった都合上無視する理由が必要です……。おや、その後ろに見えるのはマリオン様とマンドメル様ではないですか!
席も空いているようですしご一緒させていただきましょう!
「マリオン様とマンドメル様~」
「ぁっ」
何食わぬ顔をしてバスティアン様の横を通り抜けて、当たり前のようにお2人のテーブルにご一緒させていただきました。
「ご一緒させていただいてよろしいかしら」
「もう着席なさってますけど、どうぞ」
「かまいませんわ」
いやぁ、二人がいい人でよかった。
あ、バスティアン様ですか?微妙な顔でこっちを見てますけど、女三人の中に入る勇気はないようで、そのまま立ち去っていきましたよ。
お2人と顔見知りだとか、私がまだ婚約者のままだったらちょっと危なかったですけど、どっちもなしですからね。
それにしても学校はやっぱり危険ですね。あっちこっちにフラグが乱立してますよ。こんなところでバスティアン様がいるとかなにしてたんですかね?
あ、学食の使い方がわからない人を案内するのも白タイのお役目でしたっけ。
本当に、白タイなんて体のいい雑用係ですよ。
そうそう、相席になったついでにお2人の授業内容を聞いたのですが、なんと歌唱の授業をお2人とも選択していらっしゃいました。あと体術の授業と歴史学の授業がそれぞれ被りましたのでもしかしたらご一緒できるかもしれませんね。
なにはともあれ、結局学校に通うことになりましたが、頑張って全力で逃げることにいたしましょう。
そして私は今、なぜか去年全力で入学を拒否した学校の校門の前にいます。
なぜでしょう?話せば短いのですが、お父様が修行しててもいいから、どうか学校に行ってくれと、土下座してくれやがったおかげです。
しかも5時間ほど土下座を続けてくださりやがりましたので、私も頷かざるえなかったのです。しかしその代わりと言っては何ですが、婚約の白紙を条件にいたしました。
そう!私が悪役令嬢になる前提条件がこれで崩れるのです!しかも去年入学していないので、派閥形成もしていない、ヒロインに対するあれやこれやのフラグは折れたはず!きっと折れてます!折れてると信じています!
あ、ちなみに一年間住んでたログハウスですが、学校に通うおかげで不要になってしまったので、魔法を使ってきれいさっぱり消してきました。
今は兄様と侍従とメイド二人と学校の近くに家を借りて住んでいます。重要な事なのでもう一度、家を、借りて、住んでいます。
つまり実家ではないので、家での妹への成長を助けるイベントは起きないのですよ。妹も近くに家を借りるという話しがありましたが、お義母様が許さなかったのと、妹も実家がいいと言ったので実家から通っています。
兄様はまだ私の修行が完了してないということで、お仕事をお休みしている最中です。でも時々お父様から分厚い小包が届いているので、何か仕事はしてるんじゃないかとは思ってます。
そういえば、婚約者のバスティアン様ですが、月一の頻度で、あの辺鄙なところにあるログハウスに顔を見せにいらしてました。律儀な人ですよね、ついでにいうと以前より社交辞令的な会話ではなく、学園の様子など、親密っぽい会話が出来ていたような気がします。
婚約が白紙になったので、もうどうでもいいですけどね!
他にも、スティーロッド様が大量の書類を持ってやって来たり、カロリーティア様が様子を見にいらっしゃったりと、暇は全くありませんでしたね。
けれど、前世で森林浴という言葉があったように、森の中で生活するというのは、とても癒されるものでした。緑の香りというのはいいですね、ついでに言えば家庭菜園をしたり、ガーデニングでハーブを作ったりと、充実しておりました。
森の動物とも多少は仲良くなれたと思います。小鳥は手から餌を食べてくれるようになりましたし、狼とも仲良くなることが出来ました。最初は攻撃してきたのですが、前世で見たアニメのローズウィップ的な物で対抗したら、数回目でお腹を見せて服従してくださいましたよ、いいこですよね。
ちなみに、飼い狼にしたので番犬代わりに連れてきています。
あ、ローズウィップが古いとか言った人、今度夢の中に出て呪って差し上げます、と全力の笑顔で言っておきますね。
そういえば前世では私、植物系も好きだったんですけど、日本刀系、着物系も好きだったんです。着物は植物の魔法を駆使して再現できたのですが、金属系は無理なので、腕の良い鍛冶師さんにイメージをお伝えしているのですが、上手くいきませんでした。
なので、今は樹脂で作った日本刀もどきを持ち歩いております!樹脂って硬くできるじゃないですか、だから包丁的なものから初めて、先日やっと日本刀もどきが出来たのです。
金属の輝きはありませんが、透明なこの日本刀もどきも、これはこれで趣を感じると思います。
ああ、大きさは小太刀です。私はまだ13歳ですので、大きな刀は振るうのに苦労しますので、ってそこじゃない?ああ、学校に持ち込んで平気なのかとかそういうところでしょうか?
だめなんじゃないですか?でもこれは金属の武器ではないので、樹脂なので、規則違反ではありませんよ。
そもそも、魔法使いの私が入学する時点で、規則とかぶっちぎってると思うんですよ。一応病弱だったのは魔法使いとして開花するためで、神殿で確認したところ魔法使いとして開花した、けれども能力は薔薇の花を出現させるだけで、大したことはない。
1年修行してローズウィップも使えるようになったよ、っていう説明で入学することになりました。
お父様ってば、こういうときだけ有能ですね。もっともいつも有能ですけどこういうときだけ、めちゃくちゃ有能になっちゃうんですよ。学校の校長脅したとか聞きましたけど、私には関係がないのでどうでもいいですよね。
「ランジュミューア様、いつまでそこでウダウダ抵抗するおつもりですか?逆に目立ってますので、とっとと校門の中に入って、入学式の会場に行ってはいかがでしょう?」
「オンリーヌ、これは私なりの抵抗です。でも遅刻して目立つのも嫌なのでそろそろ諦めましょうか」
ちなみに学校ですが、一人まで侍従かメイドを付き添いさせることが可能です。私はもちろん長年私の世話をしてくれている、オンリーヌを連れてきています。
ログハウスにも連れていってましたので、まさしく私の腹心です。腹心なんですよ?
ちょっと主人である私に対して厳しいとか、口が悪い時があるとか、容赦がないとかありますけど、腹心なんです。
以前結婚しないのかと聞いた瞬間、周囲が凍り付くかのような目で見られましたので、その言葉は私の中で禁句です。
まあ、使用人となる者の大半は生涯独身を貫くことも多いので、結婚しない事は珍しくないんですよ。ええ、ですから二度と言いません。
といった感じに、覚悟を決めて校門を潜り抜けて学内に入りますが、校門の前に居た時も感じていますが、視線が痛いですね。
この仮面が悪いのはわかりますが、模様を見せて歩くのは魔法使いはあまりしない、というか隠すのが普通らしいので、平穏な普通な生活を望む私は、ちゃんと仮面で銀の蔦模様を隠しています。
髪型でそれほど目立たないはずなのですが、不思議ですね。まあ、いいんですよ。ボッチになるかもしれませんけど、オンリーヌがいますので、ボッチでも気にしません。
ボ、ボッチでも……ひ、一人ぐらい友達が出来るかもしれませんし。
というか、よく考えたらすでに魔法使いとして開花していて、しかも一歳年上とか、敬遠される要素しかないかもしれないですね。
妹がいますけど、ヒロインなので私が積極的に接触を避けたい相手です。そういえば妹はもう来ているのでしょうか?
確か校門前で発生する、ランダムで攻略対象と接触をするというイベントがあったはずなのですが。どんなイベントでしたっけ?一年以上前の記憶なのでおぼろげですね。そもそもあの乙女ゲームをした記憶と大体の内容は覚えてますが、詳しくは覚えてませんし。
えっと、確か馬車から下りた時に突風が吹いてよろめいたヒロインをって。
「ひゃっ!」
春一番!まさしくイベント用の突風ですね!つまり今振りむけば、校門ではイベントがまさしく発生しているはず!
よっしゃ!とっとと入学式の会場に行きましょう。
わざわざイベントを目撃するとか、自分から墓穴は掘りませんよ。何が起きるか分かったもんじゃないですからね!
妹よ、さくっとイベントをクリアして、達者で過ごしてくださいね!
「ランジュミューア様!やっと来ましたのね!」
「……だれ?」
イベントの目撃を避けるためにそそくさと歩いている私の前に、白に赤ラインのタイ、つまり2学年の生徒さんが立ちふさがってきました。
見覚えはありますが、誰でしたっけ?
あ、ちなみにタイの色は学年ごとに変わります。1年は青になります。2年は赤、3年は緑です。
あと、成績優秀者は白タイに学年の色のラインが入ります。つまり私の前に立ちふさがったご令嬢は、成績優秀者さんですね。
あ、私は一応白タイに青ラインです。事前の試験で優秀な成績を出したっぽいですね、めんどくさい。
ともあれ、目の前のご令嬢さんです。本当に誰でしたっけ?
「ヴァランティーヌ=エジュリ=マルブランシュですわ!以前王妃様主催のお茶会で一度お会いしましたでしょう!」
「……もちろん覚えてますわ」
「今の今まで忘れてましたでしょう!」
そう言えばいましたわね、この蒼銀の髪で赤い眼のご令嬢。伯爵家の方ですが、資産家の家ですので侯爵家の中でも格下の家と同等ぐらいの権力は持ってますのよね。
うん、思い出しました。
「お久しぶりですわね。お元気そうで何よりですわ」
「そちらも、病弱だとか魔法の才能が開花したとか噂は聞きますが、息災のようで何よりですわ。それで、長々と校門の前から動かないかと思えば、急に足を速めて何を考えてますの!」
「早く入学式の会場に行こうかと思っておりますわ」
「ではご一緒いたします」
「え」
「何か問題でも?」
「いいえー」
まあ、めんどうそうという点を除けば全く問題はないんですけどね。
「あんまり遅いと、背後で貴女の元婚約者と風にあおられて抱き合っていた、ヒロインオーラ全開の妹さんと元婚約者さんに追いつかれるかもしれませんね」
「ちゃっちゃかまいりましょう。ところでヴァランティーヌ様?」
「なんでしょうかランジュミューア様?」
「乙女ゲームに興味はありましたか?」
「正確には妹にやらせられてた。当時兄でしたけれど関係なく強制的に」
「後でじっくり話しましょうか」
「ちなみにランジュミューア様、貴女は兄に乙女ゲームのフラグを回収させる手伝いをさせた記憶は?」
「ほほほ、記憶にございませんわ」
「後でじっくり話し合いましょうか」
おっかしいなー、ヴァランティーヌ様から前世の兄の気配を感じるなあ。なんでかなあ?
でも前世の兄は、乙女ゲームを大爆笑しながら手伝ってくれてるいい人でしたよねえ、そのかわり苦手なゾンビ物のゲームさせられましたけど…。
でもあの兄が貴族令嬢で女言葉でスカートはいて……。
「ぶふっ」
「何を考えたかわかりますが、お黙りやがりませ」
うん、大丈夫。今のヴァランティーヌ様は蒼銀の髪に赤い眼、ビスクドールのように美しい顔、13歳だからそこまでじゃないけど胸が大きくなりそうな兆しがある体型。オッパイ星人だった前世兄にはひゃっほいかもしれませんね。
「自分の胸を見て興奮する趣味はありませんわ」
「脳内を読まないでくださいます?」
「顔に書いてありました」
くっそう、前世の兄はこういう勘がするどいんですよね。しっかし面影ないですね、人のことは言えませんけど、兄妹で乙女ゲームに転生とか、この世界の神様って何考えてるんでしょう?
ちなみに私は敬虔な日本神教の信者でしたが、兄は敬虔な仏教徒でした。前世の日本では、それでも宗教戦争が起きなかったので素晴らしいですね。歴史上では昔あったらしいですが、少なくとも私が生きていた時代にはありませんでした。クリスマスはばか騒ぎしましたしね。
「初めてお会いした翌日に色々思い出したのですが、再会できると思った昨年の入学式の日、ランジュミューア様はご病気により欠席、その後も回復せず入学は延期。その間に魔法使いの才能を開花させ修業をしたと聞いた時は、大爆笑いたしました」
「大爆笑ですか」
「ええ、面倒ごとから全力で逃げやがりましたな、と思いまして」
「そうです。今も逃げている最中でございます」
「婚約も無事に事前に白紙になったようですが、ひとつ馬鹿にしたことを申し上げてもよろしいでしょうか?」
「なんでしょう?」
「同学年になったら、違う学年でいるよりもなにかと競う機会が増えるんじゃないでしょうか?くっそまぬけでチョーウケル」
入学式の会場の入り口前で言われたその一言に、思わず足元から崩れ落ちそうになってしまいました。
そうです、私はヒロインを成長させる系悪役令嬢です。成績や何やらで競う機会は同学年のほうが多いのはわかっていたことではありませんか!
よし!今からなどの体調不良で早退をしましょう!そのまま引きこもりましょう!
そう思って胃を下からえぐろうと思ったのですが、コルセットは鉄製なので、私のか弱いパンチじゃダメージは貫通しませんね。
ならせめて眩暈とか!
「体調不良になっても、保健室に連れていくだけだから。休学とかさせないから」
「くっ!」
「得意の気絶をしてもこの私が、善意で、起こして差し上げますので安心してくださいませ」
「ぐぬぬっ」
兄様ならきっと許してくれるのに、前世兄は流石に許してくれないようですね。
でもまあ、乙女ゲームの中では私は絶対的な派閥を背に、ヒロインにいちゃもんをつけてましたし、今はそれがありませんから。そもそもいちゃもんをつける気がありませんし、問題ありませんよね。
それにしても、前世兄…ヴァランティーヌ様はなぜこんなにも私に厳しいのでしょうか?
「貴女がいなかったせいで、私が学年の女子をまとめ上げる羽目になったんですもの、知ってたけど見たくもない、女の裏側をまざまざと見せつけられた恨み、はらさせていただきますね」
なるほど、前世で妹が居り、乙女ゲームをして、今世で女になっていても、女性への憧れってあったんでしょうねえ。それが学校の女の派閥争いとか見ちゃって崩れ去ったという感じでしょうか?
女子高の生々しい現実を教えてあげてましたのに、夢見る男だったんですね、前世兄。
「まあ、私も婚約者が関わってますので、相談とか協力はしますので。いつでも尋ねてらしてくださいね」
「ありがとうございます」
なんだかんだで優しいんですよね、ヴァランティーヌ様。
さて、いよいよ入学式ですが、この学校『リュシバングル王立テラマアス校』ですが、高位貴族専門の学校となっておりまして、全ての授業が選択式となっております。
能力判定は卒業後に行うのですが、目指すものというのはありますので、それに向けて各自授業を選択する形となっております。
例えば1学年の時に座学のみを選択し、2学年になって芸術系の授業を選択するということもあるのです。
乙女ゲームの中でランジュミューアが事あるごとにヒロインと対決していたのは、この授業選択方式ゆえと言えるかもしれません。
もっとも、ご都合主義ゲームなので、普通もう修得してんじゃね?という授業にもランジュミューアがいたりしましたね。
選択授業によって攻略対象と一緒に授業を受けて好感度を上げたり、イベントが起きたりもします。入学式校門でのランダムイベントは、初期好感度が上がるだけで、選択授業によって好感度はさくっとかわる程度のものですので、ユーザー向けサービスシーンというものですね、きっと。
ちなみに攻略対象は3人と隠しキャラ1人です。
隠しキャラのスティーロッド様は他3人を攻略しつつ、兄様の好感度を上げると出てくるキャラなので、学校では関わりはありませんが、ほかの3人は学校関係者です。
1人目は私の元婚約者、バスティアン=フォン=ゼラウン=クーロテンス侯爵子息。親からのプレッシャーに押しつぶされかけているところを救ってもらうというタイプです。
2人目はヴァランティーヌ様の婚約者で、グェナエル=フォン=ヴァンダム=ロジェデュカス公爵子息。家柄よりも自分を見てほしいと思っているところを救われるタイプです。
3人目は学校の回が授業を担当している教師で、エジッヴォア=ニルス=ボーヅビート伯爵子息様。スランプに陥っているところを救っていただくタイプです。
隠しキャラのスティーロッド様は兄弟と比べられている苦しみを救ってもらうタイプです……。でしたけど、そんな苦しみはないと大爆笑なさってましたね。
そういえば、グェナエル様については兄様たちが微妙なお顔をなさってましたね。対立派閥の家の方ですので何か思うところがあるのかもしれません。
ヴァランティーヌ様に聞いてみたい気もしますが、また今度にしましょう。もう行ってしまいましたし、妹が来る前に会場に入って、左右が埋まっている席に座って、妹とは接触しないようにしましょうね。
運良くあそこの席が程よく前の方ですし、左右は女生徒で埋まってますのでそこにしましょう。
「こちら、よろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
「もちろんですわ」
あら、お2人とも私の顔を見て驚きませんね。内心驚いているかもしれませんけど、凝視しないというのは高得点です。
椅子に座って式の開始を待っていると、背後のほうが賑やかですね。声から察するに妹でしょうが、私は何も知りません。
「失礼ですが、ランジュミューア様でいらっしゃいますか?」
「ええ」
「まあ!やっぱり」
左隣にお座りになっている方が声をかけてくださいました。私ってば有名人なのでしょうか?
「すでに魔法使いとしての才能を開花しているとお伺いしました。その仮面もその証でいらっしゃるのですよね」
「ええ、まあ…」
「あっごめんなさい。私ってば不躾でしたね」
「かまいませんわ」
「私はマリオン=ゼガラ=フィロベレニスと申します」
うちの家と同じ派閥の方ですね。
「失礼、私はマドレメル=アング=ランジュレと申します。お見知りおきを」
右隣の方も同じ派閥の方ですね。偶然ですが運がよかったかもしれません。同じ派閥でしたら私の噂を知っている可能性は高いですし、凝視しなかったのも納得です。
お2人とも可愛らしい方ですね。
「私も魔法使いに憧れているのですが、目標は司書ですの。王室図書館の司書になるのが夢なのですわ」
「まあ、マリオン様は読書家でいらっしゃいますのね」
「私は騎士を目指しております。母も女騎士でしたので、目標なのですわ」
「マドレメル様は勇敢でいらっしゃいますのね」
このように、学校にいる生徒の大半は何かしら将来の夢を持っております。授業の選択もその夢に合わせて取得するのが普通ですが、能力判定がその夢を叶えてくれるとは限りません。
というか、大半が特に何も才能がないと出ます。魔法使いや冒険者、聖女や聖人など特殊な職業以外は、基本能力判定では才能無しとなるのです。
もっとも、冒険者と判定されても騎士になったりなど、能力判定はあくまでも将来の行動の目安ですわ。
私は全力で悪役令嬢から逃れるために魔法使いになりましたけれど、魔法使いとなっても、使い道がない能力なら普通の職業に就く、というのも珍しくはありません。
魔法使いの分類でいえば回復系と攻撃系ですが、私のような特殊系も多いですね。他にも火に限定されていたりなど、細かく分類すれば多すぎて分厚い辞書になってしまいます。
防御系の魔法使いですと、魔法使いというよりも魔物と戦う冒険者になったりする方もいるそうです。最近の噂ですと、鋼の皮膚を持つ魔法使いさんが、魔物の大軍を一人で殲滅したとかございますね。
あとは付与魔法使いさんは鍛冶師になる方も多いです。魔法属性の付いた武器は希少価値が高いですが、その分効果は絶大です。剣の才能に恵まれた方が使えば大地を割るともいわれています。
私の作った樹脂製の小太刀もどきは付与魔法はついてないのでまあ、普通の刀もどきです。一応藁人形で試し切りはしてますよ。
しか1年という短い期間での検証すが、私の植物の女王という魔法は、本当に植物関係なら何でもできるっぽいのです。ハーブで実験しましたが精油作りもさくっとできました。むしろ精油を召喚できるのですが、あまり物質召喚をすると熱を出してしまうので控えております。この日本刀もどきを作った時は三日間寝込みました!
あの時は流石に兄様に治ってからですが、数時間お説教をされてしまい、もっと魔法が上達するまでこういった物質召喚とか生成は禁止されております。
薔薇を出すのとローズウィップは、ちゃんと許可されておりますのでご安心くださいませ。
そうそう、ローズウィップで思い出しましたが、飼い狼にした仔ですが、兄様曰く魔狼の一種なのだそうですが、私の前ではかわいい狼ちゃんなのでもんだいありません。
兄様たちには攻撃しないように躾けましたので、番犬としてはばっちりですね。
学校の近くに借りた家は一軒家ですので、外に小屋を作ってそこで寝起きするように言ってますが、いつもいつの間にか家の中に入ってきているのですよね。
今度もう一度しつけし直さなければいけないかもしれません。
ところで話しは変わりますが、この学校の授業はすべて選択性です。私は魔法使いですので植物に関することと魔法使い系、あとは芸術系の授業を選択する予定です。
間違っても絵画の授業は選択しません。フラグが立ってしまいますからね。
精神集中できるものと言えば歌や楽器がいいかと思いますが、歌はともかく楽器は前世の影響があるのかわかりませんが、センスがないのですよね。
音感がないわけではないのですが、指が動かないというか脳みそと指が連動してくれないというか、どうにもうまくいかないのです。
ダンスは…、まあ貴族令嬢ですので叩き込まれましたが、ダンス以外となると、やはり歌唱の授業ですね。あの授業でしたら乙女ゲームでも対決はありませんでしたので大丈夫でしょう。
他は薬学、歴史…運動系も選択したいのですが、剣よりも体術系の授業のほうがいいかもしれません。ローズウィップがあるので、鞭系の操作を教えてくれる授業なんてありましたっけ?体術系でなんとかなるのでしょうか?
前世でも柔道とか習っていればよかったのかもしれませんけど、そんなもの習ってなかったですし、良くてストレッチとかラジオ体操ぐらいですよ。
なんですかね、前世のあの曲がかかった瞬間、無意識に体が反応するのは…。洗脳というか刷り込みというか、今思えば恐ろしいですよね。思い出せますよあの曲、今度から毎朝あれをしてみるのもいいかもしれません。
森で暮らしていた時はそれなりに体を動かしていましたが、こちらに移ってからは少し体がなまってしまっていますものね。
兄様にもお教えすれば付き合ってくださるでしょうし、奇異の眼で見られることもありませんわ。
ええ、ストレッチを初めてしたときに感じた4人からのあの目は今でも忘れませんわ。確かに令嬢が大股広げてというのははしたないかもしれませんが、騎士や兵士になれば不思議はないではありませんか。
「では、続いて3学年、2学年の成績優秀者をご紹介します」
あら、考え事をしているうちに式も終盤ですね。
ヴァランティーヌ様もですが、攻略対象者の方々が壇上に上がっていらっしゃいますわ。1学年の女生徒から熱い視線を受けていらっしゃいますね。
「続いて、1学年の成績優秀者は壇上に」
はいはい。だから面倒なんですよ、白タイって。学生の模範であれとか言われて堅苦しいったらないですわ。
席を立って壇上に上がると、私の数人後ろから妹も壇上に上がるのが見えて、そういえばヒロインも成績優秀者でそれがきっかけで攻略対象と知り合うのだったと思い出しました。
成績優秀者だから何か特典がある、ということはほとんどありません。むしろ模範になれとか、素行の悪い生徒を注意しなければいけないとか、もめ事を仲裁しなければいけないとか、面倒な事ばっかりです。
入学試験の時に手を抜いておけばよかったのですが、変に手を抜きすぎて下の成績を取っては兄様やお父様の顔に泥を塗ってしまいますし、つい本気を出してしまったんですよね。
1学年の成績優秀者は5人。私と妹以外は男子生徒ですね。いずれも顔に覚えがありませんね。
乙女ゲームの中では入学式はさらっと流されてしまったので、こんなイベントがあるというのはなかったですが、現実となると長いですよね、入学式。
こうして壇上に上がって生徒に顔を見せるのは、顔を皆様に覚えさせるためで、なにかあったらこいつらを呼べ、みたいな感じなんですよね。
その仲裁役のランジュミューアが率先してもめ事を起こしていたのも、最後に糾弾される原因だったんでしょうね。
一人ひとり自己紹介をする決まりのようで、壇上に上がった順のようなので私が一番先ですか。
「ランジュミューア=リル=ユルシュル=デルジアンと申します。諸事情により1年遅れての入学となり、皆様より1歳年上ですが、気兼ねなく接していただければと思います。また、ご存知の方もいらっしゃると思いますが、すでに魔法使いとしての才能開花をしておりますので、御覧の通り、常に仮面をつけておりますことをご承知いただければと思います。本日より3年間、皆様と共に学べることを嬉しく思っております」
うん、こんなものでしょう。掴みは完璧、皆様ドン引きで私には関わらないでくれますよね。
男子生徒の挨拶を挟んで、妹の挨拶の順番になりました。
「アレクシア=エル=シリエル=デルジアンです。姉と共に入学できたこと、心強く思っておりますが、いつまでも姉に頼らず自分の力で立てるようになりたいと思います。皆様と力を合わせて3年間を過ごしていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします」
うわ、私のことを出しましたよこの妹。私が妹のことに触れないのが悪いみたいな感じの挨拶にしましたよ。天然か計算なのかはわかりませんけど、あざといですね。
視線が私にも集まりますが、微笑みを浮かべて何も気が付いていないふりをします。だって実際妹とは一年ぶりにあったんですよ。
あの婚約者ですら月1で来てたのに、一切様子を見になんて来なかったんですよ。まあ、学校に行く前の令嬢ですので家を出ることはありませんけどね!
校内でも今までのように接触がないことを願ってますよ、全力で!
白タイ5人の挨拶が終われば、後は席に戻って残りを消化するのみですね。
「姉妹で白タイなんて素敵ですね」
「名誉なことですね」
「ありがとうございます」
席に戻って小声で言われたので小声で返しておく。
確かに普通に考えれば姉妹で白タイはすごいのかもしれないけど、兄様も白タイって言ってたので、そんなにすごいものなのかはわかりませんね。
校長先生のお話を聞いていると眠くなってくるのは、どこの世界でも共通していることなのでしょうか?
こういうのは気を紛らわせるに限ります。
最近は光苔を活用した光源の開発を研究しています。菌類はアウトですが、苔類は植物なので魔法能力の範囲内なのです。とはいえ、従来のものですと扱いが難しく、光量も少ないので灯としては使えないのです。もっと光を強くできればいいのですが、そうなると今度は日中にどうやってその光を押さえるか、ということが課題になります。
布をかぶせればいいのかもしれませんが、それでは芸がない気がして納得がいかないのです。暗いと光るというような性質を持たせて、なおかつ光量を多くする、中々に難しいですね。
魔法と言っても万能ではありませんので、こういった研究は必要なのです。…と、王室図書館の本にも乗っておりました。
そう言えば、魔法を発動するときの呪文と魔法陣ですが、中二病的な呪文を考えたのですが、長くて面倒なのと、口に出したら恥ずかしかったのであきらめました。
薔薇を出すだけですので、その時は『薔薇よ』と口に出して、ローズウィップの時は『茨の蔓よ』と言うだけにしました。
だって恥ずかしかったんですよ。兄様たちは感心してましたけど、あの長い中二病全開の呪文を毎回呟くとか、もう恥ずかしいっ!
前世兄が聞いたらお腹抱えて爆笑して転げまわること間違いなしです。
まあ、とにかくそんな感じで呪文は作ったのですが、魔法陣は中々に難しいですね。古代文字とかも研究しているのですが、魔法陣を使うと魔法発動の負担が減るというのがありましたので、ぜひ使用したいのですが、うまくいきません。
円を重ねただけの魔法陣を使う方もいるとのことなのですが、私の場合はいろいろ詰め込みますので、そこまで単純化が出来ないんですよね。
古代文字にこだわってるのはカッコいいからです。文句は受け付けません。
それにしても、小説のお約束だと古代文字は日本語とかじゃないですか。この世界はそんなことないんですよ、いうなれば象形文字的な?そんな感じです。
専門家がいまだに研究をしているぐらいですから、1年程度の研究でわかるわけがないですよね。
選択授業では古代文字研究系の授業を選ぶのもいいかもしれませんね。
古代文字は一つの文字が力を持っていると言われているのですが、組み合わせを間違えると大惨事になるというのは、過去の記録から明らかな事です。
炎系の魔法使いが、古代文字を誤って使用して大惨事、自滅したという記録もありますし、慎重にならなければいけませんね。
私が魔法を使うとき、特に物質召喚を行うときは発光するのですがあの発光は魔力の具現化・可視化ともいわれています。ちなみに魔法使いによって発行色は違うのですが、私は銀色の光だそうですけど、この体の模様と関連してるのかもしれませんね。
ちなみにカロリーティア様は緑っぽい白い光だそうです。
「以上で入学式を終了します。この後は各自授業を選択し、受付に提出して昼食を取ってください。午後には選択した授業の確定した時間割り表が配られます。授業時間や人数の都合上、選択した授業が受けられない場合もありますのでご注意ください」
なるほど、大学とかの授業と似た感じですか。まあ、先生方も大変ですよね、時間割を作ったり生徒配分をするのは。
さて、授業は何にしましょうか…。
「お姉様!」
用紙を手に悩んでいると背後から聞き覚えのある声がかけられて、嫌ですが笑顔で振り返ります。
「アレクシア、お久しぶりですね。元気そうで何よりです」
「お姉様こそ、森の中で一年も過ごして心配してたんですよ。お兄様がご一緒とはいえ、人気のない森の中で生活するなんて、貴族の令嬢にはつらいことが多かったでしょう?」
「いえ…」
何が言いたいんでしょうか?
「それに、魔法使いになったせいで、婚約まで白紙になってしまって…私、お姉様のお心を思うと辛くって」
「お気になさらずに」
姉を気遣う妹を演じつつ、私を陥れようとしている感じですかね?周囲の視線を集めるのには成功してますが、ちょっと目立ちすぎですよ。
「いいんです、お姉様のは傷心この私がよくわかっております。でも私もつらいんです、お姉様の代わりに私が婚約なんて話もあって…お姉様になんてお詫びしたらいいかってずっと考えてたんです」
「そうなのですか」
ずっと考えてこれだとしたら、貴族令嬢よりも女優になればいいんじゃないでしょうか?
「それにお姉様は私と同じ学年なんて、嫌で仕方がないのでしょう?昔から私と色々教師の方々に比べられて、年下の私と比べられるなんて、おつらかったですものね。せめて学年が違ければよかったのに、同じ学年なんてあんまりです!」
「気にしていません。そろそろ静かになさったらどうかしら?」
「ところで、お姉様は授業は何を受けるんですか?教えてくださいませ」
「まだ決めておりませんの。アレクシアはもう決めているのかしら?」
「お姉様と同じ授業を受けようと思って、心強いですし」
はあ?誰がそんな真似するか。
「そうですわね、私の魔法は大したものではありませんので、普通の貴族令嬢の受ける授業を受ける予定ではあります」
「そうなんですか」
「趣味として絵画や刺繍などもいいかもしれませんね。ハープなども素敵だと思いますわ」
「他には?」
「算術や領地経営関連も将来役に立つかもしれませんわね」
「わかりました。あっ私が先に提出しておきますね!」
「ええ」
すれ違う瞬間見えた選択授業は、確実に攻略対象を落とす用の授業ですね。もちろんその授業は避けて選ばせていただきます。
私嘘は言ってませんよ。予定は未定っていうじゃないですか。
さてっと、歴史学と古代学と薬学と植物学、歌唱授業と体術授業、あとは何にしましょうか、外国に行くかもしれませんので、外国についての授業も取って…、事前に予定されている時間割ですとこんな感じですかね。あとは被ってしまいそうで危険ですもの。
あと2年あるので他に興味があるのは来年以降に受けることにしましょう。余った時間は魔法の研究をすればいいですしね。
「あら、先ほどおっしゃってたのと随分違う内容ですこと」
「まあヴァランティーヌ様。気が変わりましたのよ」
「予定は未定ともうしますものね」
選択授業に迷う生徒も多いので、こうして白タイの上級生が助言をするために巡回していたりするのです。
「歌唱の授業はカラオケとは違いますよ」
「もちろんわかっておりますわ」
「随分時間が余りますし、重なった時は一緒にお茶でも致しましょう」
「よろこんで」
二人っきりで話そうぜ、ってことですね。こんな時は女同士でよかったですね。いくら前世が兄妹だったとしても今世では男女だった場合大問題です。
主に兄様に殴り殺される危険性がありますね。
そういえば、男性の記憶があるのに男と婚約とか大丈夫なのでしょうか?兄に同性愛の傾向はなかったと思いますが、もしかして潜在的にあったとか?それなら前世の時に言ってくれれば応援したのですが…。
「違う。記憶はあるけど今は女だから割り切ってるのですよ」
「なるほど?」
そこはよくわかりませんが、そういうものなのかもしれませんね。女が少年漫画を見て男の気分になるみたいなものでしょうか?
うん、全然わかんないですね。
「お姉様!…ぁ」
ん?用紙を提出して戻ってきたアレクシアの口が一瞬笑みの形になりましたね。この組み合わせで何か思うところでもあるのでしょうか?
そうだとしたらアレクシアも転生者説をぶち上げますよ。
「ヴァランティーヌ様、ご指導ありがとうございます。この授業内容で提出いたします」
「希望が通ることを願っておりますわ」
用紙を見えないように胸に抱いて、アレクシアの横を通って受付の人に渡す。内容に少し驚かれてしまいましたが、大丈夫でしょう。
まあ侯爵令嬢としても、魔法使いとしても選択する授業数が少ない自覚はありますのでご安心ください。
受付が済んだのを確認して、アレクシアの元に戻らずにそのまま昼食を食べに行きます。なんで戻ってわざわざ会話しなくちゃいけないんですか?フラグってのを立てるつもりはないんですよ。
さて、昼食と言っても学食が二つ、購買は4カ所あります。軽食を買って食べてもいいのですが、変なところで食べると、フラグが寄ってきそうな気がしますので、学食でササッと食べたほうがいいでしょうか?
相席を頼んで入り込めなくすればアレクシアも来ないでしょうし、そうと決まれば学食へGOです!
と、意気込んできたのですが、思った以上に混雑してますね。空席はちらほらありますので問題ないのですが、ここの学食にはボッチ席があるんですね。素晴らしいと思います。
今は全部埋まっておりますけど!
Aランチ、カルボナーラとサラダのセットを受け取って…メイドのオンリーヌが受け取ったのですけれど、席を探していると、声をかけられましたのでそちらを振り向くと、バスティアン様がいらっしゃいました。
ここに居ましたか、フラグ。
困りましたね、振り向いてしまった都合上無視する理由が必要です……。おや、その後ろに見えるのはマリオン様とマンドメル様ではないですか!
席も空いているようですしご一緒させていただきましょう!
「マリオン様とマンドメル様~」
「ぁっ」
何食わぬ顔をしてバスティアン様の横を通り抜けて、当たり前のようにお2人のテーブルにご一緒させていただきました。
「ご一緒させていただいてよろしいかしら」
「もう着席なさってますけど、どうぞ」
「かまいませんわ」
いやぁ、二人がいい人でよかった。
あ、バスティアン様ですか?微妙な顔でこっちを見てますけど、女三人の中に入る勇気はないようで、そのまま立ち去っていきましたよ。
お2人と顔見知りだとか、私がまだ婚約者のままだったらちょっと危なかったですけど、どっちもなしですからね。
それにしても学校はやっぱり危険ですね。あっちこっちにフラグが乱立してますよ。こんなところでバスティアン様がいるとかなにしてたんですかね?
あ、学食の使い方がわからない人を案内するのも白タイのお役目でしたっけ。
本当に、白タイなんて体のいい雑用係ですよ。
そうそう、相席になったついでにお2人の授業内容を聞いたのですが、なんと歌唱の授業をお2人とも選択していらっしゃいました。あと体術の授業と歴史学の授業がそれぞれ被りましたのでもしかしたらご一緒できるかもしれませんね。
なにはともあれ、結局学校に通うことになりましたが、頑張って全力で逃げることにいたしましょう。
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