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九歳編
お茶会4
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「ライラ、何を騒いでいるのですか。ドレスが汚れたのなら家に帰りますよ」
「お姉様!どうしてそんなことをおっしゃるのですか」
ライラがオーバーリアクションで返してくる。ちょっとオーバーすぎやしないか?
「どうしてって、もうお茶会も終盤ですし、騒ぎを起こすようならば連れて帰るようにお母様から言われていますから」
本当はそんなこと言われてないけど、意図としてはそういうことだよね。
「そんな! お義母様もひどいわ!」
「王子、それでは私どもはこれで失礼します」
「ああ、また是非お茶会に来ておくれ」
「機会がありましたら」
王子はまるでチェシャ猫のように笑っているのを、ライラもエイリーン様も気が付いていない。
マルティナ様達には見えているのか、若干顔が引きつっているのが分かる。
それはそうだろう、先ほどまで無害な王子様だと思っていた人が実は腹黒だとわかったら引きまくるよね。
ゲームでは確かハンス王子は爽やかイケメンだったはずだから確実に中に人がいるんだろうな。
しかも性格がよくない方向な人。
嫌だなあ、関わり合いたくないなあ。
でもライラの関係で関わることは確実なんだろうな。
「ぜひまたお誘いくださいませね!」
「ああ、是非、約束だ」
ライラは前向きに捉えたようだけども、私は思いっきり後ろ向きに捉えたよ。
はあ、いやだなあ。
『嫌なのであれば拒否すればよろしいのですわ』
『でも、お母様のお願いを断るなんて出来ません』
『親孝行もよいでござるが、アリスの体が参ってしまっては元も子もないでござるよ』
ウィルとシェイドがそう言って心配してくれるけれども、実際に私がお母様のお願いを断ることが出来ないのには理由がある。
ゲームの中のお母様に、ゲームの中の私はあまりにもひどいことをしたのだ。
現実の私とは違うとわかってはいても、それでも、ゲームの中の母親の様子を知っているだけに、私はお母様のことを見過ごせないのだ。
ゲームの中の私は、本当にどうしてあんなことをしたのだろうか。
お母様を苦しめたくてしたとしか思えないような行動だ。というよりもそれ以外に考えられない。
それは父親との近親相姦。それを母親の目の前でして見せたのだ、ゲームの中の私は。
ゲームの中の私は、現実の私と違って、甘やかしてくれる父親が大好きで、厳しく教育してくる母親が大嫌いだった。
だからだろうか?
おぞましい近親相姦が実行されてしまったのは。
仕掛けたゲームの中の私も私だが、受け入れた父親も父親だ。
だから余計に私はお父様に懐かないのだ。
懐けばああなってしまうかもしれないと、ありえないことを想像してしまうから。
なんておぞましいんだろう。
「ライラ、帰りますよ」
「分かりましたお姉様。ハンス王子、絶対にまたお茶会に誘ってくださいね!そのほかなんにでも!」
なんにでも、とは物騒なことを言うなあ。
王子が望めば、城下見学だってお連れしなければならなくなったってことなんだけど、わかっていってくれてないんだろうなあ。
本当にこの考え無しはどうしてくれようか。
私は帰りの馬車の中でその思いをライラにぶつけることにした。
「ライラ、あまり軽はずみな発言は控えるようにしなさい」
「軽はずみな発言なんかしてません。全部私の本心です」
「本心であんな軽はずみな行動をしているのだとしたらあなたの脳内を疑います」
「失礼ですね! いくらお姉様でも言っていいことと悪いことがあるんじゃありませんか?」
そう言いながら、顔がニヤついている。
私が悪役令嬢らしい行動をとったからだろうけど、わかりやすいなあ。
「ぶっちゃけて言いますが、私は貴方を虐めるつもりはありませんよ。処刑されたくありませんからね」
「っ! やっぱり!あんたもこの世界の記憶を持っているのね!どうりでおかしいと思ったのよ」
「狭い車内で叫ばないで。そうですよ、私もこの世界の記憶を持っています。もっとも私の場合はあいまいですけれどもね。けれども、貴方を虐めれば私が処刑されてしまう事だけは覚えてますので、そんなことをするはずがないじゃありませんか。そんなに虐められたいのなら他をあたってください」
エイリーン様なんか格好の的じゃないの。
むしろ向こうから向かってきてくれそうだよね。
「虐められたいようなマゾに見えるっていうの? そもそも、この世界のことがあいまいな記憶っていうのはどういう事よ? 神様に会って転生の時にこの世界に転生させてほしいってお願いしたんじゃないの?」
「そんなことをお願いした記憶はありませんね」
むしろ前世で終わりにしていただきたいぐらいに満ち足りた人生でした。
ライラはいまいち私との差がわかっていないようなのか、首をかしげて私のことをなめるように見てきます。
「私は過去数回転生していて、前々世でこの世界を舞台としたゲームをしたというぐらいの記憶しかないんです」
「なにそれ! なんかずるい!」
だから狭い車内ではがならないでいただきたいとさっき言ったのに、もう忘れているのか、この鳥頭は。
「ずるくないです。むしろ代われるなら代わってほしいぐらいですよ。そんなことよりも、以上の理由から私に虐められるのは無理だと思ったほうがいいです。そもそもハンス王子は、ヒロインの健気で儚げな雰囲気に惹かれて一目惚れをするという設定でしょう?あんなにがつがつと食いついていったら正反対の逆効果なんじゃないのですか?」
「え」
ライラが今そのことに気が付いたかのように、硬直して顔を引きつらせていく。
「今気が付いたのですね」
「嘘、どうしよう……」
ファーストコンタクトに失敗したということで、落ち込む気持ちもわかるけど、まだ挽回の余地は残されていると思うんだよね。
「大丈夫ですよ。まだ挽回のチャンスはあるはずです」
「どんな!?」
「王子とは何でもお付き合いすると約束をしていましたからね。もし王子が城下見学をしたいと言い出した時にでも一緒に行けばいいんじゃないですか?」
「その手があったか!さっすが悪役令嬢こざかしい事ばっかりに頭が回るのね!」
「さっきから煩いですよ」
「ぐえっ」
持っていた扇子でライラの喉をつけばカエルが潰されたような声が出た。
「ひっどい」
「貴女が私にしてきた虐めの方がよほどひどいものでしょうに」
私の言葉に、自覚はあるのかライラの顔がピクリと動く。
「何のことかわかんないわね。そんなことよりも、あんたは本気で王子を狙ってないんでしょうね?油断させておいて漁夫の利を狙おうとか考えてないでしょうね?」
「そんなくだらないこと考えてません」
全く妙なことに気が回る子だこと。
「本当に本当なんでしょうね」
「本当です」
「じゃあ、どうして今日のお茶会に参加したのよ」
「お母様に言われたからに決まっているじゃないですか」
「ゲームの中ではあんたは、お義母様の事を嫌ってたじゃない」
「ええ、近親相姦するほどに。だからこそ、その情報を知っている私は、お母様の味方であろうと思っているのです」
私の言葉にとりあえず納得したのか、この件についてはこれ以上の質問はなかった。
話していて楽しい話しでもないしね。近親相姦した父娘の話なんて。
「じゃあとりあえず、私は王子に手紙を書いて城下見学をしてみませんかっていえばいいわけね」
「どうしてそうなるのですか」
「だって、そうしないと王子がお城から出てこないじゃない」
なるほど、確かにその通りかも。
その時は私を巻き込まないで欲しいものだ。
「お姉様!どうしてそんなことをおっしゃるのですか」
ライラがオーバーリアクションで返してくる。ちょっとオーバーすぎやしないか?
「どうしてって、もうお茶会も終盤ですし、騒ぎを起こすようならば連れて帰るようにお母様から言われていますから」
本当はそんなこと言われてないけど、意図としてはそういうことだよね。
「そんな! お義母様もひどいわ!」
「王子、それでは私どもはこれで失礼します」
「ああ、また是非お茶会に来ておくれ」
「機会がありましたら」
王子はまるでチェシャ猫のように笑っているのを、ライラもエイリーン様も気が付いていない。
マルティナ様達には見えているのか、若干顔が引きつっているのが分かる。
それはそうだろう、先ほどまで無害な王子様だと思っていた人が実は腹黒だとわかったら引きまくるよね。
ゲームでは確かハンス王子は爽やかイケメンだったはずだから確実に中に人がいるんだろうな。
しかも性格がよくない方向な人。
嫌だなあ、関わり合いたくないなあ。
でもライラの関係で関わることは確実なんだろうな。
「ぜひまたお誘いくださいませね!」
「ああ、是非、約束だ」
ライラは前向きに捉えたようだけども、私は思いっきり後ろ向きに捉えたよ。
はあ、いやだなあ。
『嫌なのであれば拒否すればよろしいのですわ』
『でも、お母様のお願いを断るなんて出来ません』
『親孝行もよいでござるが、アリスの体が参ってしまっては元も子もないでござるよ』
ウィルとシェイドがそう言って心配してくれるけれども、実際に私がお母様のお願いを断ることが出来ないのには理由がある。
ゲームの中のお母様に、ゲームの中の私はあまりにもひどいことをしたのだ。
現実の私とは違うとわかってはいても、それでも、ゲームの中の母親の様子を知っているだけに、私はお母様のことを見過ごせないのだ。
ゲームの中の私は、本当にどうしてあんなことをしたのだろうか。
お母様を苦しめたくてしたとしか思えないような行動だ。というよりもそれ以外に考えられない。
それは父親との近親相姦。それを母親の目の前でして見せたのだ、ゲームの中の私は。
ゲームの中の私は、現実の私と違って、甘やかしてくれる父親が大好きで、厳しく教育してくる母親が大嫌いだった。
だからだろうか?
おぞましい近親相姦が実行されてしまったのは。
仕掛けたゲームの中の私も私だが、受け入れた父親も父親だ。
だから余計に私はお父様に懐かないのだ。
懐けばああなってしまうかもしれないと、ありえないことを想像してしまうから。
なんておぞましいんだろう。
「ライラ、帰りますよ」
「分かりましたお姉様。ハンス王子、絶対にまたお茶会に誘ってくださいね!そのほかなんにでも!」
なんにでも、とは物騒なことを言うなあ。
王子が望めば、城下見学だってお連れしなければならなくなったってことなんだけど、わかっていってくれてないんだろうなあ。
本当にこの考え無しはどうしてくれようか。
私は帰りの馬車の中でその思いをライラにぶつけることにした。
「ライラ、あまり軽はずみな発言は控えるようにしなさい」
「軽はずみな発言なんかしてません。全部私の本心です」
「本心であんな軽はずみな行動をしているのだとしたらあなたの脳内を疑います」
「失礼ですね! いくらお姉様でも言っていいことと悪いことがあるんじゃありませんか?」
そう言いながら、顔がニヤついている。
私が悪役令嬢らしい行動をとったからだろうけど、わかりやすいなあ。
「ぶっちゃけて言いますが、私は貴方を虐めるつもりはありませんよ。処刑されたくありませんからね」
「っ! やっぱり!あんたもこの世界の記憶を持っているのね!どうりでおかしいと思ったのよ」
「狭い車内で叫ばないで。そうですよ、私もこの世界の記憶を持っています。もっとも私の場合はあいまいですけれどもね。けれども、貴方を虐めれば私が処刑されてしまう事だけは覚えてますので、そんなことをするはずがないじゃありませんか。そんなに虐められたいのなら他をあたってください」
エイリーン様なんか格好の的じゃないの。
むしろ向こうから向かってきてくれそうだよね。
「虐められたいようなマゾに見えるっていうの? そもそも、この世界のことがあいまいな記憶っていうのはどういう事よ? 神様に会って転生の時にこの世界に転生させてほしいってお願いしたんじゃないの?」
「そんなことをお願いした記憶はありませんね」
むしろ前世で終わりにしていただきたいぐらいに満ち足りた人生でした。
ライラはいまいち私との差がわかっていないようなのか、首をかしげて私のことをなめるように見てきます。
「私は過去数回転生していて、前々世でこの世界を舞台としたゲームをしたというぐらいの記憶しかないんです」
「なにそれ! なんかずるい!」
だから狭い車内ではがならないでいただきたいとさっき言ったのに、もう忘れているのか、この鳥頭は。
「ずるくないです。むしろ代われるなら代わってほしいぐらいですよ。そんなことよりも、以上の理由から私に虐められるのは無理だと思ったほうがいいです。そもそもハンス王子は、ヒロインの健気で儚げな雰囲気に惹かれて一目惚れをするという設定でしょう?あんなにがつがつと食いついていったら正反対の逆効果なんじゃないのですか?」
「え」
ライラが今そのことに気が付いたかのように、硬直して顔を引きつらせていく。
「今気が付いたのですね」
「嘘、どうしよう……」
ファーストコンタクトに失敗したということで、落ち込む気持ちもわかるけど、まだ挽回の余地は残されていると思うんだよね。
「大丈夫ですよ。まだ挽回のチャンスはあるはずです」
「どんな!?」
「王子とは何でもお付き合いすると約束をしていましたからね。もし王子が城下見学をしたいと言い出した時にでも一緒に行けばいいんじゃないですか?」
「その手があったか!さっすが悪役令嬢こざかしい事ばっかりに頭が回るのね!」
「さっきから煩いですよ」
「ぐえっ」
持っていた扇子でライラの喉をつけばカエルが潰されたような声が出た。
「ひっどい」
「貴女が私にしてきた虐めの方がよほどひどいものでしょうに」
私の言葉に、自覚はあるのかライラの顔がピクリと動く。
「何のことかわかんないわね。そんなことよりも、あんたは本気で王子を狙ってないんでしょうね?油断させておいて漁夫の利を狙おうとか考えてないでしょうね?」
「そんなくだらないこと考えてません」
全く妙なことに気が回る子だこと。
「本当に本当なんでしょうね」
「本当です」
「じゃあ、どうして今日のお茶会に参加したのよ」
「お母様に言われたからに決まっているじゃないですか」
「ゲームの中ではあんたは、お義母様の事を嫌ってたじゃない」
「ええ、近親相姦するほどに。だからこそ、その情報を知っている私は、お母様の味方であろうと思っているのです」
私の言葉にとりあえず納得したのか、この件についてはこれ以上の質問はなかった。
話していて楽しい話しでもないしね。近親相姦した父娘の話なんて。
「じゃあとりあえず、私は王子に手紙を書いて城下見学をしてみませんかっていえばいいわけね」
「どうしてそうなるのですか」
「だって、そうしないと王子がお城から出てこないじゃない」
なるほど、確かにその通りかも。
その時は私を巻き込まないで欲しいものだ。
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