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十歳編

魔法省の任務4

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 だってそうだろう。ニンフに攫われるわけじゃないのだし、ニンフとの間に子供が生まれるかもしれないが、むしろその子供の方が好ましいと受け入れられるに決まっている。
 精霊の血が混ざっているというのは、それだけ魔法が上手に使えるということだ、実際にデュシル家の先祖にも精霊の血が混ざった人がいる。
 だからなのか、デュシル家の人間には魔法適性の高い人間が多く輩出されるのだ。
 私などはそのせいで、「魔力過剰症」になってしまったので、良かれ悪しかれといった具合だろう。
 私は精霊王や他の精霊の協力のおかげで死なずに済んだが、脳内出血で死んだ人もいるほど恐ろしい病気なのだ、「魔力過剰症」というものは。

「それと、アリスに次の仕事を持ってきたんだ」
「まあ、次の仕事ですか」

 ライラのことで心配なのも事実なのだろうが、本命は仕事の方だろう。

「ああ、Eクラスの冒険者グループと一緒に一週間の遠征に出て欲しいんだ」
「一週間の遠征ですか。魔物退治か何かですか?」
「ああ、ここの所ゴブリンが増えてきているからな、国も本腰を上げて狩りに出ているといった感じなんだ」
「そうなのですか。わかりました」

 ゴブリン狩りは決して難易度の高い依頼ではないが、油断をすればこちらがやられてしまうというリスクもある。
 もっとも、私は六人の加護があるため問題はないだろうが、一緒に行くパーティーメンバーの方が問題だ。脱落者を出すわけにはいかない。
 Eクラスの冒険者と言えば、まだ駆け出しをやっと抜け出したといった具合だろうか。魔法省に務め始めたばかりの私にしては少し上の人をあてがわれた感じだ。
 やはり大切に扱われているのだろう。
 あとは、私の実力を測っているという側面もあるのかもしれない。
 正直、SSSクラスの冒険者と一緒に冒険しても大丈夫な実力はあるというか、加護はあるのだが、言わないでおいた方がいいんだろうな。
 それに、魔法省とは言え、そんな化け物クラスの魔術師が居るなんて、しかも十歳だなんて不安が民衆に広まってしまうに違いない。
 爆弾を王都の内部に抱え込んでいるようなものだ。
 まあ、爆発なんかしないいんだけどねえ、過ぎたるものを持った時って人って不安になる物じゃない?

「わかりました。そのお仕事お受けいたします」
「そうか、じゃあそのことは俺の方から上に伝えておこう」
「よろしくお願いします」
「ところで、ライラの方は本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。ライラも自分なりにハンス王子を射止めようとしているんです」
「堕とすの間違いだろう?」

 射止めると、堕とす、目的は同じでも言い方次第でこうも印象が変わるものなんだなあ。

「どちらでも同じですよ」
「だいぶ変わってくるさ。まあ、いいけどな。アリスに問題がなければそれで」
「サルバドール兄様も私に随分と甘いですよね」
「それはそうだろう。たった一人の同母の妹だ」
「ライラは異母妹ですものね」
「そうだな」
「サルバドール兄様はお母様からどこまで聞いているのですか?」
「一応全部だと思うぞ」

 全部かあ、お母様のサルバドール兄様への信頼度が分かる台詞だなあ。
 私の話とか、結構ぶっ飛んでるんだけど、それでも話しちゃえる信頼関係っていいと思うよ。

「そうですか。前世の事とか、よく受け入れることが出来ましたね」
「前世の記憶を持って生まれる人がいることは、稀にあることだからな。まあ、奇跡と言われてはいるが無い事ではないさ」
「そうですか」

 懐が広い人だと思う。本当に彼女がいないのがおしいなあ。
 ともあれ、次の仕事はEクラスの冒険者パーティーに加わってゴブリン退治だ。
 なんだか、ファンタジー世界って感じでいいんじゃないだろうか。前世でも魔物はいたけど、あんまり接触してなかったしね。

 翌日、私はサルバドール兄様に見送られて、魔法省を出ると、城下街にある冒険者ギルドに向かった。
 冒険者ギルドは、街で一番大きな建物で、中に入るとざわついていた空気がシン、と静まり返った。
 明らかに浮いている私が原因だろうけれども、私も仕事でここに来ているのだし、悪いけれどもかまってあげている暇はない。
 すぐさま受付に向かうと、目線の高さにちょうどあるカウンターを覗き込むように見る。

「魔法省より派遣されてきました、アイリス=フォンネル=デュシルです。本日より、Eランクの冒険者さんとパーティーを組む様に言われてきました」
「えっはい。……貴女が?」
「なにか?」
「いえ、お聞きしております。お相手のパーティーもすでに待機所に来ていらっしゃいますのでご案内いたします」

 受付のお姉さんがカウンターの中から出てきて案内してくれるようだ。
 それにしても、冒険者といえば荒くれ者が多いイメージだったが、ここを見る限りそんなことはないようだ。
 うん、偏見は良くないな。
 魔法省の人間だって、根暗の魔法オタクとか言われてるんだしね、お互い様って言うところもあるけど、こうして個人間では交流があるんだよねえ。
 問題は上だよ上。縄張り意識っていうの?そういうのがあるみたいで揉めてるみたいなんだよね。
 何の縄張り争いなのかは知らないけどね。
 案内された先は、ギルドに併設されている酒場のような場所で、ここには少し荒くれ者っぽい人たちがいる。
 さっきの場所はどちらかって言うと受付兼カフェって感じだったからなあ、余計にそう感じるのかも。

「こちらの方々です。皆さん、この方が今回パーティーに参加して下さる、アイリス=フォンネル=デュシルさんです」
「初めまして、アイリスです」

 私を見た冒険者四人が呆然とした顔になっている。そりゃそうだよねえ、いきなり子供が来たら驚くよねえ。

「おい、パティ。こりゃなんの冗談だ?」
「そうだぜ。こんな可愛らしい嬢ちゃんが魔術師なわけないだろう」
「そうよ、少なくともあと十年は先ってところじゃないの?」
「うんうん」
「いいえ皆さん、間違いではありません。アイリスさんは十歳ながらに魔術師としての才能を開花させた特殊なお子さんなのです」

 褒め殺しとはこの事だろうか?まあ、このぐらいは言われ慣れちゃったからどうってことはないんだけどね。

「マジかよ」
「驚かれるかもしれませんが、これでもデュシル家の娘ですし、修行は精霊の聖域で精霊様方に付けてもらいました。6エレメントの加護もあります。ですから、背中は任せてください」
「ちょっ、そんな子がなんでウチみたいな駆け出しを卒業したばっかりのようなパーティーに入るのよ! もっと上のパーティーに入りなさいよ!」

 そうだよねー、そう思っちゃうよねえ。私もそう思うもん、もっと上の方と組ませてくれー! って。
 まあ、上も私の扱いには戸惑っている面もあるんだろうなあ。
 精霊の聖域で今までも修行した魔術師はいたけど、流石に十歳でっていうのはないもんね。
 私の場合「魔力過剰症」のせいと、ウィル達がかなり強引に予定を組んだせいなんだけど。

「上層部も、私の扱いには困っているようです」
「なるほどなあ。俺らでその実力を見たいってわけか」
「そうだと思います」
「へえ~、そうなんだ! あ、僕はパックだよ」
「よろしくお願いします、パックさん」
「さんとかいらないよ。呼び捨てでいいよ。他の皆もそれでいいよ」
「分かりました、パック」
「俺はアレックスだ」
「アタシはパトリシアよ」
「そんでおいらがパウロだ、よろしくな嬢ちゃん」

 なるほど、魔術師がいないから、魔法省に魔術師を要請したのね。
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