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十歳編
疑惑の王子5
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『ハンス=トラントゥールの行動を知りたい?』
その日の夜、私はスクリーン越しにいつものように邂逅している精霊王に、ハンス王子のことを話してみた。
『もしくは、ハンス王子の中の人が誰なのか、ご存じなのでしたら教えていただきたいのですが……』
『ハンスの中身か……ふむ、この世界ではあるが、枝葉の別れた世界のそなたの父親の魂が混ざり込んでいるようであるな』
『やっぱり!』
最初から精霊王に聞いておけば早かったな、と思う。もっとも、こんなチート技みたいなことが出来るのも恋人特権だけどね。
それにしても、やっぱり邪父が中に入っていたのか。そうなると、ライラにも婚約として薦めるのもどうかなあって思ってしまう。
邪父の目的はわからないけれども、私とライラの両方を手に入れることだとしたら、既にその計画は破綻しているし、諦めてもらうしかない。
けれども、邪父はきっとそんなことは知らないのだろうし、このまま無駄な計画を進めていくのかもしれない。
いっそ私も記憶持ちだとカミングアウトしてしまおうか?そして精霊王の恋人になったというのも言ってしまおうか?
それですべてが解決するかもしれないし、自棄になった邪父が何かをするかもしれない。
ライラに何かをされるのなら私には被害がないので構わないのだけれども、私に何かをされた場合、六精霊と精霊王が黙ってはいないので、甚大なる被害が出てしまうことは間違いない。
まあ、ライラも一応異母姉妹だし気に掛けるぐらいのことはしてあげてもいいんだけど、今は邪父をどうにかしないといけない気がするんだよね。
とはいえ、精霊王から言われましたって言っただけでは、私の一人芝居だと言われてしまうかもしれない。
一応私は天才少女として名高いが、相手は一国の王子なのだ。立場が違う。
ハンス王子が違うと否定すれば、そちらの方が信じられてしまうだろう。
私の処刑が早まってしまうだけかもしれない。
うーん、どうしたものか。
いっそのこと逃げちゃう? 逃げちゃうのもありだよねえ。
『精霊の聖域では、時の流れがひどくゆっくりですけれども、というか、ほとんど流れてないようなものですけれども、それでも時間は確実に流れているんですよね?』
『うむ』
『でしたら、私がそちらに行った場合、精霊王様に相応しい体になるのにかかる年月はどのぐらいでしょうか?』
『こちらの時間で千年と言ったところか』
『千年……』
それはあまりにも長い歳月だ。流石に精神が摩耗してしまうかもしれない。
それならば、こちらで数年過ごして精霊王の相手をするのにふさわしい体つきになってから精霊の聖域に行ったほうがいい気がしてきた。
しかしそれまでの生活はどうする?
国を出てしまって、自由気ままに冒険者ライフを送るのもいいかもしれない。
もともと、派遣魔術師をメインで請け負っているんだし、いつでも冒険者になれる経験値は積んでるよね。
『どうしたアリス』
『いえ、私がこちらの世界で精霊王に相応しい体になってから精霊の聖域に行くとしても、それまでどうやって過ごそうかと考えていました』
『ふむ。私は今からでも構わないのだが?』
『流石に千年もプラトニックでは、私の気がおかしくなってしまいます』
『そういうものなのか?』
『そういうものなのです』
『女にこんなことを言わせるだなんて、そのような子に育てた覚えはありませんわ!』
『まったくです。女性のこういった機敏も察することが出来ないなんて、情けない』
『ウィル・オー・ウィスプ、ウィンディーネ、私は何かおかしなことを言ったのか?』
『あとでじっくりとご説明いたしますわ』
『ええ、じっくりと』
うわっ精霊王、気の毒。ウィル達からのお説教とか怖いよなあ。
『とにかく、私はいましばらくはこちら側で生活することになりますが、邪父……ハンス王子の中の人が、何をするのかが分からないのが怖いですね』
『アリスに関しては私どもがいますもの、何があっても大丈夫ですわよ』
『その何があっても大丈夫が恐ろしいのですよね。私を守るためなら何でもするというふうにも聞こえます』
『そのつもりですわよ』
ですよねー。確認しておいてよかったわ。
『私一人を助けるために、周辺一帯を焼け野原にするとか、そういうことは止めて欲しいんです』
『え! だめなのか?』
する気だったんかい!
サラマンダーががっかりしたように肩を落としている。
ウィンディーネがツッコミを入れないところを見ると、ウィンディーネも似たようなことを考えていたのだろう。
他の面子も似たようなことを考えていたのか、黙りこくってしまった。
言っておいてよかったぁ。
『皆様、情けないですわね』
『ウィル、ウィルだけは違うって信じてました』
『死んでも蘇らせればよろしいではありませんか』
『……それもどうかと』
死にたくないでござる。
というか、私の場合、死ぬと次の人生に自動的に移動したりするんじゃないのかな?
そこの所、今回はどうなっているんだろう?
蘇生システムがあった人生では、一応死なない様に生きてたし、わかんないんだよね。
『それも駄目なのですか?難しいですわね。冒険者になりましたら、死は背中合わせですわよ?』
『誰もまだ冒険者になるとは言っていませんよ?』
『顔に書いてありますわ』
『え』
ソフィアばりのスキルをウィルも取得してしまったのだろうか?
『まあ、普通に考えて、王子に歯向かうとなれば、国を出ると考えるのが普通でござる故、冒険者になるという考えはすぐに出てくるでござるよ』
あ、なるほど。
シェイドの捕捉で納得する。私の顔色を見分けることが出来るのは、ソフィアだけで十分なんだからね!
私はベッドに腰かけた姿勢のまま、スクリーン状の精霊王に手を伸ばすと、触れた部分がほんのり暖かくなる。
そこだけ実体化してくれたのだろう。器用なものだと思うが、これもまたファンタジーならではの醍醐味という物だ。
しかし、邪父の方は本当にどうしたものか。
ライラにも中身の話をしたほうがいいかもしれない。中身が邪父だと知れば、ライラもハンス王子へのアタックをやめて城への行儀見習いをやめて家に戻ってくるか、仕える部屋を変えてもらうように頼むかもしれない。
『精霊王様、私がしようとしていることは間違っているのでしょうか?』
『アリスが何をしようと私はアリスを応援するぞ』
『ありがとうございます』
ある意味頼もしい味方が出来たが、精霊王を見ることが出来る人間なんて、世界中を探してもほんの十数人しかいないんだからなあ。
気配だけを感じるならもっと膨れがるんだけど。気配だけじゃ言葉が分からないから駄目だよね。
精霊の聖域に招けば、それなりに見ることが出来るようになる人も増えるんだろうけどさぁ、あそこにあんまり人を立ち入れさせたくないんだよね。
うーん、難しいなあ。ハンス王子は自分が記憶持ちじゃないって言っちゃっているし、そのスタンスを貫くつもりなんだろうなあ。
でも、それって難しくない?中に人がいるっていうことは、もうハンス王子がハンス王子じゃなくて邪父っていう事なんだから、どう頑張ってもハンス王子にはなれないんだよね。
どんなに綿密にシナリオを組んでも、中にいる人が違ったら、成功しないんじゃないかな。
実際にライラの書いたシナリオだって穴だらけだったし。
まあ、ライラの場合は書いた本人の才能がないだけなのかもしれないんだけどね。
それにしても、無理があるよねやっぱり……。
その日の夜、私はスクリーン越しにいつものように邂逅している精霊王に、ハンス王子のことを話してみた。
『もしくは、ハンス王子の中の人が誰なのか、ご存じなのでしたら教えていただきたいのですが……』
『ハンスの中身か……ふむ、この世界ではあるが、枝葉の別れた世界のそなたの父親の魂が混ざり込んでいるようであるな』
『やっぱり!』
最初から精霊王に聞いておけば早かったな、と思う。もっとも、こんなチート技みたいなことが出来るのも恋人特権だけどね。
それにしても、やっぱり邪父が中に入っていたのか。そうなると、ライラにも婚約として薦めるのもどうかなあって思ってしまう。
邪父の目的はわからないけれども、私とライラの両方を手に入れることだとしたら、既にその計画は破綻しているし、諦めてもらうしかない。
けれども、邪父はきっとそんなことは知らないのだろうし、このまま無駄な計画を進めていくのかもしれない。
いっそ私も記憶持ちだとカミングアウトしてしまおうか?そして精霊王の恋人になったというのも言ってしまおうか?
それですべてが解決するかもしれないし、自棄になった邪父が何かをするかもしれない。
ライラに何かをされるのなら私には被害がないので構わないのだけれども、私に何かをされた場合、六精霊と精霊王が黙ってはいないので、甚大なる被害が出てしまうことは間違いない。
まあ、ライラも一応異母姉妹だし気に掛けるぐらいのことはしてあげてもいいんだけど、今は邪父をどうにかしないといけない気がするんだよね。
とはいえ、精霊王から言われましたって言っただけでは、私の一人芝居だと言われてしまうかもしれない。
一応私は天才少女として名高いが、相手は一国の王子なのだ。立場が違う。
ハンス王子が違うと否定すれば、そちらの方が信じられてしまうだろう。
私の処刑が早まってしまうだけかもしれない。
うーん、どうしたものか。
いっそのこと逃げちゃう? 逃げちゃうのもありだよねえ。
『精霊の聖域では、時の流れがひどくゆっくりですけれども、というか、ほとんど流れてないようなものですけれども、それでも時間は確実に流れているんですよね?』
『うむ』
『でしたら、私がそちらに行った場合、精霊王様に相応しい体になるのにかかる年月はどのぐらいでしょうか?』
『こちらの時間で千年と言ったところか』
『千年……』
それはあまりにも長い歳月だ。流石に精神が摩耗してしまうかもしれない。
それならば、こちらで数年過ごして精霊王の相手をするのにふさわしい体つきになってから精霊の聖域に行ったほうがいい気がしてきた。
しかしそれまでの生活はどうする?
国を出てしまって、自由気ままに冒険者ライフを送るのもいいかもしれない。
もともと、派遣魔術師をメインで請け負っているんだし、いつでも冒険者になれる経験値は積んでるよね。
『どうしたアリス』
『いえ、私がこちらの世界で精霊王に相応しい体になってから精霊の聖域に行くとしても、それまでどうやって過ごそうかと考えていました』
『ふむ。私は今からでも構わないのだが?』
『流石に千年もプラトニックでは、私の気がおかしくなってしまいます』
『そういうものなのか?』
『そういうものなのです』
『女にこんなことを言わせるだなんて、そのような子に育てた覚えはありませんわ!』
『まったくです。女性のこういった機敏も察することが出来ないなんて、情けない』
『ウィル・オー・ウィスプ、ウィンディーネ、私は何かおかしなことを言ったのか?』
『あとでじっくりとご説明いたしますわ』
『ええ、じっくりと』
うわっ精霊王、気の毒。ウィル達からのお説教とか怖いよなあ。
『とにかく、私はいましばらくはこちら側で生活することになりますが、邪父……ハンス王子の中の人が、何をするのかが分からないのが怖いですね』
『アリスに関しては私どもがいますもの、何があっても大丈夫ですわよ』
『その何があっても大丈夫が恐ろしいのですよね。私を守るためなら何でもするというふうにも聞こえます』
『そのつもりですわよ』
ですよねー。確認しておいてよかったわ。
『私一人を助けるために、周辺一帯を焼け野原にするとか、そういうことは止めて欲しいんです』
『え! だめなのか?』
する気だったんかい!
サラマンダーががっかりしたように肩を落としている。
ウィンディーネがツッコミを入れないところを見ると、ウィンディーネも似たようなことを考えていたのだろう。
他の面子も似たようなことを考えていたのか、黙りこくってしまった。
言っておいてよかったぁ。
『皆様、情けないですわね』
『ウィル、ウィルだけは違うって信じてました』
『死んでも蘇らせればよろしいではありませんか』
『……それもどうかと』
死にたくないでござる。
というか、私の場合、死ぬと次の人生に自動的に移動したりするんじゃないのかな?
そこの所、今回はどうなっているんだろう?
蘇生システムがあった人生では、一応死なない様に生きてたし、わかんないんだよね。
『それも駄目なのですか?難しいですわね。冒険者になりましたら、死は背中合わせですわよ?』
『誰もまだ冒険者になるとは言っていませんよ?』
『顔に書いてありますわ』
『え』
ソフィアばりのスキルをウィルも取得してしまったのだろうか?
『まあ、普通に考えて、王子に歯向かうとなれば、国を出ると考えるのが普通でござる故、冒険者になるという考えはすぐに出てくるでござるよ』
あ、なるほど。
シェイドの捕捉で納得する。私の顔色を見分けることが出来るのは、ソフィアだけで十分なんだからね!
私はベッドに腰かけた姿勢のまま、スクリーン状の精霊王に手を伸ばすと、触れた部分がほんのり暖かくなる。
そこだけ実体化してくれたのだろう。器用なものだと思うが、これもまたファンタジーならではの醍醐味という物だ。
しかし、邪父の方は本当にどうしたものか。
ライラにも中身の話をしたほうがいいかもしれない。中身が邪父だと知れば、ライラもハンス王子へのアタックをやめて城への行儀見習いをやめて家に戻ってくるか、仕える部屋を変えてもらうように頼むかもしれない。
『精霊王様、私がしようとしていることは間違っているのでしょうか?』
『アリスが何をしようと私はアリスを応援するぞ』
『ありがとうございます』
ある意味頼もしい味方が出来たが、精霊王を見ることが出来る人間なんて、世界中を探してもほんの十数人しかいないんだからなあ。
気配だけを感じるならもっと膨れがるんだけど。気配だけじゃ言葉が分からないから駄目だよね。
精霊の聖域に招けば、それなりに見ることが出来るようになる人も増えるんだろうけどさぁ、あそこにあんまり人を立ち入れさせたくないんだよね。
うーん、難しいなあ。ハンス王子は自分が記憶持ちじゃないって言っちゃっているし、そのスタンスを貫くつもりなんだろうなあ。
でも、それって難しくない?中に人がいるっていうことは、もうハンス王子がハンス王子じゃなくて邪父っていう事なんだから、どう頑張ってもハンス王子にはなれないんだよね。
どんなに綿密にシナリオを組んでも、中にいる人が違ったら、成功しないんじゃないかな。
実際にライラの書いたシナリオだって穴だらけだったし。
まあ、ライラの場合は書いた本人の才能がないだけなのかもしれないんだけどね。
それにしても、無理があるよねやっぱり……。
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