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第二章 動き始める人間関係

身代わりの耳飾り

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「シンヤ様、お待たせしてしまったでしょうか?」
「いいや、楽しみで俺が先に来てしまっていただけだよ」
「ふふ、楽しみと言っていただけるのは嬉しいですわね。今日は焼きプリンを作りましたの」
「それはますます楽しみだ」

 わたくしはシンヤ様が差し出してきた手の上に自分の手を重ねて拠点に戻るように念じます。
 他人の拠点に行く時は、その拠点の住人に触れている状態で、行きたい拠点の事を思い描けばよいという事が発覚したのは結構前の事ですが、自分の拠点に人を招くことをよく思わない方もいらっしゃるようですが、わたくしは人を招くことに抵抗感はありません。
 これも育ちの差と言うものなのかもしれませんね。
 わたくしの拠点に入りますと、シンヤ様は相変わらず感心したようにリビングを眺めます。
 わたくしにとって見たら何ともない部屋なのですが、シンヤ様から見ると豪華な部屋なのだそうです。

「さあ、ソファーにおかけになってください。お茶とプリンをお持ちいたしますわ」
「ああ、ありがとう」

 わたくしがそう言ってシンヤ様にソファーを薦めている間、ネーロ達はリビングの椅子に座っております。
 ソファーに座っていても構わないのですが、クインゼル様とエッシャル様がいらっしゃる時もこのような感じなので、わたくし以外とあまり仲良くする気がないのでしょうか?
 ナティルにとってはクインゼル様とエッシャル様は親のようなものですので、仲良くしていただきたいのですが、難しいですわね。
 お茶をソファーの所に運んでローテーブルに並べてプリンも一緒に出しますと、シンヤ様が「ありがとう」とおっしゃってくださいました。
 シンヤ様は甘いものが好きなのだそうですが、男が甘いものを好きだなんて軟弱だと思われるから、元の世界では周囲には言わないでいたのだそうです。
 わたくしは別に男性が甘いものを好きでも構わないと思うのですが、シンヤ様の世界というのは何か男女の差別のようなものが大きい世界だったのでしょうか?

「ぬしさま、残りの焼きプリンは妾達で適当に食べてよいのじゃな?」
「ええ、自由に取ってくださいませ」

 わたくしの言葉にナティルが水出しのお茶をコップに注いで、ツバキがココットに入ったプリンをそれぞれトレイに乗せてテーブルに運んでこちらを見ながら食べ始めました。
 見ているぐらいなら混ざればいいと思うのですが、よくわかりませんね。

「うん、美味しくできてるよ」
「それはよかったですわ。料理が上手な方はアレンジと言うものをするそうですが、わたくしはレシピ通りに作るので精一杯ですわ」
「アレンジは下手すると大惨事になるよ。俺も料理は基本的なものしか出来ないしね。この世界にレトルト食品と冷凍食品があって助かったよ」
「わたくしはまだそれらを食べたことがないのですが、美味しいのですか?」
「万屋で販売されている物はそこそこの味だけど、食事会で出されるおばんざいの方がずっと美味しいよ」
「あれは確かに美味しいですわね。少し頂きましたが、神殿のコックにも劣らない味でした」
「でも、シャーレちゃんはあれでも舌に合わないって言っていたけどね」
「不思議ですわね。食べたものがたまたま食べなれない物だったのではないでしょうか? わたくしだって初めて和食を作った時は食べなれずに味見をしてもこの味でいいのか悩みましたもの」
「ああ、きんぴらごぼうを作ってみたけど味がわからないから味見して欲しいって言われたのが懐かしいな」
「ふふ、あの時のシンヤ様の顔ったら」
「いやいや、あの時のきんぴらごぼうの味がね」
「鷹の爪なるものを入れ過ぎてしまいましたのよね。わたくしは辛い物も平気ですので何とも思わなかったのですけれども」
「俺は辛いものはちょっと苦手だからびっくりしたよ」
「シンヤ様の居た世界では、男性は甘い物が好きなのがおかしくて、辛いものが得意なのが普通なのですか?」
「そんな事はないよ。ただ、俺の場合一族がそう言う所に厳しかったから、甘いものが好きだって言い出しにくかっただけ。辛いものが苦手なのは皆知っていたよ」
「そうなのですか。シンヤ様とテンマ様は従兄弟なのですよね」
「そうだよ」
「こう言っては何ですが、似ていらっしゃいませんね」
「それぞれ母親に似たから」
「いえ、性格も似ていらっしゃらないと思いまして」
「うーん、それこそ育った環境ってやつじゃないかな。テンマも色々あったし、俺もまあ、考えが浅はかだったしね」
「そうですか。それにしても、もっと早めにいらっしゃることを言ってくださっていれば、もっと手の込んだお菓子をご用意しておきましたのに、当日にご連絡をくださるなんて珍しいですわね」
「ああ、それね。ティタニアちゃんに上げたいものがあって、手に入ったから連絡したんだ」
「わたくしにですか?」
「そう、これ」

 そう言ってシンヤ様はアイテムボックスから耳飾りを取り出してきました。

「身代わり人形のピアスバージョン」
「まあ!」
「エッシャルちゃんが人形の形ばかりじゃなく他の形にしてみたいって言ったから、ピアスの形にしてみたらどうかってアドバイスをしたんだ。アドバイス料でちょっとお安く買わせてもらえたよ」
「それでもお高いでしょうに、わたくしが頂いてもよろしいのですか?」
「俺はもう持っているからね。ティタニアちゃんにはナティル君達が付いているというのはわかっているけど、今後何があるかわからないし、持っていても困らないだろう?」
「そうですわね、早速装備してみますわ」

『武器:紅宝玉の杖(右手)
 頭装備:ヴェール、足装備:鋼糸の編上げブーツ
 上半身装備・下半身装備:鋼糸のドレス
 その他:身代わりの耳飾り』

「ふふ、明日ダンジョンに出て実際につけたところを見るのが楽しみですわ。手鏡を忘れずに持って行かないといけませんわね」
「きっと似合うよ」

 それにしても、本当にこんな高価なものを頂いてもよかったのでしょうか?
 何かお返しできればいいのですけれども、シンヤ様もそれなりに稼いでいらっしゃいますので特に欲しい物はないらしいのですよね。
 かといって毎食差し入れするというのはなんだか押しつけがましい気も致しますし、何かいいお礼がないか、今度皆様に意見を聞いてみるのもいいかもしれませんね。
 そういえば、クインゼル様とエッシャル様にシンヤ様が時折わたくしのところに来てお茶をすると話したところ、なんだか意味深な笑みを浮かべられてしまいましたが何だったのでしょうか?
 シンヤ様とはお互いに他人に言えないステータスを持つ者同士という間柄ですので詳しくは言えませんが、お二人が期待しているような男女の仲ではないのですけれどもね。
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