木曜日のスイッチ

木曜日のスイッチ。

開発と中毒。

先週と同じ景色。
また私は1人で呆けている。
山崎先生は例の如く涼しい顔で先に出て行ってしまった。
どうしてあんなに余裕があるのか。
これが大人なのか。
それにしても、前回にも増して今日は凄かった…。
今日の先生、何か意地悪じゃなかった？
ちょっと楽しんでもいそうだったし…。
でもそれが凄く良くて。
刺激だけじゃなくて、そういういつもと違う一面が垣間見えた事でもスイッチが入った気がする。
優しいのに強くて。
嫌な事は絶対にしないのに逃がしてはくれなくて。
男の人との接触ってもっと奪われるばかりだと思っていた。
だから奪われても良いと思えるくらいの人としか触れ合ってはいけないと思っていたし、先生にお願いした時も私は色々と奪われる覚悟をしていた。
だけど先生との接触はずっと与えられている感覚になるから不思議だ。
貰ってばかりでは寂しくて、いつか何とかして返したいとすら思う。
有り得ないのに、先生との接触は愛に溢れている様で。
亜樹との接触とは全く違った。
与えられて満たされる感じ…。
先生の声を反芻する。
｢勝手に止めちゃっダメですよ。｣
低くて穏やかな声で。
命令じゃないのに逆らえなかった。
脳と耳の奥の境目辺りで、何度も何度もリピートされる声。
時折耳を掠める唇の感触や吐息の微風まで鮮明に再現されてしまう。
スカートの裾から、ショーツの中へ手を入れ確認すると、前回以上に濡れている。
今まで誰に触られてもこんなに濡れた事はない。
自分は濡れ難い体質なんだと思っていた。
これだけ潤っていればセックスの苦痛も減るのではないだろうか。
亜樹とのセックスでもこのくらい気持ち良くなれれば良いのに。
なんて恋人である亜樹にも、純粋に手伝ってくれている先生に対しても失礼な事を考えてしまった。
そもそも先生にこんな事お願いしている事自体が間違っていて。
それは分かっている。
だけどもう今更止める事は出来ない。
だって本当に気持ちが良い。
もう完全な中毒だ。
来週も私はここへ足を運ぶだろう。


これは本当に不味い事になった。
このままでは頭が狂ってしまう。
細谷咲が可愛い過ぎる。
声も顔も仕草も匂いも。
もう存在自体が可愛い。
脳内で忙しなく喋り続けているもう一人の自分。
そいつの語彙力が死んだ。
芸術家の端くれとして、何かに心動かされた時、その心情をありとあらゆる言葉の中から的確に表現し、それのどこに『良さ』を見出したのかを必ず分析する様にしている。
しかし、細谷咲に関してはそれが出来ない。
まるで言葉を失った動物か、欲望にだけ反応する馬鹿になってしまう。
まだ下半身が痛い。
一回発散したのに硬いままだ。
先っぽにトイレットペーパーのカスがくっついてしまっているのを指で摘んで取っていく。
｢トイレで抜くのは楽なんだけど、トイレットペーパーで拭くとこれだからな…。｣
自分のクソみたいな独り言で我に返り、無事死にたくなった。
２６歳教師が学校で女生徒の身体を弄り、その後トイレで自慰をしている状況。
死ぬ時の走馬灯に今日の場面が出てきたら、舌噛み切って強制終了させてやると心に誓った。
これだけいけない事だと理解していても、この関係を俺から終わらせる事は最早不可能だ。
今一人で止めようと決意したところで、細谷咲から懇願されたら絶対に断れない。
先週初めて接触した後は後悔した。
しかしそれはあの接触を受けて彼女に嫌われたと思い込んでいたからだ。
蓋を開けてみたらそんな事は杞憂だった。
むしろ彼女は継続する事を望んですらいる。
今日彼女が俺を待っていてくれたと分かった時に心底喜びを覚えた。
嫌われていなかったという安堵だけじゃない。
頼られ求められているという充足感。
だから完全に心が決まった。
例えどれだけいけない事だったとしても、この先も全て彼女の望む通りにすると。
それは頼られた事による満足感や、好きな子に触れる関係になれた幸運等ではなく。
俺が断ったら別の人物にお願いするのではないかという最悪の懸念だ。
それが焦りを産む。
焦って焦って、誤った選択だと分かっていいても今の選択肢をとってしまう。
彼女の身体は俺が開発する。