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指導病
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編
朝早く。散らかった畳の部屋で勝美が寝ている。
声「勝美!おきなさい!」
勝美「(いっぺんに目が覚めて)わあ、遅刻だ!急がないと、患者さんが待って
る!」
と、目覚まし時計をみると、まだ四時。
勝美「なんだ、まだ四時じゃないか。もうちょっと休ませてよ。」
と、再び横になるが、
島子「すぐに来てくれって。川口さんから。何でも自殺をはかったらしい。救
命病院で、胃を洗浄してもらったから、命に別状はないけれど、きてほしいっ
て、電話があったのよ。」
勝美「自殺未遂?患者は?」
島子「何でも、学校の先生ですって。」
勝美「はあ。生徒が自殺を図る例は多いけど、、、。」
島子「とにかく行きなさい!ここでああだこうだ言ってないで、あんたはそも
そも医者なんだから!」
勝美「おう、わかったよ。」
島子「しっかりしなさいね。」
勝美「いってきます!」
と、ジャージに着替えて家を飛び出していく。
島子「あーあ、お父さん、これでは自立なんて当分無理ね。」
と、夫の遺影に声を掛ける。
森病院
勝美が診察室に飛び込んでくる。
川口「ああ、先生、珍しく遅刻をしませんでしたね。」
勝美「それはいうな。とにかく患者は?」
川口「ええ、一時間ほど前にこちらに来ました。今は保護室で眠っています。」
勝美「名前とか、住所は?」
川口「はい、青柳青洲さん。26歳。職業は高校教師です。」
勝美「高校教師!しかもまだ若いじゃないか。担当の科目とかは、」
川口「ええ、保健体育を教えていたと聞きました。」
勝美「保健体育か、、、。窓際に追いやられやすい科目だよな。」
川口「しかも、箱根駅伝まで出たそうですよ。日本体育大学の、大学院まで
いったんだそうです。」
勝美「それなら、高校教師なんてもったいないでしょうが。箱根駅伝を走っ
たなんて、どこかの実業団にでも、入ればよかったのに。」
川口「まあ、人には人の事情がありますからねえ。とりあえず、私たちは彼
を助けることに全力を尽くしましょう。」
勝美「そうだな。」
看護師「先生、青柳さんの意識が戻りそうなんです。来てくれませんか?」
勝美「はい、わかったよ、すぐ行くから!」
川口「私も一緒に行きます。」
二人、精神科救急病棟に行き、保護室に入る。
看護師が、急いで保護室の戸を開ける。
眠っていた、患者、青柳青洲の目が開く。しかし、その目はうつろである。
青洲「あ、あれ、、、。」
勝美「こんにちは。僕は精神科医の朝日勝美です。ここは、精神科森病院。
僕たちは、貴方の心の辛さを取り除くお手伝いをします。どうぞよろしく、
お願いしますね。」
と、右腕を差し出す。しかし、青洲は天井をみつめたまま。
川口「どうしたんですか?」
青洲「見えない、、、。」
と言い、右手を高くあげ、顔の前で動かすが、
青洲「見えない、、、。見えない、、、。見えない、、、。見えない!」
と、両手で顔を覆って泣き出す。
川口「ああ、なるほど。飲んだ薬品で目をやられたんですね。体のほかも
やられたかもしれませんね。青洲さん、ちょっと、たってみてくれません
か?」
青洲「ええ、、、。」
と起き上がろうとするが、下半身に力が入らなくなったらしく、いくら起
きあがろうとしても、できないのである。
勝美「立つ事もできないのか。相当強力なものを使ったんだね。一体何を
用いたんです?」
青洲「曼陀羅華、、、。」
勝美「まんだらけ?なんだそれは。」
川口「もう、先生、しっかりしてくださいよ。曼陀羅華といえば、だちゅ
らですよ。江戸時代の医者を知らないんですか?そういえば同じ名前。」
勝美「わかった!あれか!ああ、僕が尊敬している華岡先生!確か、奥様
が失明してしまったとか。おんなじことをやったんだね!しかし、、、そ
んなことに使っては、華岡先生も泣くよ。で、だちゅらをどこで入手した
の?」
青洲「うちに生えてました。僕の祖母が面白半分で買ってきたんです。」
川口「でも、助かってよかったわね。」
青洲「いえ、僕は死ぬべきなんですよ。僕は、何の罪もない生徒を殺して
しまったんだもの。」
川口「ころした?何をしたんですか?」
青洲「何をしたんでしょう、、、。それが、、、思い出せないんです。」
勝美「だちゅらが、一時的に記憶をけしたんだな。これを取り戻すのは、
至難の業だぞ。」
川口「そうですね、すぐに川島先生や、高橋さんに伝えましょう。こうい
う人には、科学よりもスピリチュアルな世界のほうが、早く楽になるかも
しれません。」
勝美「そうだね、今回は引き下がったほうがいいな。よし、とりあえず、
解毒剤を服用してください。そして、記憶を取り戻していきましょう。」
と、青洲の肩を支えてやる。
ナースステイション
慎一「なるほどねえ。だちゅらで自殺か。しかも若い教師とは。日本も
貧しい国になったもんだねえ。」
龍一「しかし、なぜ朝鮮朝顔なんだろう。もし、本当に自殺するなら、
トリカブトのほうが効き目は早いはずだけど。」
勝美「だから、家に生えていたんだってば。」
龍一「でもさ、あの植物は、大体園芸植物だから、野生でそこいらに生え
ている確立は低いよね。トリカブトのほうが、野草なんだから、それをと
ってくるほうが、手っ取りばやいだろ。それに、トリカブトのほうが、ど
こを食べても毒性は強いよ。自殺をしたいのなら、楽な方法をえらぶけど
な。」
勝美「うーん。野草については詳しくないからなあ、、、。」
龍一「おまえ、そのくらい知らないでどうするんだ。前にトリカブト事件
というのもあったんだから。」
勝美「あったかもしれないけど、忘れたよ。患者さんが多すぎて。それよ
りも、龍一のセラピーで、彼のなくした記憶を取り戻すことはできるんだ
ろうか。」
龍一「まあ、それは無理だろうな。潜在意識に働きかけることは、可能だ
けれど。」
慎一「そうか、、、。それはできないか。」
龍一「うん、流石に。人間は結局のところ後ろへは進めないからね。」
勝美「前代未聞だ。彼にもう一度生きようという気持ちになってもらうに
は、どうしたらいいものか。」
慎一「そうだよなあ。難しい問題だよね。できれば、へんな騒動になって
もらいたくないけど。」
勝美「まあ、がんばってもらうしかないだろう。」
三人とも、ため息をつく。
静岡県立吉永高校。
スカートを尻まで見えるほど、短くしている女子生徒と、ズボンを腰では
き、だぼだぼにしている男子生徒。誰も勉強に興味はなさそうにない。授
業中も、教師の話しを聞いている生徒は誰一人いなかった。
教師「こら、黙れ!」
と、教卓を叩く。
教師「話を聞かないと、お前たちの人生は終わりになるんだぞ!お前たち
は、金がないという設定で生きているんだ。だから、俺たちが指導してや
っているのを、ありがたく思え!」
その教室には、一つだけ空席がある。まだ、道具箱も残っている。
教師「窪田の机は、明日撤去するからな。安心しろ。」
隣の席に座っていた高田咲という女子生徒は、その机の方へ目をやる。
教師「気にしなくていいと言ったはずだ。」
咲「高瀬先生。」
高瀬「なんだ。」
咲「もう少し、千恵が、もどってくるまで待っていてあげませんか?」
高瀬「馬鹿なことを言うんでない!いいか、こいつは、正しい生き方を俺
が教えてやっているのに、それを拒否した馬鹿な女だぞ。今頃、吉原で、
体を売っているだろう。」
咲「そんなこと、絶対ありません。千恵が、そんなことをするはずがあり
ません。」
高瀬「黙れ!正しい生き方ができなかったらな!お前も刑務所に行くしか、
食事にありつくことはできないぞ!」
咲「正しい生き方ってなんですか?」
と、言うことはできたものの、咲は高瀬の顔を見て、
咲「御免なさい!」
と、土下座する。そうしないと何が起こるか、彼女も知っている。たまっ
たものではない。それが千恵の不登校の原因でもあるのだ。
その日の放課後。咲は吉永高校を出る。彼女も本来なら泣き出してしまい
たいのである。
声「こんにちは。吉永高校の生徒さんですね。」
咲「あの、あなたは、、、。」
龍之介「こういうものです。決して怪しいものではありません。」
と、名刺を手渡す。
咲「学校心理士さんですか。では、カウンセリングとかしているのですか。」
龍之介「ええ。生徒さんの問題を解決するため、学校生活の調査をしてい
ます。」
咲「そうですか。千恵のことでしょうか?」
龍之介「いや、こちらで保健体育を教えていた、青柳青洲先生のことです。」
咲「あ、青柳!先生は助かったんですか?」
龍之介「場所を変えましょう。静かなカフェなどは、近くにありませんか?」
咲「はい、私知ってます!来て下さい。」
二人は、五分ほど歩き、「上島コーヒー店」という看板の店に入り、席に
つく。
咲「あの、先生はどうされたんですか?もしかしたら、、、。」
龍之介「ええ、幸い、一命はとりとめました。でも、毒の成分で、歩行不
能ですし、失明してもいます。」
咲「そんな、、、。でも、亡くならないでよかった。高瀬先生は、あいつ
は死んだと言いふらしていたんです。」
龍之介「それは困りますね。変な情報に紛らわされないように気をつけて
ください。」
咲「ごめんなさい、、、。でも、先生が生きていてくれて、私、本当に嬉
しいです!」
龍之介「人気者だったのですか?」
咲「何でも話を聞いてくれたから。自分は体育教師だから、どうせ受験に
関わることはできないって言っていたけど、その代わり、はなしを聞いて
くれるっていって、私、何回も先生にはなしを聞いてもらっていたんです。」
龍之介「心を癒す存在だったんですね。」
咲「ええ、特に千恵は、とても喜んでいました。」
龍之介「失礼ですが、千恵さんとは?」
咲「私の親友です。知り合ったのは高校からでしたけど、組替えもないの
で、いつも一緒にいました。千恵のピアノで歌を歌うのは、何よりも楽し
みでした。私も千恵も、仕事にならない大学を志望したので、ああして高
瀬先生なんかに叱られてばっかりでしたけど。でも、千恵は、学校に来れ
なくなったんです。」
龍之介「いつからですか?」
咲「三年生になってからです。ゴールデンウイークが終わった時には、も
う姿を見せなくなりました。時々体育の時間にたおれたりしていましたの
で、青柳先生が心配していたんです。」
龍之介「なるほど。千恵さんは、精神科のような場所には行きましたか?」
咲「わかりません。彼女に最近電話しても出ないし、親御さんも私とは、
話したくないみたいで。」
龍之介「わかりました。今のこと、治療の一部として、病院で話してもい
いですか?」
咲「ええ、お願いします。できれば、もう一度戻ってきてくれと伝えてく
ださい。」
龍之介「それは難しいかもしれないけど、何とかしてみますよ。」
咲「はい、ありがとうございます。あ、そろそろ、塾に行かなきゃ。」
龍之介「ああ、大変だね。体を壊さないように、無理しないで行ってくだ
さいよ。」
咲「ありがとうございます。又なにかあったら、こちらに電話ください。」
と、彼女は手帳をやぶって、自分の電話番号を書き、龍之介に渡す。
龍之介「ありがとう。ここの料金は払っておくよ。」
咲「あ、ありがとうございます。失礼します。」
と、小走りに出て行く。
森病院談話室。
勝美「へえ、人気者だったんだね。確かに体育の先生は、居場所がない高
校もあるよね。」
紘一「それに、千恵さんという生徒も気になります。」
勝美「うん、確かにそうだ。阿部さんにその生徒について調べてもらおう。」
看護師「朝日先生、お電話です。」
勝美「誰から?」
看護師「警視さんからですよ。何でもまた、殺人事件があったらしくて。」
勝美「わかったよ。うるさいな。」
と、言いながら、談話室を出て行く。受付で受話器を受け取り、
勝美「はいはい、かわりました。又変な事件でも、おきたんですか?」
久保「はい、じつはですね。吉永高校の掃除人の女性が殺害されました。
遺体は、河川敷の土手の上で、見つかりましてね、その周りは、トリカブ
トが生えておりました。それについて、聞きたいことがあります。先生の
ところに、青柳という教師がいるとおもうんですが。」
勝美「あのねえ、患者さんのことをおおっぴらに言ったら、かわいそうで
すよ。」
久保「でもですね、彼は重大な鍵を持っている筈です。だって、だちゅら
により自殺を図っていますよね。で、掃除人の女性、羽田法代さんの死因
は、トリカブトによるものだと考えられています。」
勝美「えっ!だれがそんなことを?」
久保「はい、それはまだわからないのです。先日あった、トリカブト事件
とよくにているとおもったら、保険金目的でも何でもありません。羽田さ
んは独身ですし、交際していた人もいなかったようです。親戚縁で問題が
あったわけでもありません。吉永高校では、青柳さんが自殺未遂をはかっ
て、数日しかたっていないのに、この事件ですから、大騒ぎになっていま
す。それで、青柳さんにお話を聞きたいのですが。」
勝美「おあいにく様。それはちょっとむりですね。彼は、だちゅらの毒の
せいで、殆ど記憶をなくしました。お話されたら、混乱してしまうかもし
れません。」
久保「そうですか、、、。何か知ってるとおもったんだけどなあ。まあ、
先生の言うことだから、それは厳守しますよ。また、電話します。」
と電話は切れる。
病棟、保護室。
朗「僕は何でも聞きますからね。苦しかったことを、全部話してください。」
青洲「はい、、、。高瀬が、、、高瀬が、、、高瀬が、、、。」
朗「ゆっくりでいいですよ。思い出してください。」
青洲「確か、千恵さんという生徒がいて、、、。」
朗「千恵さんとは、どんな人ですか?」
青洲「どうだっただろう。確か、服装が悪いと高瀬に、、、。」
朗「高瀬とは誰ですか?」
青洲「思い出せない、、、。」
と、顔を覆って泣き出す。
朗「じゃあ、今日はお休みしましょうか。ゆっくり休んでくださいね。」
と、保護室を出て行く。
ナースステイション
美紀「お帰り、朗君。」
朗「本当にかわいそうですね。」
美紀「だれがだ。」
朗「青柳さんですよ。相当やられてますね、致死量にいたるぎりぎりの処
だったのかなあ。」
美紀「まあ、毒性は強いからなあ。」
朗「美紀さんの回想法で、思い出させてあげることはできませんか?」
美紀「うん、僕が習ったのは、お年寄りに対するものだったからなあ。」
朗「それでは、できないですよね、、、。どうやったら、あの方は救わ
れるでしょうかね。」
美紀「僕にはわからないよ。」
慎一が、頭を抱えて入ってくる。
美紀「どうしたんですか?市川さん。」
慎一「うん、吉永高校ではなく、他の高校にかよっていた生徒から、話し
を聞いてきたんだが、どうも高瀬という教師が、やくざの親分みたいに君
臨しているみたいなんだ。それに関して、武井千恵という生徒が不登校に
なっているらしい。でも彼女はすごい経済力のある家に住んでいて、近い
ちに、通信制にうつるらしいんだよ。」
朗「ああ、青洲さんも話してくれましたよ。でも具体的に何をしたのかは、
まだつかめていません。おもいだせないみたいです。」
美紀「なるほどね。」
看護師「菅原先生、お時間です。」
朗「何の時間でしたっけ?」
美紀「回想法さ。これから、認知症病棟へ行ってくる。」
朗「気をつけて行ってきてください。」
美紀「はいよ。」
と、部屋を出て行く。
認知症病棟。年寄りたちが、訳のわからない言葉を喋りながら、看護師が
淡々と世話をしている。
美紀は、担当患者の病室に入り、ノートを手にして患者と向き合って座る。
美紀「こんにちは。今日は、おばあちゃんになった日の事を聞きたいです。」
患者「おばあちゃんね、、、。生んだ私が悪いのかもしれないね。」
美紀「うんだのが悪い分けないでしょう。だって、お母さんになれるって
のは、すごく重大で神聖なことですよ。必ず嬉しい気持ちはあるはずです
よね?」
患者「そうなんだけどね、、、。吉永に行かせたのはまずかった。あの子
を失わずにすんだ。あの、高瀬って教師にあわせるべきじゃなかった。」
美紀「それは誰のことですか?息子さん?だって、息子さんは、もう独立
しているじゃないですか?」
患者「いや、、、。孫のことだよ、、、。」
美紀「孫?」
患者「殺されたんだよ。高瀬って教師に。誰も止めてくれるひとはいなか
ったんだ。大学がどうのこうのと言いふらして、結局自殺に追い込んでい
った。」
美紀「どこかに相談なんかもしなかったんですか?」
患者「いや、誰にも言わなかったね。学校に呼び出された事もなかったか
ら、息子も嫁も知らなかった。本当に学校という場所はダイヤの檻のよう
だ。しかも、友達を作っては、いけないとは。だって、私らのときは、皆
友達から教わって色んなものを身に着けたのに。スイカの切り方とか、川
での泳ぎ方、水彩画の描きかた、皆友達から教わって身に着けた。今の教
師は、何てひどいことをするんだろう。」
美紀「本当ですね。でも、もうまもなく解決できるかも知れません。そう
すれば、悲しみも和らいでくれることでしょう。それまでゆっくりしてい
ましょうね。」
患者「ありがとう。でも、あの、高瀬ってのは酷いね。それに対向して若
い先生が策をしてくれたりしているけど、皆傷ついているからね。」
と、にっこり微笑む。美紀のほうが、大きなため息をついてしまう。
患者「それにしても、あんたさんは、どこかで見覚えがあるね。」
美紀「へ?誰がですか?」
患者「テレビに出ている人に、良く似てる。うちの孫が、テレビに張り付
いてみてたよ。」
美紀「そうですか。僕は、テレビなんて好きじゃありませんね。」
患者「歌、上手いのかい。」
美紀「うたえませんよ。」
患者「あれを見る事も高瀬は犯罪だといった。でも、うちの孫はその人の
マネをするのが何よりの楽しみだった。」
美紀「そうですか。」
と、病棟を出ていく。
廊下に出ると、由紀夫が通りかかって、
由紀夫「どうしたんだね。」
美紀「ああ、僕がテレビに出ている人に似てるというものですから。」
由紀夫「まあ、いいじゃないの。君が誰に似ているかはみんな知っている
じゃないか。」
美紀「まあ、そうですね。医者がテレビ俳優に似ているから、良くなった
という例もあるとかいいますし。でも、今日は、興味深いことをききまし
た。生徒さんが学校で問題があっても、呼び出したりしたことはなかった
ようですね。」
由紀夫「それでは、親御さんたちは何も知らないということか。」
美紀「そうみたいですよ。あの高校は、そういう不祥事が多いんでしょう
かね。」
由紀夫「蓋を開けて見なきゃわからないからな。学校って。」
美紀「そうですね。あんまり閉鎖しないでもらいたいですよね。」
二人、大きなため息をついて、目的地へ歩き出す。
警察署。捜査会議が行われている。
久保「今回の被害者は羽田法代。職業は用務員。年齢は23歳。ここまで
は確かですね。彼女の詳細についてわかったことは?」
刑事「はい、学歴は、一度高校を中退し、二年間引き篭もりの生活を送り、
通信制高校にて高卒の資格を取っています。」
久保「そのとき、羽田さんは何歳でしたか?」
刑事「ええ、大学生と同じ22歳だったそうです。そうして、清掃員派遣
の会社に就職して、最初に赴任したのが吉永高校でした。」
久保「そうですか。初めて赴任したところが、高校とは、辛かったでしょ
うね。」
刑事「まあ、そうですね。しかし、今時の若者は弱すぎますな、そうやっ
て、二年も引き篭もるなんて。」
久保「それを言ってはいけません。そうなったのは、そうなる理由がある
はずです。」
三田「警視が優しすぎるだけですよ。早く、事件の話にもどってください。
でないと、局長からまたお咎めがでますよ!」
久保「すみません。しかし、交際も、何もしていなかったんでしょう?」
三田「真面目すぎるんですかね。別れ話のもつれとかじゃないんです
か?」
久保「しかし、彼女のスマートフォンの電話帳には、何も残ってなかった
そうじゃありませんか?」
三田「警視、わかれたら、着信履歴とか全部消すと思いますよ。いつまで
ものこしていく人はいないでしょう。」
刑事「いやいや、今時の女は複雑だぞ。いつの間にか般若になることも、
珍しくはない。」
三田「そうですねえ、、、。」
一方。森病院の廊下。
勝美「頼む、できるだけ重要なことを誘導で聞き出してくれ。」
龍一「だから言っただろ、もう目は見えないんだから、具体的な映像を思
だすことはできないぞ。」
勝美「それでも頼むよ。お前しかこういう事はできないんだから。」
龍一「あんまり期待するなよ。本当に、氷山の一角しかわからないぞ。」
セラピー室。車いすにのった青洲は、恐怖を感じているのか、少し体を震
わせている。
川口「大丈夫ですよ。とても楽になるだけですから。催眠なんていうと、
怖いイメージがあるかもしれないけれど、そんなことないですからね。川
島先生は、とても上手にやってくださる方だから。」
青洲「ロボトミー、見たいなことをするんですか?」
川口「いいえ、違うわよ。大丈夫。」
そっと青洲の肩に手を掛ける。
勝美ががらりとドアを開けて、
勝美「ご気分はいかがですか?」
青洲「ええ、ちょっと不安ではありますけど、、、。車いすのかたがいら
っしゃるんですね。」
勝美「へえ、良くお分かりになりますね。」
青洲「はい、音でわかります。」
勝美「音にはすごく過敏なんですか?この前もそういっていましたね。夜
勤の看護師からききました。掃除機のを掛けていたら、掃除しているのか
と、聞かれたと。」
青洲「ええ、父譲りでしょうか。どうしても音には気になるんですよ。父
は吹奏楽やっていたりしてたから。」
勝美「へえ、すごいですね。なんか絶対音感とかありそうだなあ。まあ、
いいや。で、今日から、この人がヒプノセラピーをしてくれます。催眠に
よって、偏在意識に働きかけ、過去をもう一度体験させ、客観的に見直し
ます。セラピストの川島龍一です。よろしくどうぞ。」
と、彼の手をとって、龍一の手を握らせる。
青洲「入れ墨があるんですね。」
龍一「ええ。良くわかりますね。」
青洲「ええ、触った感触が違うので。流石に何が描かれているのかはわか
りませんが。」
龍一「感性の良い人だ。では、そこの台の上で寝てみてください。」
川口が、彼を近くにある寝台にのせた。柔道の段をもっていたから、すぐ
に持ち上げる事ができた。
龍一「じゃあ、まずですね、今言っている事を想像してみてください。目
が不自由では難しいかも知れませんが、まず、綺麗な森をゆっくり歩いて
いる、と、思ってくれませんか。見えないのならそれで構いません。その
代わりに音をとります。今、鶯が鳴いています。暖かい風が吹いています。
それに乗ってゆったり浮遊しているような、、、。そんな音が聞こえてき
ます。もう、何もいらない。貴方は、体から全ての力が抜け、空の、高い、
高いところへのぼっていく。」
青洲「高いところ、、、高いところ、、、。」
龍一「そうですそうです。高いところ、高いところ、高いところ。それを
何回も唱えてください。そうすると、下界で何があったかを聞くことがで
きます。」
青洲「ああ、聞こえてきます。聞こえてきます。」
龍一「なんて聞こえてきますか?」
青洲「はい、咲さんの声で、、、。」
龍一「咲さんとは誰ですか?」
青洲「はい、僕が受け持った、生徒でした。彼女は、お父様が借金を残し
て他界されていた。だから、虐めをうけてました。彼女は毎日、高瀬に怒
鳴られておりました。」
龍一「高瀬に怒鳴られて、どうしたんですか?」
青洲「はい、他の生徒に散々馬鹿にされていました。だから、彼女は一人
も友達といえる人がいませんでした。僕は、かわいそうに思って、、、。」
龍一「で、どうしたんです?」
青洲「はい、僕は彼女に、武井千恵さんという生徒を紹介しました。」
龍一「武井千恵さんはどんな生徒ですか?」
青洲「上品で繊細な生徒でした。音楽大学を志望していました。彼女も国
公立大学を志望しなかったため、高瀬から酷い嫌がらせを受けていました。
だから、二人で、励ましあえば、高瀬の個人攻撃から、逃げられると思っ
たのです。だから、二人を紹介しました。」
龍一「なるほど。二人は親友になったわけですね。」
青洲「はい。兄弟のように仲良くしておりました。でも、、、。」
龍一は、彼の手をそっと握る。青洲は動かない体をねじりながら苦しんで
いる。
龍一「まだ何か、言いたいことはありますか?」
しかし、返答ができる状態ではなさそうである。
龍一「わかりました。本日はここまでにしておきましょう。暫く、そのま
ま、楽にしていてくださいね。」
青洲「はい、ありがとうございます。」
と、だけいい、静かに眠りに落ちる。
龍一「数時間で目が覚めます。」
勝美「ありがとう!おかげさまで、少しわかることが増えたな。」
龍一「まあな。でも、勝負はこれからだぞ。」
勝美「よし、これからも勝負に挑むぞ!」
龍一「はいよ。それより彼を、運んであげよう。」
川口がストレッチャーを持ってきて、それに青洲を乗せて、静かに部屋を
出る。
勝美「何か重大な秘密でもあるのかなあ。」
龍一「そんなところだな。」
ナースステイションで、書類を作っている三千代。
看護師「仮屋薗先生、お電話です。」
三千代「誰から?」
看護師「ええ、家族療法の依頼だそうです。」
三千代「お名前は?」
看護師「はい、武井千恵さんという方と、そのお母さんです。」
三千代「年齢は?」
看護師「高校三年生です。半年ほど不登校になっています。」
三千代「わかりました。お電話を承ります。」
受付
三千代「お電話かわりました。仮屋薗三千代です。」
声「武井千恵の母の武井喜子と申します。」
三千代「娘さんの相談ですね。どんな問題があるんでしょうか。」
声「はい、、、。いつまでも学校に行きたがらないので。」
三千代「どちらの高校ですか?」
声「吉永高校です。」
三千代「あそこは有名ですよね。先日、事件がおきたばかりでしょ。でも、
どうして私を指名したんですか?」
声「ええ、娘だけでなく、私のほうも問題があるといわれたからです。」
三千代「誰から?」
声「担任の先生からです。」
三千代「担任教師というのは、まさか、高瀬、では?」
声「全く、その通りです。」
三千代「わかりました、是非来て下さい。私たちもあの高校について、調
べなきゃならないことがあるんです。協力していただけますか?」
声「わかりました。私にできることなら。」
三千代「何時ごろお見えになれますか?」
声「はい、二時か三時にはいけると思います。娘も行きたがっております
ので、二人で参ります。」
三千代「お待ちしています。」
と、電話を切る。
数時間後、看護師に車いすを押してもらいながら、青洲が病院の中庭を散
策している。そこへ、武井千恵と、母親の喜子がやってくる。
千恵「先生!」
彼の顔が一気に涙でぬれる。彼は、着物の袖で涙を拭く。
喜子「ど、どうしてこの病院に!」
千恵「本当に先生なんですか?私たちは、とっくに亡くなったとききまし
た。たしか、曼陀羅華を飲んだとして、、、。」
青洲「ああ、見えない!見えない!見えない、、、。」
と、声を殺して、涙を流し続ける。
青洲「千恵さんには、、、。確か物差しで叩かれたあざがあったはずだ。」
千恵「先生、これですか。」
と、自分の腕を差し出す。青洲はそれを指でなぞる。
青洲「そのとおり、、、もう、痛みはないか?」
千恵「大丈夫です。先生。」
青洲「どうしてここに来たの?」
喜子「ええ、先生には申し訳ないですけれども、、、。私たち、立ち退
かなければいけないかも知れません。」
青洲「立ち退く?」
喜子「ええ、隣のへやのひとから苦情が出たのです。」
青洲「では、、、千恵さんが、、、?」
喜子「はい。主人が、この街を出て、誰も知っている人が居ないところ
で暮らそうと言い出しましてね。私も、この富士市に住んでいると、ど
うしても吉永高校の前を通らなければならない事もあります。それを見
ると、どうしても辛くなってしまうのです。」
青洲「そうですか、、、。本当に、本当に、高瀬ときたら!」
と、自分のひざを叩く。
看護師「青洲さん、お辛いなら、病棟へ戻りましょうか。」
青洲「ええ、そうならなきゃいけないのはわかります。最後に、千恵さ
んを抱かせてもらえませんか。ああ、嫌な意味ではなく、謝罪の言葉と
して、、、。」
いい終わらないうちに、青洲の胸元に千恵が飛び込んでくる。
千恵「先生、、、。御免なさい、、、。」
青洲は、まだ幼さを残した彼女をしっかりと抱きしめ、
青洲「高瀬に負けないでね、、、。本当に、ごめんね、ごめんね、、、。
病気が治ったら、是非、夢だった、大学に進学してね、、、。君は、、、
まだ若いんだから、いくらでもやり直しはできるから、、、。」
千恵「もう、高瀬なんかに会いたくないです。そのためには、先生と別
れなければいけないけれど、、、。それも悲しいです。」
青洲「さよならは、希望の言葉でもあるんだよ。」
千恵「はい、、、。」
二人の肩が、互いの涙でぬれた。
看護師「じゃあ、病棟へ戻りましょう。」
と、二人をほどく。
青洲「どうか、高瀬に負けないでね、、、。」
千恵「はい。」
三千代「じゃあ、千恵さん、お母さん、行きましょう。」
青洲は、彼女の靴音が、病院内に消えていくまでそこにいた。
一方、
喜子「この子は、被害者なんです。悪いのはどう見えても高瀬という教師
です。ですが、なんだか洗脳されているみたいで、、、。毎日、テレビを
みると大暴れして、私でも手がつけられない。」
三千代「どんな番組で大暴れするんですか?」
喜子「ええ、ニュース番組です。普段は、全く口を利かないのに、テレビ
をつけると、大騒ぎで、、、。もう、私もたまらなくて、、、。」
三千代「お母さんがそうなられてはだめですよ。しっかりしてください。
お母さんが治療者になってもらわないと、解決しませんよ。」
喜子「そうなんですけどね、、、。」
三千代「自分を責めてはだめです。誰のせいでもなく、なったものはしょ
うがない、と割り切らなきゃ。」
千恵の顔に涙が出てくる。
三千代「千恵さん、何が一番辛いですか?」
千恵「私は、、、私は、、、高校も辞めてしまったから、犯罪者です。」
三千代「どうして犯罪者なの?」
千恵「だってそうじゃないですか、テレビのニュースで、殺人や、強盗を
犯す人は、みんな無職です。働いていないと変なことばかり気になって、
犯罪を犯すようになるんです。だから、働かなきゃいけないし、働けなき
ゃいけないんです。」
三千代「でも、足が取れたりして、働けなくなる人もいるよね。」
千恵「いいえ、その人たちは聖人君子だからいいんですよ。何もかも恵ま
れて居る人間は、働かないと頭がおかしくなっていくんです。障害の、あ
るひとは、できないことがあるから、この世に存在してもいいけれど、そ
うでない人は、働けなきゃいけない。だって、親だって先に亡くなります
から、そうしたら乞食生活しかできないんです。それか犯罪を犯すか、ど
ちらかにしかなれないんですよ。不思議な物で、家にずっといると、怒り
ばかりが現れて、生きているのがものすごく嫌になってくるんです。だか
ら、自分が犯罪者に近づいていくのではないかって、すごく、、、怖いん
です。」
三千代「それ、誰の言葉ですか?」
千恵「喋ってはいけないんです!喋ってはいけないんです!」
喜子「こうなってしまうので、私たちも、原因がつかめない。以前、見
舞いにきてくれた咲さんという方から、この台詞を言ったのは高瀬という
教師であるとわかりました。私の方が、殺してやりたいくらいでした。」
三千代「そうですか、、、。フリースペースとか、通って見ますか?」
千恵「何か、捨てられるみたいでいや!」
三千代「御免なさい。私も、不謹慎でした。では、一緒に心の傷を手放し
ていきましょう。」
喜子「とにかく、この子の傷を癒してあげてください。お願いします。」
三千代は、泣いている千恵の方を見て、
三千代「では、お母様のカウンセリングは私が担当いたします。ですが、
娘さんのほうは、より専門的な治療が必要になるとおもいます。それでも
よろしいですか?」
喜子「わかりました。ここまで来たら、先生方に従います。この子に、又
笑顔が戻ってこれるように。」
三千代「わかりました。では、日程を決めましょう。」
数日後、セラピー室。テーブルの上に水と油が入ったちいさな瓶が110
本置かれている。千恵が、こわばった表情で、テーブルに座っている。正
輝が彼女に向き合って座る。
正輝「それではですね。この瓶の中から、一番綺麗だと思うものを選んで
下さい。理由はいらないです。直感で構わないので。」
千恵は、その美しい瓶のなかから、一つ手に取る。
水は青で油は紫。
正輝「スピリチュアルレスキューですか。」
千恵「これをだすと、どうなるんです?」
正輝「なんともいえない、こころの叫びが聞こえてくるような色ですよ。
読んで字の如く、心が苦しんでいるときの色ですよ。」
千恵「それはわかりますよ。私、悪人だから。」
正輝「いえ、悪人ではありません。この色を選ぶ人は、必ずどこかで苦し
んでおり、そして人を癒す能力もあるんです。だから、自分のことを悪人
とは言ってはいけない。」
千恵「だって私、、、。」
正輝「いいえ、違いますよ。この色が示す通りですよ。もっと、自分の心
を大切にね。」
千恵「いいえ、厳しくしなければ、成長できません。」
正輝「これでいいよって、思う事も大切ですよ。」
千恵「いいえ、若い人は、一生懸命勉強して、良い大学にいって、良い会
社に入れなければ幸せになれないんです。」
正輝「そうか。だったら僕はどうなるんだろうね。大学どころか、高校も
中退、通信講座でこの仕事を選んだんだよ。」
千恵「先生は、それをやってお金を得ているんですから、正しい生き方な
んです。」
正輝「何が正しい生き方だと思う?」
千恵「当たり前じゃないですか!お金を作ることですよ!そんなことも知
らないでその仕事をされているんだったら、はっきりいって詐欺ですね!
どうせ、私を正常化させて、功績をあげようとしているだけでしょ!どう
せ、大人なんてそんなものですよ。」
正輝「その言葉こそ、スピリチュアルレスキューが、教えてくれている点
だな。」
千恵「もう、余計なことばっかり!早く死なせて下さい!そのほうが私は、
よほど楽になれます!」
正輝「それはいけないよ。」
千恵「なんでですか!結局、子供って、いや、人間は上の人を笑顔にさせ
るしか、生き方が見つからないんですよ!」
正輝「かわいそうだな、、、。」
千恵「かわいそうって何が!」
正輝「千恵さんがですよ。あ、足が痛い。またやってしまったかな。」
と、暫く机に伏せる。
正輝「ちょっと待ってて。三十分で戻るよ。」
しかし、彼女は表情一つ変えないのである。
正輝「薬なんかも、あるんだけどね。どうも好きじゃないんだ。こんな風
に、病気を持ちながら、仕事をしている人も、君の考えでは悪人なのかな。」
千恵「だったら、その薬使えばいいんじゃないですか?」
正輝「そうだなあ。ちょっと、はなしをしてみようか?」
千恵「余計な話をされても困ります。」
正輝「あのね、僕も君みたいに、良い大学に入ろうと思ったよ。良い会社
にも、入りたいなと思った。自分の食う糧は自分でやらなきゃならないか
らさ。でも、それってさ、ほんと、一部の人しかできないんだよね。」
千恵「できなきゃいけないのと、できないは違います!」
正輝「そうだね、そうだね、そうだね。おじさんもそう思っていたよ。だ
から、その地域ではトップと呼ばれる高校へ入ったよ。でもね、入学して
すぐに、すごい高い熱がでてね、一ヶ月以上寝込んで、見事に中退になっ
てしまった。そのあと、こんな病気を持っていると、受け入れてくれる高
校もなくて、ずっと家で暮らしていたよ。だから、他の人が普通に就職し
て、働けるのが本当に羨ましかった。働かなきゃいけないと、おじさんも
思っていたからさ。働けない自分に怒りもあって、自殺未遂した事もあっ
たんだ。でも、病気の症状も同時に進んでしまって、、、。色んな治療を
試したけれど、いずれもできなくてね。とうとう、親も亡くなってしまっ
た。なんという親不孝な息子だとどれだけ言われたことだろう。でも、お
じさんはそういわれるしかなかった。だから、誰も知っている人の居ない
この町に引っ越して、通信講座で資格とって、ここで働かしてもらってい
るけど、、、。でも、みんな亡くして、一つだけわかった事もある。それ
はね、できないということは、できるようになるための時間であると、い
うことさ。まあ、つまらないおじさんの話だから、きっと、君はすぐに忘
れてしまうことだろう。でも、少なくともおじさんは、君がいう正しい生
き方は、一生やってもできないだろうなあ。」
千恵「今、働けているんだから、それでいいんじゃありませんか?私は、」
正輝「うん、そういえるかも知れないね。でも、僕がここで働き出したと
きは、既に六十をとっくに越していたよ。本来なら仕事を終える頃の年で
しょ?おかしいと思わない?きっと君は、ちゃんとした家に育っているだ
ろうから、君の親御さんは六十で定年になるだろうが、おじさんは、その
年に初めて就職したんだ。ね、こんな変なおじさんは居ないでしょ。それ
でもいいさ。」
千恵「では、それまでの生活費は、、、?」
正輝「あるところにいっていた。実のところ、今も同じなんだ。こんな病
気を持って居る人は、会社なんて行っても、何にも役に立たないって、追
い返されるのが落ちさ。だから、その正しい生き方、に当てはめたら、僕
は全くできていない、と、言うことになるね。その、何とか先生にお会い
したら、張り倒されることになるだろう。それでも構わないと思っている
よ。」
千恵「じゃあ、今が楽しければ、を続けていらっしゃるんですか!何も考
えないで、遊びほうけている同級生みたいに?」
正輝「そうかもしれないね。今の時代はスマートフォンもあるだろうから、
僕みたいな人が簡単に見つかるだろう。この手を写真に撮って、周りの人
に見せてごらん。そうしたら、答えが必ず出るから。」
といって、左手を差し出す。指が曲がって、鷲の手のようになっている。
正輝「撮ってごらん。」
千恵「はい!」
と、スマートフォンを取り出して、その手を一枚写真に撮る。
正輝「じゃあ、今日はここまでにしよう。」
千恵「はい。」
と、さっさと部屋を出て行ってしまう。
病室
青洲「千恵さんは、どうしてる?」
朗「そんなに心配なんですか?彼女のこと。」
青洲「だって、あれほどひどいことを言われていたら、病気にもなるでし
ょう。」
朗「大丈夫ですよ。正輝さんが、セラピーで癒してあげてますから。」
青洲「そうですか。まあ、プロの方がやってくださるのなら。」
朗「はい、青洲さんもだいぶ落ち着いてきましたね。」
青洲「そうでしょうか。」
声「困ります!いきなりここにはこないでくれって、何度も言っているで
しょうが!」
朗「川口さんだ。」
青洲「刑事さんの声もしますね、口調でわかります。」
声「だから、羽田法代を殺害した犯人について、もうちょっと聞かせてほ
しいだけですよ。」
青洲「朗さん、僕を正面玄関へ連れて行ってください。」
朗「えっ!」
青洲「お願いします。」
正面玄関。
勝美「久保さん、勝手にこないでくださいよ。ここには怖がる患者さんも
いるんですから!」
久保「こちらでも、事件の重要参考人がここにいるんですから、お話を聞
きたいんですが、、、。」
三田「もう、警視も片腕先生も、もったいぶって、、、。」
声「すみませんでした。」
勝美「青洲さん!」
青洲「全てお話します。僕を逮捕して、吉永高校を叩きなおしてください。」
勝美「ちょっとまってくださいよ、彼は、曼陀羅華の健忘症が解決してお
りません。だから、お話の真偽は、決められませんよ!」
青洲「それでも良いんです。僕は、何の罪もない生徒を苦しめていたんで
すから。」
勝美「ではですね、精神科医の僕が立ち会います。彼を署へ連れて行くこ
とは控えていただきたい。」
三田「あーあ、、、。だめか。」
久保「いえ、最後まで聞きましょう。」
青洲「はい、あの時、全校集会があったんです。」
三田「それはいつのことですか?」
青洲「僕が自殺を図った日です。」
三田「で、何があったんですか?」
青洲「はい。そのときに、ある予備校の講師が、講演会をしたんです。」
三田「で?」
青洲「そのときに、正しい生き方のはなしをしたんです。それは、良い大
学へいって、医療介護福祉の仕事に就き、親を看取り、墓を建ててやるこ
と、と、その講師がいいました。そして、正しい大学と、そうでない大学
の定義を話しました。正しい大学、というのは国公立の医療、介護、福祉
分野に進むこと。そうでない大学は、芸術分野でした。そのとき、あの講
師は、『芸術系の大学は、就職がなくて、お前たちは野垂れ死にするしか
ない、それが嫌なら、今すぐここで死になさい!』そういったんです。そ
のとき、千恵さんが立ち上がりました。そして、その講師の下へいって、
思いっきりなぐりかかったんです。だから、教室は大騒ぎになって、、、。
本当に彼女はかわいそうだったと思います。その翌日から、千恵さんは、
学校にこなくなりました。高瀬が、彼女は自殺したのだと言いふらして、
彼女のことを悪人だと、高らかに述べました、、、。」
勝美「酷い講師だな!でも、千恵さんをなぜ貴方が、殺したことになるん
です?」
青洲「だから、教師として、何も働きかけができなかったからです。僕は、
あの時、千恵さんのことではなくて、自分のことを考えてしまいました。
だから、千恵さんが、ああなったとき、なぜ力になってあげられなかった
のか。だって、千恵さんは、何回も相談を持ちかけてきたんです。本当は
退学したってよかったんですよ。でも彼女は、行きたい大学があるから、
できないって、きっぱりといいました。だから僕も、彼女の力になろう、
と思ったんです。まあ、僕は体育教師なので、直接の進路に関わることは
できません。保健体育の講義をしても、皆誰かと喋っているか、受験のた
めの、勉強をしているかのいずれかです。でも、千恵さんは僕の授業を聞
いてくれました。だから、僕もつい嬉しくなって、情を移してしまいまし
た。」
久保「若い人であれば、そうですね。しかし、青柳さん、肝心の、羽田さ
んを殺害した事からは、大きく外れてしまっているのですが、、、。」
三田「そうそう、そんな身の上話は、必要ありませんよ。羽田さんと貴方
は、関係があったそうですね。」
青洲「ええ、そうです。それは認めます。彼女も心が傷ついて居るにも関
わらず、吉永高校へ働きに来ていた人です。だから、千恵さんに紹介して、
二人を引き合わせれば、彼女は回復するのではないか、と、考えて。それ
を実行に移しました。」
久保「で、結果としてはどうなりましたか?」
青洲「ええ、大の親友になりました。千恵さんが笑顔になってくれて、僕
も嬉しかったです。友人が一人でもいれば、彼女は幸せになれる、そう思
って。」
久保「で、羽田さんの殺害されたことに関しては?」
青洲「え、、、。」
三田「止まらないでくださいよ!そんな身の上話に付き合っている暇はな
いんですから!」
勝美「三田さん、あまり急かさないでください。彼は、さっきも言ったけ
ど、健忘が激しいので。それに、今話してくれたことの真偽もはっきりと
しないでください。もしかしたら、記憶の取り違えで、別のものを記憶し
たかもしれませんので。今日のところは帰ってくれませんか?」
久保「わかりました。ではそうしましょう。」
三田「ただ、身の上話を聞かされただけじゃないですか!」
久保「いや、片腕先生言うとおりにしよう。では、これで帰ります、又何
かあったら電話しますね。帰るぞ。」
三田「しょうがないな。」
二人は、ぶつぶつ言いながら帰っていく。
一方、龍之介は、再び吉永高校に居た。保健室で、養護教諭と話していた。
龍之介「武井千恵と言う生徒と、用務員の羽田法代さんは、交友関係があ
ったのですか?」
養護教諭「ええ。とても楽しそうにしていました。よくカラオケに行こう
とか言っていたものでした。」
龍之介「それは、法代さんと、千恵さんの二人ですか?」
養護教諭「いえ、もう一人一緒でした。」
龍之介「と、いいますと。」
養護教諭「ええ、高田咲さんでした。」
龍之介「高田咲さんは、その二人に対して、何か文句を言ったとかはあり
ませんでしたか?」
養護教諭「いえ、兄弟みたいに付き合っていましたから、文句は言わなか
ったと思いますよ。でも、何となく、辛いなって気持ちにはなったと、私
は思ってますけど。」
龍之介「と、いいますと?何か問題があったのでしょうか?」
養護教諭「ええ、千恵さんは、すぐ学校に行くをやめられる環境でしたし、
法代さんも、通信制高校に通った経験がありますから、すぐに打ち解けた
感じでした。でも、咲さんは、経済的に裕福ではなかったので、少し、引
け目だったのではないでしょうか。」
龍之介「なるほど。階級差別というものはいつの時代も変わらないもので
すなあ。」
夜の道。紘一が、パトロールを行っている。
紘一「ほら、こんなところで遊んでないで、帰りなさいよ。」
若者「しょうがないな、帰るか。」
と、ズボンを持ち上げて歩き出す。
声「ちょっと待ってよ!」
とある女性が、若者の後を追いかける。
紘一「君は、女の子なの?だったらまっすぐ帰ったほうが良いよ。」
女性の足が止まる。
女性「帰るって、何しに帰るのよ!」
紘一「辛いの?辛かったら僕とお話をしよう。」
と、行って名刺を差し出す。
女性「えっ、カウンセラーって、、、。はなしを聞いてくれる人?」
紘一「そうだよ。こんなそばかすだらけのおじさんだから、怪しい者に見
えたかな?」
女性「いえ、そんなことありません。何かの縁です。聞いてください!」
紘一「丁寧な言葉じゃなくてもいいよ。じゃあ、喫茶店に入ろうか。」
女性「はい。」
近くにあった、喫茶店で、二人は向き合って座る。
女性「私、高田咲と申します。」
紘一「藤井紘一です。その制服は、吉永高校だね。」
咲「ええ。何かも、学校も家も良いところじゃなくて。」
紘一「君は、武井千恵さんと、用務員の羽田法代さんと仲がよかったんだ
よね。きいたところ。」
咲「はい。千恵も羽田さんも素敵な友達でした。友達がなかった私は、本
当に嬉しかったです。でも、私は、あの二人とは家柄が違うから。」
紘一「家柄とはどういうことだっんですか?」
咲「ええ。千恵はもともと音楽大学にいけるほど経済力がありましたし、
羽田さんは、一度高校を退学して、通信制高校を出ていて。まあ、結論を
言えば、二人とも金持ちだったということなんです。」
紘一「千恵さんと、羽田さんを引き合わせたのは、青柳先生ですよね。」
咲「ええ、千恵が羽田さんと友達になったとき、私も一緒に来ないかって、
千恵に誘われたんです。先生もそれで良いんじゃないかって言ってくれた
ので。」
紘一「咲さんのご家族は、何をされているんですか?」
咲「ええ、父がホームセンターで、働いておりました。母は、専業主婦で
す。ちょっと鬱気味で、働けなかったのです。だから、すごい借金があっ
て。」
紘一「なるほど。それで二人に憎しみが、、、?」
咲「はい。そういうことなんです。私は、父から、高校は一回だけだぞっ
て、厳しく言われていたので。千恵たちはそうじゃないでしょ。だから、
三人でいることが、とても辛くなってしまったんです。」
紘一「なるほど、新しい友達を作ろうとかは?」
咲「ええ、思いましたけど、他の人からはあんたは用務員が居るから良い
でしょ、見たいにいわれて。結局、他の人が絡んでくれなくなったんです
ね。で、私は、完全に一人ぼっちになってしまったんです。だから、それ
を作った青柳先生がすごく憎くなりました。」
紘一「わかりました。それはお辛かったでしょう。」
咲「だから私、、、。ひどいことをしてしまったのです。」
紘一「なるほど。しっかり、警察にもお話してね。」
咲「はい、、、。でも、私も一度だけ、親友も持ちたかったですよ。寂し
い、という感情は、そんなにいけないことなんですか?だって、皆、友達
と楽しそうにしているから、私だって、おんなじことをしたいって思うの
は、間違いなんですか?じゃあ、なんで、あの人たちは許されて、私はで
きないのでしょう?やはり、身分が原因なんでしょうか?」
紘一「そうだなあ、、、。僕も答えは出せないよ。でも、世の中は、どう
しても、変えられないことってあるよね。僕も、こんな気持ち悪い顔でし
ょ、散々いじめられた。でも、イケメンにはなれないから、じゃあどうし
ようかって考えたんだ。そのために、クラスの中で、ピン芸人みたいなこ
とをしてたよ。でも、進学校をぶち壊しにした、といわれて、中退しなけ
ればならなかったけどね。」
咲「そうでしょうか、そんなに気持ち悪い顔ではないと思いますけど。そ
れに比べて、私なんか、千恵や法代さんのような、経済力はなかったし。」
紘一「うん、自分がこの世の中で一番不幸だと、誰でも思うよね。でもさ、
人間一人で生きていけるって変な勘違いが流行っているようだけど、どう
したってできやしないから、大事なことはね、不幸だと思ったら、必ず誰
かに打ち明けることだよ。青洲先生は、それを心配して、千恵さんと、法
代さんを引き合わせたんじゃないのかなあ。」
咲「そうでしょうか、、、。」
紘一「うん、追い詰められなければ本音をいえないのが人間だけど、それ
以外の場所でも、さらけ出せるといいよね。」
森病院。診察室。
勝美「はい、じゃあ次回は、二週間後ね。」
患者「はい、わかりました。」
と、頭を下げて帰っていく。
川口「先生、又警視さんからお電話です。」
勝美「次の人がいるから、後にしてもらってよ。」
川口「それが、どうしても話したというので。」
勝美「わかりました。五分くらいでいいかな?」
川口「とにかく出てください。」
勝美「わかったよ。」
と、頭をかきながら、受付に行く。受付から受話器を取り、
勝美「なんですか、こんな時間に電話なんかしないで下さいよ。」
久保「そうですけどね、今、青柳青洲の自宅を訪問しました。で、彼が自
殺を図ったときの、凶器となっていた、曼陀羅華の木が、一本もないんで
すよ。」
勝美「えっ!」
久保「そうなんです。彼の家の庭はそんな植物を植えられるほど、広くあ
りません。園芸店に聞いてみましたが、曼陀羅華は、大木になる品種もあ
るようで。彼の家は、住宅密集地にありますので、曼陀羅華どころか、プ
ランターを一つか二ついれられるくらいです。」
勝美「じゃあ、どこから曼陀羅華を入手したのでしょうか?」
久保「引き続き捜査を続けています。確認したいのですが、彼は嘘をつい
ているとか、そういう雰囲気はありませんか?」
勝美「いえ、ありませんね。曼陀羅華のせいで、記憶を失い、何とか正気
を保とうと、作話しているのかもしれません。健忘の患者にはよく見られ
る症状です。曼陀羅華の成分には、そのような健忘を引起すものもありま
すので。」
久保「わかりました。それでは引き続き捜査しますので、、、。」
勝美「はい。」
談話室。
慎一「なるほどねえ。でも、曼陀羅華の成分はしっかり出たんでしょ?」
龍一「別の毒物を飲んだのかもしれないな。」
慎一「僕らは、事件関係の職業じゃないんだけどなあ。」
勝美「そう、面倒くさがるなよ。青洲さんを救うのが仕事でしょ?」
慎一「そうだけど、テレビドラマみたいな生活はしたくないよ。」
勝美「それはいうなよ。乗り越えなきゃだめだ。」
声「ちょっと藤井さん!植木鉢、蹴飛ばさないでよ!」
紘一「ああああ、御免なさい。大変なことがわかりましたよ!」
と、いいながら、勝美たちの下へ突っ込んでくる。
勝美「どうしたの紘一君。」
紘一「いえいえ、大変な事がわかりました。青柳さんは自殺じゃありま
せん!犯人もしっかりわかりました。」
慎一「犯人がわかった!?」
紘一「だから、殺人なんですよ。」
龍一「気を落ち着かせてから、ゆっくり話してよ。」
紘一「はい、実はですね、青柳さんね。千恵さんと、用務員の法代さんを
引き合わせたのは青柳さんです。しかし、千恵さんとそれまで仲のよかっ
た高田咲さんという同級生が、千恵さんを自分から奪ったと腹を立て、青
柳さんに曼陀羅華の粉末を飲ませたと、、、。」
勝美「高校生が、そんなこと!」
龍一「いや、今の時代なら、ありえるよ。そういう事件は沢山おきている
でしょうが。」
慎一「それにしても、犯人は高校生だったのか、、、。日本も恐ろしい世
の中になったものだ。」
龍一「ちょっとまって。青柳さんを殺害しようとしたのは咲さんかもしれ
ないが、久保警視が調べている、羽田法代さんを殺害しようとしたのは、
誰なんだろう?」
慎一「その、高田咲の仕業ではないの?だって、トリカブトと言ってたじ
ゃない。」
龍一「もしかしたら、他殺ではないのかもしれないよ。つまり、彼女の方
が自殺で、青柳さんの方が、他殺ではないだろうか。」
勝美「じゃあ、全く正反対ってことか。」
龍一「青柳さんが、かわいそうに思って三人をつなぎ合わせた。しかし、
三人は複雑な愛憎があったんだろう。それが、今回の事件の集大成だ。彼
は、かえって、健忘のままで居たほうが良いのかもしれないね。つまり、
教師には向かないだろう。ああいう優しい人は。」
慎一「じゃあ、どうしたら良いんだろう。そこが彼の一番の長所であると
思うんだけど。」
紘一「人のために何かをしてやろう、と思ったら、かえってそういう結果
になってしまいましたからね。それを知ったら、本当に悲しむだろうな。
本当にかわいそうでなりませんね。」
龍一「そうだね。ある意味時代があっていないのかもしれない。」
勝美「おいおい、そういう否定ばっかりするなよ。時代があってないなん
て、時代を生きなきゃいけないんだからさ。」
看護師「先生、刑事さんがお見えになってますが。」
勝美「お通しして。」
看護師「わかりました。」
と、言うより早く、久保と三田がやってくる。
久保「今、高田咲が自首してきました。青柳さんの殺害を認めております。」
勝美「やっぱりそうか、、、。」
龍一「一番傷ついていたんだな。」
慎一「本当に、高校生が犯人だったのでしょうか?」
久保「ええ、彼女の話を聞くと、矛盾したところは、ありません。殺害の
動機は、千恵さんが羽田法代さんに奪われ、その原因を作った青柳さんに、
殺意を抱いた、と供述しています。」
龍一「なるほど、で、凶器は?」
久保「はい、曼陀羅華の種を粉末にして、青柳さんの使用していた水筒に、
混入したそうです。彼女のpcから、インターネットで、その薬品を入手
した事がわかりました。」
龍一「しかし、羽田法代さんのほうはどうだったのでしょう?凶器はトリ
カブトと断定されていますよね?」
久保「はい。それは確かです。羽田さんの司法解剖の結果、彼女の死因は
トリカブトだということははっきりとわかっています。しかし、高田咲の
部屋からは、トリカブトは一切置いてありませんでした。」
勝美「ああ、やっぱり、龍一の言う通りなのかなあ。いま、そのことを話
していましたが、龍一が、羽田さんは自殺なのではないかと、言っていた
もので。」
久保「ああ、それも考えられるかもしれません。なにしろ、あの三人は、
いずれも問題を抱えてます。千恵さんは大学進学で虐めにあい、羽田さん
は、精神疾患のため高校を一度中退しています。咲さんは、母親がうつ病
にかかっています。」
勝美「なるほど、、、。問題が大きな三人がくっついたわけね。それじゃ、
前向きにならないのかもしれないね、、、。それを作ったのは青柳さん。
確かに、怒りの矛先が、彼に向かってもおかしくないな。」
通信制高校。龍之介が、受付にやってくる。
龍之介「すみません。こちらに在籍していた、羽田法代という方について
伺いたいのですが。」
受付「はい、わかりました。校長室へどうぞ。」
龍之介「お願いします。」
と、玄関から入り靴を脱いで学校内に入る。
受付「校長室です。校長先生、学校心理士の阿部さんと言う方が、お見え
になっています。羽田さんについて知りたいそうです。」
校長「わかりました。どうぞおかけください。」
優しそうな中年女性だった。
校長「今日は、羽田さんの何についてでしょう?」
龍之介「羽田さんは、高校を一度中退し、こちらに来たと伺っていますが、
どんな生徒だったんでしょうか?」
校長「とても、真面目で、一生懸命な子でした。授業もよくきいていまし
たし、周りの生徒にも気を配れる子でした。でも、感受性が強すぎるくら
いあって、ちょっと、心配ではありましたけど。殺されてしまったなんて、
悲しい限りです。」
龍之介「いや、もしかしたら、違うのかもしれないのです。先ほど、感受
性がつよい生徒だったと仰っていましたよね。彼女は、どんなことを感じ
てしまったのですか?」
校長「私が、聞きましたのは、彼女は以前に在籍していた高校で、ひどい
虐めにあって、PTSDにかかったということです。彼女自身も苦しんで
いたと思いますが、彼女は私よりも、家族や親族が、もっと苦しいから、
といって、弱音を吐かなかったんですが、逆に、自分を追い詰めてしまう
タイプでもありました。」
龍之介「自殺に陥る人は、そういう傾向が強いですね。そんなに思いつめ
なくてもよいところまで感じてしまう。そこを何とかならないかと教育者
は考えますが、それが度をこすと、彼女のように、極端なところへいって
しまう。」
校長「はい、そうですね。私も、あの子達を見ると、こんなに優しいのに、
それを日本社会が潰そうとしているのではないかと、感じてしまいます。」
龍之介「そうなんですよね。本来ならそれは素晴らしい能力なんですけど
ね。」
校長「はい、、、。」
と涙を流す。
取調室。咲の取調べが行われていて、
咲「私がやりました。もうしわけありません。これでいいじゃないですか。」
久保「本当に、君が羽田さんを?」
咲「ええ。もっと毒の強いものでやりたかったんです。羽田さんは、私か
ら見れば、贅沢に暮らしている。だから、憎かったんです。千恵は、羽田
さんを先輩格みたいに尊敬していましたけど。」
久保「憎むのではなくて、三人で互いの問題を語り合うことはなかったの?
おじさんは、友達ってそういうものだと思うんですが。」
咲「そんなことありません。だって、それを言ったら、お互い苦しくなる
でしょ。」
久保「おじさんが君位のときは、友達はそういうもでしたよ。こんなこで
悩んでいるんだ、でも、お前もそうだったのか、じゃあ、こうしたら、ど
うしたら、とか、いろいろ考えをめぐり合わせていましたけれどね。」
咲「私もそれを求めました。でも、私の家にはお金はありません。千恵や、
羽田さんが教えてくれることは皆お金があるからこそできることばかりで
す。」
久保「そんなの関係ないと思いますけど、、、。」
咲「時代が違います!」
と、自分のひざを叩く。その顔は、大人への憎しみに満ちている。久保は
それ以上何もいえない。
千恵の家。
喜子「千恵、今日はおばあさまが来るから、顔だけでも出してあげて。あ
とは部屋に行っていて良いから。」
千恵「わかったわ。」
と、車の音がする。父が祖母を駅まで迎えに行って、帰ってきたのだ。
声「さあどうぞ。座ってください。」
と、言いながら父がドアを開ける。黒の着物に身を包んだ老婦人は、腰が
すこし曲がってはいるものの、衰えたようにはみえなかった。
千恵「こんにちは、おばあさま。」
祖母「元気そうでよかった。心配していたのよ。学校辞めたそうだけど、
何にも心配しなくていいからね。お父さんと、私とで、考えはあるから。」
千恵は祖母が好きだった。ただ一人、心から愛してくれる人のような気が
した。
喜子「さあ、お茶をいれましたからどうぞ。」
祖母「ありがとうございます。」
と、テーブルに座る。
喜子「クッキーです。」
と、お皿を渡そうとしたが、スマートフォンの充電器のコードを踏んでし
まって、スマートフォンがテーブルから落ちた。
千恵「もう、お母さん、気をつけてよ。本当に。」
と、いってスマートフォンを拾う。と、どこか変なところを押してしまっ
たらしく、現れたのは、正輝の手をとった写真。
喜子「なによ。この写真、何処で撮ったの!?」
千恵「私の、セラピストの先生の手よ。気持ち悪いから、今消すわ。」
と、消そうとするが、
祖母「ちょっと待ちなさい。」
千恵「どうしてですか?おばあさま。」
祖母「とても大変な方だったのね、そして、すばらしい方だわ、その人。」
喜子「どういうことですか?お母様。」
祖母「それは、ハンセン病という病気の人の手ね。私、若い頃、ハンセン
病の人たちが暮らす施設に、慰問に行っていたから。」
祖母は、声楽家だった。合唱団を引き連れて、よくこのような施設で演奏
していたことは千恵も知っていた。しかし、ハンセン病とは聞いたことが
なかった。
千恵「これって、、、病気なんですか?」
祖母「そうよ。私が慰問にいったハンセン病療養所の人たちは、皆こんな
手をしていたわ。その人たちは、粗末な食事と、狭い部屋しか居場所がな
くて、自分の本名さえ名乗ることを許されなかったわ。それは、家族の中
にその病気の人が居ると、家族は厳しい拷問に掛けられるから。それに、
お金だって、いつも使っているお金を使えなかったのよ。うつるのを防ぐ
ためで。なんだか、戦争のときの、強制収容所みたいでしょ。でも、それ
があたりまえだった時代もあったのよ。そのひとは、今、どんな仕事をし
ているの?」
千恵「セラピストです。」
祖母「よほど軽いのかしらね。いちど、ハンセン病にかかると、二度と外
の社会へは戻れないのが実情よ。」
千恵「はい、六十になってから、セラピーの勉強を始めて、それで森病院
に就職したそうです。」
祖母「まあ、すごいわね。そんなことやっていられるなんて。良い時代に
なったものだわ。」
喜子「お母様、それは怖い病気ですか?」
祖母「いいえ、全く怖い病気ではないのよ。ただ、顔がはれぼったくなっ
たり、手が変形したりで、いかにも、怖い人のように見えてしまうのよね。
だから、療養所に行くしかなかったの。今は、すぐ治ってしまうから、自
由に暮らしてもいいけど、、、。でも、相変わらず偏見の目で見られるこ
とは確かね。」
千恵「具体的になんて?」
祖母「例えば、旅館の予約が取れないとかで、裁判になったこともあった
し、小学校で、生徒が差別的な作文を書いて、患者さんに差し出した事件
も起きているわ。医学が、進歩して来ているとは言っても、過去に差別さ
れている以上、そういう偏見は取れないのよ。だから、その方はすごく偉
いと思うわ。もっと、社会に対して、堂々と生きても良いと思うのよ。だ
って、被害者だもの。社会の。」
千恵「そんなに、、、。」
祖母「千恵も、心の問題で病院通っていると聞いたけど、その方なら、一
番辛さをわかってくれるかもしれない。六十代となれば、多かれ少なかれ、
差別された経験をしていると思うし、療養所に何年かいたかもしれない。
千恵は、良い大学に行って、働いている人を偉い人だと思っているようだ
けど、私からしてみたら、その治療者の方の方が偉いと思うわ。だから、
何でも聞いちゃいなさい。そして、泣きなさい。そのひとはきっと、千恵
の見方になってくれるはずよ。」
千恵「そう、、、でしょうか。」
祖母「そうよ。すごく貴重な人よ。何でもぶつけて良いと思うわ。」
千恵「わかったわ。おばあさま。」
喜子「そうだったんですか、、、。」
森病院。セラピー室。
千恵「こんにちは、、、。」
と、恐る恐るドアを開ける。
正輝「良く来てくれましたね。」
千恵「はい、、、。」
正輝「すわってください。」
千恵「はい。」
正輝「どうしたの?」
千恵「先生は、ハンセン病だったんですか?」
正輝「そうだよ。17歳のときからね。」
千恵「療養所、いったんですか?」
正輝「そうだね。御殿場にあったんだよ。僕らの頃は、らいと呼ばれてい
たよ。」
千恵「どんなところでしたか?」
正輝「ちいさな国家のようだったよ。お金も、円じゃなくて、園が使われ
ていた。本物のお金を健康な人が握ると、感染すると言われていたから。
しかもそれは、洗えるように、プラスティックでできていたよ」
千恵「女の人は、強制的に中絶をしていたんですか?」
正輝「そうだったね。断種といってね。そうしなければ、結婚させてもら
えなかった。僕は、しなかったんだけど、ある若い人二人が、どうしても
子供を産みたくて脱走をした事があった。でも、お金がないから、外の世
界では暮らしていけないよね、だから、心中が流行った。」
千恵「どうして、今こうして仕事をできるんですか?一度入ると、そこか
らは出られないって聞いたから。」
正輝「うん、簡単なことさ。施設がつぶれたからだよ。」
千恵「つぶれた?何で?」
正輝「らい予防法が廃止されて、やっと、つぶれることができたから。」
千恵「つぶれたときにどんな気持ちでしたか?」
正輝「それはもう、嬉しくて仕方がなかったね。」
その顔は、素晴らしい笑顔で、嘘偽りのないことを示していた。
正輝「全然、正しい生き方ではないでしょ。でも、嬉しかったな。」
千恵「そうだったんですか、、、。あの、」
正輝「なんでしょう?」
千恵「先生のカウンセリングと、セラピー、又続けてください。」
正輝「わかりました。」
と、彼女の手を握る。
千恵「ありがとう、、、ございます。努力しても、先生のように、生き方
をかえることができない人っているんですね。私ももう少し、咲のことを
考えてあげればよかった。」
正輝「悔やむ事も大切ではありますが、これからは、優しさも持つように
しましょうね。」
千恵「はい!」
三田が、羽田法代の家にやってくる。
三田「ごめんください。」
ゆっくりと扉が開く。中年の婦人が現れる。
三田「警察ですが、羽田法代さんのお母さんですか?」
母親「そうですけど、、、。」
三田「法代さんが亡くなった理由について、お話を伺いたいのですが。」
母親「そうですか、、、。いくら隠してもだめですね。なら、もういいで
す。お話します。」
三田「では署のほうにどうぞ。」
母親「はい、、、。」
取調室、久保が引き続き先の取調べを行っている。
久保「では、千恵さんや、法代さんを、信用できなくなったのはなぜです
か?具体的に何か事件があったのでしょうか?」
咲「事件といえるかはわかりませんが、、、。」
久保「ちいさなことでも何でも話してください。」
咲「はい、高校にはいって、買ってもらった私の制服は、買取屋から安く
買った、安いものでした。だから、お古の制服だったのです。」
久保「君の家は、なぜそれをしなければならなかったのですか?」
咲「はい、私が、一番悪かったのです。」
久保「そんなことないですよ。咲さんも大事な人です。」
咲「私の家は、、、父が借金があって、家にお金がなかったんですよ!職
場の部下の人の、連帯保証人とかで!」
久保「よく話してくれましたね。もう泣かないでいいです。それがわかれ
ば、こちらも納得できます。でも、人をあやめようとしたのはいけないこ
とです。だから、それは償わなければいけない。青柳さんは、学校で一人
ぼっちのあなたに対して、優しい気持ちで貴方と、千恵さん、法代さんを
ひきあわせた筈なんですから。」
咲「結局、私は、いるべきじゃないんでしょうね。士農工商がなくなった
とはいえ、それはまだ存在てるんですよね!」
久保「どうかな。それは、貴方次第ではないでしょうか。だって、士農工
商というのは本人がつけ身分ではありません。それは他人の目でつけられ
ているものだとおもいますよ。だって、江戸時代であっても、自ら進んで
低い身分になった人はいませんよね。単に幕府が勝手に決めただけで、当
人は毎日畑を耕して、幸せな人生だったとおもいますよ。その証拠に、色
んな伝統品が日本にはあるじゃないですか。それは、やっぱり、生活が楽
しいからこそ、長続きしたんだとおもうんですよね。」
咲「私、、、。あの、千恵に謝っても良いですか!」
一方。刑事課では、三田が、法代の母親と机に座って、話している。
母親「法代は自殺なんです。しいて言えば、私が殺したようなものです。」
三田「へえ、では、その理由はなんでしょう?」
母親「あの子、中退した高校で、酷い虐めにあったんです。その加害者は、
咲さんと同じように、家に問題がある子でした。それが原因で、あの子は
自殺未遂をして中退し、暫く引き篭もりの日々が続きました。いくら、私
たちが、本を読んで勉強しても、頑として言うことは聞きませんでした。
時に、私に対して、暴力を振るったり、目の前で自殺すると宣言をして、
私たちを困らせたこともありました。」
三田「不良だったわけですか。」
母親「はい。暫くして主人が、通信制の高校を探し出してきて、法代を入
学させました。その頃は今ほど通信制は有名でなかったため、私たちは子
捨てとされ、近所の人から馬鹿にされた事もありました。けれど、法代は、
校長先生の援助もあり、無事に卒業してくれて、清掃会社の内定も貰って
きてくれました。どんなに嬉しかったか、、、。でも、派遣された高校が、
前の学校にそっくりだったんです。」
三田「吉永高校が?」
母親「はい。だから、ものすごく心配で。法代がフラッシュバックでも起
こさないかと。引き篭もったときのように、、、。そうしたら、青柳とい
う若い教師が、咲、千恵、という、二人の問題児を法代に会わせて。それ
から、私たちは、心配でたまらない日々が再び現れました。法代があの二
人と一緒になってどこかへ行こうとか、計画をしていると、とても不安に
なるんです。だから、私たちは、法代にあの二人と付き合うものではない
と言い聞かせましたが、全くの馬耳東風でした。やがて、青柳が自殺した
ということをきいたとき、法代がやっとあの二人から解放されると思った
のですが、、、。」
三田「はあ、言うことを聞かなかったと。」
母親「はい。ものすごく心配で、、、。だからそのことで口論になり、法
代は家を飛び出したまま、行方をくらませました。その数時間後、法代は、
変わり果てた姿で、見つかったんです、、、。遺体の周りには、トリカブ
トが沢山生えていて、、、。手でむしりとった株が残っていたそうですね。」
三田「なるほど、、、。わかりました。」
母親「申し訳ありませんでした、、、。」
森病院。退院していく、青洲。ヘルパーに手伝ってもらいながら荷造りを
して、車椅子の操作もできるようになっていた。
青洲「僕としては、何をしたんですかね。ただ、親切心から、あの三人を
つなげてしまったわけですが、結局、余計なお節介にしてしまったし、僕
自身も足も悪くなり、目をやられてしまいました。」
龍一「いやいや、経験という物を得たじゃありませんか。もし、辛い気持
ちを抱えている、生徒がいたら、また支えになってあげてください。それ
ができるというのは、本来素晴らしいことなんですからね。」
勝美「退院してからは、どうなさるおつもりですか?」
青洲「ええ、体育教員はできなくなってしまったので、カウンセリングと
かの資格を探そうとおもっています。」
慎一「なんだか、まけそうだな。」
勝美「それをいうな、それを。」
青洲「今回は、大人のわがままで、三人の友情が破綻したようなものです。
僕は、本当にいい教訓を貰いました。ありがとうございます!」
と、そこへ、介護タクシーがやってくる。
青洲「じゃあ、ありがとうございました!さようなら!」
と、タクシーに乗り込んでいく。タクシーは爆音とともに走り抜けて、一
枚の木の葉が、飛んで転がっていった。
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