ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで

菱田もな

文字の大きさ
22 / 54

本性

しおりを挟む
 
 翌日。わたしは一人、学園の図書室の端っこで頭を悩ませていた。

(当たり前だけど、相手の気持ちがわかる魔法……ってのは、ないのね)

 レインに言われた通り、勉強をしにきたのはいいが、目当ての本は見つけられずにいた。なので、諦めてエミリアに協力するにあたって、必要だろうと思う恋愛に関する本を読むことにした。

 複数の本を手に取り、適当に読み漁っていく。そうして、パラパラとページをめくっていれば、突然誰かに肩を叩かれた。

 突然のことに、恐る恐る後ろを振り向けば、そこに立っていたのはユーリもといユリウスだった。

「こんにちは……アナスタシアさん」
「こ、こんにちは、シュローダー先輩」

 まさかユリウスが声をかけてくるとは思わず、声が裏返る。そんなわたしを気にした様子もなく、彼は「失礼します」と、隣に座った。

 分厚い眼鏡に、わざとらしい猫背。無造作というか、髪の毛はところどころ寝癖で跳ねている。本来の彼の姿とはかけ離れたその容姿に、さすがだと思った。

(そういえば、テオドールが推しになる前は ユリウスのことが気になってたな。後々、俺様な性格と知って推し変したのだけど)

 それにしても分厚い眼鏡だ。いくら変装のためとはいえ、これで本当に前が見えているのだろうか。そんな事を考えながら、ついついじっと彼の顔を見つめてしまっていれば、ユリウスが不思議そうに首を傾げる。

「あの……僕の顔に何かついてますか…?」
「い、いえ! 何でもないです!」

 慌てて首を横に張れば、彼が私の手元にある本を指差した。

「ところで、アナスタシアさん。そんなに熱心に何の本を読んでいたんですか?」
「えっ! えぇっと、それは……」

 本の内容が内容なので、できれば教えたくなかったが、ここで隠す方が怪しいかと思い、わたしは手元にあった本を彼に差し出した。

「異性を虜にする魔法?」
「友人が恋に悩んでまして……その何か力になれないかなと」

 タイトルを読み上げられてしまい、思わず視線を逸らす。エミリアのためとはいえ、こういった類の本を読んでいたことがバレるのは、少し恥ずかしい。どうかテオドールには言わないでくれ。

「へぇ。なるほど」

 パラパラとページをめくり、ユリウスが内容を確かめる。何か惹かれるものでもあったのだろうか?

「ご友人のためとは、優しいんですね」
「いえいえそんな……わたしも彼女の恋がうまくいけばいいなって応援してるので」

 そうやって笑いながら話をする。本来の性格とは異なり、今の彼とは話がしやすいな、なんて考えていれば。

「………くっだらねぇ」

(ん? いま、くだらないと言った?)

 とても小さな声だったが、わたしの耳には、はっきりと聞こえた。くだらない、確かに彼はそう言った。いくら何でもそれは聞き捨てならない。

「いま、くだらないって言いました?」
「いえいえ、そんなまさか。アナスタシアさんの聞き間違いですよ」
「いや確実に言いましたよね! くだらないって!」
「図書室では静かに、ですよ。アナスタシアさん」

 なぜこちらが間違っているかのように、宥められているのだ。彼のその態度にも段々と腹が立ってきて、わたしはつい悪態をついてしまった。

「……嫌われ者のくせに」
「は?」

 ゲームの中での彼のキャッチコピーである「嫌われ者の孤独な王子」。

 元々、本来のユリウスは傲慢で俺様な性格で、さらに王太子という地位を利用して、好き放題にやる人間だ。なので、本来の彼はあまり好かれてはいない。

 エミリアと出会い改心することによって、王族としての立派な人間になるのだが。今の彼はまだ改心前なので、最悪な性格野郎のままということだ。

 なので、さっきのわたしの言葉は彼のプライドを傷つけるには充分というわけで。

 目の前のユリウスの顔から笑みが消えた。

「……お前、いま、なんて言った」
「わたしは特に何も言ってませんけど……空耳では?」
「嫌われ者って言っただろーが!」
「図書室では静かに、じゃなかったですっけ? というか、先輩。そっちが素なんですね、こわいこわい」

 煽るようにそう言えば、ユリウスの額に青筋が浮かぶ。そうして、子供のように「言った」「言ってない」と言い争いを続けていれば。

 突然、勢いよく頰を掴まれた。何事かと思っていれば、地を這うような低い声がその場に響いた。

「……誰にそんな口を聞いてるのか、分からせてやるよ」
「なっ」

(い、嫌すぎる…!)

 その言い草と無遠慮に触れられたことによって、全身に鳥肌が立つ。しかし、そんなのはお構いなしに、ユリウスは空いている方の手で分厚い眼鏡を乱暴に外した。

 途端に晒される黄金の瞳。その黄金の瞳が妖しく光ったかと思えば、彼はゆっくりと口を開いた。

「……嫌われ者? 二度とそんな舐めた口を俺に聞くな。分かったな」

 何を偉そうに言っているんだ、そう思ったが、次の瞬間。わたしは自分の意思とは裏腹に、首を縦に振っていた。

「はい、仰せのままに」

(何これ……? 勝手に口が動いてる?!)

 困惑するわたしとは反対に、ユリウスは満足気に笑った。

「ふっ、だっせぇな。さっきまでの威勢はどこいった。……ついでだ、頭も下げてもらおうか」

 ユリウスのその言葉に反論したいのに、出来ない。それどころか、身体は勝手に頭を下げる。自分の身体なのに、わたしの思い通りに動かせない。

 頭を上げ、目の前の彼を睨めば、くすくすと楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

「反抗的な態度だな。そうだ、いっそのこと。跪いて靴でも舐めろ」

(馬鹿じゃないのかこの男は! 誰か靴なんて舐めるものか!)

 心の中ではそう思うのに、わたしの身体はまるで言うことを聞かない。そして、彼の前に跪くと、そっと彼が履いている靴へと顔を近づけていく。

(やだやだやだ……! 誰か……!)

 人目を忍んで、端っこの方に座ったのが、間違いだった。この場にはわたしとユリウスしかいない。

 心の中で必死に助けを求めるが、どんどんと顔は靴へと近づいていく。もう諦めるしかない、そう思っていれば、その場にやけに透き通った声が響いた。

「アナスタシア様に何をさせているのですか?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

ヒロインだと言われましたが、人違いです!

みおな
恋愛
 目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。  って、ベタすぎなので勘弁してください。  しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。  私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。

目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています

月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。 しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。 破滅を回避するために決めたことはただ一つ―― 嫌われないように生きること。 原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、 なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、 気づけば全員から溺愛される状況に……? 世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、 無自覚のまま運命と恋を変えていく、 溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。

断罪現場に遭遇したので悪役令嬢を擁護してみました

ララ
恋愛
3話完結です。 大好きなゲーム世界のモブですらない人に転生した主人公。 それでも直接この目でゲームの世界を見たくてゲームの舞台に留学する。 そこで見たのはまさにゲームの世界。 主人公も攻略対象も悪役令嬢も揃っている。 そしてゲームは終盤へ。 最後のイベントといえば断罪。 悪役令嬢が断罪されてハッピーエンド。 でもおかしいじゃない? このゲームは悪役令嬢が大したこともしていないのに断罪されてしまう。 ゲームとしてなら多少無理のある設定でも楽しめたけど現実でもこうなるとねぇ。 納得いかない。 それなら私が悪役令嬢を擁護してもいいかしら?

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

処理中です...