白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 12時。

 昼休憩の時間を迎えたオフィスが、新しいにぎわいを見せている。今から一時間後に、部下とのランチミーティングが予定されている。

 カジュアルなものにしろという通達が出ている。どの店でも同じ状況だ。普段接する機会の少ない上司と、早々に打ち解けられる者は少ない。休憩時間に設定しないのは、業務の一部だからだ。

 今日は近くのレストランで行う。ここの会議室でやればいいが、気分を変えたいという意見があった。枝川と平田によるものだ。せっかちぶりを発揮しないでくれと言われた気がする。

(送信。後で連絡が来るだろう……) 

 中山の義父あてに、夏樹の報告書をメール送信した。折り返し電話が夕方までにあるだろう。すると、デスクの電話が鳴った。秘書室からだ。

「……常務にお電話が。中山様からです。お繋ぎしてよろしいでしょうか?」
「繋いでくれ。……もしもし。圭一です。お久しぶりです」
「こんにちは。忙しいところをすまない」

 夏樹の父親である中山和司氏だ。柔らかい声質が夏樹に似ている。冷静さと優しさに臆したことがある。今でもそれは変わりない。尊敬している人物だ。

 夏樹と暮らし始めた後は、随分と叱られた。籠の鳥にするな、本人の意思を大事にしてくれと言われた。強引に連れ戻すことはされなかった。ただし親としては黙っておけない。

 黒崎家へ連れて行くことを応援された。”何か起きる前に助ける”と、本人に伝えていると聞いた。信用されていないのではない。本人を見守っているという意味だ。

「……報告書を読みました。体調は良いみたいだね。2年次の成績、えらく良い評価だったなあ。そんなに勉強していたのか?」
「ほどほどにしろと止めましたが。レポート課題の評価が高いようです」
「……これからは理学一本だから、のめり込むかもしれない。勉強するなと伝えてもらえないか?お父さんも大丈夫だったと……」
「承知しました。モデル起用の件は、まだ止めています」
「……人気者だな。日本舞踊の稽古を再開させるのか?稽古着を送ってくれないかと、家内に聞いてきたそうだ」
「それは違う用途です……」

 アンに着せる服を作りたいからだ。自分の服装と同じイメージで、和風のものに仕上げたいからだ。たまに着せて散歩をさせたいと話していた。それを話すと、義父が笑った。

「裁縫は根を詰めるから止めました……」
「ははは。夏樹らしい。圭一君は変わりないか?」
「はい。僕の方はありません。お義父さんはいかがですか?」
「僕の方も健康だ。家内は風邪を引いている。微熱が続いているから受診をしたよ。疲れが出たようだ。医者からそう言われている。夏樹には伏せてくれ。伊吹には話しておく」
「承知しました」
「ありがとう……」

 お互いに業務中だ。普段通りに手短に会話を終えた。

 義母のことが気になる。いくら夏樹が心配症だとはいえ、伊吹だけに伝えておくのは引っかかる。一番上の兄貴だからこそか?いざという時に、家族の代表で出てくる役目だろう。どうも我が家の価値観は違う。子供の頃から普通だと認識していたことが、大きく違うケースがある。迷うことが起きている。

(そろそろ電話をかけるか……)

 この時間なら、夏樹は学食に居るだろう。どのメンバーと食事をしているだろう?さっそくビデオ通話をかけると、悠人から顔を拭かれている夏樹が映った。口元にクリームを付けているからだ。これなら心配ないと思い、安心できた。
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