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午前8時。
食器の後片づけが終わった。さっきまでお義父さんの家にいた。うちで作った朝ごはんを、向こうのダイニングで食べたからだ。一貴さんには、まだ謝れていない。
お義父さんは、遠藤さん家へ遊びに行った。業界団体との垣根を超えた数少ない友達だと楽しんでいる。ろくに休日がないから、やっと休めると言って笑っていた。もうすぐで引退する。俺としては悲しい。まるで追いやった気分だ。
どうしてそう思うのかと、黒崎から聞かれた。早瀬さんが一貴さんのことを殴ろうとしたことを止めていれば良かったからだと答えた。その前に、黒崎から電話で指示されたとおりに、一貴さんをお義父さんの書斎に連れて行って、内側から鍵をかければ良かった。しかし、黒崎からは否定された。お義父さんは息子たちを追い詰めた、後悔と責任を思い知ったからだと言った。
一貴さんは、前よりも優しくなったそうだ。元から優しい人なのに。綺麗ごとだけでは済まずに、強引なことをやってきたそうだ。それは想像できるし、本人からも聞いた。被害届の取り下げや、企業との話し合いも進んでいる。
「夏樹。アンが悪戯しているぞ」
「叱ってよー。俺ばかりが悪者になるじゃん」
アンがクッションをくわえて、庭に下りている。こうなるまで放置していたのか。俺のことを気づかい、わざとかもしれない。いや、気づかなかったようだ。テーブルに書類が並んでいる。”元気がいい”の一言で済ませたのだろう。黒崎に頼むより、自分で取り返しに行った方が早い。濡れた手をタオルで拭いて、エプロンを外した。
ふん。鼻息を荒くしてテラスへ降りると、意外な人物が立っていた。花壇の方で、晴海さんが土を運んでいた。たまに手入れに来ている。この庭には沢山あるから、俺だけでは手が回らない。
「黒崎さーん、晴海お兄ちゃんが来てるよー?」
「他にも客が居るはずだ。いや、まだか……」
誰のことだよ?聞き返しにリビングへ入ろうとすると、晴海さんから呼び止められた。こっちを手伝って貰えないか?と。もちろんそうする。そばへ歩いて行った。すると、一貴さんの姿もあった。さっきは何も言っていなかったのに。
「お兄ちゃん。しゃがまないほうがいいよ」
「平気だ。リハビリにもなる」
「その体制はねー、腰を痛めるから……」
一貴さんは面倒くさがりだから、中腰で物を取ろうとする。黒崎のギックリ腰で見慣れているため、慌てて止めた。こうして触れ合っていると、以前と変わりがないのに。こだわっているのは、俺の方かな?ここで謝ろう。
意を決して、一貴さんの前に立った。”言い過ぎた”と、口を開きかけた。しかし、なかなか言い出せない。たった一言がキッカケになるのに。
あの時、黒崎の指示通りにすればよかった。生まれて初めてぐらいの後悔をした。そして、消えたはずの、背中の痛みが復活した。するとその時だ。ぼうっとしていると、腕が伸びてきたと思ったら、晴海さんから支えられていた。
「君が謝ることはない。悪いのは、一貴君の方だ」
「俺が言い過ぎたんだ……」
「そもそもだな。一貴君が余計なことをしたからだ。ここでは君が一番の年下だ。末っ子だ。どうして責任を感じる必要がある?……末っ子の特権を行使しろ。何をやっても言っても、許してもらえる立場だ。圭一がそうしてきたぞ。夏樹君に奪い取られたけどな」
「ごめん。お兄ちゃん。俺が悪かった。眠れていないだろう?」
「夏樹君……」
今度は、一貴さんから抱き寄せられた。ちゃんと話せないのは、俺のせいだと言ってくれた。そんなことはない。俺のせいだ。そう言い合っていると、晴海さんからベンチへ促された。
「座っておけ。今日はだな……。一番上の兄貴としてだな……。集まってだな……。おい……。見るな。今日はだな。今日は……」
晴海さんが決まりが悪そうに話し始めた。じっと見つめていると、空を仰いでおけと言われた。なんて言い方をするのか。誰かと似ている。すると、視界の端っこに人影が入った。
「黒崎さんも出てきたよ。珍しいなあ……」
土いじりは興味がないのに。楽しそうにしているから、仲間に入りたくなったのか。素直じゃない人だ。
食器の後片づけが終わった。さっきまでお義父さんの家にいた。うちで作った朝ごはんを、向こうのダイニングで食べたからだ。一貴さんには、まだ謝れていない。
お義父さんは、遠藤さん家へ遊びに行った。業界団体との垣根を超えた数少ない友達だと楽しんでいる。ろくに休日がないから、やっと休めると言って笑っていた。もうすぐで引退する。俺としては悲しい。まるで追いやった気分だ。
どうしてそう思うのかと、黒崎から聞かれた。早瀬さんが一貴さんのことを殴ろうとしたことを止めていれば良かったからだと答えた。その前に、黒崎から電話で指示されたとおりに、一貴さんをお義父さんの書斎に連れて行って、内側から鍵をかければ良かった。しかし、黒崎からは否定された。お義父さんは息子たちを追い詰めた、後悔と責任を思い知ったからだと言った。
一貴さんは、前よりも優しくなったそうだ。元から優しい人なのに。綺麗ごとだけでは済まずに、強引なことをやってきたそうだ。それは想像できるし、本人からも聞いた。被害届の取り下げや、企業との話し合いも進んでいる。
「夏樹。アンが悪戯しているぞ」
「叱ってよー。俺ばかりが悪者になるじゃん」
アンがクッションをくわえて、庭に下りている。こうなるまで放置していたのか。俺のことを気づかい、わざとかもしれない。いや、気づかなかったようだ。テーブルに書類が並んでいる。”元気がいい”の一言で済ませたのだろう。黒崎に頼むより、自分で取り返しに行った方が早い。濡れた手をタオルで拭いて、エプロンを外した。
ふん。鼻息を荒くしてテラスへ降りると、意外な人物が立っていた。花壇の方で、晴海さんが土を運んでいた。たまに手入れに来ている。この庭には沢山あるから、俺だけでは手が回らない。
「黒崎さーん、晴海お兄ちゃんが来てるよー?」
「他にも客が居るはずだ。いや、まだか……」
誰のことだよ?聞き返しにリビングへ入ろうとすると、晴海さんから呼び止められた。こっちを手伝って貰えないか?と。もちろんそうする。そばへ歩いて行った。すると、一貴さんの姿もあった。さっきは何も言っていなかったのに。
「お兄ちゃん。しゃがまないほうがいいよ」
「平気だ。リハビリにもなる」
「その体制はねー、腰を痛めるから……」
一貴さんは面倒くさがりだから、中腰で物を取ろうとする。黒崎のギックリ腰で見慣れているため、慌てて止めた。こうして触れ合っていると、以前と変わりがないのに。こだわっているのは、俺の方かな?ここで謝ろう。
意を決して、一貴さんの前に立った。”言い過ぎた”と、口を開きかけた。しかし、なかなか言い出せない。たった一言がキッカケになるのに。
あの時、黒崎の指示通りにすればよかった。生まれて初めてぐらいの後悔をした。そして、消えたはずの、背中の痛みが復活した。するとその時だ。ぼうっとしていると、腕が伸びてきたと思ったら、晴海さんから支えられていた。
「君が謝ることはない。悪いのは、一貴君の方だ」
「俺が言い過ぎたんだ……」
「そもそもだな。一貴君が余計なことをしたからだ。ここでは君が一番の年下だ。末っ子だ。どうして責任を感じる必要がある?……末っ子の特権を行使しろ。何をやっても言っても、許してもらえる立場だ。圭一がそうしてきたぞ。夏樹君に奪い取られたけどな」
「ごめん。お兄ちゃん。俺が悪かった。眠れていないだろう?」
「夏樹君……」
今度は、一貴さんから抱き寄せられた。ちゃんと話せないのは、俺のせいだと言ってくれた。そんなことはない。俺のせいだ。そう言い合っていると、晴海さんからベンチへ促された。
「座っておけ。今日はだな……。一番上の兄貴としてだな……。集まってだな……。おい……。見るな。今日はだな。今日は……」
晴海さんが決まりが悪そうに話し始めた。じっと見つめていると、空を仰いでおけと言われた。なんて言い方をするのか。誰かと似ている。すると、視界の端っこに人影が入った。
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