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お茶を煎れた。良い匂いだ。俺はカステラを食べようと思っているが、黒崎はどうだろうか。キッチンから声をかけると、少しだけ食べたいと返事が返ってきた。そこで、小さな一切れを切って用意した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
黒崎がソファーに座って、お茶を飲んでいる。カステラも口に放り込んだ。しかし、美味しいとは言わない。そんなことはないと思うのに。
俺はソファーの前に座った。ラグが気持ちいい。つい最近、新しい物に変えたところだ。ほっこりする。そして、お茶を飲んで、美味しいと感じた。カステラもだ。
「美味しいなあ」
しかし、黒崎からの返事はない。新聞を読みながら考え事をしているのか。そういう時でも、俺に話しかけてくるし、俺が話しかけたら返事が返ってくる。要は、俺は美味しいという言葉が欲しい。
「黒崎さん。あんたの口数の少なさには驚かないよ」
「そうか」
「美味しいって言ってくれないの?」
「ああ」
「マズいってこと?」
「そんなわけあるか。美味いカステラだ」
「お茶はどうなんだよ?」
「ああ。美味い」
「そう。ふん。いまさらだねえ」
なんだかムカムカしてきた。今日は失敗しただろうか。そんなことをふと考えた。そこで打ち消した。十分美味しいと思う。
今日の予定は、黒崎は会社で、俺は大学だ。今から日課を始める。今までは大学の勉強をやっていたが、卒業が近くなり、ノートの整理をしている。ノートは取っておくつもりでいる。俺の歩いてきた証だ。黒崎がそう言っていた。
(素敵な言葉も言う人なんだけどねえ。今日は歌詞を書こうっと……)
黒崎のことを見直すのが嫌になってきた。悠人が作曲した楽曲にしようか、それとも、久弥の切ないバラードにしようか。
(以前にも恋をしたことがある君へ。僕の愛は……。ここで書きかけだったっけ……)
これ以上が思い浮かばなくて、お風呂でも考え込んでいた。イヤホンを耳に差し込み、それぞれの曲を聴こうとした。これだと黒埼の声が聞こえづらい。彼のいないときにしていた事だ。距離が出来てしまうと思うからだ。黒崎はここにいるのに。だから、イヤホンを外した。
「夏樹」
「うん?」
「今夜、ピアノで弾いてやろうか?」
「うん!」
「その代わり、機嫌を直してくれ。どうして拗ねているんだ?」
「あんたが何も言わないからだよ」
「俺が茶を煎れ直せと言ったことがあったか?」
「ないよ。そんなこと、言ったことあるの?」
「覚えている限りでは、ないはずだ。お前の他の人にもない。美味かった」
「早く言ってよ」
「言わない」
黒崎が隣に座った。なんだか拗ねているようだ。俺が怒っているからだろうか。すると、イヤホンを耳に差し込んできた。
「黒崎さん。今は嫌なんだ。あんたと話さないのはさ」
「俺も寂しかった」
「マジで?やっぱり一人でいるときにするよ」
「仕事の邪魔はしたくない。ジレンマを抱えている」
「そんな。俺はここにいるよ。ごめんね」
黒崎に抱きついた。すると、イヤホンを取ってテーブルに置いてくれた。そして、こめかみや頬にキスをしてくれた。そして、まだ時間があると言い、俺のことをソファーに寝かせた。黒崎が覆いかぶさってきている。
「夜にしようよ」
「今がいい。そうか、大学があるのか。ゆっくりならどうだ?」
「もう……」
こうなったら黒崎は止らない。本気だ。ニットをはぐられて、彼の唇が肌の上を滑った。これで仲直りだねと声をかけると、深いキスをもらった。
黒崎の息は乱れていなくて、ふれあいが優しかった。体温が心地よくて、寝てしまいそうになるほどだ。俺は黒崎の微笑みを受け取りながら、歌詞が浮かんだ。何も変わらず、キミのことを愛していると。しかし、黒崎には言わないようにした。また拗ねそうだ。
喧嘩をして仲直り。これがいつもの俺達だ。回転木馬のようにエンドレス。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
黒崎がソファーに座って、お茶を飲んでいる。カステラも口に放り込んだ。しかし、美味しいとは言わない。そんなことはないと思うのに。
俺はソファーの前に座った。ラグが気持ちいい。つい最近、新しい物に変えたところだ。ほっこりする。そして、お茶を飲んで、美味しいと感じた。カステラもだ。
「美味しいなあ」
しかし、黒崎からの返事はない。新聞を読みながら考え事をしているのか。そういう時でも、俺に話しかけてくるし、俺が話しかけたら返事が返ってくる。要は、俺は美味しいという言葉が欲しい。
「黒崎さん。あんたの口数の少なさには驚かないよ」
「そうか」
「美味しいって言ってくれないの?」
「ああ」
「マズいってこと?」
「そんなわけあるか。美味いカステラだ」
「お茶はどうなんだよ?」
「ああ。美味い」
「そう。ふん。いまさらだねえ」
なんだかムカムカしてきた。今日は失敗しただろうか。そんなことをふと考えた。そこで打ち消した。十分美味しいと思う。
今日の予定は、黒崎は会社で、俺は大学だ。今から日課を始める。今までは大学の勉強をやっていたが、卒業が近くなり、ノートの整理をしている。ノートは取っておくつもりでいる。俺の歩いてきた証だ。黒崎がそう言っていた。
(素敵な言葉も言う人なんだけどねえ。今日は歌詞を書こうっと……)
黒崎のことを見直すのが嫌になってきた。悠人が作曲した楽曲にしようか、それとも、久弥の切ないバラードにしようか。
(以前にも恋をしたことがある君へ。僕の愛は……。ここで書きかけだったっけ……)
これ以上が思い浮かばなくて、お風呂でも考え込んでいた。イヤホンを耳に差し込み、それぞれの曲を聴こうとした。これだと黒埼の声が聞こえづらい。彼のいないときにしていた事だ。距離が出来てしまうと思うからだ。黒崎はここにいるのに。だから、イヤホンを外した。
「夏樹」
「うん?」
「今夜、ピアノで弾いてやろうか?」
「うん!」
「その代わり、機嫌を直してくれ。どうして拗ねているんだ?」
「あんたが何も言わないからだよ」
「俺が茶を煎れ直せと言ったことがあったか?」
「ないよ。そんなこと、言ったことあるの?」
「覚えている限りでは、ないはずだ。お前の他の人にもない。美味かった」
「早く言ってよ」
「言わない」
黒崎が隣に座った。なんだか拗ねているようだ。俺が怒っているからだろうか。すると、イヤホンを耳に差し込んできた。
「黒崎さん。今は嫌なんだ。あんたと話さないのはさ」
「俺も寂しかった」
「マジで?やっぱり一人でいるときにするよ」
「仕事の邪魔はしたくない。ジレンマを抱えている」
「そんな。俺はここにいるよ。ごめんね」
黒崎に抱きついた。すると、イヤホンを取ってテーブルに置いてくれた。そして、こめかみや頬にキスをしてくれた。そして、まだ時間があると言い、俺のことをソファーに寝かせた。黒崎が覆いかぶさってきている。
「夜にしようよ」
「今がいい。そうか、大学があるのか。ゆっくりならどうだ?」
「もう……」
こうなったら黒崎は止らない。本気だ。ニットをはぐられて、彼の唇が肌の上を滑った。これで仲直りだねと声をかけると、深いキスをもらった。
黒崎の息は乱れていなくて、ふれあいが優しかった。体温が心地よくて、寝てしまいそうになるほどだ。俺は黒崎の微笑みを受け取りながら、歌詞が浮かんだ。何も変わらず、キミのことを愛していると。しかし、黒崎には言わないようにした。また拗ねそうだ。
喧嘩をして仲直り。これがいつもの俺達だ。回転木馬のようにエンドレス。
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