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2-1 黒崎家の日常
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11月8日。金曜日。午前5時半。
朝ご飯を作っているところだ。冷蔵庫から卵を取り出した。セイキュー宅配で買った卵だ。黒崎は、この卵で焼いた厚焼き卵でないと納得しない。口の肥えた人だ。以前は黒崎ホールディングスというレストランを経営している会社の社長だった。毎日外食ばかりだったそうだ。俺と暮らすようになり、俺の手料理を食べ始めて4年と少し経つ。料理の腕が上がったのか、たまに美味しいと言ってくれる。
黒崎は優しい人だ。偉そうな時もある。ウサギの人形が好きで、我が家で集めている。過去には、数多くのデート相手が存在していた。ピンと伸びた背筋と威圧感がある。会社ではたまに冗談を飛ばして場を盛り上げるようだが、俺の前では寡黙だ。そして、何でも黒崎を優先しないといけない空気感もある。心配性でもある。俺の姿が家の中で見当たらないだけで探し歩く。たとえそれが、お茶を飲みたいから煎れてくれという用件でも、愛されていると思うことにしている。今もまとわりつかれている。
「黒崎さん。邪魔だよ~」
「どうして口を聞いてくれないんだ?」
「話しているじゃん……」
「そっけないだろう。そんなに俺が女性と話すのが嫌なのか?」
「そうじゃないよ。聞いていなかったからだよ……」
「店に行ったのは接待だ。断れないものだ」
「ふん……」
「お前の方こそ、事務所のメンバーで食事に行くんだろう?」
「そうだけどさ。ちゃんと言ってあるじゃん。バンドメンバー、みんな一緒だし……」
黒崎が2日前、会社の接待で高級クラブに行った。もちろん、女性が席に着く。さぞかしモテたことだろう。名刺がスーツの胸ポケットから出てきた。普段、もらった名刺や食事に誘う文面のあるメッセージカードは、俺に分からないようにして処分しているようだ。しかし、今回は古くからの付き合いの人の接待であり、黒崎は初めて行く店だったから、名刺は捨てないで持って帰ってきた。ちゃんと事前に聞いていたら、俺だって怒らない。要は俺のヤキモチだ。
「店のママの名刺だ。保管しておきたい」
「それは分かっているよ。俺だって、いつかは行くかも知れないし。ないかも知れないけど。もう、ご飯を運んでよ」
今朝は和食系にした。炊き上がったご飯の良い匂いがしている。黒崎がそばにいるのを感じながら、炊飯器からお茶碗にご飯をよそった。もちろん、黒崎の分も。それを黒崎に渡した。
「許してくれ」
「今日、あんたが帰ってきてから許すよ。昨日だって、ちゃんと晩ご飯を作っただろ?本当は、ご飯とお漬物だけにしようかと思ったんだけど……」
昨日は大学の授業があり、遅くなった。しかし、ちゃんと晩ご飯は作った。黒崎はどこかレストランを予約して、俺の機嫌を取ろうとしていたようだ。おそらく、キセイという店だろう。黒崎の4番目のお兄さんである一貴さんから教えてもらった店だ。店から見る夜景が綺麗だという。
朝ご飯を作っているところだ。冷蔵庫から卵を取り出した。セイキュー宅配で買った卵だ。黒崎は、この卵で焼いた厚焼き卵でないと納得しない。口の肥えた人だ。以前は黒崎ホールディングスというレストランを経営している会社の社長だった。毎日外食ばかりだったそうだ。俺と暮らすようになり、俺の手料理を食べ始めて4年と少し経つ。料理の腕が上がったのか、たまに美味しいと言ってくれる。
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「黒崎さん。邪魔だよ~」
「どうして口を聞いてくれないんだ?」
「話しているじゃん……」
「そっけないだろう。そんなに俺が女性と話すのが嫌なのか?」
「そうじゃないよ。聞いていなかったからだよ……」
「店に行ったのは接待だ。断れないものだ」
「ふん……」
「お前の方こそ、事務所のメンバーで食事に行くんだろう?」
「そうだけどさ。ちゃんと言ってあるじゃん。バンドメンバー、みんな一緒だし……」
黒崎が2日前、会社の接待で高級クラブに行った。もちろん、女性が席に着く。さぞかしモテたことだろう。名刺がスーツの胸ポケットから出てきた。普段、もらった名刺や食事に誘う文面のあるメッセージカードは、俺に分からないようにして処分しているようだ。しかし、今回は古くからの付き合いの人の接待であり、黒崎は初めて行く店だったから、名刺は捨てないで持って帰ってきた。ちゃんと事前に聞いていたら、俺だって怒らない。要は俺のヤキモチだ。
「店のママの名刺だ。保管しておきたい」
「それは分かっているよ。俺だって、いつかは行くかも知れないし。ないかも知れないけど。もう、ご飯を運んでよ」
今朝は和食系にした。炊き上がったご飯の良い匂いがしている。黒崎がそばにいるのを感じながら、炊飯器からお茶碗にご飯をよそった。もちろん、黒崎の分も。それを黒崎に渡した。
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