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3-9(黒崎視点)
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20時。
今、書斎にいる。夏樹は夕食後、薬を飲み、ぐっすり眠っている。明日は一日、彼は休みだ。俺も本当は付き添いたいが、スケジュールが詰まっている状況だ。出勤する。その間、父の家で預かってもらう。月2回は熱を出していた夏樹だったが、そういうことがなくなってきた。気迫があるのだろう。
「卒業か……」
夏樹が春に大学を卒業する。その後は開発部の仕事と音楽の仕事がある。ステージは激しいものだ。毎回のように不安になる。夏樹がいなくならないかと。体力に限界が来たとき、開発部の仕事一本にさせるつもりだ。しかし、そうならないようにしたい。これは俺の変化だ。ステージで夏樹は輝いている。
夏樹の人見知りで引っ込み思案な性格はそのままだ。だが、仕事となるとそうはいかなくて、なるべく人と話そうとしているのが分かる。夏樹には、ある仕事が舞い込んできた。自伝というものだ。悠人にも話が来ている。まだデビューして2年しか経っていない状況だ。事務所の方が丁重に断ったと聞いている。長谷部さんから聞いた。夏樹が音楽活動をする際には、仕事の種類は俺にも報告がくるようにしてある。夏樹の引っ込み思案な性格が原因だと説明して、理解を求めてある。
パソコンで“夏樹の報告書”を開いた。今、作成中だ。この中には、黒崎家で起きたことを書くようにしている。その時の夏樹の反応もだ。法事のある1月は親族争いの件を正直に書いた。今年は夏樹と二葉には留守をさせて、現場を見せていない。二葉が父の娘であることを認めたことが、争いの発端だ。喧嘩のネタは何でも良い人達だ。そして、二葉には縁談があるのかと聞いてくる親戚もいた。本人が出席していたら、ストレスで倒れそうな話だ。夏樹も苛立ちを隠せなくなるだろう。
「さて、どう書くか。兄貴の一貴が親父のカメラを落として落ち込んでいたことと、親子鑑定を考えていることを書くか。夏樹は今のままでも良いと言っていた。父の実子ではなかったことで、一貴の落ち込みを心配している……」
一貴の表情が随分良くなった。昔は黒崎家を遠ざけて、プラセルを大きな企業に育て上げた。ストレスから、大人と子供の顔が見え隠れするようになったことに気づき、どれぐらいの年数が経ったことだろう。
親子鑑定の結果次第では、一貴に変化があるかも知れない。せっかく業界から嫌われていたプラセルが、周りと打ち解けられたというのに。
もしも実子で無くても、父は一貴を息子だと思っていると言った。しかし、養子縁組することを一貴が拒んだ。自分は島川一貴として歩いてきたからだと言っていた。実子であってくれたらいい。俺もそう願っている。
一貴は父とは似ていない。母方の家系の顔立ちだ。二葉は鑑定するまでもない。父に似ている。もちろん、母にも。
「ママのことはどう書くか。俺も二葉も朝陽も会っていないし、連絡すら取っていない。そう書くか……」
経営しているモデルスクールには、もうすぐで居場所がなくなるだろう。マネージャーが実質的に動かしている。この件は夏樹にはまだ話していない。母が会社を離れることになれば、どうなるだろう。今付き合っている恋人に頼るのだろうか。まさか倉口の元に戻るのか。母の考えていることは理解しがたい。
この記録は毎月書いて、中山の義父に送っている。義母も見ているそうだ。必ず、夏樹の写真も入れている。写真はどれがいいだろうかと選びながら、全部にしようと決めた。この中には、リハーサル中の写真もある。真剣な夏樹の姿が写っている。
ふと、時計を見た。そろそろ夏樹が目を覚ましそうだ。そばにいてやりたい。そっと立ち上がり、書斎を出た。
今、書斎にいる。夏樹は夕食後、薬を飲み、ぐっすり眠っている。明日は一日、彼は休みだ。俺も本当は付き添いたいが、スケジュールが詰まっている状況だ。出勤する。その間、父の家で預かってもらう。月2回は熱を出していた夏樹だったが、そういうことがなくなってきた。気迫があるのだろう。
「卒業か……」
夏樹が春に大学を卒業する。その後は開発部の仕事と音楽の仕事がある。ステージは激しいものだ。毎回のように不安になる。夏樹がいなくならないかと。体力に限界が来たとき、開発部の仕事一本にさせるつもりだ。しかし、そうならないようにしたい。これは俺の変化だ。ステージで夏樹は輝いている。
夏樹の人見知りで引っ込み思案な性格はそのままだ。だが、仕事となるとそうはいかなくて、なるべく人と話そうとしているのが分かる。夏樹には、ある仕事が舞い込んできた。自伝というものだ。悠人にも話が来ている。まだデビューして2年しか経っていない状況だ。事務所の方が丁重に断ったと聞いている。長谷部さんから聞いた。夏樹が音楽活動をする際には、仕事の種類は俺にも報告がくるようにしてある。夏樹の引っ込み思案な性格が原因だと説明して、理解を求めてある。
パソコンで“夏樹の報告書”を開いた。今、作成中だ。この中には、黒崎家で起きたことを書くようにしている。その時の夏樹の反応もだ。法事のある1月は親族争いの件を正直に書いた。今年は夏樹と二葉には留守をさせて、現場を見せていない。二葉が父の娘であることを認めたことが、争いの発端だ。喧嘩のネタは何でも良い人達だ。そして、二葉には縁談があるのかと聞いてくる親戚もいた。本人が出席していたら、ストレスで倒れそうな話だ。夏樹も苛立ちを隠せなくなるだろう。
「さて、どう書くか。兄貴の一貴が親父のカメラを落として落ち込んでいたことと、親子鑑定を考えていることを書くか。夏樹は今のままでも良いと言っていた。父の実子ではなかったことで、一貴の落ち込みを心配している……」
一貴の表情が随分良くなった。昔は黒崎家を遠ざけて、プラセルを大きな企業に育て上げた。ストレスから、大人と子供の顔が見え隠れするようになったことに気づき、どれぐらいの年数が経ったことだろう。
親子鑑定の結果次第では、一貴に変化があるかも知れない。せっかく業界から嫌われていたプラセルが、周りと打ち解けられたというのに。
もしも実子で無くても、父は一貴を息子だと思っていると言った。しかし、養子縁組することを一貴が拒んだ。自分は島川一貴として歩いてきたからだと言っていた。実子であってくれたらいい。俺もそう願っている。
一貴は父とは似ていない。母方の家系の顔立ちだ。二葉は鑑定するまでもない。父に似ている。もちろん、母にも。
「ママのことはどう書くか。俺も二葉も朝陽も会っていないし、連絡すら取っていない。そう書くか……」
経営しているモデルスクールには、もうすぐで居場所がなくなるだろう。マネージャーが実質的に動かしている。この件は夏樹にはまだ話していない。母が会社を離れることになれば、どうなるだろう。今付き合っている恋人に頼るのだろうか。まさか倉口の元に戻るのか。母の考えていることは理解しがたい。
この記録は毎月書いて、中山の義父に送っている。義母も見ているそうだ。必ず、夏樹の写真も入れている。写真はどれがいいだろうかと選びながら、全部にしようと決めた。この中には、リハーサル中の写真もある。真剣な夏樹の姿が写っている。
ふと、時計を見た。そろそろ夏樹が目を覚ましそうだ。そばにいてやりたい。そっと立ち上がり、書斎を出た。
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