青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 黒崎にもお義父さんにも心配をかけまくったことがある。今だってそうだ。俺のリハーサル風景をテレビ画面越しに見て、ハラハラしているのだと思う。プロデューサーの高宮さんからのOKが出ず、何度も歌い直しをさせられている場面が流れていた。その中の俺と悠人は笑顔があり、首に掛けたタオルで何度も汗を拭いている。

 リハーサルではバンドで歌う練習が続いている。ドラムとベースはサポートメンバーさんで構成されていて、2人交代になる。誰のサポートでもリズムを崩さず演奏する必要があり、悠人と久弥が頭を付き合わせて、ギターを弾いて調整して確認作業をしている。

 俺はドラムの高山さんと真剣な顔になっている。もっと自由に歌えと高宮さんからの指示が飛んできて、その時の自分はそれは難しい要求だと思って、額から汗が流れ出す思いをした。この仕事はもっと楽しいかと思えば、全然そんなことはなくて、まだまだ道の途中である自分を知る大事なリハーサルになった。譜面通りに歌うなと言われて戸惑い、もっと感情を込めろと言われては泣きそうになった。

 悠人だって頑張っている。今年開催されたギタリスト祭典では、ベテランの中で力を発揮し、音楽雑誌に一人で載るなどのこともあった。いつか俺も単独で載ってみたい。TDD以外では、同じレコード会社の所属ということで、勅使河原さんとの対談が特集されたばかりだ。

 そのページのいる俺はバンドマンのナツキであり、普段の自分の姿でもあった。他の誰にもなりようがなくて、久弥からのアドバイスである、変身するなという言葉が活かされていると思い、久弥から褒められた。彼は前のバンドであるディアドロップでギタリストの佐久弥になりすぎていたことで苦しみが生まれ、その姿を脱却して一年が経過した。そして、ステージを引退して後方支援部隊になる。心境はいかがですか?と、インタビューを受けて、声帯さえ痛めなければ一生歌っていたかったと正直に答えていた。そして、喉も手も大事ですよと、後輩バンドマン達にエールが贈られた。

 久弥はギタリストとして最後になるステージということで、スタッフの力の入り方が半端ではない。しかし、本人がリラックスムードだから、スタッフさん達の張り詰めた空気感を良い意味で壊して、スタジオ内では彼らの笑い声も漏れることが起きた。誰も笑ってはいけない。そんな空気だったからだ。ソロのコンサートでは弟の理久がギターで出演し、とても盛り上がったステージだった。それに、お客さん達が温かかった。TDDのコンサートでも温かい拍手と声援が贈られるように気合いを入れなければならないと思っている。

 するとその時だ。テレビ番組が終わり、CMが流れ始めた。黒崎製菓から出ているマスコットキャラクターのジュリエットがダンスを踊っているアニメーションが流れた。これは3年前から考え出されていたCMであり、社運がかかっているのだと、黒崎が話してくれた。開発部でも同じ認識であり、同じく3年前から開発していた、あっさり口溶けのチョコレートが波に乗れるかというハラハラした空気が流れている。

 開発部でのミーティングの中での自分は試食してレポートを書く立場だったから、お客さん側の気分になっていた。黒崎も開発部の同僚達も書く側だ。どうか波に乗れますようにと、手を合わせてレポートを書いていたのはレポート組全員だったのだと知り、どっと笑いが起きたことがある。

 そして、この間のミーティングの最後にTDDのコンサートのことが話題に出されて、励ましを受けて、俺はまた汗をかいた。黒崎製菓がバンドのスポンサー企業になっているからだ。何としてでも成功させなければならないと、リハーサルの時のように全身に力が入り、肩が凝りすぎて、その晩、倒れるようにベッドで寝て、朝まで寝てしまったことがある。夕食も食べずにだ。ますます痩せて、筋肉量も減ってしまう。
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