青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 かつて一貴さんは久弥のことが好きで告白をしたことがある仲だ。俺と悠人がヴィジブルレイというバンドでデビューした時をきっかけに再会し、今では友達づきあいをしている。久弥には蔵之介さんというパートナーがいて、今日は仕事の出張で来られなかった。 

 もちろん、久弥は一貴さんの恋を応援している。昔はしつこく追いかけられたという話で、話をしている今でも、2人の間には距離が空けられている。それを空気を読まないふりをした早瀬さんが久弥の隣に座って距離を詰めさせて、強引に乾杯をさせていて、みんなから笑いが起こった。 

 一貴さんの気の多さとナンパ癖は隠しきれるものではない。今では藤沢一筋だと言いながらも、あちこちで、昔告白された人が目の前に現われては、一緒に出かけている藤沢は落ち着かなかっただろう。俺はその気持ちが痛いほど分かる。都内を歩いたり、黒崎の電話やメールに昔の相手から連絡が入ったりしているからだ。 

「カズ兄さん。今日は飲めよ~」 
「ありがとう。美味しい料理だ。修輔君が来られなくて残念だ」 
「パリのお土産を楽しみに待っていたら良いよ。なんだかんだ言って、毎日ラインしているじゃん。部屋の等身大ポスターを見たよ」 
「かっこいいだろう?部屋に貼っているのは内緒にしてくれないか?」 
「いいよ~。ワインの瓶が空じゃん。持ってくるよ。あ、黒崎さん、いいの?」 
「ああ。俺が取ってくる。お前は座っていろ」 

 黒崎がバーベキューグリルのそばから離れて、家の中に置いてあるワインを取りに行ってくれた。その間、俺達はステーキを食べたり、コンサートの話をしたりした。衣装提供のプラセルがデザインしてくれた服がかっこよくて、CDジャケットでもデザインを発注することになった。バンドのホームページに載せるSNSにも使われる。 

 久弥も今回のデザインを気に入っている。ディアドロップ時代の佐久弥を彷彿とさせる2パターンの衣装は、初日と2日目で使用する。一見、女性的に見えるのが初日の格好で、2日目は色気男風のデザインだ。 

 今ではナチュラルスタイルになった久弥が数年ぶりに元の芸名である”佐久弥”として蘇るコンセプトだ。佐久弥の名前を使わなくなり、今ではどのステージでも”佐伯久弥”と言う本名で出ているから、俺からすると、ますで初めて会う人のような感覚になってしまった。 

 特に女性的な衣装をまとっている彼を見て、胸がドキドキしてしまったのは、黒崎には内緒にしてもらっている。一貴さんが好きになるわけだ。彼が惚れ込む人はキラキラしている。そして、性格は繊細な面があるというのが共通しているのだと、黒崎と晴海さんが教えてくれた。 

 すると、久弥がこの間の衣装合わせの写真をスマホで見せてくれた。俺も悠人も色気男風の衣装の分だ。ディスレクトサイドゼロへ続くイメージを連想させるために、大人っぽい格好にすることになった。そのバンドのメンバーである聡太郎と大和も出演して、3曲演奏することになっている。 

「2人とも、よく似合っている。夏樹はもっと髪を伸ばすと良い。アレンジがやりやすい。いっそのこと、長髪でどうだ?」 
「それ、うちで言われているんだ。似合っているんだって。夏のイベントで、エクステで髪を長くしたじゃん。あれがよかったんだって。ゴージャスにパーマをかけるといいよって、ローザーさんが進めてくれたんだ。でも、俺は短い髪の毛の方が好きなんだよ~」 
「まあ、エクステで長く出来るからな。悠人の髪の毛、伸びたなあ。ローザーに毛先を切ってもらったばかりだろう?また伸びているぞ。よく食べるから、栄養が行き渡っているんだろう。えーーい。ぐしゃぐしゃと……」 
「もうーーーーーっ」 

 久弥からヘアスタイルを崩された悠人が怒って向こうを向いた。シュシュで飾って、まとめ髪にしている。毎日、早瀬さんがやってくれているそうだ。しっかりしてきた肩のラインがなければ、後ろから見ると、女の子に見える。 

 実際に、去年辺りまで、ナンパされていた。今では背が伸びてきて、男だと分かった上で声を掛けられることが多くなったという。それは俺も同じで、髪を伸ばしたくない理由の一つだ。前に長めだったとき、鏡の中の自分が母にそっくりで、驚いて声をあげてしまったことがある。 
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