青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 22時。

 聖加世病院の中にいる。点滴を終えた後、少し寝ていた。隣の処置室には悠人がいて、同じく寝ているそうだ。部屋の中には黒崎がいる。お義父さんには先に家に帰ってもらっている。二葉から、こっちに来ようかと電話が入っていたが、黒崎が、すぐに帰れるから大丈夫だと返事をしていた。

「夏樹。起きたのか?」
「うん。もう元気だよ。今から帰ってシャワーを浴びたら、今日中に寝られると思うんだ。4時間寝るよ。それなら、いつもより少し短いぐらいの睡眠時間になるし……」
「お前、最近、3時間しか寝ていないだろう。夜中に目が覚めているはずだ」
「うん……。気が張っていてさ……。目は閉じているんだけどね。でも、あんたは変わらないね。さすがだよ。それにしても、晴海お兄ちゃんって、元気だよねえ……。聞いただろ?今月のスケジュール。来月になったら時間が出来るって言ってくれたんだ……」
「ああ、兄さんはすっかり元気になった……」

 思い浮かぶのは晴海さんのことだ。気が塞ぎがちだった2年前とは打って変わり、最近はとても元気だ。華道家の北岡さんの元でアシスタントを務めているから、国内を出張で回っている。

 それこそ寝ていないんじゃないかという移動スケジュールを聞き、驚いたのが今日の午後だった。俺のコンサートを観に来るために時間を空けて、寝ずに来てくれるのだろう。晴海さんこそ、倒れないか心配だ。

「晴海お兄ちゃん、やっぱり結婚するってさ……。お見合いするって……」
「無理をするなと言っておいた。俺が当主でも、跡取り息子は生まれない。兄さんだって、パートナーは同性が良い人だ。いや、いい人がいたらそうしたいというなら、止めるのはいけないことか……」
「お義父さんが養子を迎えるって言っていたよって言ったんだけど、自分に出来ることをしたいって……。昔好きだった人が女の人だったからだって……。うちって、親戚に何人か小さい子がいるんだろ?大人になる前に頻繁に泊まりに来てもらって、家に慣れてもらうんだって、お義父さんが言っていたよ。うちの家は子沢山だけど、養子を取って家を存続させたこともあるんだって……」
「ああ。こればかりはどうしようもない。パートナーには同性がいいというのは、うちの家らしい話だ。二葉に跡取りを産んで貰えという親戚がいる。本人には聞かせられない」
「その話、二葉は知っているよ。覚悟しているんだって言っていたよ。でもさ……、無理に結婚するって、悲しい話だよね」
「バーテルス家も同じだ。ユーリーが跡取りを作らないといけなくなっている。兄貴は拒否だ。だから、自分がそうするだと言っていた」
「それ、悲しいよ……。彼のことをめちゃくちゃ好きだっていう女の人がいたらいいのに。聖河さんの家もそうなんだって……」
「そうか……」

 黒崎がため息をついた。聖河さんの家はお寺だ。それこそ、親戚から養子を取って、跡を継いで貰うことも考えているそうだ。どこも同じなのだと思って親近感が沸いたし、切ない気持ちにもなった。そして、俺達に子供が授かれば良いのにと思って、さらに切なくなった。そこで、万理が子供を産んだら、その子を一人、養子に取ろうかという計画もあると聞かされた。それこそ、本人には聞かせられない。

「万理には絶対に言わないでね~」
「ああ、言わない。親父も言わない。うちに女の子がいなくてよかった。いや、二葉は女性だが、男だ」
「なんだよ。女の子扱いするって言っていたくせに。まあ、あれを見たらそう思うか~」

 昨日、黒崎が二葉の部屋を訪ねた。部屋には洗っていないマグカップが置いてあり、それでお茶を煎れてくれたのだという。もう女の子には見えないと、黒崎が言っていた。
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