青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
156 / 938

7-29

しおりを挟む
 空を見上げると、さーっと雲が晴れてきた。東の方にあるオリオン座が分かった。ここからは夜空がはっきり見えず、都内にいる実感がわく。実家では星が輝き、俺は毎晩のように夜空を眺めていた。

「君の人生が通り過ぎる。ステージのおあり文句だよ。俺も通り過ぎてきたよ。早いよ、もう大学卒業だなんて……」
「もっと学んでも良いんだぞ。でも、森本君は就職する。話が合った方が良いだろう。藤沢君もそうだ。二葉は卒業を目指すそうだ」
「それがいいよ。ドイツに行きたいんだって言っていたよ。夏のお盆休み前に休暇を取るんだって……」
「それはしなくてもかまらないだろう。まだあいつには言わないで欲しいんだが、エミリアとソフィアを日本に呼ぶ。3週間程度、うちの家に滞在して貰うつもりだ」
「へえーーー。嬉しいね!お義父さんが言っていたの?」
「ああ。親父が、自分の頭がしっかりしているうちに、国内観光したいそうだ。もちろん、親父もドイツに行くつもりでいる」
「そうだね!それこそ、退職したんだもん。やりたいことをやらないとね。体力があるうちに……、あ……」

 するとその時だ。俺達の間に風が吹き込んできて、視界が遮られる気がした。とっさに黒崎のコートを掴んで、離さないようにした。黒崎も同じだ。俺の背中に腕を回した。

「突風だったね……。ユーリーがさーー、まだ日本にいるんだって、駄々をこねているんだって?」
「ああ。お前、仕事はどうするんだと言ったら、在宅勤務だから、日本にいても良いだろうと言っていた。そうはいかない。バーテルス家の付き合いがある。向こうに帰すつもりでいる」
「居られるんなら、そうしてもらったらいいのに……。こっちでアパートを借りても良いだろ?一番良いのは、やっぱりお義父さんの家に住んで貰うことなんだけど……。カズ兄さんが喜んでいるからさ。自分と同じように叱られる奴がいて安心するんだってさ……」
「頭の痛いことだ……」

 ユーリーが庭で夜中に花火をしたら、不審者だと思った一貴さんが家から飛び出して走って来て、ユーリーにタックルしたことがある。心霊スポットに行ったことで打ち解けた2人がさらに打ち解けて、親友のようになっている。晴海さんだって助かっている。一貴さんの子守りをしてくれるからだ。藤沢は素っ気なくて、あまり連絡が取れないらしく、落ち込んでもいたからでもある。

「ユーリーさ。庭でキャンプをしたいんだって言っていたよ。カズ兄さんを誘って……」
「山に行かれなくて良かった。庭の中ならすぐに見つかる。男手が多い方がいいのは分かっているんだが……」
「まあねえーー、ユーリーのお父さんが入院中だもんね。家を空けるわけにはいかないのか……。でも、もう退院だって言っていたよ?」
「彼は跡取りだ。このままドイツに帰らないなら、アレクシスを説得するしかない。跡取りになれと……」
「うん……」

 それはとても難しい話だ。アレクシスさんはフェリックスさんのことを嫌い、縁を切っている。昔、うちの家に数年間滞在したとき、エミリアさんを守れるのは自分なんだと思っていたそうだ。ユーリーから聞いた話だ。エミリアさんのお店の経営は引き継いでも、家は守らないと言っている。まるで、昔の黒崎のようだ。いや、黒崎には自分の会社があり、黒崎製菓に戻るなんて、思っていなかった。

「黒崎さん。あんたは家に戻って良かったよ」
「俺はそう思っていないぞ」
「え?どうして?」
「お前を甘やかす奴が多すぎる。親父が人が変わったようになった。ああも優しくなると、やりずらい」
「うひゃひゃひゃ。いいじゃん……」

 黒崎のコートを引っ張り、歩き出した。向こうの方には早瀬さんと悠人がいるのが見えた。その方向に向かって大きく手を振り、車に乗り込んだ。すると、新しい芳香剤の匂いがした。精油を使った物で、頭が痛くならないやつだ。最近買えたばかりだと思っていたのに、もう無くなったのか。

 こうして時間が通り過ぎるのだと実感した。そして、2人で家に帰った。それは森の中にある一軒家で、みんなが待っている。温かい光の中で。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。 残念ながら話もできたし、触ることもできた。 様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。 そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。 厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。 きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。 それから五年。 地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。 真詞の運命が大きく動き出す。 人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半) 別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半) ・前半 巡(人外)×真詞 ・後半 岬(人間)×真詞 ※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。 ※ キスを二回程度しかしないです。 ※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。 ※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

処理中です...