青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 すると、またテレビの画面が切り替わり、なんと、早瀬さんが出てきた。びっくりして高菜の辛子漬けが箸から落ちてしまった。久弥の控え室にいるところをカメラが入り、”友人達に囲まれて”というテロップに変わった。

「びっくりした~。早瀬さんが出るんだもん。あ、別の人に変わったよ」
「裕理が言っていた。一瞬出るかも知れないと。ああ、インディーズ時代のバンド仲間が出ているじゃないか。ベテルギウスのメンバーもいる」
「俺と悠人は取材を受けていて、全然、久弥の控え室に行けなかったんだ。聡太郎君は久弥のところに居たんだよ。後任になるから、助けてやってくれって伝えるために……」

 それを思うと涙が出そうだ。聡太郎にはプレッシャーが掛かっている。悠人といえば久弥が相方になっていて、イメージが固定されているそうだ。コンサートでは悠人の旅立ちでもあった。久弥のサポートが離れて、独り立ちするようなイメージだ。本人の演奏テクニックは定評があり、音楽雑誌でも取り上げられているし、悠人のステージ衣装が人気があり、トゲトゲヘアスタイルを真似している子もいる。新しいバンドでは久弥がいない。しかし、彼の作った曲も演奏するから、楽曲は世に出る。久弥はバンドにいる。しかし、姿が見えると見えないとでは大違いで、俺達を認めてもらえるかどうか、実は俺にもプレッシャーが掛かっている。

「うっうっ。俺、ステージのMCで面白い話をしないとなあ……。歌だって上手に歌わないと……」
「どうだ。つらいか……」
「ううん。そんなことはないよ。好きで入ったバンドだもん。でもね、ステージから離れると、俺は俺でしかなくて、何にも出来ないとか、そういう暗い気持ちになることもあるんだ。緊張感から解放された後だからだって、遠藤さんが教えてくれたよ。悠人だって同じなんだ」
「心霊番組のナレーションを引き受けたらどうだ?」
「そう?やってみようかな……。俺がオバケに取り憑かれたら、助けてくれる?」
「ああ、助けてやる。この家には古くから付き合いのある寺がある。法事の寺の系列だ。そこで相談に乗ってもらえる」
「へえーー。もしかして、二葉を連れていくお寺?」
「ああ。本人が僧侶になるとしたら、その寺を選ばせたい。そう遠くない場所だ。親父こそ、離れるのはつらそうだ。娘は特別に可愛いらしい」
「そうだね。お義父さん、二葉のこと、大好きだもんね……」

 長く離れて暮らしていた二葉との同居を始めた後、お義父さんは沢山の後悔をしていたのだと、黒崎が言っていた。そして、ママが倉口さんと出て行く姿を見送った。二葉が生まれたと分かり、娘を渡せと言うことも出来たが、それはしなかった。

 もしかしたら、倉口さんとの間の子供かも知れないという思いはなかったそうだ。ママは嘘をつかないと分かっているからだった。そして、黒崎のことを烏丸家に託した。黒崎の心と体を強くさせるために。本当は2人とも手元に置きたいのに、お義父さんがお祖父さん達から習った考え方が頭に染みついていて、そうせざるを得なくて、どんどん心が疲弊していった。

 そんなお義父さんに、黒崎がこう言った。愛人を作りすぎなんだと。そして、よくエミリアさんが黒崎家に滞在してくれたものだと言っていた。頑固なお義父さんが彼女によって、柔和になったそうだ。だから、この家にとっては幸運だったに違いない。
 
「あーーあ。二葉がいなくなったら、遊び相手がいないよ~。カズ兄さんだって、寂しいに違いないよ」
「本当に男しかいなくなる。女性の力が必要だ」
「お義父さんがまた結婚したら、どうする?」
「それはそれで構わない。二葉がどう思うかは心配だ」
「そうだねえ。お義父さんのこと、好きだもんねえ……」

 あのそっくり親子は、お互いのことを必要としている。何かというと、お義父さんは二葉をそばに呼びたがる。本当は女性の格好をさせたいし、着物だって着せてやりたい。髪飾りだって買ってあげたそうだ。しかし、彼女は自分を男だというから、無理強いはできない。
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