青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 倉口さんから手紙が届いたことは、お義父さんの方から二葉に伝えてある。その内容もだ。自分が今住んでいる土地と家を、二葉に譲りたいというものだった。二葉と倉口さんは養子縁組していないから、親子ではない。だから、倉口さんが亡くなったとして、相続するのは実子の朝陽のみだ。そこで、養子縁組をしたいと言っているのではないかと、お義父さんが予想していた。生きているうちに贈与したいのであれば、そう書いているだろうからだと言っていた。ただ、二葉に譲りたい、それだけ書いてあったそうだ。

「ユーリー、すまなかった。お守りをしてもらえて助かった」
「いや、僕はいい。おかげで、ひなたぼっこが出来たよ」
「この後、倉庫に行く?」
「ああ、そうしよう」

 黒崎の表情を見ると、眉間に皺を寄せていた。はっきり顔に出すほど、話の内容がこじれているということだ。お義父さんと揉めたのではなさそうだ。もしかして、倉口さんと電話で話したのだろうか。

「お義父さんとの話はどうだった?」
「向こうと電話で話した。二葉に会いたいと言うことだった」
「朝陽のことは?」
「会いたいのは、二葉だということだった」
「なんだよそれ。朝陽が聞いたら怒るよ。ねえ、ユーリー……」
「ああ……」

 咄嗟に茶化すようにした。二葉と倉口さんとのお別れは済んでいる。今まで育ててくれてありがとうという、お礼を伝えたそうだ。ママと倉口さんが離婚するときに、ママの名義だった土地と家を倉口さんに譲った。倉口さんは今もその家に住んでいる。離婚するときの条件だったからだ。倉口さんから住む家が無くなると言われ、黒崎がママを説得して、財産を渡させた。

 二葉とは何年も会っていない。朝陽ともだ。二葉は電話で倉口さんと話したことがあり、病気をしていないかとか、ちゃんと食べているかとか聞いたそうだ。それは数回ある。その時はお義父さんがそばにいて、自由には話せなかったとは思う。倉口さんが困ったときに助けたいというのが二葉の希望であり、お義父さんはできる限りのことをすると約束した。それが、二葉が黒崎家で暮らす条件だった。その時は二葉はお義父さんのことを遠ざけるようにしたくて、そう言ったのだと分かっている。

 ママとの離婚後、倉口さんからのアクションがあるのは予想していたことで、おそらく、お金のことで揉めるのではないかと思っていた。ママと倉口さんが結婚したとき、ママには大きな財産があった。黒崎家から持たされた財産もあった。しかし、離婚するときに残っていたのは、住んでいる土地と家だけだった。使い果たしてしまったということだ。二葉の高校の修学旅行の費用だって倉口さんが使い込み、二葉のバイト代で捻出している。

 しかし、それでも、二葉は倉口さんをお父さんだと慕っている。黒崎としては頭の痛いことで、もう親でも子でもないと言えと、二葉に言ったことがある。それは先月初めのことだった。仕送りしてくれという手紙が届いたからだった。朝陽には届いていない。ママにも何かあったかも知れないが、連絡を取ることはしていないから分からない。

 どうして朝陽を無視するのか。いや、そうではない。二葉の収入と、譲られるだろう財産が目当てなのだと思っている。そんなことを思い浮かべるぐらい、俺の中での倉口さんの印象は悪くて、心がどうにかなってしまいそうだ。

「夏樹。どうした?俺の顔に何か書いてあるか?」
「揉めたってういう顔をしているよ。ねえ、ユーリー」
「ああ。どこにでもある問題だ……。そう深刻にならずに……」

 そういうユーリーの表情も固い。そして、朝陽に援助を頼むなら分かるが、どうして二葉だけなのかと考えると、そういうことだろうと言った。倉口さんはお義父さんの運転手をしていたが、ユーリーが黒崎家で暮らしていたときはまだやっていなくて、知らない相手だけどと前置きして、もう関係を絶たせたらどうかと言った。
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