青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 12月11日、木曜日。午前9時。

 俺は今、区役所の駐車場の中に居る。二葉の戸籍届を出すために、ここに来た。二葉の体調は良い方で、本当なら今日は家でゆっくりさせたかったが、腰が重くなりそうだと言うから、今日連れて来た。書類は揃えてある。先々月にそうしてあった。もちろん、俺のそばには二葉が立っている。夏樹と同じ色のコートを着て、今日は寒いねと白い息を吐いた。隣には夏樹がいて、懐かしいなあと言った。父は家で待っている。

「黒崎さん、覚えている?俺もここの庁舎で養子縁組の届け出をして、黒崎夏樹になったんだ……」
「ああ、もちろん覚えている。10月30日の晴れの日だ。あいにく、今日は曇りだな。もうすぐで雨が降りそうだ。二葉、お前は雨男だったか?」
「ううん。最近はそうでもないよ。地元に居たときは雨男だったけど、黒崎家に来た後は、天気に恵まれることが多いよ」
「それは、俺が晴れ男だからだ」
「なんだよ。お兄ちゃんのおかげってこと?お母さんは完璧な雨女でさーー。朝陽も俺も、お母さんとスーパーに行くとなったら、雨が降り出すことが多かったんだ。それも、一時的な雨ってやつ。しかも、家に帰って来た後、ピタッと雨が止むんだ……」
「なんだそれは……」

 俺が吹き出すと、夏樹が良い案があると言い出した。どんな案だろうか。

「それなら、絵理奈ちゃんに会うと良いよ。1回だけ会ったことがあるよね?俺の大学の友達だよ。彼女って、スーパー晴れ女なんだ。大学から帰った後に雨が降り出す子なんだよ~」
「へえーー。南波さんの番組の日に来るんだって?会いたいなあ」
「向こうもそう言っていたよ。お姉ちゃんがR&Wの社員なんだよ。細川陽衣ほそかわはるいさんだよ。もしかしたら、会ったことがあるかな?」
「ううん。細川さんとはまだだだよ。俺、友達が少ないから、話す相手が増えるといいなあ」
「絵理奈ちゃんが、お姉ちゃんに言ってくれるってさ。黒崎製菓に来る時もあるそうだから、ランチに誘ってって。君が好みかも。写真で見ると、志乃ちゃんに似ているんだ」
「え、マジで!?うわーー。嬉しいなあ。ああ、でも、俺は……」
「偏見はないってさ。人生いろいろ。それを絵理奈ちゃんに言っているお姉ちゃんなんだよ。それとさ、志乃ちゃんにラインした?今日のこと……」
「うん。朝、ラインしたよ。グッドラックっていうスタンプが来たよ。志乃まで、昨夜電話を掛けてくれただなんて……」
「しかも、俺にはラインを送ってくれたんだ。何かあった気がするって……」

 昨夜のことだ。日付が変わった瞬間、二葉のスマホに志乃からの電話が入った。二葉は電話に出られる状態で、少しだけ話をしていた。俺の方にはラインが入っていた。二葉を心配する内容だった。事情を聞いて、志乃はびっくりしていた。寝る前に急に二葉のことが思い浮かんで、なんだか落ち着かなくなり、これを虫の知らせというのかと、遅い時間だけどと思いながら、電話をかけたということだった。

「二葉。志乃さんとお母さんとの関係はどうなんだ?」
「平行線だよ。志乃は喧嘩中だよって言うんだけど、もつれているから、しばらくは話をしないんじゃなかな。志乃が一方的に怒っている感じもあるけど、怒る理由も分からないではないんだよね……」
「……」

 俺も夏樹も返事をしなかった。まさか志乃が母親との関係を切ろうとしているとは想像もしていなくて、絵理奈の姉の言うとおり、人生いろいろだと思った。仲の良い親子だと思っていた二葉が驚き、どうしてなのかと聞いたのは先週の話だ。

 志乃は今、大学院で研究を続けている。家庭教師のバイトで生計を立てており、実家からの仕送りはなくても良い状況になった。そして、就職活動をするようになり、母親から、なるべく地元で就職して、結婚して欲しいと言われたそうだ。

 志乃には6歳離れた兄が一人居るが、母親の前の夫との子供であり、その子を連れて再婚し、志乃が産まれた。北岡家の祖母は志乃に跡を継いで貰いたいという考えをしており、いずれは祖母の家や、両親が住んでいる家を譲りたいと言っているそうだ。

 志乃の兄は母親の叔母の家との養子縁組がされており、北岡家に居る子は志乃だけになった。だから、母親がそうさせたいと思っているのだと、志乃が言っていた。しかし、祖母も父親も、志乃が都内で就職することには賛成してくれているという。母親だけが反対しているそうだ。
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