青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
256 / 938

9-57

しおりを挟む
 庁舎の中に入るとすぐに総合案内所があり、戸籍届出は108番窓口だと説明を受けた。このまま直線で歩いて行き、右側にあるという。夏樹の届け出の時に来て以来だ。当時と場所は同じだと思い出した。

「わあーー、ドキドキするよ~。あ、こんにちはーーー」

 夏樹が歩き出すと、来庁者から次々とナツキだという声が聞こえてきた。コンサートの前後では、随分と多くのテレビで宣伝をさせて貰ったからだろう。それに、心霊番組のナレーションを担当する話が出た後、その番組に出ないかという声も掛かり、そのため、そのテレビ局では、TDDの次のバンドの宣伝を掛けてくれている。

 夏樹が手を振ったり笑顔を向けたりして、一時は人だかりができて、立ち止まることになってしまった。今日は家族の手続きで来たんですと夏樹が言うと、みんな笑顔になったり、心配する顔になったりした。ここには様々な用件で訪れているのだろう。

「ありがとうございましたーーー」

 夏樹がペコッと頭を下げて声を掛けてくれた人達から別れて、奥に向かった。すると、目的の窓口番号が見えてきた。夏樹が先に歩いて行き、俺達に手を振った。ここだよと。

「お前、今日は元気だな」
「いいじゃん。はしゃいでも。どうせ、2人とも、泣くんだろ?俺は泣かないからね」
「泣くわけあるか。二葉、椅子に座れ」
「うん。すみません。届け出をしたいのですが……」

 二葉が窓口の椅子に座り、バッグの中から届け出用紙を取り出した。既に記入済みだ。それと、必要書類も取り出した。俺達は手続きを始めた姿を見て、ため息をついた。ここに来るまでに事故が起こることや、誰かが高熱を出すことなどが想定されたからだ。黒崎家にはそういうことが起きる。夏樹の時はスムーズだったから、父が驚いていた。さて、二葉の場合はどうだろうか。

「黒崎さん。大丈夫だよ。帰り道も安全運転にすれば良いよ」
「ああ。帰りはまっすぐ帰るんだったな?本屋に連れて行ってやるぞ」
「いいんだよ。何かあるといけないもん。怖い話だよね~。家族の誰かが住民票を移したり、引っ越しを考えたりした時に、怪我をしたり、高熱で動けなくなったりするなんてさ~。カズ兄さんも、そうだったよね。前に住んでいたマンションは気に入っていたんだけど、猫が飼えないからって、引っ越しをしようと考えていたら、会社の階段で転んで骨折して、お義父さんの家に引っ越してきたんだ……」
「おかげで退屈しない。本当に変な兄貴だ……」

 俺は今朝の一貴のことを思い出して、眉間に皺が寄る思いだ。想いを寄せている藤沢に向けて、詩を書いたそうだ。それを夏樹に見せに来た。昨夜の俺達の留守の間に書いていたそうだ。珍しく藤沢と連絡が取れて、有頂天になって思いついた、彼に贈る詩だそうだ。夏樹は歌詞を書くし、絵本のコラムの連載もしているからと言い、まずは君が見てくれと言っていた。

 その詩は、妄想が起きて眠れないという内容だった。寝る前になると君の事が思い浮かび、君から素っ気なくされたり、過去のトラウマが蘇ったりして苦しくなり、そんなときに君がいれば良いのにと思うという内容だった。以前からそうなのだという。それを聞いた医者からは、そういう時は外を歩くなどの気晴らしをするといいと言われてそうしてみたが、君の入浴シーンが思い浮かび、そわそわしてしまう。そんなことを書いていた。こんなもの見せたら終わりだろうと言ってやった。

 夏樹は優しいところがあるから、はいはいと言って、最後まで読んでやっていた。突っ込みどころが多かっただろう。一貴こそ、姓を変えた方が良いような気がした。これは俺の”悪口”だ。本当はそうしない方が良いだろうと思っている。島川一貴という名前で、プラセルを背負ってきたからだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。 残念ながら話もできたし、触ることもできた。 様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。 そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。 厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。 きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。 それから五年。 地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。 真詞の運命が大きく動き出す。 人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半) 別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半) ・前半 巡(人外)×真詞 ・後半 岬(人間)×真詞 ※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。 ※ キスを二回程度しかしないです。 ※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。 ※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...