青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 すると、黒崎の足下でオモチャで遊んでいたアンが大広間を出て行った。お義父さんが帰ってきたのだろう。窓の外を見ると、たしかにお義父さんが歩いてくるのが分かった。足音は聞こえない。匂いだって、建物の壁に隔てられて分からないと思う。それなのに、どうして分かったのだろう。俺が不思議そうにしていると、黒崎が答えを言った。ああ、とつぶやいたからだろうということだ。

「すごいね。それで分かったんだね。ハンバーガーのオモチャも持って行ったよ」
「新しいオモチャだから、見せたいんだろう」
「あ、お義父さんが入ってきたよ。アンが何か言っているよ~」

 最近になり、アンが何かを喋ろうとするようになった。おかえりとか、どこに行っていたの?とか、そういう言葉だと思う。すると、プラセルで一番の動物好きだと言われている一貴さんが、六槍さんに微笑みかけた。うちのアンはすごいだろうという自慢だ。

「はははは。一貴さんの顔が本当に嬉しそうだ」
「カズ兄さん。あんたは誰か帰って来ても気づかないくせに……。いた!」
「夏樹。今日はその口はやめておけ」

 黒崎から頬をつねられてしまった。そうだ、今日はクリスマスイブだから、嫌みはやめておこう。俺は立ち上がり、キッチンに行こうと思った。お義父さんの分のお蕎麦を用意するためだ。すると、アンにじゃれつかれながら、お義父さんが部屋に入ってきた。パッと見て、黒崎に似ている。黒崎が年を取ったらお義父さんのような感じになるのかなと思った。

「お義父さん、おかえりなさい。お腹空いているよね?お蕎麦があるよ」
「ありがとう。頂くよ。アンはすごい子だ。私が玄関を入ったら、もう待ってくれていた」
「黒崎さんが教えたんだって。でも、ああってつぶやいただけなんだよ。お義父さんが歩いてくるのを三てなんだよ」
「そうか。私が居ないと分かっていたんだろう。ああ、何を話したいんだ?」

 お義父さんがアンの頭を撫でた。たしかに何か話しているようだ。どこに行っていたのかと聞いているのだろうか。すると、お義父さんがまたアンの頭を撫でて、賢い子だと褒めた。

「一貴なんか、私が帰ってきても気がつかない。ユリウスが部屋の外に出たら、慌てて探しに行くというのに……」
「この間のことだね~。お義父さんがリビングにいたから驚いて、尻もちをつきそうになったんだ……」

 何か良からぬ事を考えていたのだろうと思った。一貴さんは悪戯書きはしない。だから、怒られることなんかない。しかし、厳冬に問題があるときがあり、お義父さんや俺達から叱られるときがある。例えば、プラセルの今後の躍進を願って、ある企業を陥れて、ライバルを減らすという計画を話し始めたときなどだ。一貴さんは本気だ。だから、止めないといけない。せっかく好感度が上がっているのに台無しだ。

 六槍さんが立ち上がった。お義父さんはそれを止めた。据わっていてくれと言っている。朝陽に告白したことは知っているから、からかうように笑い、朝陽君と話していてくれと言った。それに対して、朝陽は首を振った。

「俺は女の人が好きなんです」
「そうなのか?六槍君も悪くないと思うよ。はははは。やめておこうか。ああ、二葉はまだ帰っていないのか。今日は昼過ぎに帰ってくると言っていたのに。南波君の仲間達と話が弾んでいるのか……」
「そうだといいね。おかしいなあ。もう帰ってきても良いよね~。まさか、テレビのことで何かあったかな。会社の方で……。黒崎さん……」
「今、ラインを送った。どこに居るんだと……」

 黒崎がスマホを見て、自分の方には何もメッセージが入っていないと言った。朝陽にもない。そして、ユーリーが声を上げた。一貴さんが頭を抱え込んで隠れようとしたからだ。

「カズ兄さん。どうしたの?」
「ああーーー、しまった……」
「何があったんだよ?二葉から連絡が入っていたの?スマホを見せてよ」
「だめだ。それは見せられない。あ……」
「ふうん……」

 黒崎が一貴さんのスマホを手に取り、ぷっと吹き出した。この間までユリウスの写真を待ち受けにしていたのに、浜辺で撮影された藤沢の写真になっている。かっこいい写真だから、ちっとも恥ずかしくない。それなのにまだ隠そうとするから、黒崎がラインを開いてみた。
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