青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 12時半。

 大広間では今、お義父さんと二葉がお蕎麦を食べているところだ。美味しいと言ってくれているから嬉しい。また蕎麦かという顔をせずに食べてくれている。今週は一貴さんが好きな物を出す週であり、メニューは蕎麦だらけだ。おやつには蕎麦チップスがある。この間、南波さんの番組が庭から放送された日に、彼が持って来てくれたお菓子の中に入っていた。南波さんの周りには相変わらずお菓子が並んでいるそうで、いかに人気があるのかが分かった。

「ふたばーー、蕎麦チップスを食べるのが君らしいよ。好き嫌いを言わないから偉いね」
「これだけはお母さんから習ったことで良い習慣だよ」
「そっか。朝陽も文句を言わないもんね。偉いよ」

 二葉の口からママのことが聞けて嬉しい。一貴さんが真琴企画から頼まれた伝言を伝えたことがきっかけになり、ママのことが話題に出された。寂しいと思うが、今回は訪ねていくのを見送るという答えと共に。

 お義父さんがその答えを気にしている。この間は喧嘩になっていたが、間違いなく二葉達の母親であり、今回起きた事件や朝陽に待ち受けていることなどを考えると、会った方が良いのではないかと思っていると、正直に話してくれた。

 しかし、朝陽は会わないという答えを出して、二葉は見送りにするという答えを出した。朝陽は絶対に会いたくないという意味で、二葉は今は会わないという意味であり、一生会わないということでは無かった。そして、今、お母さんという言葉が出てきた。

「黒崎さんもママに会わなくて良いのかよ?」
「俺は電話だけで十分だ。生きているならいい」
「なんだよ~、その言い方。あ、そうか。俺が伊吹お兄ちゃんに言った事を真似したんだね」
「そうだ、お前が言ったんだぞ。生きているならと……」

 どうして俺が伊吹に対してそんなことを言ったかというと、あるテレビ番組を見たからだった。バラエティー番組であり、出演者がひな壇に座り、伊吹が話す番になり、年末の大掃除のことを語り始めた。それには俺のことも話題に出されて、要領の悪い弟がと、俺のことを散々けなしていた。まだ俺が高校生のときのことであり、父の事務所と家の掃除をしていたとき、伊吹はテキパキと掃除を進めていったが、俺の進み具合が遅くて心配になり、この弟には一人暮らしをさせられないと思ったというエピソードだった。

 司会者は俺は何でも出来そうなイメージだと言った。そしたら、伊吹がこう言った。要領が悪いのだと。きっと黒崎家でもそうなのだろうから、放っておけなくて、年末の片付けに行きたいと思いますと言っていた。俺としては来てもらいたくない。伊吹が来ると片付けが進まないからだ。日頃溜まっている感情を吐き出す相手が俺であり、次から次へと語りかけられて、ちっとも用事が終わらない経験をしている。高校生の時の大掃除でもそうだったのだと思う。伊吹が帰省してきて、ペラペラと喋っていたのだろう。

「俺、師匠に会いたいよ。この間会ったばかりだけど、積もる話があるんだ」
「二葉はお兄ちゃんのことが好きだよねえ。大食いチャンピオンズカップの日は決まったの?」
「まだだよ。桜木さんとスケジュールが合わなくて、まだ店に行けないんだ」
「なるほどねえ。伊吹お兄ちゃんが大食いに参加しないのが、お兄ちゃんらしいよ。動けなくなった二人を介抱しないといけないからだよねえ」

 二葉の引っ込み思案な性格を直そうと黒崎が知恵を絞り、伊吹や聡太郎と食事に行かせるようにさせた。堂々と人前に立つマインドの植え付けと、自信のなさから来るおとなしさを解消させてもらうためだ。

 俺からすると、二葉はしっかりしていると思う。朝陽の方が放っておけない。それはママも同じように思っているようだ。しかし、黒崎は反対だと言って意見を変えない。そして、二葉には定期的に大食いチャレンジの店に行くスケジュールが加わり、聡太郎と大食いを競い合っている。
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