青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 19時。

 俺は今、黒崎と一緒に庭に出ている。お義父さんの家では夕食が準備されているところだ。午後に届いたオードブルセットとサンドイッチがメニューだ。俺達も一緒に食べるから大広間に居ると、アンが散歩に行きたいと知らせてきて、外に連れて来た。トイレだと思う。

「アンーー、トイレは?」
「ワン!」
「いいのかよ……。どうして俺達のことを外に連れて来たんだよ?」
「お前に言っていたな。外に行こうと……」
「うん。あんたには言っていなかったね。なんだよ。拗ねるなよ~」

 リビングではみんながくつろいでいて、数日間に起きた積もる話をしていた。お昼ご飯の時からだ。六槍さんのことを引き留めるのは悪いと思ったが、そのまま夕食まで居てもらって、朝陽と一緒にクリスマスの夜を過ごして貰うことにした。来年は二人だけの時間になると良いなと思いながら。

「アン、パパが俺のことをいじめようとするんだ。守ってよ」
「ワン!」
「良い返事だねーー。今夜は月島さんが来てくれると思ったんだけど、急な用で来られなくなったんだ。ユーリーが寂しがってさ~。急な用ってなんだ?って聞いていたんだ。そもそも約束していなかったのに……」

 黒崎に言っても取り合ってくれないから、アンに話すことにした。彼女なら聞いてくれる。ユーリーが月島さんのことを家に呼んで来てくれることになっていたが、約束をした一時間後に電話が入り、会社の用で来られなくなったということだった。今は病院に居るのだろう。

「大変だよね。ロビーで将棋倒しになって倒れた社員さん達の病院の付き添いだから……。あれ?黒崎さん、話を聞いてくれるの?」
「ああ。一人の男性社員を巡って男性同士が争いになり、彼の親しい女性社員が助けようと間に入った途端に、ロビーに飾ってあったクリスマスツリーに身体が当たって倒れてきて、将棋倒しだ」
「女性社員さん、大丈夫かな?男3人が倒れてきたんだもんね……」
「頭を打っているかも知れないということだった。切り傷はないのが良かったが……」
「うん……。酔っ払いじゃないから、すぐに起きてくれたとは思うんだ。でも、下敷きになると動けないし、苦しいからさ。頭の打ち方もあるし……」
「お前にそういうことが起きそうだと思ったから、話を聞きたくなかった。すまなかった」
「いいんだよ。そういうジンクスがあるんだろ?虫の知らせのようにして、事前に知らせがあるんだって……。俺なら平気だよ。もう下敷きにはならないからさ」
「そうしてくれ。ああ、伊吹君じゃないか?」
「あ、ほんとだ!お兄ちゃん!」

 門が開けられて、伊吹が入ってきた。大きなバッグを持っている。夕方の飛行機で帰ってくると聞いていたから、ちょうどこの時間になったのか。俺に田中先生からのクリスマスカードを今日届けたくて、疲れているだろうが、来てくれたのだろう。

「夏樹!」
「お兄ちゃん!」

 伊吹が走って来た。足下にバッグを置いてだ。結構離れているから、俺達の元にたどり着くには時間が掛かり、伊吹の走ってくる姿がスローモーションのように感じられた。そして、飛び込むようにして抱きつかれ、重みを受け止めた。

「どうしたんだよ?走って来て……」
「お前のことを思うと、いてもたってもいられない!ああ、よく顔を見せてくれ。数日ぶりだな。少し、背が伸びたんじゃないか?」
「同じだよ……」
「喜べ!開明高校では、俺とお前の名前が知られていることが分かった!切り抜き動画を動画投稿サイトにアップして、儲けている生徒がいるらしい。俺のサインもフリマアプリで売り飛ばされそうだ!」
「お兄ちゃん、何枚サインを書いたの?え、60枚も?」
「ああ、俺がテレビ番組に呼んでもらっているうちにと思ってだ。生徒の小遣い稼ぎに協力してやった」

 そう言って、伊吹がスマホを見せてきた。職員室で取った写真の中に、この間のTDDのコンサートの控え室に訪ねてきてくれた生徒達が写っていた。この中の3人にも、サインを10枚書いたのだという。きっと売り飛ばされるのだろうと言いながらだったそうだ。そして、田中先生からのクリスマスカードを取り出して、渡してくれた。そこには懐かしい先生の字で、メリークリスマスと書かれていた。

 コンサートの控え室で会ったのは先月なのに、もう先生のことが恋しくなった。なんだか涙が出てきてしまい、色々あった今年一年のことを振り返り、生きていることに感謝した。

 そして、今年はあと数日の残っているぞという黒崎の言葉が意地悪なのか優しいのか分からなくて、涙を堪えようと空を見上げた。そこには月とシリウスが輝いていて、俺達のことを見てくれていたのだった。
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