青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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12-29

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 翌日。午前10時。

 朝を迎えた。黒崎はまだ一貴さんと病院にいる。これから退院するそうだ。昨日入院したときは夕食が終わった時間であり、黒崎が買っていったサンドイッチとプリンを晩ご飯にして貰った。今朝はおかゆだったそうだ。だから、もうお腹が空いているから、がっつり食べたいと電話で言っていた。しかし、食べるのは、温かいお蕎麦だと思う。そういうわけで、家から作り置きの鶏肉の南蛮漬けを持ってきてある。昼ご飯に食べて貰うためにだ。

 俺はこれからユーリーとママの家に出かける。一貴さんは大丈夫だから、予定通りに、黒豆の甘煮を食べに行く。しかし、ママが入院のことを知り、黒豆の甘煮を保存容器に入れて用意してくれているから、顔だけ見せて、それを持って帰ってくることになった。ママの家まではタクシーで行く。そう遠くない。わりとすぐに着ける。だから、朝はゆっくりめに起きてきた。

 俺はユーリーのことを起こして、お義父さんの家の前に停まっているタクシーに乗り込んだ。二葉とお義父さんが見送ってくれている。

「気をつけて行ってきてね」
「うん。行ってきます」

 バタン。タクシーのドアが閉まった。ずっと手を振ってくれている二葉に手を振り返しているうちに門のそばに来て、タクシーがゆっくりと道路に出た後、門が閉められた。お義父さんの家からタクシーに乗るのは久しぶりだ。1年ぶりかも知れないと思った。

 そこで、二葉がこの家に来たときのことを振り返った。あれからもう1年が経つ。当時は二葉のことを迎える準備で慌ただしかった。女性がいる環境がしばらく無かったからだ。カーテンを可愛らしい色に付け替えたり、フリルの付いたベッドシーツに変えたりと、俺がコーディネートさせてもらった。

 二葉とはというと、フリルを嫌がっていた。やめてくれと言っていた。しかし、本当はそういうのが好きなんだろうと決めつけた俺は彼女が止めるのを聞かずに準備を進めて、すっかり女の子のいる部屋に仕上げてしまった。そして、本当に女の子っぽいのが嫌なのだと分かり、ごく普通のシーツとカーテンに戻してあげた。

 当時、二葉は自分を男だと俺達に打ち明けて、長かった髪の毛をバッサリ切ってきていた。でも、フリルが良いと、なぜかそう思ってしまった。そういうわけで、可愛いデザインのカーテン類を選んだ。それは大事にクローゼットにしまわれている。もしこの先、フリル好きな人が住み始めた時に使えるようにだ。

「ユーリー。今日はありがとう。ママが喜ぶよ。6歳の誕生日の日に会ったっきりなんだってね?」
「そうだよ。その時に圭一を連れて来てくれていたら、一緒に遊べたのに。隆さんは6歳という年齢にこだわりがあるんだ。小学校に上がる前までに、黒崎家の親戚の人達に僕のことをお披露目してくれた。僕はスーツ姿でパーティーに出て、きちんとした作法で食事をしたんだ。人生の中で一番きちんとしていた日だった。母さんに褒められたよ。いつものあなたじゃないって……。兄さんのお披露目の時、僕は大失敗したんだ。おもらしだよ」
「可哀想に……。小さい頃だったから仕方が無いよ」
「ありがとう。僕なりに恥ずかしかったはずだ。兄さんは優しくて、どうしたんだって言ってくれた気がする。すぐに母さんを呼んでくれた。ユリウスがって……」
「アレクシスさんに会えるのが楽しみだよ。うひゃひゃひゃ。二葉とお見合いかーー。どこでやるのかな~。やっぱりさ~。畳の上が良いよね。正座してさ~。釣書を交換してさ~。どっちの言葉で書くのかな?」
「そうだなあ。縦書きだから、日本語かな。決まりとはいえ、二葉のことが可哀想に思っているんだ。本当に形だけのお見合いをさせて、片付けるんだ。僕のことを……。僕への恋心が散ってしまったからだって……」
「うん……。そういう理由だったね……。アレクシスさんと会った後、二葉は独身を選ぶって言うんだね……。黒崎家ではそうしているんだって、お義父さんが言っていたね……」

 黒崎家では、女性が独身を選びたいときには、少なくても一度だけはお見合いをした後で、そう宣言することが決まりだそうだ。そして、その後はお見合いの話は来させない決まりだ。純白叔母さんがそうだった。そして、いつまでも黒崎家にいることが決まり、黒崎家の中での仕事が割り振られる。それは当主の助手という役目だ。まるで黒崎のようになる。
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