青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 当主の助手といえば、今月行われる法事の準備がある。それには俺も手伝いに入っている。黒崎もやっている。だから、二葉が割り振られる仕事は同じだと思うが、違う役目かも知れない。それは、以前お義父さんが言っていたとおり、晴海さんやお義父さんが出席するパーティーに同伴するという役目だ。

 その時は女性の格好はしない。息子であり娘だという紹介になる。それで相手からは理解されるそうだ。そして、多くは聞かれないそうだ。ずっと黒崎家にいる人であり、嫁がないということで、女主人のいない黒崎家としては、二葉の立ち位置が大きな物になる。そう受け取られるだろう。二葉が僧侶になったとしても、その位置は変わらない。

 お義父さんに娘がいると知っているのは、黒崎家の親戚の中でも少数だった。二葉は倉口さんの娘だと思われていたからだ。離婚の話し合いが長引き、二葉が産まれた後での離婚届になったそうだ。だから、そういうわけもあって、二葉がお義父さんの戸籍に存在していたことと思われていた。しかし、お義父さんの娘だったということが分かり、二葉に対する注目が集まった。そして、どうして早く取り戻さないのかという疑問もお義父さんに投げかけられていた。それは、黒崎のことを烏丸家に預けたこともだった。

 お義父さんはきっと、ママから子供を奪い取りたくなかったのだと、俺は思っている。そして、離すわけが無く、拓海さんのことを烏丸家に月に2回は様子を見に行かせていた。その時、二葉がどう育っているかも調べていたのだと思う。知らないふりはしていないと思う。俺のことだって調べていたお義父さんだったから、それをやっていただろう。しかし、ずっと二葉には声をかけなかった。ママにはママの幸せがあり、出て行った人のことを追いかけるわけにも行かず、しかし、監視ということはしていただろう。

「ユーリー。黒崎さんさ、自分の戸籍謄本を見たときに、二葉が母の氏を称する届っていう届け出で倉口さんの戸籍に移ったんだって知ったとき、養子縁組じゃないのかって、驚いたそうだよ。ムッとしたそうだよ。倉口さんの子供扱いじゃ無いからさ。ママの戸籍を取っても、その後も養子縁組にはなっていなくてさ。でも、神様っているんだって、この間、言っていたんだ。養子縁組していたとしても養子離縁をすればいいけど、倉口さんと揉めていただろうって言うんだ。まだ離縁できていなかっただろうって。それでね、ママがそうさせなかったんだろうって言うんだ。危機感ってやつかなって思ったんだ。でも、黒崎さんも朝陽も口が悪くて、倉口さんが黒崎家からお金を引っ張ろうとしての人質だったはずだって言うんだ。そう思う?」
「僕は神様のしたことだと思うよ。いつか黒崎家に戻っていくって分かっていたんじゃないか?お母さんも倉口さんも。隆さんが離すわけがない。拓海さんが倉口家に様子を見に行っていただろう。そう思うよ」
「そうだよね。俺もそう思うんだ。それにしても、お義父さんの教育方針ってすごいよね。拓海さんに高校3年生の時から銀座の高級クラブに出入りさせていたんだから。お酒は飲ませていなかったそうだけど、お義父さんの友達と交流させていたんだ。お店の人、良く入れてくれたよね」
「まあ、入れるだろうな。古い付き合いだ。だから、拓海さんは知り合いが多かったよ。最後の恋人が葬儀に来てくれていた。でも、家族の誰にも紹介されていなかったから、友達の一人として出席していた。まだ付き合って数ヶ月だった。いや、2週間だ。出張ホストの仕事をしていた人で、向こうは拓海さんのことをパトロンだって言っていたんだけど、それは叶わない恋だって分かっていて、気持ちをセーブしたんだと思う。拓海さんが付き合ってくれって言って、念願叶った後、圭一に紹介する前に、拓海さんが亡くなった。カトリックに改宗していたから、身体の関係は結んでいなくて、食事やスポーツ観戦に付き合って貰っていたんだっていう話だったよ。まだ聞いたことが無かっただろう?この話……」
「うん。知らないのかも知れない。知っていたら、俺に思い出として教えてくれたと思うんだ」
「圭一には全てを話していない。話せるわけもない。亡くなったことを受け入れられなくて泣いている子にはね。でも、付き合った人がいたことは知っていても良かったとは思う。幸せだった瞬間があったんだってことをね……」

 ユーリーがその話を知っているのは、晴海さんから聞いたからだ。拓海さんが亡くなった当時に聞いたそうだ。大きな葬儀になったそうだ。拓海さんが眠っている棺が葬儀会館から出発したとき、大勢の人が見送ったという。
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